第六話 告発
「お父様に進言差し上げたいことが一つございます」
殆どの家族が集まった食卓で、俺は未来につながる提案を始める。
シアン……いや、いつまでもこう言っていても仕方ないな。俺だ。俺の兄弟は九人いる。男が四人で、女が五人。俺も入れると女六人だな。そのうち跡取りである長男のエルガルと妹のメイエヌが同腹の兄妹で、あとは全部マスデロの他の嫁たちの子供だ。
第一夫人であるマーニが俺の母親で、マスデロにはあと他に二人嫁がいる。
俺より歳上なのは他の腹から生まれた姉二人だけだ。
父方の祖父も祖母も早くに亡くなったのでこの場にはいない。
つまり、子供十人に加えてマスデロと夫人三人で14人で食卓を囲んでいるわけだ。
ついでに使用人や護衛たちもこの場にいる。
「なんだ?いきなりかしこまって……まあいいぞ。言ってみなさい」
わざわざこの場で提案したのは、カミングアウトを家中に知られているからだ。
一夜にして家の役に立たない穀潰し扱い的な目線を向けられがちになったので、それを払拭したい。
マスデロ一人に提案して、そのおかげで成功を収められたとして、それを娘のおかげだと吹聴してもらっても親バカを発動しただけかと思われかねないからな。
「では。……マイアス子爵領への投資をやめませんか?」
場が沸き立つ。それだけのことを言ったのだからしかたないけど、ビビってしまう。
「なぜだ?マイアス子爵領は発展する条件に恵まれているし、ここで投資しておくだけで恩義を作っておけるのだぞ」
マイアス子爵領は海に面していて、なおかつ当主であるマイアス子爵の器量もある。
そして、一昨年に起きた地震の復興作業中だ。
ここで多額の投資するだけで恩義を売れるというのは大きい。
見返りにも期待できる。だから好条件に見えても仕方がないだろう。
ただ、俺は原作ゲームを知っている。マイアス子爵は来年には失脚する。
なぜかといえば……。
「マイアス子爵家はニルヴァーナの密造を行っています。早晩、没落するでしょう」
「なっ……!!」
マスデロの顔が驚愕に染まる。人が良くて、切符もいい。そして有能だからな。そんな危ない橋は渡らないものだと思っているのだろう。
ニルヴァーナというのはこの世界における特に危険な麻薬の一つだ。
粉を舐めるだけで、天にも昇る心地を得られる代わりに末期症状は残酷だ。
支離滅裂なことしか考えられなくなる。
労働力のためだったり、治安のためだったりで取り締まりに全力を尽くす国は多い。
「シアンさん、あまりそのようなことを言うものではありませんよ。誰のためにもなりません」
第三夫人のオーレが言外に『あなたが出る幕ではないのでは?証拠もないくせに口出しするな!』という怒りをにじませながら諭してきた。
オーレの実家は貴族の家で、マイアス子爵家とズブズブの関係だからな。
真実は知らないだろうからその怒りは正当なものだ。だが俺の成果になってくれ。どうしても必要なんだ。頼むから、な?
「ふふっ」
あえて薄く笑ってやった。オーレが鼻白む。
俺は厨二病の頃、俳優や声優の演技の真似をしまくってたからな。独学とはいえ演技力はこの世界の一般人よりは断然あると思う。
また、この世界にはまだ存在しない類の演技の種類だろうから余計に俺の笑みは得体の知れないものに見えたことだろう。
日常生活でずっと演技し続けるとかならばボロはでるだろうが、こういう場面で効果的に使うくらいなら問題ないだろう。
夢枕に仏が現れたーみたいな話をマスデロにしたときも、芝居の気分でやっていたのだ。だから信じられたのかもしれない。
「お前の意見だ、聞き入れたいとは思う。しかし流石に真実だとは思えん。できれば証拠を持ってきてほしいのだ」
「……マイアス子爵は青鈴星花とイェルメン銅貨をよく買っていかれるとは思いませんでしたか?」
「それとニルヴァーナの関係性がわからん。続きを話してくれ」
「こういうことですよ。「来たれ浄滅の晴。暁の凶星……オウド・レドム・ヴェルシャーレ――『平炎律動』」」
原作知識と己の中にある魔法知識から引っ張ってきた詠唱をして、花と銅貨をドロドロに溶かして、綺麗な皿にそれぞれ移した。
それから、銅貨の中に含まれていた鈍色の極小球体をピンセットで取りだし、また詠唱をして球体を溶かしてから花の液体とかき混ぜた。
すると、軽く膨張が起こり透明の液体が出来上がった。
「先程の奇妙な魔法はなんだ?いやそれ以前に、その液体は……」
「ご明察の通り、麻神水です」
マスデロだけではなく、家中がどよめいた。
まあそうだよな。これとマイアス子爵領にも生えているとある毒きのこをかけ合わせるだけでニルヴァーナが出来上がるんだもの。
それ以外にも無数に使い道がある。悪い意味での使い道がほとんどだがな。
「ああ、そういうことだったのか……。わかった。マスデロ子爵領への投資は辞めよう。無駄になるだけだ。しかし……なぜシアン、お前がそれを知っているのだ……」
マスデロはともかく、他の家族の視線は胡散臭げなものであった。
まあ、こうなるのは知っていた。普通こんな情報は誰も知らない。マイアス子爵に教えてもらったのかとでも思うだろう。
原作の残念美女科学教師関連のイベントで知っていただけなのだが、そんなこと言ってもわからないだろうし知られたくない。
「私は昔、科学というものに興味がありました。今では情熱は薄れてきましたが、当時はそれに人生をかけたいと思っていたほどで、隠れてコソコソいろいろな実験をしていたものです。学園の科学教師と変わらないくらいの知識はあると思いますわ。お父様からマイアス子爵の話を聞かされたときから、もしやと思って実験をしていたところ、見つけましたの。ああもちろん、こんなおぞましいものなど売りつけようとも思っていませんから安心してくださいね」
この説明でとりあえずマスデロとなぜかオーレは納得したようだ。
もとからシアン……俺は変人なところはあったので、そういうこともあらぁな、と他の家族も薄々納得しているみたいだ。
「わかった、教えてくれてありがとう。それとシアン……お前は明日、私とともに王城へ来てくれ。このことを王へ報告したい。信じては貰えないかもしれないが、事前に忠言したという事実が……」
「いえ、それには及びませんわ」
今日何度目かの驚愕の表情を見ることになった。