第二十四話 TS銀髪吸血鬼ロリババア
テスト期間が終わった。多分、全教科満点取れると思う。歴史含めて。
「あー、しんどかったぁ……。シアンちゃんの勉強会がなければ赤点だったかもしれない……」
「あら?まだ答案は帰ってきていませんわよ?」
「ふ、不安を煽らないでよぉ……」
しかし、こうしてクラウディアの様子を見ていると不思議だ。
レイダの話から聞く歴史上の『英傑たる悪女』の姿とは重ならない。
おまけに、早くも攻略相手を絞ったようだ。
その相手はマイロ。デートを重ねる姿が目撃されていた。
他の男にはもはや見向きもしていないようだ。つい先日の入学式の日にはファイバス先生にもキャーキャー言ってたミーハーとは思えない。
これなら、乱世は起こり得ないのではないか。そう思った。
……そういえば、有能な存在といえばもうひとりいたな。
サボり魔の先輩『ルグ・デラ・パレスチア』。先輩なのになぜクラスメイトなのかと言うと、表向きは単位が足りなくて留年。実態は……その裏の顔がマイロの腹臣だからあいつを守るため。
まあ、引き抜きなんてできないよな。それに引き抜く気もない。能はあっても真面目にやらないやつなんて扱いに困るだけだ。それに、一応忠義には熱いし。
でも、ブレーンはほしいよな。補佐役っていうか。クラウディアは一途ルートへ進むようだし、ここは接触しても構わんだろう。
パレスチアより役に立ちそうな参謀が攻略対象から一人思いつく。
というわけで、夜の学校に忍び込んでみました。
ジョインを伴っているため、彼の固有魔法がかかっていて認識が阻害されている。
そのうち、忍者的な技能でも教えてもらうかな。……って、まだこの時間軸では暗殺者になってないんだったな。
ならそんな技能持ってないか。……でも、やけに侵入する際の手際が良いんだよな。
俺は学校の地下一階に入り込んだ。
そこにはさまざまな物品が並んでおり、これはすべて歴代の王やその重臣たちが身につけていた貴重品である。
そもそも、普通はここには立ち入れない。
なぜなら、ここにはこれがあると『知って』いないと入れない魔法のようなものがかかっているからだ。
ここで出会えるヒーローは通常、マイロルートで教えてもらった次の周から攻略できる隠しヒーロー的扱いなのだが、一周目でも選択肢次第で侵入可能だ。
どちらの場合でもクラウディアに前周の記憶はなく、偶然たどり着くという形にされているが。
俺はさまざまな物品の中から5代前の王……『傑陣王』キュローグ・デラエナス・ムルシュの遺品である剣を手に取った。
「シアン様、それは?……というより、ここはどこなのですか?異常な質の魔力で満ちていて頭がおかしくなりそうだ……っっ!!」
ここは『知らない』者が来ると精神がおかしくなって死ぬ。
だが、クラウディアは死ななかったしマイロも死ななかった。ジョインも気が触れそうになっているが、死ぬ気配は一切ない。
マイロに関しては『知っている』ことと『王家の血に連なる者』だから。
クラウディアは『ここに祀られている王家の廷臣の一人の末裔』だから。
ジョインはもっと単純に、『世界最強』だから。
ちなみに俺は『知っている』から。だと思う。裏設定が存在したらそっちにも理由を求められるのかも知れないけどな。
だが、少なくとも王家の血なんて流れていない。公式設定にはんなもんない。
ジョインはそのうち平静を取り戻したようだ。さすがは最強。
「ふう……なんとか元の調子に戻りました。しかし本当に、ここは何処なのですか?」
「『歴王の間』、ですわ。歴代の王やその重臣、妻などの遺品が祀られております。まあ、異常な場所という認識で正しいのでそれで構わないかと」
「異常な場所とは酷いのう」
話していると、突如として目の前に人間が現れた。
これは……銀髪ロング貧乳吸血鬼ロリババア!
