第八話 功績を求めよ
▼マイロ視点
シアンさんのことを少し見くびっていたみたいですね。このような重大ごとを知らせてくれるとは思わなかった。
おかしくなったのは入学式のあたりからですが……神がかりでも起こったのだろうか?
そうとでも考えなければ説明はつかないけど、生憎僕は神なんてものは信じていない。
となると、いままでは爪を隠していたというわけだろう。
まあ、実際のところは彼女の父親が唐突なカミングアウトをした彼女を救うために功績を挙げさせようとしたのだろうが。
……しかし、それにしては手際が悪い。マスデロさん、いや、ルーネスト屋殿はシアンさんには甘いが、その事で知謀が緩むような者ではない。
むしろシアンさんを守るためならばさらに頭の冴えは増すだろう。
それに鎮痛薬にも使えるなど、僕どころかマイアス子爵も知らないはずだ。
そんな使い道があるのならば麻薬に頼る必要はない……とまでは言わないが相当な利益になっているだろうし、正式な手続きを踏んで売っているはずだ。麻薬を売る際の隠れ蓑にもなる。
となるとシアンさんが本当に独自で見つけた?
……なんにせよ僕の手柄にもなるのだから問題はない。彼女の助けがあってという形であることは周囲にも言っておかねばならないだろうが、シアンさんが父上ではなく僕の手柄にしてくれたということは大きい。
ただまあ、適当になにか気づいた理由をでっち上げなければならないな。
シアンさんの説明そのままだと彼女が訝しがられかねない。
となると、徹底的に盛りましょうか?神算鬼謀のシアン・モーナ!といった感じで。
新薬を見つけるほどの実力があるのならば医者としても当代随一だろう。
謀略や政略に向いているかは知らないが、入学時のテストも僕を1点差で抑えて主席だった。
入学のための簡単なテストとはいえ、600点満点のうち、599点というのはなかなかの箔だろう。
ならば大きく外れるということはないと思う。
そうすることで、僕の器量に対して疑問を投げかける目を少なくする狙いも期待できる。
それだけの知恵者がバックについているというのは大きいですからね。
この謀反が成功していたら、王国が揺らいでいたかもしれないのだから、僕への期待は大きくなるでしょう。
この出来事が起きたのが、クラウディアさんに出会う前ならば、妻に所望していたかもしれない。
それくらいには衝撃的だったし、喜ばしい出来事だった。
それに、あの魔法はおそらく……。
しかし、今の僕にはクラウディアさんのことが妙に気になって仕方がない。
彼女の姿を見たとき、魂が惹かれるような感覚を覚えてしまった。
いや、言い過ぎですね。要するに一目惚れをしてしまった。
周りは反対するだろうが、なんとか功績を上げて彼女を娶ることを認めさせなければ。
父を超えること以上に夢中になれそうな事柄など初めてだ。
そう思うと、本当にシアンさんにはありがたいことをしてもらった。これは僕にとって大きな功績になると思う。僕が王になった暁にはその恩に報いなければならないな。
となると……彼女は獣人の、それも女性が好きだったのだよな。
となると、獣人部族の有力者の美しい娘を彼女への嫁に出す?
