第6話 冒険者登録
楽しんで頂ければ幸いです。
村へと戻った俺は、不安と悩みを抱えていた。しかしゴルドさんに相談する事で、その悩みも消えた俺は、両親を説得する事に成功。冒険者になるため、装備を整え村を出発。冒険者ギルドのある近くの町へと向かうのだった。
村を出て数時間。俺は一人、町へと通じる街道を歩いていた。周囲には草原、遠目に見えるのは林。天気は恵まれ晴天。そして周囲に人影は無し、と。
そんな中を俺は一人、スリングベルトで『三十年式歩兵銃』を肩に掛け歩いていた。
こいつは、数日前に村を出たゴルドさんから貰ったアドバイスを元に購入した物だ。
~~数日前~~
「え?武器を、隠すですか?」
「そうだ」
それは俺がゴルドさんから冒険者としてアドバイスをもらっていた時の話だった。
「マコト君の持つ武器。それがどれほど変わっていて、どれほど強力なのか。それを直に見てきた俺達ならわかる。だからこそ言えるんだが、マコト君。冒険者になるのなら、あの武器はいざと言う時の切り札にするか、もしくは持ち歩くにしても別の武器として隠しておいた方が賢明だ。さもないと、君の持つ強力な武器目当てに多くの人間が君に悪意を持って近づいてくる事になるだろう」
「悪意を、持って?」
あの時の俺は、ゴルドさんの真剣なまなざしと、怖い言葉にゴクリと固唾を飲みこんだ。
その後、俺はいろいろ考えた。俺の持つ銃火器はスキル、≪たった一人から始まる軍隊≫から金を払って購入する。更にそのスキルの関係上、咄嗟に武器を召喚、とかそんな事は出来ない。使うとなると常に身に着けておくしかない。しかし、かといって銃を棍棒とかと偽るのも難しい。
そこで思いついたのが、『着剣装置』によって『銃剣』を装着可能な銃だ。銃の先端に銃剣を装着し、『槍』って事にする。 『銃』と言う概念が無いのなら、周りの人に『ちょっと可笑しな形の槍』と言い張ればギリギリ行けるだろう、と言うのが俺の考えだ。 まぁ、それでも怪しまれたら、今後銃を使う事を考えなければならない。それは銃によって戦闘力を確保している俺にとって痛手だ。
とにかく、今の俺にできるのは、この背負った三十年式歩兵銃やホルスターに納めたSAAが、この世界では存在しない武器、銃であると知られ狙われないよう工夫をすることだ。
それに、ゴルドさんはこうも言っていた。『人間には、いろんな奴がいる。だから相手を見極めろ。安易に信頼するのはただのバカだ。だからこそ人付き合いは慎重にな』と。まぁ、俺の居た前世だっていろんな人間が居た。 それを思えば安易に人を信じるなってのは痛い程理解できる。
まぁ、とはいえ、正直一人で冒険者ってのも不安だ。実際、この前のゴルドさん達との一件だって、俺一人じゃどうにもならない事が多々あった。だからこそ信頼できる仲間が欲しい、と言うのが今の俺の切実な願いだ。
「ハァ、願わくば、良い仲間に出会えると良いんだけどなぁ」
なんて独り言を漏らしながら歩いていると……。
「おっ!見えてきたっ!」
小高い丘の上を走る道を歩き、丘の頂上へとたどり着いた。そしてその丘の上から遠くに見える街。あそこが今日の俺の目的地。冒険者ギルドのある町、『ルティーナ』だ。
その後、俺は数十分ほど掛けて歩き、無事にルティーナの町へとやってきた。
「おいっ、そこのとまれっ!」
「えっ!?」
しかし街の入口である門の前まで来た所で、俺は駆け寄ってきた衛兵に呼び止められた。思いもしなかった事に俺は声を上げて立ち止まった。
「お前、見ない顔だな?どこから来た?」
