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ミリオタが異世界行ったらこうなるって話  作者: ジョージ
第1章 物語の始まり
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第5話 踏み出す一歩

楽しんで頂ければ幸いです。

 何とかゴルドさん達と合流した後、洞窟で一夜を明かした俺たちは、俺の村を目指して下山を開始。骨折しているマックスさんがいるため、かなりゆっくりな移動の中、道中戦闘などがありつつも俺たちは全員で村にたどり着く事が出来たのだった。



 俺たちが村へ帰還した直後、俺とゴルドさん、ホルグさんは俺の家に向かった。ゴルドさん曰く、俺の事について正式に謝罪とお礼がしたいそうだ。ちなみに、傷を負っているテッドさんとマックスさんは、別の家で安静にしている。


「改めて、まずは今回、息子さんであるマコト君の勇気ある行動に我々4人は助けられた。本当に、ありがとうございました」

そう言ってゴルドさんと隣にいたホルグさんが俺の両親に頭を下げている。


「礼は良い。そっちの、ホルグさんだったか?アンタは約束通り、息子を無事連れ帰ってくれた。俺たちにとってはそれで十分だ。だから頭を上げてくれ」

親父は静かにそう呟いて、二人に頭を上げるように促す。

「ありがとうございます」

ゴルドさんがそう言って頭を上げ、ホルグさんも続く。


「それでアンタら。この後はどうするつもりだ?」

「とりあえず、今日と明日はこの村でお世話になります。仲間の一人が足の骨を折っていて、まだ歩ける状況ではないので。そのあとも追々、その一人の様子を見て、と言った所でしょうか」

「そうか。……あぁなら、明後日に村の一人が野菜を売りに馬車で近くの町に向かうはずだ。そいつにアンタらを乗せられないかどうか、明日俺の方から相談してやっても良いが?」

「本当ですか?出来ればぜひ、お願いします」


 親父の言葉にゴルドさんは安堵の表情を浮かべながら頭を下げた。

「あぁ、任せてくれ。それとマコトも。よく無事に戻ってきたな」

「うん。まぁでも、ゴルドさん達のおかげだよ。正直、俺がゴルドさん達を助けるんだって位の気概で臨んだつもりだったけど、まだまだだったよ」

「そうか。まぁ、それでもお前はこの人たちを助けるために頑張ったんだろ?そいつは誇っていい事だぞ、マコト」

「うん」


 親父の優しい誉め言葉に、俺は恥ずかしさと嬉しさから頬を僅かに染める。確かに危険だった。怖い思いもあった。でも、それでも俺は今日、『誰かの助けになれた』と、実感出来ていた。自分が未熟なのはわかってる。 でも、これからもこうやって、誰かの助けになれたら。俺はそう思っていた。……けれど。


「お前が無事に戻って、ホントに何よりだわ」

母さんの声が聞こえた。本当に心配していたのか、疲れた様子で息をつく母さん。まぁ、そうだよなぁ。親からしたら、めっちゃ心配なんだろう、と俺がどこか他人事のように考えていた時。


「でも、これで『いつもの生活に戻れる』わね」

「ッ」

母さんの言葉に、俺は一瞬戸惑い息をのんだ。


 そうだ。俺には、『いつもの生活』って奴がある。この村で生まれ、親と一緒に畑仕事をして、時に野菜を売って生計を立てる。それが俺の、この村での『いつもの生活』だ。


 そして俺が、恐らく近いうちに『捨てる事になる日常』だ。


 誰かを助けたいと俺は思い、この力を授かった。だが、この村にいる限り、今回みたいな事はほとんど起こらないだろう。かといってこの村にとどまる事は、この力をただ腐らせるような物だ。そうなれば、やることは一つ。『この村を出て、外の世界へと飛び出す』って事だ。


 村を出て、外の世界を旅して、そしてそこで出会う人たちの助けになりたい。俺はそう思ってる。


 でも、それはつまり、今ある日常を捨てるという現実に他ならない。俺は今、改めてその現実と向き合い、不安を覚えていた。何も知らない外の世界に踏み出す事への、恐れを。


 そんな、不安と戸惑いの表情を浮かべながら俺は俯いた。そして、だからこそゴルドさんが俺の事を気にした様子だったのに、気づかなかった。



 あの後、ゴルドさんとホルグさんは仲間二人の所へと戻っていった。俺はと言うと、夕食を食べ、汗と汚れを濡れたタオルで拭いてから寝間着にしている薄着へと着替え、ベッドで横になった。


