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第九話 部活

「うーん……どれにしましょうか」

 

 クラゲでは文化部、運動部それぞれ6個ずつの部活しかないのだが、この世界では原作にない部活が多くある。

 原作では様々な武術を身に着け総合力を高めるという方針の兵法部と、一点特化の剣技部の対立というイベントがあるのだが、この世界には槍術部や弓道部も存在する。

 

 軽い追加要素のようにも見えるが、俺の中ではゲーム時代とは分けて考えるべきなのだろうか、と思わせるに足る衝撃的な事実だった。

 ……世界の奥行きが一気に広くなった気がした。この世界はゲームではなく現実なんだと意識できたような気がする。

 ゲーム時代の知識は使えるので、それに縋る必要はあるだろうが。

 ゲーム時代ならば攻略対象と出会わない部活かパラメータ上げに最適な部活を選んだだろうが、今の俺にはパラメータなんてものはない。

 

 クラウディアには存在するのかもしれないが、俺にはないだろう。

 

「医術の深淵を覗いてみませんか?……ふふふ」

 

 医術部の勧誘をしている部員が目に止まった。医術か……。

 功績を上げるのには都合は良い。しかし、俺はこの世界の植生についてよく知らない。

 なにがなんだかよくわからないような植物や生物が多すぎるからな。

 元の世界と同じ名前の植物や生物は多く存在するが、それらが現実と同じものであるという保証もない。万が一違ったら怖いのだ。

 

 それに、この世界には医療用の回復魔法が存在する。俺の知識で作り出せるような薬なんてたかが知れていて、魔法には敵わないだろう。

 科学部も候補には入る。でも、顧問教師のインパクトが強すぎて耐えられない。

 美人さんではあるが、ぶっとんでるからついていけない部分がある。

 

 それ以外の文化部はあまり価値を見いだせないな。コネを作るのには利用できるのかもしれないが……。

 名声は欲しいけどそれほど望んでもいない。没落を回避できる程度に得て、らくらく隠遁生活みたいな人生を送れればそれでいいんだ。

 煩雑な人間関係はいらないと思っている。

 それでもコネクションは最低限は必要になるんだろうけどな。

 

 ……よし、文化部はひとまず入らないことにしよう。

 どの運動部に入るかはもう決まっているので、そこだけに専念することにした。

 

「この子たちが今年の新入部員だ!上下関係を忘れない程度に仲良くしてやってくれよ!」

 

 俺は剣技部に入ることにした。

 

 なにも最強を目指しているとかそういうわけではない。俺がこの世界に来て一番怖いと思ったのは暗殺だ。

 

 善意でできている部分の多いなんちゃって中世だが、それでも暗殺される可能性はあるだろう。特に活躍すればするほど多くなると思う。

 だから、殺される可能性を減らしたいと思った。

 暗殺者に勝てればそれで良いし、護衛が駆けつけてくれるまで持たせられられるだけでも上等だ。

 素手で戦うことはまずないだろうが、ここでも最低限は徒手空拳も教えてもらえる。

 

 運動神経や戦いに関する勘が鋭くなるだけでも素手で戦うのには有利だろう。

 槍は屋内では振り回しづらいし、弓なんか論外だ。

 この世界には少ないながらも女の剣術家もいるようだし、やってできないことはないだろう。

 やる前から諦めるよりは良い。

 それに、この世界では体を鍛えると毒物を軽減したり無効化しやすくなるし、気配を探るのもうまくなる。

 

 2000人の兵士を一人で道連れしてから散った猛将もいるから、もし俺に才能があるならば一般兵とは比べられないくらいには強くなれる。

 

「こんな部活に女の子が入ってくるなんて珍しいな。しかも二人!」

 

 新入部員は横一列に並んでいるのだが、俺の隣に気の強そうな黒髪の少女が立っていた。

 その横にもズラーッと11人並んでいて、合計13人の新入部員が入るらしい。 

 顔も可愛いしド貧乳なので、かなり俺好みだがそれはどうでもいいか。

 

