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三つ巴?いいえ三馬鹿です

友人視点

 彼は内心、頬を引き攣らせて喚き散らしたかった。

 一瞬、柔らかく微笑んでいた顔を硬直させ、すぐに何事もなかったかのようにその微笑を継続した。



 桃色の生き物が少女を乗せて空を飛んでいる状況とは一体、なんとまあ、珍妙、いや面白いことになっているとは思うものの、疑問が多く残る状況だ。どうなっているのだろうか?

 ふんわりと、彼は笑う。

(しょうがない奴だな)

 彼の桃色の友人は、常識で考えてはいけないのだ。

 前に立つ男が、訝しげに彼を見据えた。

 いくつもの飾りを身にまとう男達を見渡し、彼はなんでもない、という態度で目元を和ませる。

 離れたところにいた、白さが目立つ背の低い男に視線だけを向けながら鷹揚に肯く。

 前に立つ男が頭を下げ、その場に膝をついた。低い声が右から左へと通り過ぎる。

(まずいな、おもしろい方に気が向く)

 彼は目の端にちらちらと映るピンク色の残像を、頭から追い出すことにした。


 いかにしてこの場にいる彼ら納得させ、その場を去るかは、後で考えようと思いながら。


(どうせ王位からは遠い三男坊、やろうと思えば撒けるな)

 表面上ではやわらかくにこやかに、内心では意地悪くニヤリと笑う。


***


「アル、これ、拾った」

「うわあ、良い男」

「やあ、不運な天災」

 三者三様の発言がその場に発せられた。


 黒髪に漆黒の瞳の少女の『良い男』発言に、アルと呼ばれた青年は微苦笑を浮かべる。

 これはまた、強烈な印象の、とてつもなく素直な女の子を連れて来てくれたものだ。アルに謙遜という言葉は通用しないのである。

 めずらしいなと感心する。

 アルの友人は、対人恐怖症な気配があった気がするのだが、勘違いだったのだろうか。と内心首を傾げる。

 目を細めて少女に会釈をする。

 相手から高感度を得るためには、挨拶は基本中の基本で必要事項であろう。第一印象は大事なことなのだ。

 穏やかな空気が辺りを流れた。

 あたたかい日差しに、ここだとすぐに発見されそうだと頭の片隅で考える。町にばっくれればいいだろうか。

「やっぱりカッコイイ」という少女の発言に、微笑みでかわす。

 まあ、当然だよね。とは言わない。

 素直な生き物は嫌いではない。頬はそめていないあたりを考えると、鑑賞生物という位置か。


「まるで王子様みたい!」

「よく言われる」

 目を輝かせた少女に、にこやかに答える。

「髪が短いのね?」

「庶民はわりとこんな感じだけど? 君はどこかのご令嬢かな?」

「え、見える?」

「いや、どちらかというと、巫女って感じかな?」

 良くも悪くも。

 邪悪なものに使えているのか、神聖なものに使えているのかは特定できないが。

 少なくとも王族にも貴族にも、この城内で黒髪の者はいなかったはずだ。もしいたとして、存在を隠していたというのだったら、かなりの罰を受けるだろう。

 国の王を欺いていたということになるのだから。

(さて、そこらへんの有無、あの人は知っているのか?)