 しかし……。

「眠れねぇなぁ」

 目を閉じていても全く眠れず、ため息交じりにそんな独り言をこぼす。


 あんな事があって、心身ともに疲弊しているはずなのに、さっきの母さんの言葉が発端となって頭にこびりついた不安感。そのせいで俺は眠れないまま、ただ無為にベッドの上でゴロゴロしているだけだった。


「しょうがねぇ。夜風にでも当たるか」

 横になってても全く眠れなかったし、気分でも変わればと思った俺は薄着のまま部屋を出て、親父たちを起こさないようにこっそりと家を抜け出した。


 家を出て向かうのは、家の近くにある小高い丘。丘の上にたどり着いた俺は、そこから見える村を見下ろす。


 すでに真夜中だ。どの家も明かりなんて付いてない。それでも、晴れた空から月と星の明かりが静かに村を照らしていた。俺がぼ~っと月を見上げていた。


 あんな綺麗な夜空なんて、東京じゃ見られなかったな~。なんて別段意味のない事を考えていた。なぜなら、そうすれば不安を忘れられたからだ。


 この世界の星座って、俺の世界と同じなんだろうか?とか、そんな事を考えながら夜空を見上げていたその時だった。


「おっと、先客がいたか」

「えっ?」

 声が聞こえた。すぐさまそちらへと視線を向ける。そこにいたのは……。

「ゴルド、さん?」

「よぉ、マコト君」

ゴルドさんだった。


「こ、こんばんはゴルドさん。……あの、どうしてここに?」

「あぁ。俺は少し寝付けなくてな。夜風に当たろうと思って、良い場所を探していたら君を見つけた。そんな所だ」

 そう言いながら、ゴルドさんは俺の隣に腰を下ろした。

「逆にマコト君。君はどうなんだ?」

「……俺も、似たようなものですよ」

 俺はゴルドさんの問いかけに苦笑しながら答えた。


「疲れてるはずなのに眠れなくて。それで夜風に当たりに来たんです」

「そうか」

 ゴルドさんは俺の言葉に頷くと、視線を俺から星空に向けた。一方の俺は、隣に人、ゴルドさんがいるから集中できず、俯いたまま地面を見下ろしていた。 しかし……。


「何か悩みがあるのか?」

「ッ」

 まるで、俺の心にある悩みを見抜いたようなゴルドさんの言葉に、俺はバッと音がする勢いで視線をゴルドさんへ向けた。すると、こちらを安堵させるような優しい笑みを浮かべるゴルドさんと視線が合う。


「何かあるなら聞くぞ?これでも年長者として、いろんな奴を育ててきた自負があるからなっ」

 彼はそういって自信たっぷりに笑みを浮かべる。そんな横顔を見た俺は、視線を前へと戻し、少し悩んだ後、『どうせなら聞いてもらおう』と思い、やがて口を開いた。


「実は俺、ちょっと不安な事があって」

「ほう?どんな不安だ?」

「俺、この村を出て冒険者になろうって夢を前から持ってたんです。でも、今日帰ってきて、母さんの何気ない言葉を聞いて、気づいたんです。冒険者としてこの世界を旅する事は、つまりこの村を離れて、知人も友人もいない、知らない世界に踏み出す事なんだって」

「それが不安の理由か?」


「はい」

 俺はゴルドさんの言葉に、静かに頷きながら自分の手へと視線を向けた。

「俺には特別な力があって、この力で誰かを助けたいって思ってるんです。だから、今日とか昨日、ゴルドさん達を助けようって思って、必死に頑張ったんですけど。でも……」


「そうだな。確かに今回は俺たちを助けて『ここに戻ってきた』。だが、外の世界に出て冒険者をするってなると話は違ってくる。俺も似たような経験があるから分かるぞ、その話」

「え?ゴルドさんも、ですか?」

「あぁ。まだ、冒険者を始めたばかりのころの話。もう何十年も前の話だ。家業を継がせたかった頑固おやじに嫌気がさして、家を飛び出した俺は近くの町のギルドで冒険者になった」


