第二十三話 好きとか嫌いとか最初に言い出したやつ誰だよ!
「やはりシアンさんの教え方はとてもわかり易い。脳まで筋肉でできていると言われた俺でも飲み込める説明だった」
「あらそう?そもそも、あなたには肉体労働より頭脳労働のほうが向いているように見えたのだけど。素質が良かっただけだと思いますわ」
「そうか……いや、ありがとう。文官の道に進む選択肢も見えてきた。そうでなくてもどちらもできれば仕官に有利だからな。ありがたい」
勉強会の途中で大柄で物静かな少年に褒められた。名前は……なんだったかな。テルムスだったか。
大貴族の息子らしいが、八男坊で親からもあまり可愛がられていないからどこかの貴族家に仕官することが目標らしい。
しかし、自分ではそこまで教え上手だとは思わない。回りくどいというか、その発生の因果まで細に穿って教えてしまうのでテスト勉強という観点では微妙だと思う。肝心の説明も下手だし。
深く学ぶなら……まあ、アリかも?程度の教え方ではあるしれないが、教師には向いてないかも。
ただ、前世で家庭教師に習っていた時期があったのだが、その先生が凄く教え上手だったから相対的に見てしまって自己評価が低いのかもしれない。
でもその線は薄いと思っている。なんとなくだけど。
「しかし、シアンさんは……その……なんというか……聞きづらいのだが……ヒューラさんと付き合っているのか?」
……なにやら、誤解が広まってしまったようで俺とヒューラが付き合ってるなんて噂が流れている。
あまりに親密にしすぎたか。
ヒューラは噂に心を痛めていた。まあ、次の日にはケロッとしてたけど。
どうせ結婚できないんだからそういう噂が流れたところで名誉もクソもないな、という結論に至ったらしい。
「ヒューラさんの名誉のために言っておきますが、そういった事実はございません。ただ友達であるというだけで、恋だとか愛だとか言い出す仲ではないですわ」
「……ふむ、まあどうでもいいか。俺が関わる問題でもない。そも、人の趣向など自由で良いのだし。では邪魔した」
そんな会話の後に、次々と質問に答えたりなどしていく。
そうして、勉強会の最終日が終わった。
「授業だけでもしんどいのに、勉強会もだったから脳みそがパンクしそう〜」
クラウディアが机に顔を突っ伏してそんなことを言っていた。
「明日からはテストが始まるんですから、今日は早く寝ること。一夜漬けは百害あって十利くらいしかないんですから。バイトの方にも断りの連絡は入れておいてあるでしょう?」
「はぁ〜い」
クラウディアは素直に帰宅の準備をし始めた。乱世が始まる事実を知った今、クラウディアにはパラメータを高め続けてほしい。
もしかしたら個別ルートなら乱世は勃発しないのかもしれないが、それでも布石は打っておかないと。なんせ大英雄様だ。
「驚きましたよー。シアンさんってこんなに頭良かったんですねぇ」
クラウディアが帰った頃、ミーシャが俺に話しかけてきた。
「学年主席です。これくらいは当然でしょう」
「う〜ん、なんか違うんですよねぇ。お勉強ができるだけじゃないというか……質が違います。高いとか低いとかじゃなくて、根本的な何かが違うんですよ」
まさかこいつも異世界人か未来人なのか?!
思わず警戒してしまう。
「そういえば、シアンさんの教えはとても役立ちましたよぉ。今までの私ってあんな危険なことをしてたんですね。思い出すだけでも怖いですよ」
ミーシャは演技臭くガタガタと震える。
ただ、演技だけじゃなくて実際に恐怖を感じているのは見て取れた。
足の震え方が尋常じゃない。不自然すぎて逆に自然だ。この子って案外ビビり?
