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ミリオタが異世界行ったらこうなるって話  作者: ジョージ
第1章 物語の始まり
3/6

第3話 山間部捜索

楽しんで頂ければ幸いです。

異世界に転生して早15年。農村で育った俺は自らを鍛えたりしながら、家業である農業を手伝っていた。だがある日、村に傷だらけの男性がやってきた。その人の話を聞いた俺は、男性、ホルグさんの仲間を助けるために、フル装備で村を出た。



村を出てホルグさんについて歩いて行く。が、村が見えなくなると足を止めて俺の方に振り返るホルグさん。

「ホルグさん?」

「……改めて、君に名乗っておこう。僕の名前はホルグ。冒険者だ。今回、マコト君が協力してくれる事には感謝している。だが仲間を助けに行く前にこれだけは聞いて、確認しておきたい」


真剣な表情でホルグさんは俺を見つめている。

「これから向かう場所は大変危険だ。もちろん、君のお父さんと約束したように僕は全力で君を守る。だが、そこは死の危険が付きまとう場所だ。……本当に、良いんだね?」

その言葉は、俺を心配しての事だった。


「……怖く無い、って言えば嘘になります。でも、俺は覚悟を持って協力を申し出たつもりです。親もそんな俺を信じて送り出してくれたと思ってます。ですから、今更村に戻るつもりはありません。俺は、俺に出来る事でホルグさんの仲間を助けるために協力します」


ホルグさんが俺を真っ直ぐ見つめているように、その目を俺も真っ直ぐ見つめ返す。今更、やっぱり怖い、なんて言って引き返せるか。もう俺は、この事態に首を突っ込んだんだ。今更抜けるつもりなんてない。


「……分かった」


するとホルグさんは納得した様子で頷いた。


「なら急ごう。時は一刻を争う……っ!」

「はいっ!」


俺達は再び歩き出した。


「それで、まずはどうしますか?」

「とりあえず、僕の仲間が落ちた川の傍まで行ってみようっ」

「了解っ!」


そこから、俺達は、殆ど無言で山の中を移動した。険しい山道、道なき道を突き進む。


「ハァ、ハァ、ハァッ!」

くっ、山歩きに馴れてるとは言え、重い背嚢に銃を手にしての行軍ってのはあんまり馴れてない。こう言う訓練もしてたけど、やっぱり普段より体力の消耗が激しい。


息は上がり、汗も止めどなく溢れてくる。

「マコト君、大丈夫かい?」

一方のホルグさんは、少し息が上がっているがまだまだ余裕と言った感じだ。

「大丈夫ですっ!まだ、行けますっ!」

俺のせいで移動の足を止める訳にはいかない。……救助に時間を掛ければかけるほど、生存者の救出は絶望的になる。負傷しているのかも分からない。生きていても怪我の度合いが分からないんじゃ。1分1秒を争う。だからこそ、足を止める訳にはいかない。まだやれる、行けると答える。


その言葉にホルグさんはしばし迷った様子だったが……。

「分かった。進もうっ」

そう言って止めていた足を再び動かし始めた。俺も必死にそれについていく。


息を切らしながら進む事、約数時間。既に日はかなりの高さまで昇っている。体感的に、もう昼前だろうか。その頃になってようやくたどり着いたのは川辺だった。


「ハァ、ハァ、マコト君。大丈夫かい?」

流石にここまで険しい山道を歩きっぱなしだと、ホルグさんもキツいのか、俺のように息を荒らげ汗も凄い。

「な、何とか」

思って居た以上の移動に、足腰が悲鳴を上げているが、それを口に出してる場合じゃない。今の最優先目標はホルグさんの仲間の発見と、場合によっては治療が必要だ。弱音なんて吐いてる場合じゃない。


「よし。じゃあ見えるかい?あそこだ」

そう言ってホルグさんは指さしたのは、俺たちがいる川辺から見て、川を挟んだ対岸。その上にある崖だ。

「あそこから僕の仲間は落ちたんだ」

「あそこ、からですか」


ぱっと見、崖上から川までの高さは6~7メートルはあるな。

「どうだろうマコト君。あそこから落ちて、皆は、大丈夫だろうか」

どこか縋るような目で俺を見つめるホルグさん。その目は、仲間の事が心配で心配でしょうが無いと物語っていた。だが、俺にも確証は無い。とりあえず俺の知っている事を伝えよう。


「正直、無事かどうかは分かりません。ただ、この川は、俺の知る限り滝のようなものは無く、山間を蛇行するように進みながら村の傍まで続いている、と言う事くらいです。川の流れもそこまで速くないので、泳げるのなら、岸に上がる事も出来るでしょうが……」