 ゴルドさんは過去を懐かしむような表情を浮かべ、夜空を見上げながらその過去を俺に聞かせてくれた。

「幸い、冒険者になるために金をためていた。初めて訪れた町で、武器を、防具を、道具を買い込んで、安宿を取った。最初は、頑固な親父の元を離れられた事の嬉しさと、憧れの冒険者になった興奮で一人暮らしなんてどうと言う事は無かった。だがある日、俺は寂しさを覚えた」


「それって、一人暮らしにですか?」

「あぁ」

 俺の言葉にゴルドさんは静かに頷き、話をつづけた。

「冒険者として依頼を受け始めて、しばらくしたころだ。住み慣れ出した部屋に戻って。でも自分以外に誰もいない空っぽの部屋を目にするたびに虚しさと寂しさが押し寄せてきた。おかげで、家族のありがたみって奴に気づけたよ」

 ゴルドさんはそういって懐かしむように小さな笑みを浮かべている。が、話を聞いた俺からすると、ゴルドさんみたいな人でもそうなるんだ。 『俺は、そんな孤独に耐えられるだろうか?』 どうしてもネガティブな思いが頭から離れない。


「……なんか、こう言ったら失礼かもしれないですけど、ますます不安になってきました、俺」

「はははっ!それはすまないっ!」

 正直、話を聞いてると余計不安になってきた。その思いをポツリとこぼすと、ゴルドさんはそういって笑いながら謝った。


「はははっ。……ただなぁ」

「え?」


 しかし笑っていたのもつかの間。ゴルドさんは真剣な様子で俺へと視線を向けてきた。その様子に、思わず疑問符が漏れる。


「人生において、そういった『初めて』と言うのは必ず訪れる。冒険者になるにしろ、家業を継ぐにしろ、誰かと結婚するにしろ。初めて武器を手に取るにしろ。必ず訪れる。誰しも生まれた時から武器を握れるわけじゃない。冒険者になれるわけじゃない。人間って言うのは、経験と失敗を繰り返して学んでいくんだ。何事も、未経験から始まるんだよ」

「『何事も未経験から始まる』、ですか」


 そうだ。ゴルドさんの言う通り、最初から経験した事なんて一つもない。子供が成長して言葉や知識を始めて見て、学んで蓄えていくように。人生経験もそうだ。全て未経験から始まって、経験を蓄積していく。


「そうだ。それに、その様子だと夢と不安が半々でせめぎ合ってる、と言った所か?」

「……そう、ですね。そんな感じでしょうか」

 改めてゴルドさんに指摘され、自分の胸に手を当てて考えてみる。 そうだ。俺は俺の夢を叶えるためにこの世界に転生し、女神様から力を授かった。 だから前に進もうと思う自分が居て、でも不安に駆られたネガティブな俺が、それを止めようとして心の中で無意識にせめぎ合っていた。


「ならばマコト君。ここはひとつ、一歩だけ踏み出してみろ」

「一歩、だけ?」

「そうだ。『一歩だけ』だ」

「あの、それってどういう意味なんですか?」

 ゴルドさんは優しそうな表情を浮かべながらそう言ってくれるが、一歩だけ、の意味が分からず俺は聞き返してしまった。


「そうだなぁ。マコトの場合、冒険者になりたいんだろう?」

「はい」

「だったら冒険者としての一歩は、そうだな~」

しばし夜空を見上げながら何か考え込んでいる様子のゴルドさん。


「よしっ!」

 が、少しして何かを思いついたのか、そういって自分の膝を叩くゴルドさん。

「こうしようっ!冒険者になる気があるのなら、とりあえず2か月ほど一人暮らしをしながら依頼をこなしてみろっ!」

「えっ?えっ!?」

な、何か唐突な話題が飛んできたっ!?俺は戸惑いながらもゴルドさんの話を聞いていた。


「とりあえず2か月やってみて、それで『無理だ』、『俺には冒険者なんてできない』って思ったのなら、冒険者を辞めてここに、この村にいる家族の元に戻ってくればいいっ」

「要は、挑んでみろって事ですか?俺に、冒険者が務まるかどうか」

「ははっ。そんな大層な事じゃないさ」

 俺が問いかけると、ゴルドさんはそういって笑った。


「ただ、そうだな。人間誰しも出来不出来は存在する。特に冒険者と言う職業は命がけの仕事だ。どれだけ冒険者をやりたくても、向いてない奴は必ずいる。そう言う奴に限って、焦って命を落としたりするのを俺は見てきた」

