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句点。

作者: 崎ノ夜


 朝8時。ルームメートのアラームに起こらせるのはもはや慣れてきた。



「はい!おはようございます、編集長!はい!はい!分かりました!大丈夫です!はい!」



 これはルームメートが一番元気で話せる相手だろう。俺は、電話を切った後すぐ文句を叫んだ英司の声を聞いて、まだ自分は学生でよかったって思った。



「最近のラノベさ~名前、長くなってない?これ何文字?な!タイトルだけで30文字超えたよ?やばくない?」



 ほら、また始まった。


 英司は全職の翻訳で最近はラノベの翻訳のケースを受けたそうだ。ここ数日ずっとこっち系の文句を言ってるから、俺は"ツンデレ"という言葉を理解しそうになったよ。



「タイトルは長いってなら、文字数が増えて、お金も増えるなら文句ないよ?全然?でもさ!タイトルは文字数に含まれてねーだよ!分かる?!ラノベ翻訳ってのはさ~」



 わっ!こいつ、またベッドを叩いてた!これだけマジでやめて欲しいっすね。8時って大学生にとってまだ寝る時間だっつーの!


 泣き言、いいえ、マジで自棄糞泣きしてきた英司の頭を撫でて、文句くらい最後まで聞いてやろうの気合で、起きようとしたが、やっぱりまだ早いのだ。


 俺は昔から朝が弱いからな。



「ま~もちろん?会社によっては違うけど?タイトル、作者の言葉、イラスト家の言葉、おすすめの人達の言葉、宣伝の言葉、これ全部ページ数で翻訳費を計算すんだぞ?」



 あ、俺を起こそうとしてて、勝手に話を進めた。


 ははは、どうぞどうぞ。俺今日も授業ないから。



「それにあれだ!あのゴニョゴニョしてるマーク!あれって何だ?!何であれを入れてわざとタイトルを長くすんだよ!意味不明!その上、あれはもはやネタバレしてんじゃん?」



 英司はいつの間に、マックのハンバーグを食い始めた。本当自由人だな。


 ……あ!おい!屑を俺のベッド落とすな……はー文句言ったり、捨て台詞言ったり、朝飯食ったりで忙しいそうで、仕事人は大変だな。


 でも、タイトルが物語のネタバレって文句、ちょっと言い過ぎと思うっすが……



「は?あれネタバレだぞ100%。えっと…そうね、鋼の錬金術師ってお前昔も好きよな」



 おお!等価交換!あれ漫画でも、アニメでも、神だ!



「あの神作品を今時ラノベのネーミングセンスで言ったら……『母が恋しすぎて弟と死者召喚の禁忌を犯した挙句弟を殺した。唯一の弟の肉体を取り戻すため、今度は国で最年少の錬金術師になることを決意した』ってなるぞ」



 …………ん~俺は返す言葉を探してるだが、何を言えばいいか分からない!それに、一理がありすぎて言い返せない!何そのネーミング!



「な!ははは!微妙に似合ってんだろ!俺もラノベ書くか~って思ったわ~ってか、これ面白いな、えっとな~ワンピースなら……『海賊ノ王~悪魔の実を誤って食べてしまった俺は何と泳げなくなった!?そんな俺でも最強の仲間達を集められて海賊王になった~』ってなるかな~な!ウケるだろう?」



 ひゃははっは~確かに!言える~って俺が笑ってる時、英司の電話はまた鳴ってる。


 今度、英司が電話を出ると急に真剣そうな顔になった。


 また何か仕事でやらかしたのか?って俺は茶化す言葉を考えてる最中だ。



「……はい、まだ寝ています……そうです……はい、分かりました。いつもお世話になります。先生……」



 ちょっこっと耳を電話の方へ寄った。話す相手は"先生"だそうだ。


 先生と話してるなら邪魔してはダメだな~。だって翻訳者にとって先生が仕事の命綱と言っても過言ではないから。


 俺は静かに起きて、食パンを取って、英司が電話を終わるのを待ってた。



「栄斗……」



 お?呼ばれた。電話終わったな。


 俺はちょこっと部屋へ戻った。英司はまた眠そうでベッドに這い蹲った。


 締切まだ大丈夫だろう?自分の部屋で寝ろよって俺は英司の肩を揉んであげて、そう言った。



「いつまで寝るつもりだよ……」



 英司はまた泣いてる。本当仕方ないな~仕事は大変なのは分かる……いや、俺バイト経験しかないから、仕事ってのは分からないが……とにかく、あれだ!疲れたら、ちょっと休憩しよ!って俺は後ろから英司を抱いて、元気付けた。


 俺って優しい~



「早く覚めろ、栄斗」



 英司はそう言って、俺の手を握ってくれた。


 ベッドで横になってる、目を固く閉めてる俺の手を握ってくれた。


 涙が手に落ちたのは見える。でも、その暖かさは感じられない……



 もう何度も試した。何度も、何度も、試したよ。


 でも、体に戻る方法は見つからない。


 俺は俺なりで英司と暮らしているつもりだが、英司にとっては苦痛だろう……ごめん……でも、俺はまだ英司を手放したくないよ、英司の罪悪感を利用しても……



 この二年間の会話ずっと俺に句点されてると思ったよな。実は全部ちゃんと会話が成立してるよ~って、起きたら教えてあげるよ、英司。




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