「とりあえず君たちは同学年として、軽く慣れておけ。剣技部では近接戦闘を教える以上、異性の体に触れることもあると思う。もちろん、わざと触れるのはご法度だがな。……暴走しないように気をつけろよ?」

 

 先輩部員がそう注意してから、道場内の少し離れたところに行った。

 そこには先輩らしき人たちが大勢いた。名前覚えられるかな?とりあえず先輩なら先輩と呼んでおけばひとまずは大丈夫だな。

 同級生の顔と名前を一致させるのが先か。

 

「どうも!俺はグロヅルと言います!今後と……」

 

「馬鹿!先に俺が挨拶するんだ!」

 

 なんだかよくわからんが、俺の周りを他の新入部員たちが取り囲んでいた。

 

 ……視線を見ればわかっちゃうが、大多数が胸か顔を凝視していた。

 

 マイロの家臣の一人はまだ平静に努めようとしていたが、コイツラはそういう感情をむき出しにして取り囲んできたから正直恐ろしい。

 見た目以外にも、俺を妻とすることのメリットは大きいからな。目がくらんでしまうのだろう。

 あのカミングアウトについても、噂は噂だとしか認識されていないのかもしれない。

 一応彼らも上流階級だ。教育もしっかり受けているだろう。変なことにはならんとは分かっているが、それでも恐怖は拭えない。

 

 ……怖い。

 

 思わず一歩後ずさってしまった。

 

「流石に女の子を取り囲むのはどうかと思うわよ。みっともない」

 

 もうひとりの女子部員が助け舟を出してくれた。ありがたい!

 

「あ、あの……流石に身の危険を感じるので、やめていただけると助かりますわ」

 

「す、すまん!年頃の女の子、それもこんな可愛い子と合うことなんてまずないからつい抑えきれなくて……」

 

 彼らは次々と同じような釈明をしていく。

 ああ、少し合点が行った。クラゲには攻略対象に婚約者がいては困るからと言う理由からか、政略結婚は主流ではないという設定がある。

 そして、国の方針なのかこの文化圏の特徴なのかは知らないが、武官の子どもたちは親に厳しく育てられ、同年代の女性とはあまり会えないようにされている。

 だから、学園に通うことになったときに一度は軽い黒歴史になるような失敗をしてしまうのは仕方ないのかもしれない。

 

 つまり、彼らは物凄く女に飢えていたということだ。

 

「あの、助けてくれてありがとうございました。えーっと……」

 

「ヒューラ・メレスメント。別に礼は要らないわ。あいつらがあんまりにも無神経だったからムカついただけよ」

 

「ヒューラさんと言いますのね。それでも礼は言わせていただきます、ありがとうございました」

 

「……勘違いしないでよね、あんたのためにやったんじゃないから!」

 

 ……この子はツンデレってやつなのか?創作物では割とムカつくこともあったが、リアルで言われるとご褒美でしかないな。

 普通は逆の感想になるのが普通なのかもしれないけど、俺はリアルのほうが良いかもしれない。

 しかし、ツンデレと言う割には怒りの成分が強い気がする。

 

 ……ああ、わかったかもしれない。この子は多分結構な自信家なんだ。顔もかなり可愛い。実はアイドルなんだよと言われても違和感は全くない。

 なのに新入部員の男どもが自分のところには一切来ずに、俺にだけ近寄っていたものだから、そこらでキレているんだろう。

 

「……ふふっ」

 

 思わず笑ってしまった。本人としては割と本気でキレているのだろうが、やっていることは傍から見ると少し滑稽だ。たしかに顔はめちゃくちゃ可愛いが、自意識過剰すぎる。

 これは彼女にとっていつか黒歴史となるんだろうな。前世で無数の黒歴史を持つ俺としては少し微笑ましい。

 

「なによ、勝ち誇って私を笑ってるの?ヤなやつ……」

 

 ああ、この子は嫌いじゃない。仲良くなりたいと思った。

 そして、いつか忘れていた頃にからかって思い出させてやろう。

 

「そういうわけではありませんわ。私、あなたと仲良くなりたいと思っていますもの」

 

「そう、私は仲良くなる気はないから」

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