「……」

 そう語るゴルドさんの表情が一瞬陰る。この人は、本当に多くの後輩冒険者を見てきたんだろうなぁ、と考えてしまう。


「だからこそ『試す』んだよ。2か月、冒険者として依頼をこなして、戦ってみろ。一人暮らしをしながら仕事をして、色んな事をして、それでも無理だって思うのなら、返ってくればいい。帰ってきて、また何か自分に出来る事を探すのも良い。諦めて家業を継ぐのも良い」

「……なんだか、聞いてるといろいろ回り道してるって感じですね」

 ゴルドさんの話を聞いていて思った事は、回り道だった。いろんなことを試して、ダメだったら次を探す。それは、なんていうか『迷走』しているみたいだった。 


「はははっ!回り道かっ。確かにその通りだが、回り道なんて上等だと思った方が良いぞっ」

「え?」

 回り道が上等?それって一体?

「どういう意味、なんですか?」


「人生なんてものはな、自分の思い通りに行くなんて事、絶対にない。夢や目標なんてものは、そいつの考え方次第で如何様にも移ろう。子供のころの夢なんて、大人になるころには忘れるなりして、別の仕事したりしてる事だってある。でもな、まだ若い内なら、いくらでもチャレンジできる。体だって動くんだ。いろんなことを試して、自分に合う物、合う仕事でも見つければ良い」


 そういってゴルドさんは俺に微笑んだ。更に……。


「『回り道をして、いろいろ挑戦して、一つの事がダメでも次を探して、それを繰り返して自分に出来る事や本当にやりたい事を見つける』。人の人生なんて、そんな風に生きながら時に結婚したりして、歳取っていくモンだろ?」

「ッ」


 夜空をバックにして語られたゴルドさんの言葉に、俺は衝撃を受けたような気がした。更に言うのなら、ゴルドさんの言葉が『至言』だと思った。 確かに色々不安はあって、夢破れる恐怖はある。 でも、そこですべてが終わりじゃない。 冒険者として人を救う事が出来なかったのなら、次を探せばいいって事だ。 もっと他のやり方で。


『あっ』

 そう思うと、不思議と心をザワザワとざわつかせていた不安が和らいでいく気がした。なら、お礼を言わないと。


「ありがとうございます、ゴルドさん」

「ん?」

 俺はゴルドさんを見上げながら、笑みと共にお礼の言葉を口にした。

「俺、冒険者としていろいろやってみようって、決心がつきましたっ。とりあえずゴルドさんの言ったように2か月頑張ってみて、それで自分が無理だって思ったら、また村に戻って来ようって、そしてまた、別の方法を1から考えようって、思えたんですっ」


「ははっ!そうかっ!ならばチャレンジしてみる事だなっ!」

「わわっ?!」

 そういってゴルドさんは俺の頭を少し強引に撫でる。


「お前はまだ若い。いろんな事を経験して、学んで、生きていけばいい。それが若者の特権って奴だからな」

「ゴルドさん。……ありがとうございますっ」


 頼もしいゴルドさんの言葉もあって、俺は不安を払しょくする事が出来たし、親に話す決心もついた。両親には話してなかったけど、俺の夢を打ち明ける時が来たかな、って思ったんだ。


その後は少しだけ話をしてゴルドさんと別れ、俺も家に戻り、ベッドに入ってすぐに寝た。 ゴルドさんと話したおかげで不安もなくなったし、やっぱり疲れていたのですぐさま眠りについた。


 翌日。俺は家の畑作業を手伝った後、親父と母さんに『話がある』って言って、時間を作ってもらい、話題を切り出した。 『俺、冒険者になる』って話題を。

「ッ!?な、なにバカな事言ってるのっ!」

 案の定、と言うべきか母さんは激高し顔を興奮で赤くしながら声を荒らげた。


「冒険者って、依頼を受けてあちこち旅するんでしょっ!?それに危険だってたくさんあるのよっ!?何を考えてるのっ!」

「ごめん。母さんの言い分は分かるよ。……でも、前から決めていた事なんだ。俺は、冒険者になる」

「っ!そんなの、母さんが認められるわけないじゃないっ!危険だと分かっていて送り出す親はいませんっ!ただでさえ唯一の跡取り息子なのにっ!あなたからも何か言ってやってくださいなっ!」