……ビンゴか。
「これはこれはご機嫌麗しゅう。『傑陣王』陛下」
「お主……なぜそれを」
ニヤリと笑って印象付ける。
これは間違いなくキュローグだ。原作とは姿が違うが、そもそもキュローグは呼び出した者の理想の姿を取って出てくる。
原作ではマイロを赤髪にして、少し目つきを悪くして、年齢を23ほどにした姿だった。
おそらく、ジョインの目にも銀髪ロング貧乳吸血鬼ロリババアとして見えているだろう。
……なるほど、俺的には金髪ロング狐耳ロリババアよりもこっちのほうが好きだったのか。どうでもいい話だが、理想の女性の具現化が目の前に居るというのは流石に心穏やかではいられないな。
顔立ち自体は俺とそう変わらないレベルだろうけど、そもそも今の俺自体がスーパー可愛い美少女なわけで、その上でさらに最高に好みな属性が付け足されると……さすがに、な?
でも、中身が中身なのでちょっと残念だ。
「なっ!?このような童女がキュローグ陛下であると?」
ジョインは相当驚いていた。
「そう。本来の姿ではないですけどね。とはいえ、今後は死ぬまでこの姿ですわ」
「先程から黙って聞いておると、なにやら態度が大きいではないか。我を『傑陣王』キュローグ・デラエナス・ムルシュ……」
「の影武者でしょう?あなたは」
そう、この子は5代目キュローグの影武者だ。30代半ばで本物のキュローグは暗殺されて死んだ。
しかし、その死を悟られたくなかった国によって、容貌が酷似していたこっちのキュローグを本物だということにされた。
これはおそらく、妻子持ちを攻略しても嬉しくないという声が多かったゆえの設定だろう。
本物のキュローグの妻は自害した。強要されたわけでもなく、自分から。
制作会社が以前作っていたエロゲでは恒例として毎回人妻・未亡人枠がいたのだが、必ずといっていいほど不人気だった。
なんでイラストが一番可愛いキャラが人妻枠なんですか!?という苦情が多かったように、実際のところは人妻だから不人気というより不人気属性キャラに最良のイラストをあてがっていた制作側の判断ミスからくるヘイトなのだが。
それを女性向けへと応用したわけだ。男と女の感性ってだいぶ違うと思うんだけど、制作会社は念には念を入れたらしい。
つまり、キュローグは童貞だ。そして今は処女だ。なんかそこらへん俺と似てるな?
「なぜそれを……あいわかった。なぜ、それを知っているかは置いておく。何が目的でこんなことをした?王朝の正当性でも揺るがすつもりか?」
「そんなつもりはございません。初代……『開明王』陛下とアレゲ陛下の血が繋がっていることは存じておりますので。私は単に、補佐役がほしいのですよ。立場にとらわれない、そして裏切ることのない忠実な、ね」
「……わかった。こうなった以上、どうせ我はお主の駒だ。好きにするがいい」
「同意を得られたようで結構ですわ」
「しかしお主……その手の趣味があるのか?しかもこのような少々特異な姿……スキモノよな」
「その手の趣味、というのは少し違いますわ。陛下が置かれている状況と少し似ている、といえばわかるでしょうか」
「なるほど。お主も元は男か。ならば納得じゃ」
「さすがは『傑陣王』と呼ばれた方ですわ。洞察力が鋭い。まあ、私の場合は……状況が少し違いますが、男から女になったというのは変わりませんわね」
「ふん、これだけヒントを与えられたら誰にでもわかるわい」
「……して、ジョイン。あなたにもこの事情は聞かれてしまったわけですが……」
「裏切ることはございません!どのような事情があろうとも、シアン様は私の恩人、地獄まででもお供いたします!」
その熱意は凄まじいものがあった。ブンブン振られた尻尾が幻視できる。
「『キュローグ様』にもこんな忠臣がおればのう……」
キュローグはなにやら思い耽るような目をしていた。こいつは本物のキュローグ陛下の親友だからな。
その親友の死すらも隠され利用されたこと、その片棒を担がされたことに思うところがあるんだろう。
「本当に、こんなところ入っていいの?」
「ええ、あなたに正当性があることはわかっている。ならば少し覗くくらい問題ないでしょう」
遠くから声が聞こえる……まずい、クラウディアとマイロだ!
もうそんなにイベントが進んでたのか!通常の進行だとこんなに早く来れるはずが……そうか、俺が資金援助したから!