とりあえず、異世界人や未来人ではないと思っておこう。
「誰にだって失敗はあるものです。私だって失敗ばかりしてきましたから。そこから学べるか学べないかで人生が変わってくるのだと思いますわ」
「そう……ですよねぇ。うん、これからは仲良くしてくれると嬉しいです」
「私の方こそよろしくお願いしますわ。しかし、みんな学ぶ意欲があって助かりました。やる気がないとなかなか身につきませんからね」
「そりゃあアレじゃないですか?ここにいるほとんどの人は仕官先や嫁の貰い手がいませんでしたからねぇ。スキルアップに必死にもなりますよ」
「……ミーシャさんは違うのでは?」
「私は嫌われてましたからねぇ。嫁の貰い手もなかったですよ。仕官は難しくなかったと思いますけど、今思えば大変なことになっていたかもしれません」
『連絡先』の写しや情報を大量に持っている娘となれば、結婚も簡単だと思うんだけどな。
個人の好き嫌いではなく、利用価値がありすぎる。
「まあいいですわ。……あ、そうだ。帰りに菓子店にでも行きません?あ、ヒューラさんもまだいたのですね。三人で行きましょうよ」
菓子店というのはルーネスト屋が経営している店ではない。別の大手の高級店だ。
せっかくの友達だし利用価値とか関係なく、仲良くはしておきたい。
「あ、最近話題のケーキが売ってるあそこですかぁ?」
「そうですわ。以前偵察と称して食してみたところ、なかなかに美味でしたので」
「私って友達少ないからあの店行ったことないんですよねぇ。なんというか一人では入りづらいですし。そういうことなら行きたいですねぇ」
「!? いくいく! 私、ケーキなんて食べたことないのよ! 食べてみたい!」
二人の同意が得られたので、ケーキ屋に行くことにした。
こういうことなら、クラウディアも誘えばよかったかな。でも彼女にはパラ上げかデートをし続けてほしいからな。
デートでも能力値は上がるし。
流石にここで誘ったってデート扱いにはならんだろ。
俺、一応同性だし。
……いや、ゲーム時代は友情イベント的なアレで学力系のパラがかなり上がるんだったか。
でも、勉強を教える的なイベントの果てにあるものだったから、遊びに行くだけだったら意味ないか。ならいいや。
友達として一緒に遊びたいとは思うが、それ以上に乱世を終わらせられるほどの大英雄として成長してもらいたいと思ってしまう。……友としては失格かな。
そのまま通学路を歩き、王都の大通りに出た。そこにデカデカと立っている店がケーキ屋だ。
「ケーキ・アルケミスト……なんだか仰々しい名前ね」
「そうですかぁ?なんか職人魂を感じられて面白そうですけど」
堂々と店に入って席に座る。
「うわぁ、こういう店初めてだから……どう注文すればいいのかわからないわ!?」
「私も役に立てそうにないですねぇ。というかここのメニュー、凄い高いですよ。私達に払えなくないですかぁ?」
……ああ、そういやここって凄い高いんだった。場所選びに失敗したか。
行っている生徒も貴族の中でも金持ってる人ばかりだろうな。
「……私のチョイスミスでしたわ。今回は私が全額払います。調子に乗った成金みたいですので、こういうお金の使い方はしたくないのですけど……まあいいでしょう」
奢りって先輩後輩とかそういう関係なら違和感ないけど、同級生だとなぁ。
そして案の定反対された。
「でもそれって友情に漬け込むようで嫌ですよぉ。実家に頼んでここはなんとか……」
「ツケはできないはずですし、そういう行為は親御さんに迷惑がかかりますわ」
しかし、ミーシャの提案も問題があるものだったので却下する。
「ケーキは食べたいけど……シアンを金づるにしているようでなんかイヤ。ここは出ていきましょ?」
「お金が払えなくて出ていくなんて恥をさらすも同然ですわ。間違いなく後ろ指を指されますわね」
ヒューラの提案は論外だったので即時に却下。
「ここは私が払います。一応、お小遣いなどではなく正当に働いた報酬ですのでご心配なく」
二人が申し訳無さそうにしているが、これは俺が招いたミスだ。
自分のやらかしたことは自分で片付ける。
自己責任なんて言葉は許しちゃおけないが、自分には適用しても問題ない。他人に適用するのが間違っているだけなんだ。
「では……うん、これにしましょうか。……あの、よろしいでしょうか?」
二人はよくわからないようなので、人気メニューの苺とぶどうのショートケーキを三つとドリンクを頼む。
「はい、ご注文承りました。赤と青の彩りショートケーキを三つ、ルシャメルティーを三つでよろしいでしょうか」
それに承諾すると、ウェイターは下がっていった。
「うう……シアンには申し訳ないけど、ケーキはやっぱりワクワクするぅ……」
「恥じる必要はありませんわ。目の前にある食べたいものは我慢せず食べるべきです」
「よくそんな考え方で太りませんねぇ……。羨ましいですよ……それとも栄養が全部胸に……なおさらうらやましい……」
節制した覚えはないが、俺はそもそも食に対する欲求が薄い。前世でもそうだし、本来のシアンもだ。
少量食べれば満足する。残しはしないし胃袋が狭いわけではないが、軽く食べるだけで満足できる。
