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第二十一話 真実・上の巻

「ふふふ……キミの勉強会、大層な評判らしいわね?」

 

 目に隈の出来た、地雷系の見た目の美人さんが話しかけてきた。

 

 ……科学教師のレイダ・マルクトか。

 正直な話、『こいつ』には関わりたくない。

 だって危険すぎる!科学の進歩発展のためなら犠牲はつきものよね、が口癖の人だもん!

 実験台にされかねん!

 

 実際には、過去に自身の行った実験の産物によって家族が一人死んでしまったため、それを深く後悔して注意は払ってるんだけど……それでも万一が起こりかねないんだよなぁ。

 

「なんの用でしょうか?先生に話しかけられるようなことをしたつもりはないのですけど」

 

「いや、ね。キミが科学に興味があると聞いたからさぁ。それに、マイアス子爵を叩きのめしたキミの手法にも興味があってね」

 

 ……どこまで知ってるんだこの人は。

 科学への興味についてはあまり知る人は少ないはずだけど……。

 まあいい。ここは無視だ。

 

「あら、つれないのね。まあいいわ。キミに一つ見せたいものがあるの、ついてきてくれるかしら?……と言っても、無理やり連れて行くんだけどね」

 

 身に危険を感じたのでジョインを呼び出すサインを送ったが、来ない。

 ……あのジョインが裏切ることはないはずだ。ということは、ジョイン的にはついていったほうがいいという判断ということだ。

 ……どうも統制が取れていないな。たとえ間違っていてもついてくる『臣』が欲しいんだよ俺は。

 ここは要教育、だな。

 

「……わかりました、どうもここはついていったほうが良さそうですねわ。しかし、脅しをかけてくるというのはいささか不用心ではないですかね?」

 

 暗に告発する手段もあることを示す。手段を問えば告発。問わなければ単に身分や評判を貶めることだってできる。

 

「ふふん、ここは賭けなのよ。それに、キミにとっても悪い話じゃないと思うわ?」

 

 有用性はわかっているんだけど……危険性が拭えない。

 まあ、行くけどさ。

 それから連れて行かれたのは、科学室だった。

 設備は少し貧相で、予算がかけられていないようであった。

 アレゲ陛下が有用性を認めているのでこれでも他国に比べたら進んでいる。

 

「キミに見せたいものは、これよ」

 

「……!」

 

 レイダが見せてきたのは火縄銃らしきものだった。前世で見たものと形は少し違うが……まさか。

 

「これは先生が独力で?」

 

「流石に鍛冶師の協力は得たけどね。精巧でしょう?」

 

「精巧でしょう?じゃなくて……これは兵器でしょう?こんなもの、一生徒に見せていいのでしょうか?」

 

「本当は良くないけど、許可ならもらっているわ。キミなら役に立てそうだからとね」

 

 この人、人殺しを悔いているんじゃなかったのか?この発明によって前世では多くの人が死んだ。

 レイダならばおかしいと気づくはずなんだが。しかし、レイダは内心を見透かしてきたように発言する。

 

「敵国の人間がいくら死のうと私は後悔なんてしないわ。それに今の世は安定しているように見えて、その実不安定。同じ国の仲間が死なないように力を尽くすことの何が悪いのかしらね?」

 

 レイダは最悪の差別主義者ってわけか?……それともなんか違う気がする。相手に対する侮蔑の念や劣等感を感じない。

 つまり、これは本当に……純粋に自国民を守るため?