「え、え~っと、自分は近くの農村から来ましたっ。こ、ここ、ルティーナの町の冒険者ギルドに用があってっ!」
何か不味い事したかなっ!?恰好が目立ち過ぎていたのかっ!? と脳内で混乱しながらもとりあえず俺は事情を説明した。
「ギルドに?じゃあお前は、冒険者なのか?」
「い、いえっ。まだ冒険者登録はしてなくて、そのためにここへっ!」
「ハァ、何だそういう事か」
俺の答えを聞くと、衛兵の人は納得したように息をついた。
「変な恰好をしているから、てっきり怪しい奴かと思ったが、違うようだな」
「は、ははっ。はい、まぁ」
『変な恰好』と言う言葉の槍が俺に突き刺さるっ!でも文句は言えないし、俺は苦笑しながらも頷いた。
「まぁ良い。通っていいぞ。ギルドはここから入って大通りを真っすぐ。途中の十字路でギルドの場所を示した立て看板がある。文字は読めるか?」
「あっ、はいっ」
「なら迷う事は無いだろう。じゃ、行って良し」
「あ、ありがとうございましたっ」
俺は衛兵の人にペコリと小さく頭を下げると、門をくぐりルティーナの町中へと足を踏み入れた。
「お~~~」
目の前に広がるそれは、王道ファンタジーゲームで見るような、中世感があふれる街並みだった。石造りの家に道端で開かれている露店。 網の籠片手に買い物をする主婦らしきおばさんたち。 元気に走り回る子供たち。 客を相手している露店の主人らしき男性。
そう言えば俺、こっちに生まれてから町に来るのなんて初めてだったなぁ。なんか、これだけの数の人を見るのは久しぶりだなぁ。 なんて思いながらしばし俺は街並みを眺めていた。
『ってっ!?』
しかし、しばらくして俺はハッとなって我に返った。そうだった。ギルドに行って冒険者登録をしないとっ!宿の確保とかもしないといけないしっ!日が暮れてからじゃ遅いからなぁ。急がないとっ。
改めて、門番の人に教えてもらった通りに街中を歩いていく。しかし、やっぱり軍服姿は目立つのか、ちらほらと俺に視線を向けてる人がいる。 そこまで騒ぎ立ててるわけじゃないけど、やっぱり視線感じるなぁ。
まぁ、ファンタジー世界で第1次大戦の兵士の恰好してたらそうなるか。早く慣れよう。などと考えながら、教えてもらった通りに歩いていると……。
「あっ。あった」
見つけたっ。『冒険者ギルド』と書かれた看板を掲げる周囲のそれよりも一回り、いや二人は大きい木製の建物。ここが冒険者ギルドかっ! それまでファンタジー小説の中にしか存在しなかった建物が、存在が今目の前にあるっ!うわ~すげぇっ!俺、冒険者ギルドに来たんだっ! それからしばらく、俺はギルドを見上げていたけど……。
………はっ!?ま、またやってしまったっ!感動なんかしてる場合じゃないってっ!うぅ、こんなんじゃ田舎から出てきた地方の人間感丸出しだなぁ。誰かに見られてないと良いけど。
俺は少しばかり顔を赤くしながらギルドの中へと足を踏み入れた。ギルドの中の光景は、正直に言うと予想通りだった。
鎧や武器を身に纏った無数の男たちが壁際にある大きな掲示板の前で依頼書らしき書類を吟味している。あるいは依頼達成の報告だろうか?受付嬢らしい女性からお金の入った袋を満面の笑みを浮かべながら受け取る人たちがいる。皆、依頼を受けたり報酬を貰ったりしている。 あとは、ギルドの奥に食堂があるようだ。奥の方にまんま『食堂』と書かれたプレートを掲げる入り口があり、奥の方から昼間だってのに酔っぱらった男たちの笑い声が聞こえる。勝利の美酒、と言う奴かな?
