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三助「大久保かなめ」1 ボイラー室より

 銭湯とは身体を洗い流すだけの場所じゃねぇ。魂の洗濯をやる場所なんだよ。

 今はもういない先代はいつも俺にそう言って聞かせてくれた。そう誇らしげに語る先代は俺の誇りでもあった。


 なぁ、師匠。俺はしっかりとやれているのかな。

 何時だって不安がある。仕事の事。自分の事。俺はこのままで良いのか?

 

 もう誰も教えてはくれない。あの背中を見ることは出来ない。

 きっとこの日本にいる三助は俺だけなのだから。

 息苦しい熱気を纏う空気の中、顎を伝う汗を首に掛けたタオルで乱暴に拭う。


 原油価格が上昇し灯油は勿論のこと、重油や廃油さえ経営を考えると購入出来なくなったふじの湯は、昔ながらの薪や建築廃材などを利用して湯を沸かしている。燃料油に比べると安価であるが、燃料ポンプを使用して機械的にボイラーの温度を操作できないのが難点ではある。薪が重たい、薪割りが大変、スペースを取る等他にもデメリットはあるが価格には変えられず目を瞑るしかない。ガスタイプのボイラーへの買い替えも一応は検討しては見たが、資金的に難しく断念した。補助金もう少しくれよ。


 そして俺は今、一時間に一回のボイラーに薪をくべる作業を終わらせたところだ。ろ過機の上に置かれていた五百ミリリットルのペットボトルを奪い取るように乱暴に掴むとキャップを外し、中の水を一度に飲み干す。あぁ。乾いた喉を潤すただの水がこんなにも美味いとは。


 自分の身体を眺める。短パンにランニングシャツ。それらは所々すすにまみれ汚れている。籐の籠に準備をしていた新しい短パンとランニングシャツに手早く着替え、もう一度手拭いで一度顔の汗を拭ってから、ほんのりと温かみを感じる機械室のドアを開けると、今度は浴室から柚子の香りが乗った空気が鼻腔をくすぐる。うん。やっぱり変わり湯は良い。


 あいつの書いた富士山の絵の下で、幸せそうに湯につかる常連さんたちの顔を眺めながら、俺は気合を入れ直した。

第二幕開始です

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