だから、食べたいときに好きなものを食べても問題がない。
それに運動で脂肪を燃焼してるし。むしろもっと食べたほうが良いのだろう。
ミーシャが羨ましそうにこっちを見ているが、ミーシャは別に貧乳じゃない。普乳だ。
そう劣等感感じることもないと思うんだがな。
そもそも貧乳が一番美しいフォルムをしていると思う。……うん、まあ、変態臭い考えは捨て去ろうか。
「そういえばミーシャって好きな人とかいる?」
「え?私はいませんよぉ。というか、私って嫌われがちだったから、無意識に悪意に敏感になっていたのか……誰かを好きになったことないんですよねぇ」
おっ、ガールズトークの鉄板きた!……しかし、初っ端から重い回答だなぁ……。
ミーシャは少し暗い表情をしていた。
「そ、そういうヒューラさんこそどうなんです!?シアンさんとの噂もありますし、もしかして……」
ミーシャは悪い顔をしてニヤリと笑う。
「は、はぁ!?それはただの噂!……というか、好きとか嫌いとかよくわかんないわよ。友達としてはその……大切だけど、恋愛的な好きとなると、多分違うかな。少なくともまだそういう目では見ていないと思うわ。そう、きっとそう!」
「『まだ』ってことは……ふふふ、面白いことになってきましたねぇ。それに……見ていないと『思う』、ですかぁ。つまり、今の時点でもなにかしら考えてしまうところがあるんじゃないですか?」
「は、はぁ!?……これはただの言葉の綾っ!この件で変な噂流さないでよね!?」
「心配ご無用です。情報は選びますから。それに、クラウディアさん、シアンさん……それとヒューラさん。この三人の情報は絶対に流しませんよ。これでも口が固くなったんですから」
「……なら、良いけど」
……意外と脈アリなのか?アプローチをガンガンかければ……いやだめだ。彼女の父親がいる。
彼女の父親は女である俺との結婚は許さないだろうし、そもそも鍛え上げないと勝てないだろう。
ジョイン並みに強ければ勝てるだろうけど……いや待てよ。ジョインをヒューラとくっつけさせれば、ヒューラの結婚できない問題は解決……しないな。年齢がネックだ。
それに、ヒューラが他のやつと結婚した姿を想像するとなぜかモヤモヤする。
……ふむ、さては俺はヒューラを他のやつに取られたくないのか?恋してしまった?……なんか違うような、合ってるような。……いや、恋をしているのは間違いないと思う。
まあいいか。俺は功績を打ち立てるという目標の他に、乱世を終結させるという目標も加わった。色恋にうつつを抜かしている暇はない。
いやでも、いつの時代も権力者には性は付き物だし……考えていてもらちがあかない。とりあえず今はなんでもないことにしよう。
「シアンさんのほうはどうなんです?」
「色恋とか、そういうことはまだ早いかなと。というか、一生無理でしょうね。私には恋愛は難しいでしょう。そしてそれ以上に成さねばならない大志がありますからね」
ミーシャに問われたが、意味深なことを言ってお茶を濁す。
「意識が高いですよぉ。もっと気楽に行きましょう?青春なんて有限なんですから、この間に恋愛しとかないと損ですって」
なんかヤケにグイグイくるな。
俺とヒューラの仲人をしてるつもりなのか、それとも年頃の女の子らしく興味本位なのか。
「いいこと?噂というのも情報の一つで、それに惑わされるのではなく利用することを考えるべきで……」
「お待たせいたしました。こちら、赤と青の彩りショートケーキが三つと、ルシャメルティーが三つとなっております。ルシャメルティーはアイスとなっておりますので、『冷感』をお楽しみいただければ幸いでございます」
無表情を装って適当に考えた説教をぶち上げていたら、注文していたものが来たようだ。
この世界ではここまでキンキンに冷えた飲み物は貴重品だ。
高級店でもここまでキンキンに冷やすんだな。まあ、世界的に珍しいもんだしな。
「おっ、来ましたね。では、ごちそうになりまぁす」
「これが……あの伝説のケーキ……」
そこから二人は無心になって飲み食いしていた。さすが高級店、かなり美味しいのだが、ここまで夢中になるとは思わなかった。
飽食の時代から来た人間とは感性は違うか。
「……」
「ごちそうさまでしたぁ。思わず夢中になって食べてしまいましたよぉ」
ミーシャは恥じ入るように礼をしてきたが、ヒューラは放心状態だった。
あまりに美味すぎて衝撃を受けたようだ。
「はっ!……美味しかったわ。この礼はいつか必ず返すから」
なんだか捨て台詞みたいなことを言われて、この場はお開きとなった。
しかし、女友達と遊びに行くなんて出来事、前世の俺には珍しかったよな。
厨二病を患っていた時期が長くて、面白がって近づいてくる女友達が一人いたくらいだ。
その子には彼氏がいたけど。
その子の彼氏以上にただの友達である俺に構ってきてたから、もしや鞍替えさせられるのでは?とか勘違いしかけたけど、まったくそういう目で見られていなかったことが判明してお陀仏。
ついでにその子も彼氏に俺との関係を追求されて別れることになってお陀仏。誰も幸せにはなれなかった。
……今生で恋愛ってできるのかなぁ?