それともう一つ気になった事があった。男女比だ。冒険者なんて男性の仕事、と言うイメージがあったので女性は少ないか?と思っていたが思ったよりは居る。パッと見回してみると、男女比は7対3って所。正直9対1の比率くらいか?と思ってたけどこれは予想外だった。 実際周囲を見ていると、俺と大差ない年齢に見える少女数人が掲示板の前で依頼を吟味していた。
あんな俺と同い年くらいの子たちも冒険者やってるのかぁ。なんて感心しつつ、俺は周囲を見回していた。
「お?」
その時、視界に入ってきたものがあった。それは受付らしい窓口の上に掲げられた看板。そこには『冒険者登録窓口』と書かれていた。登録窓口っていうんだから、冒険者登録はあそこでするのか?何人か並んでるみたいだし、とりあえず俺も並んでみよ。
列に並んでしばらくしていると。
「お次の方、どうぞ~」
「あっ、は~いっ」
目の前で受付をしていた人が離れ、次はいよいよ俺の番だ。窓口の前まで進むと、そこに居たのは制服を着たお姉さん。おぉ、いかにもギルドの受付嬢って感じだなぁ。
「こんにちは。冒険者ギルド、ルティーナ支部へようこそ。今日は冒険者登録かしら?」
「あっ、は、はいっそうですっ」
お姉さんに声を掛けられ、俺は意識をそちらに戻して緊張気味に頷いた。気分は面接に来た就活生って感じ。緊張のせいで手汗がヤバいのなんの。
「そう。それじゃあまず、この用紙に名前と年齢を書いて。あ、読み書きは出来る?なんなら代筆も出来るけど?」
「あっ、大丈夫ですっ」
俺はお姉さんから用紙とペンを受け取り、そこに名前と年齢を書きこむとお姉さんに返した。
「え~っと。名前はマコト君。年齢は16歳ね。それじゃあマコト君。あなたに一つ、大事な質問があります。これはとても大切な質問ですから、心して聞き、答えて下さい。良いですね?」
「わ、分かりました」
とても大切な質問ってなんだ?お姉さんの真剣みを帯びた表情からも生半可な物じゃない事は簡単に予想出来るが……。
「では。もしも冒険者となれば、あなたは多くの困難に出会うかもしれません。それは時にあなたの命を奪う程の強大な敵かもしれないし、あなたに苦渋の決断を迫る壁となるかもしれません。それでも、冒険者となる事を望みますか?」
「ッ」
嘘も曖昧な返事も許さない、と言わんばかりに鋭いお姉さんの視線が俺を射抜く。多分、この人は今の質問を何十、何百と言う人に投げかけてきたのかもしれない。だったらきっと、単純な口先だけの覚悟なんて、きっとすぐに見抜かれるかもしれない。
でも、だからって今更『やっぱり辞めます』なんて言う気はない。俺は覚悟を持って家を出たんだ。転生の時、自らの夢を追うって決めたんだ。今更、引き返せるかっ。
「はい。それでも俺は、冒険者になりますっ」
静かな声とともに頷き、俺は真っすぐお姉さんを見つめる。そのまま数秒、俺はお姉さんと向かい合っていた。今ここで安易に視線を反らしたらダメな気がしたからだ。やがて……。
「ふぅ。分かりました。ではあなたの意思を尊重しましょう」
「ッ!じゃあっ!」
お姉さんは、まるで『私の負け』と言わんばかりに息を付いてから笑みを浮かべている。
「えぇ。あなたの冒険者登録を許可しましょう」
「ッ!ありがとうございますっ!」
これでどうやら俺は、冒険者になる事が出来るようだ。
その後、俺は別の窓口で冒険者の証である『ギルドプレート』と言う物が出来るまでの間に冒険者に関する説明を受けていた。大半の事はゴルドさん達から聞いていたけど、やっぱりこういうのはしっかり聞いておかないとな。