 そういって母さんは黙っていた親父へと話を振る。親父は、鋭い視線で俺を見つめ、俺もそれに答えるように真っすぐ親父を見据える。


「……本当に、冒険者なんてなろうと思ってるのか?」

「うん。ずっと前から決めてたんだ」

「……」

 しばし、親父は無言で俺を見つめた。やがて……。

「ハァ。……この様子じゃ、言って聞くような感じじゃねぇな。下手をすりゃ家を飛び出す勢いだな、こりゃ。……なら、好きにさせる他無い、か」

「「ッ?!」」

 正直、猛反対されるかと思っていた親父の予想外の言葉に俺も、そして止めるだろうと思っていた当てが外れたからか、母さんも驚いて息をのんだ。


「ちょっとあなたっ!何を言ってるんですかっ!あなたもマコトを止めてくださいっ!」

「……止めて聞くようなら、こんな目はしない。それに、こいつの様子を見て、説得で止められると思うか?」

 声を荒らげる母さんに対して、親父はどこまでも落ち着いた様子だ。


「うっ。そ、それは……」

 母さんは俺の方を向き、俺も真っすぐ母さんを見つめる。母さんは俺と視線を合わせるが、数秒して悲しそうな表情を浮かべながら俯いた。 俺への説得は出来そうにない、とでも悟ったのだろうか?


「マコト」

「ッ、何?親父」

「お前が一昨日冒険者を助けに行った時、俺達は見たことも無い武器や道具、恰好で出ていくお前を見送った。……お前、あれをどこで手に入れた」

「………」

 俺は親父の言葉に答えられなかった。俺のスキル、≪たった一人から(ワンマン)始まる軍隊(アーミー)≫の力は驚異的だ。金さえあれば、この世界に存在しない銃火器をいくらでも購入できる。まだ世界を旅したことは無いけど、恐らくこの世界は俺の前世で知っていた、ゲーム世界のファンタジーと大差ない技術レベルだ。


 仮に銃があったとしても、恐らくそれは前装式の単発銃。火縄や火打石を使った最初期の銃が精々だろう。そんな中で連発可能な俺の銃は、いや、俺を通して入手可能な銃は一言で言って強すぎる。だからこそ、このスキルの存在を安易に話す気にはなれなかった。下手をすれば、俺のスキルや俺の存在欲しさに家族が狙われるかもしれないから。


「……言えないか」

「ごめん。でもっ、この武器はちゃんとしたルートで手に入れた物だっ!誰彼から奪ったとか、そんなんじゃないんだっ!そこだけは信じてくれっ!」

 詳しくは話せない。だから今の俺に言えるのは、これだけだ。


「ならその武器で、お前は自分の身を守れるのか?」

「……ゴルドさん達の救出の時、ゴブリンと狼、それぞれ数匹と戦って、倒した。少なくとも自衛くらいは出来ると思ってる」

「そうか」


 親父は俺の話を聞くと、静かに頷いた。

「……正直、いつかこうなるかもしれないとは思っていた」

 やがて、少し間を置いた親父がそういって口を開く。


「時折、何かを持って山に持っていくお前を見送っていたが、その時からこうなるかもしれないと予感はあった。……まさか、こうして現実になるとは思っていなかったがな」

「あなた。……本当に良いのっ?」

 親父の言葉に、母さんは僅かに迷った後、そう問いかけた。

「マコトはただ一人の跡取りなのよっ?それがもし、もし死んだりしたらっ!」

「分かってるよ。……けど、こいつの目を見てみろ。俺達が何を言っても止まる気はない目をしてる」

親父の言葉に、母さんは目じりに涙を溜めながら俺の方へと視線を向ける。その表情には、戸惑いと、不安の色が見えていた。 そんな表情を母さんにさせている俺は、親不孝者なのかもしれない。でも、それでも俺の夢だけはどうしても譲れないっ。だからこそ俺は母さんを真っすぐ見つめる。


