第十八話 こんにちは、おバカさん
「シアンちゃん……私、次のテストヤバそうだよ……」
「まあ、仕方ありませんわね。今までは実家を助けるためにもバイトをしていたわけですし」
クラウディアに泣きつかれたが、まともな教育も施してもらえずにずっとバイトをして生きてきたわけだからそりゃあすぐにまともな点数なんて取れないだろう。
ついこの間、クラウディアの親戚から援助が入ってそれなりに裕福にはなったのでこれからだ。
今の時点で入学時よりは全然マシだしな。割のいいバイトのおかげで労働時間と自分磨きの時間を短縮できてるし。
ただ、同情すべき理由があるのはわかっているが、今すぐどうにかするというのは難しい。
クラウディアは主人公とはいえど、そこまでの即効性のある成長システムではないし。
というかゲームシステムが働いているかどうかすらわからん。
ゆっくりゆっくりならともかく即効でとなると、本人の努力や周りの助けでどうにかなるわけでもないからな。
あと、最近付き合いが悪いからデートでもしてるんだろう。誰狙いかはちゃんとは分からんが、それはもっと後からでいいのに。
ここは現実なので効率プレイにこだわる必要はないし、息抜きも必要かな。
いや、上から目線過ぎたか。反省反省。すべてを俯瞰した気になって足元掬われるとか黒幕あるあるだし。
……俺ってまんまそれだな。本当に足元掬われなきゃいいけど。
「そんなぁ……。なんとかできない?」
「むむむ……」
俺が教えるというのはちょっと面倒くさいというか時間がない。
ついこの間マスデロから商品開発アドバイザーとかいう役職をもらって以来、現代知識を生かしてなんとか活用できそうな道具を研究しているし、不測の事態で死なないためにも剣は習っておきたいというのもある。
授業が終わるのはだいたい昼の2時頃で、部活が終わってヒューラとの特訓も終わってとなれば、午後の7時頃だ。
仕事に関しては平日は一人でアレコレ紙相手に格闘しているだけなので休み時間にやったり後回しにできるが、流石に7時から教えるわけにも行かない。
いやまてよ、ヒューラにも都合はあるよな。テスト期間中だし、特訓は断られるかもしれない。
それに、部活もしばらく休止される可能性もある。クラゲでそんな感じの設定があったようななかったような……。
……ああ、思い出した。コメディイベントでそんな感じの設定語られてたな。
それを踏まえると、休止になるのは明日からなのだと思う。
なら、商品開発アドバイザーの役職だけにとりかかればいいだろう。
引き受けるか。
「仕方ないですわね。明日からでよろしかったら、勉強を教えて差し上げますわ。この際ですので、教わりたい方は定員10名までなら受け入れることにいたしましょうか」
俺のその言葉にクラウディアが表情を輝かせるよりも先に、クラス中から生徒たちが殺到した。
「ラウ・リンドルファーの講義となれば、聞かずにはいられん!」
「俺にも教えてくれ!」
「私も!」
クラスの殆どに詰め寄られたが、その後なんとか選別することができた。
学習意欲の強い子を中心に選ばせてもらった。俺に問題児の面倒を見れるほど教育者としての経験はない。
「よし、今日の練習は終わりだっ!各自ストレッチしてから帰るように。ああ、そうそう。テスト期間なので明日からは部活は休みだ。お前らもちゃんと勉強はしとけよ?騎士でも計算くらいはできとくと有利だからな!」
顧問の先生がそう言い残して去っていった。やっぱり間違っていなかったようだ。
「ということらしいから……申し訳ないけど、明日からの特訓はお休みよ」
「ええ、わかっておりますわ」
「あー……勉強なんてわけわかんないわよ。騎士になるための教育ばっかり受けてたから、授業がはじめからちんぷんかんぷんだわ」
ヒューラはあまり勉強ができないようだ。しかし、女性なのに騎士を目指すってのも珍しい話だ。
娘しか生まれなかったとかならわかるんだ。この世界では女性だったり才能がなかったとしても、まともに武芸を習えばそこらの雑兵よりはよっぽど強くなれるし。
それに、少ないとはいえ女性にも伝説級の武芸者は存在する。
特にクラウディアなんかは特化した育成をすると、在学中に天下無双のその上を行けるわけだからなぁ。
だが、ヒューラには兄がいる。腑に落ちない。まあ、深掘するほどでもないか。そのうち聞けばいいだけだ。
しかし、単純に頭の出来が悪いのではなく実家で教育を受けてないから一歩先のレベルの学校教育を理解できないというのであれば、矯正してやることも可能だろう。
「それなら、私の開く勉強会に来ませんか?」