まず、冒険者にはランク分けがされていてそれは8つの段階に分けられている。上から順に、SSS、S、A、B、C、D、E、Fだ。説明をしてくれたお兄さんの話では、Fは新人、Eで半人前。Dで一人前。CやBで中堅。Aであれば一流。その上のSやSSSランクとなると英雄と呼ばれても差し支えないレベルだそうだ。このランクは冒険者各自の実績に応じて、適宜ランクアップするかどうかがギルドから打診される。それを受諾すればランクアップできるし、『今より上のランクはキツイ』と考える冒険者は逆にランクアップを辞退するらしい。また、現在のランクがキツイと感じた冒険者の中にはギルドと相談してあえてランクを下げてもらう事もあるらしい。 その辺りは冒険者が結構自由に選べるんだなぁ~と俺は感じていた。
次に依頼。こちらも冒険者ランクと同様に8つの段階に分けられている。そして冒険者は基本的に自分のランクより上のランクの依頼を受けられない、との事だ。ただし例外としてパーティーなどチームを作っていた場合。例えば4人チーム中3人がDランク、一人がCランクであれば、Cランクの依頼を受けられるらしい。ただし、これが適用されるのは1ランク分だけらしい。
だから例えBランク冒険者がチームに居てもDランク冒険者はBランクの依頼を受けられない、と言う事だ。それと依頼についても色々教わった。
冒険者の元に来る依頼は、俺の予想を超えて膨大だった。俺の知るゲームなどによくありがちな討伐系や採取系の依頼はもちろんの事、簡単な物であれば隣町までの使いや郵便物の配達などなど多岐にわたる。『それじゃあもうほとんど便利屋ですね』って俺が苦笑交じりに言うと、説明してくれていたお兄さんは『まぁ実際冒険者なんてそんなもんだよ』と言って笑っていた。
そうやって色々説明などを聞き終えた頃。さっきのお姉さんがやってきて俺の前に居たお兄さんに何かを渡した。何だろう?と思っていると。
「おめでとう。これで君も、今日から冒険者だ」
「えっ」
突然のセリフに戸惑っていると、お兄さんが俺に差し出したそれは……。
「これが、君が冒険者であるという証。ギルドプレートだよ。さぁ、受け取って」
それは金属でできたプレートだった。見た目は、まるで軍隊で持つ『ドッグタグ』だった。その表面には俺の名前と年齢、現在の冒険者ランクであるFの文字と、登録地であるこのルティーナの町の名前が刻まれていた。
「これで、俺も今日から冒険者、なんですね?」
「あぁ。ようこそ。冒険者の世界へ。我々は君を歓迎するよ」
俺の言葉にお兄さんはどこか芝居がかったセリフを口にしている。だがそんなこと等気にならないくらい、俺は興奮していた。 なぜなら今日俺は、冒険者になったのだから。
その後、俺はお兄さんから最後にギルドプレートについての説明を受けた後、ギルドを後にした。いきなり初日から依頼を受けるのもなぁ、と考えた結果だった。 ギルドを出た俺は、その足でルティーナの町中を見て回った。ギルド周囲にはどんな建物があるのか。道具屋などはどこにあるのか。飯屋は?宿屋は?
そう言った類の位置を頭に入れておく為に、俺はその日、ルティーナを散策した。やがて夕暮れになる頃、俺は当面の宿を探して歩き回った。
幸いな事に、ギルドからそう遠くない安宿を見つけたので、1か月分の家賃を先払いして部屋の一つを借りる事にした。お金に関しては以前ゴルドさん達からもらったお金がまだ残っていたので問題なかった。安宿なので、あくまでも止まる事が目的。残念ながら現代ホテルのように朝食や夕食の用意はしてくれない。まぁ代わりと言っては何だが近くにいくつか飯屋があったので、そこで夕飯を済ませた俺は部屋へと戻った。
「今日からここが俺の家、か」
改めて部屋の中を見回すが、あるのは机と椅子が二つに質素なテーブルと燭台に窓が一つ。本当に質素な部屋だ。それでも……。
「ふふっ。あ~あ~、今日から一人暮らしか~~」
初めて、と言う不安もあるにはあるが、冒険者になった喜びや初めての一人ぐらいの興奮も相まって俺は笑みを浮かべていた。
そして眠りにつく間際、俺はギルドプレートを見つめながら『明日どんな依頼を受けようか』とずっと考えていたのだった。
第6話 END
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