第一話 ある日、ふと気づいた時には悪役令嬢だった
クラウディア・GOGO。それはファンタジー学園モノの乙女ゲーで、一部の層に結構な人気を博しているらしい。
全ルートプレイしてわかったが、たしかに女性には人気が出るのかもしれない。女性プレイヤーのアンチも相当数いたようだが。
しかし、男の俺にとってはあまり楽しめる代物ではなかった。当たり前だけど。
ストーリーが結構ガバガバだったのもあるかもしれない。あと絵柄が女性向けというのは耐性がなくて難しかったのかも。
このゲーム以外の乙女ゲーにも言えるのかもしれないが、絵は凄い綺麗だ。
女の子キャラはそこらのギャルゲよりよっぽど可愛い見た目をしていた。
しかし、イケメンキャラの絵柄が一部を除いてどうにも受け付けなかったのは仕方ないだろう。感性の違いだ。
姉ちゃんが熱心に布教してきたので断るのも申し訳ないと思ってプレイしたが、『主人公のクラウディアちゃんがビッチだけどやたら可愛い』『鍛冶屋のアニキ(攻略対象)が良いヤツ』『悪役令嬢ちゃんが可哀想』くらいの感想しか出てこない。
ちなみに攻略対象の中で二番目に不人気なのは鍛冶屋のアニキだ。
『ああ、そりゃ感性合わんよな』と思ったもんだ。
それにしても悪役令嬢のシアンちゃんは可哀想だった。
この子は働いた悪事に比べて、そこまでする必要ある?みたいな仕打ちを受けるのだ。
そりゃあ攻略を邪魔してくるお邪魔キャラだけど、流石にひどすぎると思ったわ。
使い方によってはお助けキャラみたいになるし、実際お世話になったプレイヤーも多いはずだ。
第一王子『マイロ・デラエナス・ムルシュ』ルートでは財産没収。
隣国の第二王子『ミゲル・レダ・コウドゥ』ルートでは特に見せ場もなく、知らんうちに処刑される。
サボり魔の先輩『ルグ・デラ・パレスチア』ルートでは選ばれなかった悔しさから悪魔につけこまれ、悪党に利用されるだけされて、ポイ捨て。
後輩のショタ……というか男の娘『レデル・デラ・メルゼン』ルートでは一部の身内に辛辣なことを言われまくって再起不能に。まあこれはギャグ描写だからいいけど。
んで、5代前の国王の亡霊、『キュローグ・デラエナス・ムルシュ』ルートでは反逆罪として処刑。
謎の仮面男『ジョイン』ルートではジョインの師匠が無駄に気を使って暗殺される。
担任の教師『モード・デラエナス・ファイバス』のルートでは唐突に失踪。裏設定などが乗っているビジュアルファンブックによると落ち目だと判断した同級生に濡れ衣を着せられ、遠島に追放されたらしい。
ビジュアルファンブックは買ったのかって?姉ちゃんのを見せてもらっただけだよ。
流石に趣味が合わなすぎて出費がもったいない。部屋においておくのもなんだか恥ずかしいし。友達を部屋に上げづらくなる。
ヒーローにあこがれている幼馴染『ルシュド・ベイハム』のルートでは魔物にボコスカ殴られて退場。ギャグ描写だから死んではいないが外傷が残ったらしい。
鍛冶屋のアニキ『ロイデ・ミョウゲン』は更生を促すことしかしてないので善良さがわかるね。
その甲斐があってか、没落はするもののシアンが心の奥底で望んでいた『平凡だが幸せな人生』を歩むことになるし。
なんだよこれ。ここまでのことをシアンちゃんはしたってのかよ。
クラウディアが望んだわけではない。攻略対象が望んだわけでもない。しかし、周りに危険視されてそうなってしまう。
ここまでボロクソにされていると、判官びいきで応援したくなってしまう。
この子が救われるルートは少なく、制作側の悪意を感じた。
彼女が救われるルートは、ミーシャ、シアンという女友達枠としての友情ルートか、シアンと交友を深めまくると本来なら嫌がらせをしてくるところで他のキャラがしてくるようになり、悪役としての役割を肩代わりしてくれるので、そうすることで回避するしかない。
あとは、前述のアニキもといロイデのルートくらいか。
いや本当、なにがしたくてこんなに酷い目に合わせたのか……。
あまりにも不自然な展開だったからか、ファンの中でも『この扱いは流石に酷い』と抗議がなされ、アップデートパッチによって修正されるはずだった……が、作業期間中に発売元の親会社が倒産しその動乱の中でお流れになった。
ん?なんでそんな話をしているのかって?
そりゃあ……。
「学年主席のシアン・モーナさん、新入生を代表して挨拶をお願いします」
「ひゃ、ひゃい!」
ゲームプレイ初日の日に、なぜか俺がシアンになっていたんだよ……!!
朝起きたらこんな体になっていて、状況がよく飲み込めなかった。
以前の記憶を持ち越しているのが救いか。
これ、ゲームキャラ憑依ってやつなのか? それとも異世界転生ってやつ?
どちらにせよ、俺はハードモードで生き残らなければならないらしい。
噛んだせいか周りからクスクスと笑い声が漏れる。
羞恥が凄まじいが鋼の精神(自称)を持って壇上に上がる。
たしか、原作のシアンは『私のようになりたければせいぜい足掻きなさい。どうせ追いつけないでしょうけど』みたいなことをくどくどと長文で言ってきたんだよな。
この学園は貴族が通うことが多いが、金持ちの子供も通えるようになっている。
そしてシアンは豪商の生まれだ。いかにもお嬢様っぽい喋り方だが、貴族ではない。
商人ごときがそんなだいそれたこと言っていいの?と思うかもしれないが、実家の資金力が桁違いなのだ。
国にも貢献しているため、表立っては非難できない。
だが俺はそんな喧嘩を売るようなことは言わない。死亡フラグは叩き折っておくべきだ。
「皆さんはどのような思いでこの学園に進学しましたか?肩書作りのため?婚姻のため?親に強制されて?それともスキルアップのためにこの学校に通うことに決めたのでしょうか」
シアンが用意した原稿とは全く違うことを言い出した為、教師陣はにわかに騒がしくなっている。
まあ、すまんな。これも生き残るためだから。
「それはわかりませんし、些細なことです。この学び舎でともに過ごす以上、切磋琢磨してともに高め合いましょう。長々と言を連ねるのは私の趣味ではないので、少し早いですがここで終わりとします。ご静聴、ありがとうございました」
新入生席、在校生席からまばらな拍手が上がる。
うん、我ながら支離滅裂でひどいことを言ったと思う。でも即興で文言考えるのってかなり大変なんだよ。
本来のシアンなら楽勝だったのかもしれないが、俺では無理だ。
脳はシアンそのものなはずだから、そのうち適応できるだろうというのが救いだ。
面白いと思っていただけたら幸いです。
そうでなくても暇つぶしになったら喜びます。
豆腐メンタルなので辛口コメントは控えていただけると助かります……。