 珍しい髪や瞳の持ち主は大概、神かそれに準ずる存在等に愛された者だけと言えよう。

 アル自身、神にでこそないが愛され、加護のようなものが与えられている。普段はきちんと、普通にアルの家族と同じ金髪碧眼だが。

 ドラゴンの尾が揺れる。


 アルは友人――ピンク色のドラゴンに目を向けた。

「ラス」

 ラスとドラゴンを呼び、それに疲れた表情で「なんだ」と厳かな口調で返すドラゴンに、アルはまた言葉を重ねる。

「人を指差して、拾ったと言うのは、マナー違反じゃないかな」

 犬や猫や魔獣を拾った感覚で言う友人に、困ったものだと笑う。魔神の方がマシだった可能性もあるのだ。ある一定以上の知能は邪魔という場合もある。馬鹿も、まあ、困るが。

 尾が下に垂れさがった。

「それは悪かったな」

 淡々とした低い声音に、アルは吹き出しそうになるのをこらえる。体がブルブルと、内なる熱を全身で表したいと主張しているかのように震えた。

 ダメだ、ここで笑ったら、この友人は拗ねる。間違いなく拗ねる。拗ねる姿は大変おもしろいし愛着すら覚えるが。

 態度と発言が噛み合っていませんが、そこらへんどうお考えでしょうか。

 近づくと怯えて逃げる。遠ざかるとしょげかえる。なんともめんどうな生き物で、けれど憎めない。



「とりあえず」

 うーんと首を捻る。

「そこのお嬢さんはどなたかな」

 腰のあたりまである黒髪に、黒い瞳。黒っぽい不可思議な服装。少し変わった、長さのない黒い靴。この少女は何者だろうか?

 少女を少し観察してから、ラスに視線を向ける。

 ギョロッとした悪意のない瞳を穏やかな顔で見る。

「異世界トリップだそうだ」

「意味がわからないね」

 理解を超える言葉を、アルは笑顔で切り捨てた。




「ところでこの女性の名前は、なんて言うんだい?」

「……は?」

「……え?」


 ぽかん。

 呆けた表情がふたつ揃う。


「「あ」」


 間の抜けた声もふたつ、揃う。


 一見、表情のない爬虫類と、おそらく十代前半の少女が、目線をたがいに合わせる。 

 その様子に、アルは思わず吹いた。


 顔を背ける。

 体を大きく震わせ、地に膝をつける。

 空気を震わせ、涙を拭う。

「君たち、自己紹介もせずに何しに来たの?」

 黒い瞳をまるくして、少女は首をかしげる。

「さあ?」

 高い、娘らしい声音だ。

(分からず来たのか!)

 ひぐっ。

 声が漏れ、声に出して笑う。

(凄まじく能天気だ!)

 ドラゴンを相手にしても嫌な表情はしていない。どこまでも穏やかな様子に、それだけで好感は少々持てる。

(奴隷として売られても気付かなそうだな)

 


「俺はアル。そっちのでかいのがラス」

 傍目からは、人畜無害そうだと見えるような表情で笑い、手を差し伸べる。

 そわそわとこちらの様子を窺うラスは、とりあえず放置にしておく。

「よろしくな?」

「こちらこそ?」

 よろしくするか、まだ決定はしていない。

 好感はもてるが、実際にはどうかわからない。

「私は、さと……」

 少女は止まった。

「さと?」

「山田花子です」

 さとやまだはなこ。

 おかしな名前だ。

 ラスは首を傾げ、アルは手を口元に寄せた。

「モブキャラクターになってうはうはしたいという願望の表れを分かりやすく言ってみました。ヒロインと仲よくしたいぜ! いえい! です、よろしく。田中太郎と迷ったけどここは花子で」

 だってわたしはおんにゃのこと呟く、生真面目な表情の少女を前にして、普通にこれは偽名だなと判断する。

 おそらくラスの方は『さとやまだはなこ』を本名だと思っているに違いない。そう考えてはいても、さほど問題なかろう。



「ハナでいいです」

 やけに晴れ晴れとした笑顔を返された。

 普通に考えて怪しいのだがなと思い、彼は苦笑した。

(どうするかは、保留にしておこう)

 どうやら困ったことに、ラスはハナという少女を気にいってしまっているようだから。


 このドラゴンの心を、万が一、裏切るような真似をした場合は、容赦するつもりは欠片もないが。

 アルは笑いながら、事の顛末を見守ることにした。

これでよかったのかな?と思いつつも投稿。


・追記

自己紹介の間のあり方等、文がおかしかったので少し修正(2010/12/02)


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