ペンキ絵師「菅野涼」10 自己紹介は突然に
結局、おかみさんにおかずが足りなくなったことを電話で伝えると、まるでその電話が来ることを見越していたかのように、湯気を立てている豚肉の野菜炒めが運ばれてくる。お向かいの店なので今度は皿に乗ったままだった。
「うわぁいい匂い!おばさん生姜焼き本当に美味しかったです!」
テーブルに置かれた湯気を立てる大皿の野菜炒めに目を輝かせ、涼は大分軽くなった白米が残るタッパーに手を伸ばす。俺はそれを見て涼の小皿を素早く回収した後、そのタッパーを手渡した。
一瞬涼は俺の顔を見た後、その意図を察したのかにっこりと笑いかける。思わず顔が赤くなるが、その手に乗るデカさがバグったタッパーを見てスン、となる。
「涼ちゃん自分でよく食べるって言ってたからね。タイミングばっちりでしょ?野菜多めだけどちゃんと食べてね?」
「お野菜も頑張って食べますよ!」
既に涼の箸は野菜炒めに伸びている。
それをおかみさんはにこにこと眺めた後、俺の手元の小皿に目を向ける。自分も目を落とすと少し冷めた白米と生姜焼きが一切れ残っていた。
「かなめちゃんももう少し食べなさいよ」
「いやいやいや。おかみさん、まだ7時前なのにおかしくないですこの量?俺、普通くらいには食べましたよ……」
不思議そうにおかみさんが話しかけてくるが、高校生男子でもないんだからそこまで朝食は食えないよ。おかしいよこんなの。
「あんた結構食が細いのね」
「君が食べるの早くて多いだけだからな!?」
もぐもぐと野菜炒めを食べながら涼が口を開くと同時に思わず叫んでいた。すると涼はやはりにっこりと笑みを浮かべながら自分の顔を箸で差す。行儀悪いなこいつ。
「涼だよ。菅野涼。28歳、フリーター。宜しく」
「あ、はい。宜しくです」
唐突な自己紹介に思わず頭を下げてしまう。
頭を上げた時には既に野菜炒めと白米を口に突っ込むようにして食べていた。
「じゃあおばさん帰るから。おかずのタッパーは持ってくから、食べ終わったらご飯のタッパーとそのお皿、洗わないでいいから持ってきてね」
「分かりましたおかみさん」
俺はそう言うと冷めてもやはり美味しかった残りを、しっかりと平らげてしまおうと再び箸を動かし始めた。
いっぱい食べる君が好き。
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