すると、母さんは席を立って、俺の前に立った。何を?そう思った直後、母さんは強く俺を抱きしめた。


「分かったわ。でも、でも絶対これだけは約束してっ。どれだけ惨めな思いをしても良いから、必ず、生きて帰ってきて……っ!」

 嗚咽交じりに聞こえる母さんの震えた声。それに答えるように、俺はギュッと母さんを抱きしめる。

「マコト。俺の思いも、母さんと同じだ。……絶対に死ぬな。それだけだ。もし冒険者が辛くなったら、いつでも帰ってこい」

 更に聞こえる、親父の優しい声。


「うん。約束する。必ず、必ず帰ってくるから」


 この世界で得た、第2の生。そして今こうして感じる、俺のもう一組の両親の温かさ。その温もりに、俺は素晴らしい両親に恵まれたことに、感謝の涙を流す。 絶対、何があっても、どれだけ恥もさらしても、生き残って、ここへ帰って来よう。そんな決意を、俺は胸の中に刻むのだった。



 その後、両親の説得に成功した俺はゴルドさん達の元を訪れていた。そして両親を説得出来た事。元々から冒険者になる事が夢だった事。そして近い内には村を離れ、近くの冒険者ギルドがある町へ行き、そこで冒険者登録をして冒険者を始める事を話した。


「そうか。あの二人は納得してくれたか」

「えぇ。絶対に生きてこいって厳命されましたけど」

「ふっ。ならますます死ねないな、マコト」

「はいっ」


ゴルドさんの笑みを浮かべながらの言葉に俺は静かに、しかし強く頷いた。

「それなら、俺からいくつかアドバイスをしてやろう」

「え?ゴルドさんが?」

「あぁ。これでも現役の冒険者だからな。聞くか?」

 ゴルドさんは経験豊富な冒険者だ。そんな人から直接話を聞けるのは貴重だ。なら、答えは一つだっ。

「ぜひっ!お願いしますっ!」

「ははっ、良い返事だ。それじゃあいろいろ聞かせてやるとするかっ」


 それから俺は、数時間にわたってゴルドさんやホルグさん、マックスさんテッドさんから冒険者とはどういう物か、とか、冒険者の心得、ゴルドさんの個人的見解からのアドバイスなど、いろいろな話を聞いた。



 そして、翌日。ゴルドさん達は近くの町へと行商に行く人の馬車へと乗せてもらい村を離れる。 その出発の前に、俺はゴルドさん達と少しだけ話をしていた。


「マコト君。今回は世話になったな」

「いえ、こちらこそ。ゴルドさん達にはいろいろな話をたくさん聞かせてもらいましたから。大変、有意義でした」

「ははっ!そう言ってもらえると助かるっ」

 笑みを浮かべ、ゴルドさんは俺に右手を差し出した。それが握手だと気づき、俺も右手を差し出してゴルドさんと握手を交わした。


「ゴルドさん達は、これからどちらへ?」

「近くの町のギルドに、俺達が受けていた依頼の報告をして、少し身を休めてから拠点にしている王都へと戻るつもりだ」

「王都?と言うと確か」

 俺が暮らしているこの農村は、とある王国に属している。しかし前世と違って情報収集が容易ではないし、そもそも重要じゃないこんな田舎じゃ知ってる事も高が知れている。俺が知っているのは、この農村が『とある王国』に属している事と、王都の大まかな位置だけだ。 で、その王都がどこにあるのかって言うと、確か……。


「王都ってここから北に一週間ほどと言うあれですか?」

「そうだ。人の足なら、この辺りからなら一週間程度。馬なら2日か、3日もあればたどり着ける距離にある」

「へ~~」

「もし興味があるのなら、いずれ足を運んでみると良いよ」

ゴルドさんの言葉に頷いている俺に、ホルグさんが声をかけてきた。


「王都の冒険者ギルドは地方の町のそれより大きくて依頼もたくさんあるし、色んな冒険者とも出会えるからね」

「分かりました。まぁでも、当面は近くの町で頑張ってみるつもりなので、王都に足を運ぶってのもいつになるか」

 王都ってのにも興味はあるけど、だからって今すぐそこに足を運べるかどうかは別だ。だからこそ俺はホルグさんの言葉に、苦笑気味にそう返した。


「そっか。ともかく、世話になったね、マコト君」

「こちらこそ」

 手を差し出すホルグさんと握手を交わし、更にマックスさんやテッドさんの二人とも、言葉を交わしながら握手も交わした。ただ、それだけじゃなかった。


「そうだ。君に渡しておきたい物があるんだ」

「え?」

「これを」

 ゴルドさんが懐から取り出したのは小さな袋だった。それを受け取った時。

『ジャラッ』

 中から聞こえてきた微かな音。それは金属同士がぶつかり合ったような音だった。もしかして?と思って中を覗いてみたけどっ、中に入っていたのはお金だったっ!しかも少ないが金貨まで入ってるっ!