……昔はこの国にも獣人がいたというが、今はこの国には存在しない。なので不可能ですね。
他国から奪うことも不可能ではないが、危険すぎてできないししたくもない。そこまでの鬼畜にもなりたくない。
まあ良い。それは今考えることではないか。とりあえず、一仕事済ませなければ。
まだ解決していないので手柄にはなっていないわけだし。
取らぬ狸のなんとやら、ですね。
マイロと会ったのは学校の屋上で、ちょうど他に人がいなかったのでそのまま帰ってこれた。
封鎖してもらっていたので他の人が入ってこれないようになっていたが、近づく人自体が少ないところだから俺とマイロの関係が噂されることはないだろう。
まあ、マイロのオトモダチがたくさん見張っていたから噂なんてされないだろうが。
それにしても、授業が簡単だ。数学なんかはとくにそうだ。小学校高学年レベルの問題も出されないので、バカにされている気分にすらなった。
今の俺は一応15歳だからな。精神の方に至っては21歳だ。そういう気分にもなる。
この世界の歴史などについてはシアンと同じくらいの知識しかないので今後力を入れて取り組むしかないが、歴史を学ぶのは好きだ。
特に娯楽の少ないこの世界では物語のようにして楽しむ用途にも使えるだろう。
横を見てみると、クラウディアが熱心に取り組んでいた。初期の学力を考えるとこれでも辛いものがあるだろうが、頑張っていた。
必死なので応援したくなる。
「つかれた〜」
「まだ五日目ですのに、そんなに疲れていたらどうにもなりませんわよ」
「わかってはいるんだけどね〜。レベルが高すぎてついていけないよ」
なんてことを言っているが、クラウディアはステータスを上げまくるとハーバード大学主席も真っ青の超天才になりうる。
間違いなくこの年齢で小学生レベルの授業に手こずるような出来の悪さではない。
現代日本に生まれていたら歴史に名を残す科学者にでもなっていたかもしれない。
ただ、努力家であることは間違いないのだが、才能がありあまりすぎていてなんだか納得できない。
実家が貧乏でろくな教育も受けさせてもらえなかった、だから才能が開花しなかったのだろう。
あるいは、漫画でよくありがちな凡人を自称しているのに、ただ努力しただけで大きな成果が出るみたいなキャラに近い立ち位置なのかもしれない。
……俺は努力家ではない上にずるい方法で知識を得たようなもんだから、人のことはあまり言えないな。こっちのほうがよっぽど酷い。
妬むのはよそう。
「そういえば、クラウディアさんは部活はどれに入るんですの?」
「うーん……文化部は裁縫部、運動部は水泳部に入ろうかなと思ってる」
この学園では文化部と運動部、それぞれ一つずつに入ることが可能だ。
どちらの活動に力を入れるかは人次第である。
しかし、割と良さげなのを選んだな。裁縫部はパラメータの伸びが良いし、水泳部は攻略対象と出会いにくい。運動と容姿の2つのパラメータが伸びるが、その伸びは軽いけど。
ある程度狙いを絞るプレイをするときは有用だ。
しかし、貴族のご令嬢が水泳という肌の露出が多い競技を選んで良いのだろうか。
大会もあり、国王や有力貴族も見に来るのだからますます駄目だと思うんだが。
学校側が全面的におかしいと思う。いや、この世界の常識がおかしいのか?
「でもまずはバイトして生計立てないとね〜。あんまり部活に行ってる暇はないかな?それにしても物凄く割のいいバイトを紹介してくれてありがとう!」
笑顔が眩しい。そういや、6歳の姪っ子の笑顔もこんな屈託の無いものだったな、とふと思い出す。
姪っ子とは違ってクラウディアには女としての極大の魅力もついてくるのでドキドキしたが、悟られないようにしないとな。
クラウディアは苦学生のようなものだ。祖父が騙されて借金を負ってしまったために、生活に苦労している。
だから、まともな教師を雇い入れることすらできなかったし、身だしなみも整っていない。
4月28日以降はかつて祖父が助けた親戚が事業で成功を収め、援助を送るようになり実家が裕福になり始める。
そこらへんから容姿が最も上がりやすいコマンドの解禁という話になるのだが、ゲーム的に言うと初期能力が低いことへの理由付けでしかない。
でも、現実として捉えるとなかなかに厳しい環境だったのだと悲しくなる。
そんな環境で育ったとは思えないほど気丈で明るい。悲惨さを感じさせないが、やはり苦しみはあったのだろう。
ちなみにクラウディアに紹介したバイトはアパレル定員だ。
交流と容姿の能力も上がるし、給料も良い割のいいバイトを紹介した。
これで恩に感じてくれるといいんだけど……。原作でもクラウディアが望んだからシアンに罰が下されるという展開はない。むしろ、クラウディアの側はどんなに険悪になろうとシアンには友情を感じていた。難しいな。