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第十四話 忠義

▼ジョイン視点

 

 いきなり大商家であるルーネスト屋の屋敷に呼び出されたときは困惑した。

 なぜ?目をつけられるようなことはした覚えがない。だが、呼びつけられたということはなにかあるのだろう。

 私を殺さなかったことを不安に思った貴族に、始末してくれとでも頼まれたのか?なんてことも思ったが、それにしては今更すぎる。

 

 そして、呼び出した当人にあった瞬間絶句した。

 そこには紫色の髪をした少女が座っていたからだ。

 ルーネスト屋様……いや、マスデロ様に呼び出されたものだとばかり思っていた。しかし、呼び出したのは少女……シアン様であった。

 ますます不安が強くなる。何に巻き込まれようとしているのだ?と、状況が飲み込めなかった。

 しかし、シアン様はこうおっしゃった。

 

「あなたのお父上、ハルキド子爵は実に勇敢なお方だったとアレゲ陛下からお聞きしています」と。

 

 これは衝撃だった。父上は名誉も何も奪われたのだとばかり思っていたから、あの陛下がその父上を褒めるようなことを言うとは思わなかったのだ。

 そして、徐々に喜びがこみ上げてきた。心の整理はつけつもりだったが、ふつふつと滾るようなものがあった。

 しかし、そんなことを言うために呼び出したとは思わなかった。

 たしかに嬉しいし、耐え難い喜びだったが、端から見ればどうでもいいような情報と判断するのが普通だ。

 しかし、そんな懸念が吹き飛ぶほどの喜ばしい事実がそこにはあった。

 

 母の病気の特効薬を与えてくれるというのだ!その上、見返りは求めないとおっしゃられた。

 

 あまりにも私に都合の良い事実だったが、シアン様の様子を見ていても本当のことを言っているようにしか思えない。

 だから、シアン様に報いたいという気持ちが強くなった。

 なので、私には周りが言っていたように実力があったということを証明できたときは嬉しかった。

 これで役に立てる……そう思えたから。

 

 あえて言わなかったが、最初は恥ずかしながら13も年下の少女とはいえあまりの美しさに目を奪われかけた。

 しかし、今はそのような感情など抱かない。抱きようがない。この恩に報いなければ、という気持ちにすべてかき消された。

 私は神が相手だとしても、この『武』と『忠』と『義』にてシアン様を守らんと誓った。

 


▼アルフォス

 

 ついていけない。いや、シアン様ではなくジョインのことだ。

 あいつ、献臣というかもはや犬臣だ。特に狂ったことを言っているわけではないが、言葉の端々から忠犬じみたものが滲み出ている。

 そして過保護だ。そのくせ妙にシアン様に甘い。

 

 28のおっさんの臀部に尻尾がついていてそれがブンブン振られているのを幻視するとかなんの悪夢だよ。

 やつを取り立てようと動いたのであろうシアン様ですら若干引いている。

 俺なら両親の命を助けられたとしても、あそこまで心酔することなんてできねぇよ。

 

 最初は身内を助けてもらったことからくる恋愛的な感情で動いているのだと勘違いしていたが、ありゃ違う。犬だ。

 飼い主に褒めてもらいたいだけの犬。

 俺以外のやつからは恐れられたり慕われたりしているが、真実を知ったらあいつらも……冷めないだろうな。

 あまりにも強すぎる。こうやってある程度の真実を知っているであろう俺ですら、あいつの前に立つのが怖い。

 

 なんだよ、あんなチョロいくせして天下無双なんだもんな。

 

 ずりぃぞ、俺にもその力分けてくれよ。

 シアン様が欲しがるのもわからんでもない。毎日のようにあの試合を悪夢として見るのだから。

 俺では役者不足と言われているようで悔しかったが、あれほどの差を見せつけられたら反感を持つ気すら起こらない。

 アイツと比べたら役者不足どころの話ではない。勇者と魔王のおとぎ話にでも出てきそうな強さだった。

 

 それとシアン様の手腕はなかなかのものだと思った。そういう恩の着せ方もあるのか……と。俺が武芸一辺倒だから新鮮に感じただけなのかもしれないが。

 機会があるとしても俺はやらんがな。あんな猛獣欲しくもない。いくら自分を慕っていても強すぎてそばに置きたくない。怖いわ。

 

 そういう意味で、シアン様は大人物なのかもしれない。

 あまり良い上司ではなさそうだと思っていたが、今はシアン様に着いていけば、もしかしたら他にはない面白い地平を見せてくれるかもしれないとすら思っている。

 性格が軽いとよく言われがちな俺も、なんだかんだでシアン様には忠誠は誓っているのだと思う。

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