第十五話 ラウ・リンドルファー
勧誘はまだ終わっていない。あと二人ほどとりあえずの部下候補はいる。
そのうち一人は物理的に距離が遠すぎて今すぐ会うのは難しいだろう。
となるともう一人となるわけだが……今の状況では配下に入れるには難しいだろう。
教会関係者だから、相当寄付金やらを積まなきゃ難しい。教会関係者を俺ごときの配下になんて、難しいだろう。
とりあえずは自分の腕で金を稼げるようにならないと。
ひとまずはジョインを引き入れられたから良いと思う。
あれから数日が立ち、4月も終盤となる。そう思えばあっという間だったとも感じる。
良くも悪くも今までの人生でここまで精力的に動いたことはなかったからな。
さて、今日も学園に通おうか。
ジョインとアルフォスを付き従え、学園へと歩いた。ジョインは学園の敷地に入る前にどこからともなく消えたが、なんだか見られているような感覚があるので本当にいなくなってはいないのだろう。
……しかし、暗殺家業に手を染める前からこの魔法を使えるとは思わなかった。
便利だから得したな。
クラスにたどり着いたが、今日はなんだか妙な目で見られている気がする。
……憧れと興奮に近いか?
「シアンちゃんのこと、凄い話題になってるよ」
「え?……なにがあったんですの?」
クラウディアが面白げな表情で話しかけてきた。
本当に何があったんだ?
「ラウ・リンドルファーなんて呼ばれてるんだよシアンちゃんは!」
ラウというのは『今』といった感じの意味が内包された言葉で、リンドルファーはかつての時代のかなり有名な策略家のことだ。
この国の初代の王様の功臣にしてブレーンでもある。
つまり、今孔明とか今張良とかそんな感じの意味となる。
……は?なんで俺がそんなに評価されてるの!?
「ちょっと落ち着いてください。状況が読み込めないので、順序立てて話してくれませんか?」
クラウディアは興奮状態だった。とりあえず落ち着かせないと話にならないだろう。
なんとかなだめて、話をさせる態勢にした。
「つい前日、マイアス子爵が麻薬密造で逮捕されたでしょ?とんでもないことするなーとは思ってたけど、なんと反逆を企てていることまで露見したの!」
「……それで?」
「……で、それを暴いてマイロさんに教えたのはシアンちゃんなんでしょ?マイロさんが『シアン・モーナこそが我がリンドルファー。この事件は湧き上がるような彼女の知謀によって暴かれたのだ』と宣言したことで判明したんだけど、その余裕を見るに……やっぱり本当なんだ!」
評価を上げるために余裕ぶった演技をしてはいるが、実際のところ余裕なんてものはない。
マイロに教えたと言っても俺の功績で、というよりは俺の協力があってという程度に抑えてくると思っていたからな。
ほとんど俺のおかげだと証明する手段はないし、そもそも文句言われるとも思わないだろう。
マイロ自身が功績に飢えているだろうに、こんなことをしてくるとは思わなかった。
これでもマイロの手柄にはなるし、風当たりも弱まるだろうが……もっと自分のおかげということを強調することもできたからな。
配下の手柄を横取りしないあたり、名君の素質は十分なのかもしれない。
いや、俺は正確には配下ではないけど。
ただ、過ぎた名声は身を滅ぼす。俺へのハードルが無際限に上がっていくのは避けたいところだ。
元のシアンに今の俺の知識が宿っているのならそのハードルを乗り越えることはできたかもしれないが、所詮平和に慣れたる平凡現代人の俺には難しいのだから。
……脳は同じだからそのうち同化できることを祈りたい。
「……さあ?どうなのでしょうね。マイロ殿下に協力したところまでは事実ですが、ね」
あんまり調子乗ってると言われると不味い。かと言って功績を否定していられるような余裕もない。
なので曖昧に微笑んで濁したのだが、余計にざわつきがおおげさになり、俺への尊敬の目線は強まってしまった。
やめてくれ、そんな尊敬の目で見られるほど俺は有能ではないんだ。
「……ねぇ、シアンちゃんはマイロさんと結婚したいの?」
はぁ?なんでそんな疑惑が出てくるんだ。否定しなけりゃならんが、とりあえず理由を聞いてみなければならないな。
「馬鹿げた話ですが、一応なぜそう思ったのかは聞いておきましょう」
「い、いや……だってね?わざわざ陛下ではなくマイロさんに報告したってことはそうなんじゃないかと思ってさ。幼なじみなんでしょ?」
マイロが手柄を立てたがる理由の一つに、アレゲ陛下が長男であるマイロよりも次男、マイロの同腹の弟イースタルを特にかわいがっていることが挙げられる。
つまり、陛下はイースタルを次代にしたがっているのではないか?ということが囁かれているのだ。
実際はイースタルは馬鹿で可愛いのにマイロは有能で腹黒だからあまり可愛げがないのでそうなっているだけで、陛下の中では次代はマイロで確定している上、公言もしているのだが、周りから見ると違って見えるらしい。
この問題を大したものだと思わなかったことは陛下の失態の一つでもあるな。
実際、ゲームにおいてはどのルートでも大きな問題にはならなかったけど、マイロの精神に大きな悪影響を与えてしまったのは間違いなく陛下のせいだ。
「はぁ……本当に馬鹿馬鹿しい話ですわね。私は殿下にそのような想いを抱いたことはありませんし、想おうなどという分を超えたことは考えもしません。これは全てが利と忠義による行動です。そもそも、男に抱かれるなど……考えただけで怖気が走ります。たとえ殿下であろうとこれは変わりませんわ」
俺がどう思っているかとか以前に、商人の娘がマイロの妻になるとか絶対ヤベーわ。
マイロは王族だ。それも道理を通すならば次代の国王になるべき人間だ。第二夫人以降だとしても、王族の妻にここまで権力を持ってしまった商人の娘を充てがうなんて不味いだろう。
愛妾としてなら十分あり得るだろうが……。
原作でクラウディアがその座につくことですら猛反対されていたのだ。
あれは第一夫人……というよりマイロがクラウディア一人を愛したいと思ったことによって唯一の夫人になってしまったという理由も大きく関係してくるが、商人の娘ならあれ以上に反発される。
貴族ですらないのだから。
そんな勘違いをされたら秘密裏に消されたりしそうだ。王統を商人がごとき卑しき者共が掻き回すなど不届き千万!とか言われて粛清されるなんてゴメンだよ。
ここは全面否定しなければならなかった。
「や、やっぱり入学式のあれ冗談じゃなかったんだ……」
若干生暖かい目が混ざった気がするが、気にしないことにした。




