第十話 剣術
「……99、100!はい、今日はとりあえず終わりだ」
「……ふぅ」
今日は初日ということで、どれくらいやれるかを見極めるために100本の素振りをさせられた。
使う剣は刃引きされており、なにかあっても死ぬことはない。体育祭などでは各部対抗戦や部派本戦と呼ばれるトーナメント形式の戦いが行われ、そこでは本物の剣が使われるが、回復魔法の使い手が控えているのでやはり死なない。
俺も一応護身用ということで最低限剣は習っている。なのでこれくらいではそこまで疲れてはいない。
「今年の部員はみんな有望だな!特にシアンさんは特に詳しく習ったわけではないというのに、なかなかの鋭い剣筋だった。ヒューラさんに至っては飛び抜けて凄まじいものだった」
「ふふん、なかなかだったようでなによりですわ」
前世でいろいろとこじらせていた頃に木刀を振ったことがあるのだが、その時はまともに触れたものではなかった。
重すぎてまともに持てない。
しかし、今のシアンとしての俺のほうがしっかり振れていた。
思えばシアンとして生まれて最初に振ったときの時点で、前世の俺より全然マシだったな。記憶で知っているだけだけど。
才能も経験も肉体も、今のほうが上なのだろう。
「な、なかなかやるようね……少しだけ評価を上げてあげるわ」
ヒューラの好感度が少し上がったようだ。
ヒューラの素振りは素人目に見ても俺よりよっぽど上手な素振りだったと思うが、彼女はおそらく日頃から鍛錬していたのだと思う。
男子新入部員と比べても遜色ないと思う。
だから、素人に毛が生えた程度にしては案外やるようだ……とか思ったのかもしれない。
試しが終わったあとは上級生たちの試合が行われた。
当たり前だが、凄まじい応酬だったと思う。とても学生とは思えない。
今のヒューラですら前世の中世でなら剣の道で食っていけるレベルだろうに、彼らはそれのはるか先を行っていた。
流石はファンタジーといったところか、必殺剣のようなものも動きがやたら速かったりでとても迫力があった。
流石にビームを出したりはしなかったが、少年の心が蘇ったような気分になった。
「君たちも先輩たちのようになれるよう、鍛錬を続けてほしい……って、これだと自画自賛になってしまうかな?」
今説明している先輩も試合を繰り広げていたので、たしかにそうかもしれない。
笑いが巻き起こった。俺も笑った。
「あの、ちょっと話を聞いてくれませんか?」
部活が終わって帰る頃、ある頼み事があってヒューラに話しかけた。表情に険がある。やはり歓迎はされていないようだ。
「なんか私に用があるわけ?くだらない用事だったら無視して帰るから」
「……ふふっ」
俺がクラウディアと初めてあったときに同じようなことを言ったなと思い出した。思わず笑みが漏れる。
あれは原作のシアンの言動を必死にトレースした結果出てきた言葉だ。
本物だとしても実際にああいう態度を取ると思う。
もしかしたら元のシアンとヒューラは似た者同士だったのかもしれない。
もし交友があったなら仲が悪かったのだろう。同族嫌悪というやつだ。
でも、きっと本気で嫌いではなかったんだろう?苦手に思いながらも好ましさを感じていたはずだ。
ヒューラという人物は原作には出てこなかったから、すべて想像でしかないがそうとしか思えなくなった。
俺は曲がりなりにも『シアン・モーナ』だ。思考回路も趣味も、肉体と脳以外の何もかもが違うが、シアンであることに変わりはない。いや、乗っ取ってしまった以上本物のシアンにならなくてはならない。たとえ思考や行動が別物であっても。
だから、なんだかおかしいと思ってしまった。
「何罵られて笑ってんのよ……気持ち悪いわね」
「いえ、私も同じようなことを言ったことがあるなと思って。私達は仲良くなれるのかもしれないですわね」
「……」
ヒューラはそっぽを向きつつも少し照れていた。顔が赤い。
多分、この子もシアンと同じように仲よくなれた人がほとんどいなかったのだろう。だからこんなコミュニケーションしか知らない。
「まあ、話を戻しましょうか。話というのは、ヒューラさんに稽古をつけてほしかったのですわ」
普通に部活をこなすだけでは上達のスピードは遅いだろう。しかし、一人で素振りをしていても大して強くなれないと思う。
剣なんて人と相対しないと強くなれないんだから。
「それなら別に他の人でもいいんじゃないの?」
「他の方といえば男性ばかりでしょう?」
「まあ、そうね。先輩たちはわからないけど同学年の人たちは……論外よね」
ヒューラは軽蔑の目線を同学年の部員に向ける。実際、大勢に詰寄られたのは身の危険を感じて怖かった。
下手をしたらトラウマになっていたのかもしれない。
それに、一緒に居残り練習して噂されると恥ずかしいし……というネタはやめておくとして、関係を噂される可能性がある。
心は男のままである俺からすると避けたいことであった。
話を聞いていた同学年男子は申し訳無さそうに苦笑する。
「でも女子部員の先輩もいるわよね?」
「……」
「ああ、うん、わかった。何も言わなくていいわ」
俺が話しづらそうな表情を作るとわかってくれたようだ。
他の女子部員はヒューラとは比べられないくらい弱いと思う。それでも俺よりは全然『剣術家』としては強いが、多分俺が真面目に部活に通っているだけで三ヶ月とかからず追いつけると思う。
シアンの身体能力は今の時点でこの世界における肉体労働者の一般人の男より高いとついさっき実感した。上積みも彼女らとは比べ物にならないだろう。
そして、女子部員たちは剣技の冴え自体も微妙だった。
これならヒューラに学んだほうが良いだろう。
「わかった、稽古をつけてあげる。そ、そのかわり……」
「そのかわり?」
「な、なんでもないわ。今日からでいいわよね。顧問の先生に相談して、道場を貸してもらいましょ」
おそらく友達になって、と言おうとしたんだろう。だが俺はその意図を拾ってやらない。
大変酷い理由だと思うが、彼女をからかうのは楽しいからな。
まあ、そのうちフォローはするから許してほしい。




