表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印再度  作者: 未世遙輝
2/4

第一章|青山、午後四時の硝子(ガラス)

南青山のカフェは、放課後の生徒には少し背伸びをした場所だった。

でも制服のまま入っても、とくに浮くこともなく、誰にも見られず、必要以上に構われることもない。

それが、この街のいいところだ。


カウンター席のガラス越しに見える道は、整えられすぎていて、まるでCGみたいに歪みがなかった。

街路樹がつくる影のかたちが、車道に静かに揺れている。

3月の終わり、風はまだ冷たいけど、日差しだけは明らかに春を告げている。


私は、アイスラテのストローをくるくる回しながら、スマホを机に伏せて置いた。

視界の端には、対面に座る先生のグレーのシャツの袖口と、銀の細い腕時計。

先生はコーヒーを飲んでいたけど、砂糖もミルクも使わない。


― この人、感情の調味料みたいなものは、全部、自分で封印してるんだろうな。


「今日は陽射しが綺麗ですね」

わたしが言うと、先生は窓の外を一瞥して、ただ「うん」と頷いた。


その「うん」に、脈拍はなかった。

たぶんそれは、先生の肯定というよりは、情報の確認だった。


「……わたし、病気なんです。白血病。もう、あんまり時間ないらしくて」


その瞬間、先生の手元がほんの少しだけ止まった。


コーヒーのカップの底が、ソーサーの陶器と擦れて、かすかに音を立てる。

私の声も、あの音も、透明なガラスで仕切られた外の世界には届かない。


「……そうか」


その一言のあと、先生は視線を上げた。

けれど、目は少し曇っていた


【モノローグ】


なぜ、こんな嘘をついたのか、説明できない。

ただ、見たかっただけ。


この人の、ちゃんとした“反応”。


いつも論理の裏に隠してるくせに、

私が死ぬかもって言ったら、

少しくらい、心が揺れるんじゃないかって。


ガラス越しに見える青山通りに、黒いワンピースの女性が通り過ぎていく。

先生はそれを目で追うように見ていたけど、たぶん、何も見ていなかった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