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I・深淵の青年

雪の降る 遠い北の向うの国

名将という誉れに満ちた 若き青年がいた


敬われ 畏怖の念 持たされて 恐れられ

ただ一人 剣振るい 最強と 言われては

ただ一人 戦った 青年の 物語


権力も財産も 妙薬も不死の力も

彼は要らなかったけれど

ただ一人 彼の愛する人のため

彼は 剣を手に…

ただ一人 彼の愛する国のため

彼は 敵に死を…

武勲 噂 だけは遠い果てまで風と共に

物語を 語らぬ者はいなく

彼は 英雄と呼ばれ…


青年は 恋をする その相手 秘めやかに

お互いに 愛を持ち お互いに 手をとって

ただ二人 秘密とし 微笑んで 口付けする

揺らぎゆく 泡沫の 愛し合う 物語


彼の愛する その人は身分いと高き者

国の王の娘

ただ無邪気で 青年と共にいることが ただ楽しくて

ただ無垢で 青年と共に笑うことが ただ嬉しくて

引かれ合う 惹かれ合う 二人の想いは

密かに育ち…


王女のため 愛する人のため 彼は 剣を…

王女のため 彼女の国のため 彼は 剣を…


時流れ 王は死に その息子 王となり

青年と 仲の良い その男 王となり

ただ一人 我が侭で 横暴な 王により

狂いだし 滅びゆく 北国の 物語


国は戦を向かえ 数々の領地 広げては

兵たちを 駆り出して 疲労を無視し 王の自我により

怒りを買い 国は狂い 雪の降る白 紅となる

青年も剣振るうものの

それは彼の望まないこと

彼の愛しき人も 兄に怯え 王に脅え

青年だけを やがて頼るようになり…

けれど狂いだす国を 止めることはできず…


雪の降る 遠い北の向うの国

逆賊という汚辱に塗れた 若き青年がいた


狂う国 鎮めよう そう思い 青年は

愛し合う 人と泣き 別れ言い 手を離し

ただ独り 我が侭な 横暴な 王に向かい

剣振るい 王倒す 叛乱の 物語


銀に煌く 数々の刃

積もりに積もった 怒りの矛先

青年に続く 数多の民

王宮囲み 玉座を囲み 王を囲み

青年は 彼に刃向けつつも


「避けられないけれども 避けたかった…」


涙に暮れつつも 彼の首へと…


紅を…


紅に染まった 彼の頬 涙の筋 つと伝い

愛しい人 愛しい家族 愛しい国 愛しい王

それら全て 彼は失い

彼の誉れ 彼の武勲 彼の功績 彼の信頼

それら全て 彼は亡くし

鎖に縛められ ただ独り


紅に染まった


愛しい人 ふと浮かぶも それはもう戻らない過去

遠く離れた恋の味

互いに知らないところで 互いに涙に臥せるも

平行な想いは 決して交わらない

錆びた世の雁字搦めな所為で

儚い愛は 終焉を告げた


王族は 権威を失い されど命を永らえた

王族は 革命を認めるも 青年を逆賊とし 処刑を宣告した

かつて彼が 国を支える者だったと知りつつも

彼の行為が 国のため 正しいことであると知りつつも



連行が 行われ 処刑場 階段を

青年は ただ登り ちらと見た 愛す人

ただ一人 想い馳せ 悲しみを 目に宿し

ギロチンに 捧げられ 目を閉じた 物語



雪の降る 遠い北の向うの国

今はもう 既に廃墟

嗚呼、所詮すべては移ろぎ、儚く散ってゆく。

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