 

「そのうち、この大陸には乱世が訪れる。その際にこの国の人達が踏みにじられてほしくないの……って、何言ってるかわからないわよね」

 

 この発言で疑問ができた。一つ確かめたいことがある。

 

「東京、ローマ、アメリカ、織田信長、ユリウス・カエサル、関羽、岳飛、火縄銃、ニュートン、エジソン……クラウディア・GOGO。この言葉の羅列に聞き覚えはありますか?」


最後のワードが分不相応すぎて思わずシュールさに笑いそうになったが、そういう場面じゃないので我慢する。

 

「……ほとんど意味不明。でも……見逃せない単語は入っているわね。特に火縄銃とクラウディアってのが」

 

 レイダから威圧感が発せられた。だが、鍛えていない貧弱な人から威圧感が発せられたところで痛くも痒くもない。

 ……転生者ってことでビンゴかな。ただ、俺とは少し性質が違うようだが。

 

「どこでその火縄銃という名称を知ったの?というか、クラウディアさんと仲良くしているのは勝ち馬に乗るため?」

 

「……オーケー。わかりました。あなたはどうやら未来から来た人物のようですわね」

 

 レイダの表情が驚愕に染められる。薄々何か知られていると感づいてはいたと思うのだが、実際に言われるのは別物なのだろう。

 

「……ということは、やっぱりあなたも?」

 

「多分、先生とは少し違いますわ。私はこの世界が架空の物語……ゲームとして知られている世界からやってきました」

 

 レイダは信じがたい者を見るような目でこちらを見てきた。

 

「この世界が、ゲーム?」

 

「いえ、おそらくはこの世界の一時代をゲームとして再現したものがクラウディア・GOGOなのだと思います。……この世界そのものがゲームだとは考え難いです。紛れもなく現実かと」

 

 実際は想像からくる口からでまかせだが、間違ってはいないと思う。生き残りのためにはゲームの世界という可能性は頭から完全には捨ててはいけないが……そうじゃないと思うし、思いたいし、確信も得た。

 

「なるほど……。別の世界から来た……異世界人ってことね。なるほどなるほど、面白くなってきた」

 

 レイダの雰囲気が変わった。

 

「私が未来から来たというキミの推理は当たっている。私は居眠り運転のトラックに轢かれて死亡した。困惑したよ、なんで真面目に生きていたのに戦乱の世に生まれ変わらないといけないのかってね。それなりに難関だった大学の受験に合格して、大学で新しい友達も出来て、これからいろいろと面白いことが起こりそうだと思っていたのに」

 

「……なるほど、『史実』のレイダ先生とは異なるようですわね」

 

「私の知る史実に『レイダ』なる人物は出てこない。一教師のプロフィールまですべて網羅している歴史書なんてないはずだからね。それに、私は普通の女子大学生だった。勉強でやる分を除けば、歴史なんていう男子が好みそうなものは大河ドラマくらいでしか見ることがなかったよ」

 

 かつての思い出にふけるように、憂いた表情を作るレイダ。

 

「……わかりました。で、その火縄銃はなぜ作ったのですか?」

 

「当然、この国を未来まで存続させるため。私は愛国者なんていう狂人じゃないけど、この時代に生きて、愛着も湧いてしまった。だから、史実より悪い状況にはしたくない。いいえ、良い状況にしていきたい」

 

 なるほど、そういうことだったのか。ならこっちの事情も話すか。そうじゃないとフェアじゃない。

 

 レイダに合わせてかつての口調で、な。

 

「『俺』は狭く深く……好きな物事をとことんまで楽しむタイプのオタク気質な大学生だった。ああ、口調でわかるかもしれないけど性別は男だった」

 

「……意外。キミって昔は男だったんだ」

 

 レイダが驚きの声を上げる。反応は控えめだったが、こっちが素なのだろう。

 

「噂くらいは聞こえてきてると思ったんですがね?」

 

「噂は噂。それに、とても女性らしい仕草をできていたから騙されてた」

 

「……そうですか。そっちのほうが都合はいいけどなんか傷つきますね」

 

 俺が女ながらにして女のことが好きでなおかつ転生者だという事実を知っても、俺の前世が男ということに気づかなかったのは少し微妙な気持ちになる。

 

 俺という存在はそれらの事情を知ってもなお、『女性らしかった』ということなのだから。

 

 まあいいや。これからは女として生きていくんだ。それで何ら問題ない。

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