「そ、そうか」

「すみません。確かな事を言えなくて」

「いや。良いんだ。幸いマコト君のおかげで、川についての情報は得られた。とにかくここからは、川の流れを辿って3人を探そう」

「はいっ」


その後、俺はホルグさんと共に川に沿って下流を目指し歩き始めた。とはいえ、山には狼やイノシシ、熊と言った危険な生き物もいるし、魔物もいるかもしれない。俺はしきりに周囲を警戒しながらホルグさんと共に進んでいく。


歩き続ける事、20分ほど。小さな事も見逃さないように行くため、自然と俺達の足は遅かった。このままじゃ、探索だけでかなりの時間を食ってしまう。

「ん?」


と思って居た時、対岸の川辺に何か見えたような気がした。流れ着いた小石や砂利が堆積した川辺に見えた、不自然な『茶色』。まさかっ。


俺は周囲を確認してから足を止め、背嚢を下ろすと中にトレンチガンを置き中に手を入れた。

「ん?マコト君?どうした?」

それに気づいたホルグさんが近づいてくる。

「対岸に何か、見えたような気がしましたっ。これで確認しますっ」

そう言って取り出したのは望遠鏡だ。

「それは?」

首をかしげるホルグさん。そっか。こっちの世界では、少なくとも望遠鏡が普及してないみたいだな。


「これは望遠鏡と言って、遠くを見るための道具です。ホルグさん。あそこ、何かあるの見えますか?」

「ん?あれは……」

じ~っと目をこらすホルグさん。


「茶色い、動物か、何かか?う~ん、ここからじゃよく見えないな」

どうやらこっからじゃ見えないようだ。俺は周囲を警戒しながらも望遠鏡をのぞき込む。で、見えたっ!

「やっぱりっ!動物じゃないですっ!あれは鞄ですっ!」

「えっ!?」

「これ、使って見て下さいっ!」

「う、うん」

俺は戸惑うホルグさんに望遠鏡を渡し、鞄の方を指さす。馴れない様子で望遠鏡をのぞき込んだホルグさんだった。


「っ!?あ、あれはっ!間違い無いっ!僕の仲間のだっ!」

鞄を見るなり血相を変えて叫んだ。って事は、あそこに何かヒントがあるかもしれないっ!