不味いな、ここは隠れなきゃ。だけど少し安心した。このイベントが起こるということは俺が排除されるはずのイベントはすでに発生済みだ。
ならば、今俺が生きているのならばここから排除されることはない!
思わぬ収穫に表情が緩むが、なるべく平静を努めて発言する。
「……ジョイン、ロゼッタ、ここは隠れましょう。ああ、ロゼッタというのは……」
「我の偽名じゃろう?どこからその名前が出たのかはわからぬが気に入った……などと言っている場合ではないな。ほれ、あそこに……」
「いえ、無用でございます。私の術があれば3人程度なら完璧に隠し通せます」
ジョインが印を結ぶと、俺達の姿がかき消えた。
『こ、これはどうなっておる!』
『ジョインの固有魔法ですわ。少人数の姿や音、気配などを完全にかき消します』
『完全に!?凄まじいのう……わしの時代にはそれほどの大魔法使いなどおらんかったわ』
『まあ、ジョインの本領は戦闘なんですけどね。その武、まさに天下無双。名乗りを与えるならば……『今項籍』、でしょうか』
『『イマ・コウセキ』?うーむ、どこの言語かもわからん……』
伝わらないのはわかっていた。でも、ジョインの武勇は真面目に項籍……楚漢戦争の項羽に匹敵すると思う。
項羽の実物なんて見たことないからわからんし、軍を率いさせたら流石に負けるだろうけど。はっきり言ってオーバーキルだ。だが、個人の武力で言えばやや上回っていると思う。
……ゲームのキャラクターと比べられる武力の持ち主の歴史人物ってなんだよ、頭おかしいだろ。
いや今は現実だけど。
とまあ、そんな会話をしていると、二人が部屋に入ってきた。
「ここが歴王の間です。まあ、クラウディアさんにとってはなんのこっちゃかもしれませんけどね」
マイロが苦笑いしながら紹介する。
「凄い……」
クラウディアはわけがわからないながらも、なにかのパワーを感じ取り、感銘を受けていた。
「……驚いた。初見でここまで親和性を見せる人がいるとは思いませんでした」
……やっぱクラウディアって特殊なんだよなぁ。
王の直系や庶流ではなく、廷臣の末裔というのが影響している……わけではない。単に『無限の可能性』を持っているだけだ。
『無限の可能性』というのは、クラウディアの持つ特異な成長性……コマンドを選ぶことによって能力値が上がるというゲームシステムの設定上の呼び名のことだ。
初めは馬鹿でコミュ障だったクラウディアが天才コミュ強になれるのは、この力あってこそ。
この力こそが、おそらくはレイダが言っていた『史実』においてクラウディアを英雄にまでのしあげた要因なのだろう。
この力の持ち主は歴史上一人しかいない。クラウディアだけだ。
『あの男はキュローグ様の子孫か?』
『ええ、そうなりますわ』
『なるほど、のう。あまり顔は似ておらぬが、たしかに似た雰囲気を感じさせる。して、隣にいるのは?』
『マイロ殿下……あの殿方が好いた女性ですわ。私の友でもあります。クラウディアという名前です』
『青春、じゃの』
『ええ』
『じゃが……あの女、どうにも信用ならない気配がする。どうにも男をとっかえひっかえしそうな……いや、とっかえひっかえというより、全部自分のものにしそうな悪女、かの?』
『クラゲ』や『史実』ではお前もあの女に惚れるくせに何言っていやがる。
『ですが、一度決めたら一直線という女です。心配はいらないかと』
『史実』では全員と結婚することに決めたんだろう。そこに一直線。うん、嘘は言ってない。
『たしかに、そんな雰囲気はあるの。我の眼力にもそう見えておる。まあ、マイロ様が自分で選んだ道だ。後悔しないのならばそれで良い』
そんな会話をしているうちに、マイロが腕輪を手に持ってしげしげと眺めていた。
その姿はなにやら誓いを立てているようでもあった。
『あれは本物のキュローグ様の遺物じゃな。我のように化けて出てくることはないじゃろうけどな』
その後、遺品を元の場所に戻し、クラウディアを伴って部屋から出ていった。
よし、これで逃げられるな。
ヒロイン二人目登場。
主人公と同じTS娘です。




