第一三話 豪傑を手中に
「では、戦って見ませんか、私の護衛と。彼は学生ながら、この家の護衛の中でトップクラスの実力を持っていますわ」
この要求も見返りと見られかねないが、流石に薬とはまったく釣り合っていないから大丈夫だろう。
「私は構いませんが……」
ジョインがアルフォスの方をチラと見た。
釣られて見てみると、アルフォスから非難の目線を向けられていた。平民と強さ比べしてくれなんて、バカにしているようにしか思えないだろうな。
彼は相当腕を鳴らしている豪傑だしな。ただ、彼は剣を持っても素手でもなにやらせても強いが、槍を持つことによって真価を発揮するタイプだし、正直護衛向きではないと思う。
槍は携帯性が低めだからな。俺の持つ知識によってこれを解消することはできるけど……槍を使うにしても上には上がいる。
俺を脅威から絶対に守れるとは限らない。
まあ、あとでフォローしとこう。プライドが傷つかれても困るし。
「ここで始めてくださいな」
少し時間を取って、家中に噂を流しておいた結果、中庭にはかなりの人数の社員が集まった。
マスデロはいないが、俺の兄弟やマスデロの妻たちもいた。
流浪の豪傑と家中屈指の槍使いが勝負をする……という話だったのだが、みんな娯楽に飢えているのか楽しそうにあれこれ言っている。
ちなみに回復魔法の使い手も用意しておいた。
俺も一応使えなくはないが、そこまで精度や威力は高くないしな。アルフォスに死なれたり、大怪我されたら困る。大事な部下だから。
「ほ、本当によろしいのですか?」
俺には現時点で五人の護衛兼部下がいる。そのうちの一人に審判を頼んだ。
本当にいいのか?という問いにニッコリ微笑んで肯定する。
「で、では……両者、間合いを詰めなさい」
アルフォスは槍を持ちながら、ジョインは短剣を逆手で握りしめて相対する。
徐々に距離が詰まっていく。そして、槍が圧倒的有利であろう間合いに入った瞬間、審判が始め!との号令を発した。
まあ、身内に勝ってほしいんだろうな。間合い程度で覆せる実力差じゃないけど。
「はぁぁぁぁ……!!!!」
アルフォスが間合いを活かすべく、速攻で勝負を仕掛けた。
心臓をめがけて超速度の突きが炸裂する。
「ぬるい」
「……は?」
……はずだった。ジョインは体をひねりつつ槍を交わし、ご丁寧に穂先を切り取ってからアルフォスの首に短剣を突き立てた。文字通り一瞬のうちに。
本当は動きが見えたわけではない。状況からどういう行動を起こしたのかを察しただけだ。
ジョインの動きは俺の目には見えなかった。
「しょ、勝負あり!」
会場がわぁぁと沸き立つ。あまりにも圧倒的だ。勝負にすらなっていない。小さな子供と大人が戦ったに等しい。なんて思っているのだろう。
だが、そんな次元ではないと思う。実際は子供とヒグマくらいの差はあるだろう。
そもそも、ジョインはアルフォスの槍を避ける必要などなかった。
せいぜい軽い切り傷にしかならない。
なので、その状況を見せつけて自分の強さをさらにアピールすることもできたのだ。
しなかったのは自分の強さにまだ自信がなかったことだ。あったとしてもアルフォスの面子を気遣っただろうが。
それほど、圧倒的な差があったのだ。
「ごくろうさまでした。やっぱり強かったじゃないですか」
「……自分がこれほど通用するとは、とても思っていませんでした」
心底驚いたという顔で自分の手を見つめるジョイン。
アルフォスは何があったのかわからないといった表情で茫然自失としている。
ここまで圧倒的だと誰もお前に文句は言わないし踏ん切りもつけられるだろうから、大丈夫だと思う。
自信をなくすとかはないだろう。あとでフォローはしとかなきゃならんが。
そのうち、なにやら覚悟を決めたような表情でジョインが話しかけてきた。
「……私を雇っていただけませんか?この腕で恩に報いたい。そういう思いが芽生えました」
「あなたほどの者であれば、文句はありませんわ。願ってもないことです、私の護衛としてこれから頼みますわよ。命は預けました」
この発言に周囲がどよめく。真っ当な起用ではない。
ルーネスト屋は大商家だけあって私兵を雇っている。
合計1200人ほどであり、戦争の際にはマスデロの指揮で戦ったりもする。
領地もなくこれだけの人数の兵士を雇うのは尋常ではないが、これもマネーのパワーだ。
故に、ジョインはその中の指揮官候補として雇うのかと思っていたのだと思う。
だがそんなことはさせない。戦場では文字通り一騎当千だろうが、俺の命のほうが大切だ。
今後俺が功績を立て続けたら、それは出世コースになるわけだからとやかく言われなくなるだろうし。
「はっ、命に変えましても!」
独断でやりすぎたから、マスデロには叱られるかな?