「じゃあ急ぎましょうっ!ここから少し下った所に対岸へ渡れる浅瀬がありますっ!」

「分かったっ!」


俺は返して貰った望遠鏡をしまって背嚢を背負い、トレンチガンを手に取るとホルグさんと一緒になって駆け出した。


少し川沿いに下った先にある浅瀬から対岸へと渡り、川沿いにまた上る。


そしてたどり着いたのは川辺近くの草木の影。そこで何故か立ち止まり隠れるように姿勢を低くするホルグさん。

「どうしたんですか?行かないんですか?」

俺は姿勢を低くしつつ問いかけた。


「……怪しくないかい?いくらなんでも」

「え?」

「見てくれ」

そう言ってホルグさんは鞄を指さす。


「鞄が置かれているのが、川辺の淵じゃない。開けた場所のほぼ真ん中だ。普通に流れ着いたのなら、あぁはならない」

「確かに」

「となると、誰かがあそこに鞄を置いた可能性がある」


「誰か、って?」

「一番に考えられるのはゴブリン。或いは盗賊かな。……アレを取ろうと獲物が近づいてきたら、一気に出てきて獲物を囲む、とか」

「っ!?」


その言葉を聞き、俺はすぐにトレンチガンを構えて周囲を警戒した。今の所、周囲に怪しい動きや気配、人影や動く影はないが……。


「君はどう思う?」

静かに問いかけてくるホルグさん。俺は少し考え、思いつく限りの可能性を頭の中でリストアップしていく。


「た、確かに、あんな風に川辺のど真ん中に流れ着く事はまずありません。となると、可能性がいくつかあります」

「と言うと?」


「一つ。ホルグさんの仲間が、あそこから這い上がった時に落とした」

「成程。でも、なら何故拾わず置いていったんだい?」

「あれを回収する余裕が無かった。或いは落とした事を忘れる程憔悴していた。他には、あとで取りに戻ってくるつもりで、まだ取りに戻ってきていない」

「確かに、それも無い訳ではないね。でも、君自身はどう思う?そう言った偶々の可能性と僕の言った、何者かによる罠の可能性は?」

「正直、どっちもありえると思います。だからこそ、どっちの可能性が高いとは言えません。けどそれってつまり、あれの確認に行く事に危険が伴うって事、ですよね?」

「そうだね。……罠だった場合を考えると、ね」


俺もホルグさんも、真剣な表情を浮かべつつ冷や汗を流している。


「マコト君。君、戦える?武器は?」

「こいつは、一言で言うと高い破壊力と連射力を持った弓なんです。人や魔物相手に使った事は無いので多分ですけど、人間やゴブリン相手くらいなら何とかなると思います」

「……命を奪う事に関して、経験は?」

静かに俺を見つめるホルグさんからの問いかけ。その真剣味を帯びた声色とどこか鋭い視線を前に、見栄を張る事など出来る訳も無かった。

「狩りをしていたので、鹿やウサギくらいなら。……人間は、ありませんけど」

「そうか」


静かに頷くホルグさん。

「あの。逆に聞きたいんですけど、ホルグさんのバトルスタイルって?」

「僕が主に使うのは魔法だよ。と言っても、使えるのは火と水の初級魔法と、後は治癒魔法くらいだ。それ以外だと、護身用として杖術が少しだけね」

そう言って居るホルグさんの手に握られているのは、上部が十字架の形をした杖だ。しかし、バリバリの後方支援型だな、ホルグさん。


「マコト君、接近戦の経験は?」

「ゼロです。ナイフを使った戦い方のイメージトレーニングはしてましたけど、実戦でどれだけ役に立つか」

「そうか。僕も、接近戦の経験は数えるしかないんだよなぁ」


お互い、近距離戦には自信が無い。だが……。

「けど、だからといってここでこのまま、って訳には行かないですよね?」

「そうだね」


1分1秒を争う時間の中で、俺達は決断を迫られている。ただ、ここは平地で開けている。こう言う環境なら、相手が弓でも持ち出してこない限りショットガンとSAAを、銃を持ってる俺の方が有利だ。だからこそ……。


「ホルグさん。俺が支援します。その間に鞄を回収するか、調べるかしてください」

「え?大丈夫なのかい?」

「平地で開けてる場所なら、俺の武器、銃の射程が生きます。多分、何とかなると思いますっ」

「……」

ホルグさんは少し迷った様子だった。


当然かもしれない。俺みたいなまともな実戦経験が無い素人に背中を預けるんだ。でも、時間が無いのも事実。


「分かった。なら、背中は預けるよ」

戸惑いながらも、迷いを振り払うように首を振ったあとホルグさんはそう言った。


「分かりました」


俺は頷き、トレンチガンの、この銃の装弾数を思い出す。このウィンチェスターM1897は、俗に『スタンダード』と呼ばれるグレード、つまり一番一般的な型式の物だ。こいつに込められる弾数は、薬室に1発入れたとしても合計6発。……敵が襲ってきたらこの6発でどうにかするしか無い。素人のリロード速度なんて高がしれてる。……頭の中に6発という数字を強くイメージする。


「行きましょう」

「うん」


お互い、覚悟は出来た。静かに川辺の中央にある鞄を真っ直ぐ見つめる。

「行くぞっ!」

「はいっ!」


そして俺達は草むらから飛び出した。前を走るホルグさんを追いながら周囲を警戒する。左側の川も。右側の林も。後ろも。前も。上も。


数秒に及ぶ全力疾走で鞄の所にたどり着いたホルグさん。俺はそれをカバーするようにトレンチガンを構えながら周囲を警戒する。と、その時。


『『『ギギャギャッ!!!』』』

前方の林の中から何か飛び出してきた。咄嗟にトレンチガンの狙いを定める。


飛び出してきたのは、緑色の体色に成人男性の半分程度、子供くらいの体躯の生物。その数3匹。だがその醜悪さは、子供とは大違いだ。更に言えば、血走った目で俺等を睨み付け、その手には、木を削り出して作ったのかお粗末な棍棒が握られていた。


俺はその特徴的な体色の魔物を知っている。『ゴブリン』。最もメジャーな魔物。魔物の中でも底辺の存在。だが、それでも今の俺にとっては、転生して初めて、いや、前世の時だって出会った事の無い、『明確な殺意を持って向かってくる敵』だ。


「ッ!」

奴らの殺気に、一瞬のまれかけた。でもすぐに頭を振って気持ちを切り替えるっ。これは実戦だっ!日和ったら死ぬっ!

「森からゴブリンっ!数は3匹っ!」

トレンチガンを構えながら叫ぶと、ホルグさんも気づいた様子でゴブリン達に目を向ける。


「マコト君っ!」

「大丈夫ですっ!やってみせますっ!」


話をしている間に、ゴブリン共が近づいてくる。その距離はもう、10メートルもない。だがこれで良いんだっ!ショットガンは近距離で使うものだからなぁっ!