「勉強会?」
ヒューラはよくわからなそうな顔で聞いてきた。
「そう、他にも10人くらいいらっしゃるので、ヒューラさんにかかりっきりにはなれませんが初歩から勉強を教えることも可能ですわよ」
「本当!?」
食いついてきた。この分だと、学ぶ気はあるようだ。
「私は多分一生結婚できないから技能は身につけておきたいし、嬉しい提案だわ!」
聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
「一生結婚できない?」
「ええ、父様が馬鹿すぎてね、『俺に勝てないやつにヒューラを嫁にはやらん!』とか言ってるのよ」
それは……。ヒューラが馬鹿と罵るのもわかる気がする。
「しかしそれならば勝てるほどの方を探せばよいのでは?」
だが、結婚不可能というほどではない。ヒューラの父親がどれくらいの強さなのかはわからんが。
「同年代で父様を倒せるくらい強い人なんていないわよ。一応あれでも『朱槍のヴィダー』なんて異名を取ってるのよ?3歳上以上の人だと、父様は勝てても認めないと思うし。父様を倒すにはどれだけ強くてもせめて26歳位にはなってないと踏んだ場数的に難しいと思うし……ね?」
なるほど、この世界では20の時点でもう行き遅れ一歩手前の扱いだ。
いくら美人だとしてもわざわざ行き遅れの『騎士ごっこに夢中な娘』を嫁にしたいなんて奇特なやつはなかなか現れないだろう。特別強い男であれば尚更だ。そんなやつは引っ張りだこに決まっている。
普通はそんな馬鹿げた宣言は周りが取り下げさせるだろうが、ここまで諦めているようだと周りも同調していそうだな。
人の親にケチつけるのもどうかと思うが、毒親の類だな。
「……なるほど、相当苦労しているようですわね。では、テスト期間中だけではなく普段から教えて差し上げましょう」
「いいの?嬉しいけど……迷惑じゃない?」
迷惑て。その理論だと俺のほうが迷惑かけまくってるよ。
「うふふっ。勉強を教わるのが迷惑なのなら、剣を教わるのも迷惑ではありませんか?」
「でも、剣を教えるのは今は半ば好きでやっているようなものだし……」
ヒューラも頑固だな。なんで普段は強気なのにこういうときだけ弱気なんだよ!
しかし、こういう反応も普段とギャップ感じてなかなか面白いな。……正直、可愛い。キュンと来てしまった。
だが、渋られていても仕方ない。強引な手を取るか。
「ええい、私が問題ないと言っているのですから、友人の厚意には素直に甘えるべきなのです。いいから、今日から教わっていってくださいな」
「ちょ、ちょっと……わっ!」
ヒューラを強引に引っ張って教室へ連れて行く。観念したのか、途中からは自分から歩いていた。
ここまで言って気づいたが、放課後に二人で居残り勉強なんて俺の噂を考えたらヒューラにとっては不味いんじゃ?
だからここまで拒絶していたのかもしれない。となるとまずいことをしたかな。
「……」
恐る恐るヒューラの表情を除いてみたが、嫌われてはいない感じで良かった。
むしろ照れたような表情をしていて、かなり嬉しそうな感じだった。
その後、軌道修正して図書室の方へ歩いて行った。教室だと誰もいない日のほうが多いだろうが、図書室なら放課後でも誰かしら人がいるからな。
人がいる場所ならば逆に噂はされないだろう。
「この引き算なんなのよぉ……。なんでこんなに難しいのよぉ……。え?入学前にやっておくべき部分?……それどころかもっと子供の頃に学んでおくべき部分?……なんで父様はこんなことも教えてくれなかったのよ!あのバカ脳筋!」
ちなみに、ヒューラは想像以上におバカだった。
初歩の計算に四苦八苦するレベルだ。まあ、ちゃんと勉強してこなかっただけで知能が低いというわけではないのだろうというのはわかった。
15歳相応の知能はあるからちゃんと教えればすぐに追いつけるだろう。
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……この手のポイント乞食行為って今でも大丈夫なんですかね?
あと、この小説はあらすじで説明しているようにTS娘×女の子だけじゃなくTS娘×TS娘の展開もあるんですけど精神的BLタグ着けたほうが良いんですかね?
そのタグの本来使われる用途であるTS娘×男という展開がものすごく苦手なので着けたくないんですよね。
まあ好きにしますけど。独裁です。
異論は認めん。断じて認めん。私が法だ。黙して従え。
……というのは冗談です。意見・感想もくださると嬉しいです。