 この世界におけるお金は合計6種類ある。小銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨の6つだ。この中で、農村みたいな田舎でお目にかかれる金と言ったら精々大銀貨が関の山だっ。袋の中に入っていたのは、小金貨1枚と大銀貨、小銀貨が数枚ずつ。だが、農村出身者にとってこれは大金だっ!


「こ、これっ!?も、貰えませんよこんな大金っ!っていうか、皆さん装備だって失ってるのに、このお金をもらってしまったら手持ちがっ!」

「ははっ。気にしなくても大丈夫だよ」

「え?」

 慌てふためく俺に、笑いながらそう答えるホルグさん。


「冒険者はね、ギルドでお金を預かってもらえたりして、それをどこのギルドでも引き出せるようになってるんだ。だから近くの町のギルドでお金を下ろすから大丈夫だよ」

「そ、そうなん、ですか?で、でもこれはさすがに、貰いすぎじゃ……」

「気にするな。俺達は、君のおかげであの危機的状況から生還出来た。マコトが居なければ、どうなっていたことか。だから、これはそのお礼だ」

「ゴルドさん」

「受け取っておけ、未来の冒険者。こいつはお前の今後に必要になるだろう」

「……」

 ゴルドさんの言葉を聞いて、俺は袋を見つめる。ゴルドさんは受け取れと言ってくれたんだ。それに、金があれば装備を新しくしたりできる。 だったら……。


「分かりました。ありがたく、頂戴します」

 俺はお金を受け取る事にした。


その後。


「よぉし。そんじゃあそろそろ出発するぞ~」

「分かりました」

 農家のおじいちゃんの言葉に返事を返すゴルドさん。すぐにマックスさん達が馬車へと乗っていく。


「それじゃあ、マコト。もし王都に来ることがあったら頼ってくれ。基本的に王都の周辺で活動してるからな」

「はいっ、またお会いできる日を楽しみにしています」

「あぁっ!」


ゴルドさんは俺の言葉に強くなずくと、馬車に乗り込んだ。それを確認した馬車は走り出し、村を出ていった。 そして俺は、馬車が見えなくなるまで、その姿を見つめていた。



それから数日後。俺は旅立ちの準備を進めていた。ゴルドさんから貰ったお金で装備を少し変更し、新しい弾なども買って、準備は出来た。


「それじゃ、親父。母さん。行ってくるよ」


今いるのは、家の玄関前。あの時、ゴルドさん達を助けに行ったのと同じ戦闘服と鉄帽、戦闘用ハーネスを備え、腰にはリボルバーのSAA。背中には背嚢。そして肩にスリングベルトを通して背負う『三十年式歩兵銃』。


「マコト、必ず、無事に帰ってきてね」

 完全武装の俺を、母さんは涙ながらに抱きしめる。

「うん。絶対、生きて帰ってくるよ」

「マコト。……死ぬなよ。無理だと思ったら、絶対に帰ってくるんだぞ?」

「分かってるよ、親父」

 抱きしめていた母さんを離し、親父の言葉に頷く。


 今の俺はまるで、戦争へと向かう兵士。そして両親は、それを見送る家族みたいだ。……いや、実際それと何ら変わらないのだろう。俺がこれから向かう場所は戦場と大差ない。依頼を受けて敵と戦うかもしれない、危険な場所なのだから。


 それでも俺は行く。俺の力で誰かの助けになると決めた、俺自身の夢を追いかけるために。


「行ってきます」

『ビシッ』

 最後にその一言を伝え、同時に右手で額に当てる軍隊式の敬礼をする。母さんは泣きそうになりながら。親父は真剣な表情のまま、それぞれ頷く。 俺はそれに頷き返し、わが家へと背を向けて歩き出した。


 これから、俺の旅が始まる。 その日、俺は本当の意味で、第一歩を踏み出したのかもしれない。 俺の夢を追う、旅に向けて。


     第5話 END

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