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ペンキ絵師「菅野涼」13 その絵の価値は

 結局バックから取り出した水彩画材で色付いてゆくスケッチブックを隣で眺めていたら、あっという間に昼になってしまった。


 少ない絵の具を混ぜ合わせ、見たこともないような色を産み出し、少しだけ水で引き伸ばされた淡い色を乗せてゆく。全くもって魔法のようだとしか表現が出来なかった。


「よし、完成」

「絵を描く人始めてみたけどすげー」

「まぁ、これで何とか食いつないでいるからね」

「納得した。ただの食いしん坊じゃなかった」

「おい」

「ごめんて。つい本音が」

「蹴っ飛ばすよ」


 出来上がった絵をテーブルの上に置いた涼は立ち上がると大きく伸びをする。


「もうお昼か」


 俺も釣られて立ち上がり、柱時計に目をやると既に時刻は1時を回っている。


「お腹減ったね」

「はい?」

「だってもうお昼だよ」

「さっきあれだけ食べたと思うけど」

「あれは朝ごはん。お昼に食べるのはお昼ごはん」

「やっぱ食いしん坊じゃん」


 俺がそう言うと一寸不機嫌になった涼へ、向かいで昼飯を食べないかと提案したところ、あっさりとその機嫌は直ったようだ。

 玄関で2人で靴を履いていると「あ」と涼が声を上げる。


「どうしたの?」

「さっきも言ったけどお金が無いのよ。流石にマズイでしょ」

「俺が払っとくから良いよ。あの絵、ここに飾らせてもらえるんだろ?」

「勿論。その為に描いたんだから」

「なら安いもんさ」

「そう言ってくれると嬉しいね」


 不意に向けられる笑顔は破壊力が強すぎて、俺は思わず顔を背ける。


「まぁ、程々にしてくれよ?」

「うん。程々にしとく」


 まぁそうはならないだろうな、とは思いつつ2人でふじの湯を出て向かいのお店へ向かう。


「お、やっぱり来たね。いらっしゃい。カウンターか小上がりが空いてるよ」


 自然と混み合う時間を避ける形にはなっていたが、まだそれなりにお客さんがテーブル席を占拠しているため、おかみさんの言葉の通りに2人で小さな小上がりへ上がり込む。常連さんの内何人かはこちらを見て何故か親指を立てている。ヤメロ。

 幸い、涼はお店をキョロキョロと眺めていてそれに気がつかなかったらしく、黙って後ろをついてきた。


「はい、お水。かなめちゃんはラーメン?」

「勿論」

「おっ。常連っぽいね」

「そうなのよ涼ちゃん。彼女もいないからここで食べてばっかりなのよ」

「あんた彼女いないの?」

「個人情報!」


 俺は少し大きめの声で突っ込みを入れながら涼にメニューを差し出す。

 涼はそれを受け取ると、少しセピアがかったメニューのページを眺め大きく頷いた。


「あ、餃子美味しかったから餃子ね。私もラーメン食べてみたいな。いい?……ありがと。それと、炒飯!」

「……半炒飯?」

「普通の炒飯」

「ああ、そうだよね……」


 やっぱりなぁ。天井を見上げる俺に、おかみさんは「安くしとくよ!」とやけにニヤニヤした笑顔を向けながら注文内容を繰り返した。

おかみさんは昼メロ好き

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