『『『ギギャギャギャッ!』』』

「っ!」


向かってくるゴブリン。奴らの汚い笑い声が聞こえる中、俺は引き金を引いた。

『ドパァンッ!!』


次の瞬間、放たれた散弾がゴブリンに向かっていく。そして無数の粒が、ゴブリンの体を引き裂いた。


当ったのは2体。腹や胴、足などあちこちから血を流しながら、2体のゴブリンがその場に倒れた。

「ギギャッ!?」

すると、生き残った1匹が驚愕の表情で倒れた同類へと目を向け、足を止めた。


『ガシャコンッ!』

その間にフォアエンドを前後させ、空のシェルを捨て第2発を薬室へ送り込む。するとリロードの音に気づいたのか、最後の1匹がこっちを向く。けど、遅いっ!


『ドパァンッ!!』

放たれた第2射が、奴の体に無数の風穴を開けた。そして、最後の1匹も倒れ、動かなくなった。


「ハァ、ハァ、ハァッ!」

初めての戦闘。初めての銃を使った殺しに、俺は息が上がっていた。だが気は抜けない。俺はすぐに周囲を見回し、銃口を向ける。


が、敵の姿はない。

「ま、マコト君」

「ッ!は、はいっ!」


しかし不意に、後ろからホルグさんの声が聞こえた。緊張していた俺は、ビクッと体を震わせると素っ頓狂な声を上げながら振り返った。


「とにかく鞄は回収した。今はここを離れよう」

「はいっ」

俺はホルグさんの言葉に頷き、共にその場を離れた。そして茂みの中で俺は息をつき、木に背中を預けた。そしてそのままズルズルとずり落ちていき、地面に腰を付けた。


「ハァ、ハァ、ハァッ!」

全身から汗が噴き出し、今更になって手が震える。震える右手を見つめながら、震えを抑えようとギュッと手を握るが、震えは止らない。クソッ、止まれ、止まれっ。と何度も思う。と、その時。


「マコト君」

「ッ!?」

突如、ホルグさんが俺の肩に手を置いた。

「大丈夫かい?」

「……す、すみません。馴れて無くて。……俺、初めて銃で、生き物をっ」


そう思った時、脳裏にゴブリンを射殺した時の映像がフラッシュバックした。直後、胃がひっくり返ったような気持ちの悪さが襲ってきた。


「うっ!?おぇぇぇっ!」


俺はホルグさんから離れ、木陰で吐瀉してしまった。な、なんでっ?と自分で思ってしまう。狩りの経験だってあるのに。そりゃ初めて生き物を殺した時は、今みたいにゲェゲェ吐いたけど、それだって、馴れたはず、なのにっ。


そう思っていると、後ろからホルグさんが背中をさすってくれた。


「ハァ、ハァ、ハァ。……ほ、ホルグ、さん」

「大丈夫だ。周辺に敵は居ない。……とにかく、今は落ち着いて。水はあるかい?」

「は、はい。背嚢の、中に」


俺は震える手で背嚢の中から水筒を取り出し、水を口に含むと、口の中をすすいで適当な場所にぺっと水を吐き出した。


「ハァ、ハァ、ハァッ」

「大丈夫かい?」

「は、はい。……けど、すみません。俺足手まといになって」

「そんな事は無いよ」

謝る俺に、ホルグさんは笑みを浮かべながら俺の肩に手を置いてくれた。


「まともな実戦経験が無いのなら仕方無い事だよ。それに君のおかげで、僕もこれを回収出来た」

そう言って彼が見せてくれたのは、あの鞄だった。


「そ、そうですか。それで、何か分かりました?」

俺は口元を拭いながらも問いかける。


「……いや。残念ながら皆の足取りに関して分かる物は無かったよ」

「そうですか」

どうやら足取りを追える直接の手がかりは無かったようだ。ホルグさんは残念そうな、悔しそうな表情を浮かべている。しかしここでネガティブになっても仕方無い。俺は思いつくポジティブな考えを口にした。


「でも、あそこにあの鞄があったと言う事は、あの辺りから陸に上がったって事ですよね?だったらこの近くの、洞窟のような場所で身を潜めて体力の回復などをしているかもしれません。……リスクはありますが、さっきの場所に戻って人の足跡を探しましょう。仲間の方を抱えたり、肩を貸した状態で歩いたのならそれだけ重く土を踏んでいるかもしれないので、足跡がくっきり残ってる可能性もあります。……今は、それが分かっただけでも良しとしませんか?」

「……そうだね。君の言うとおりだマコト君。もう動けるかい?」

「はい。少し座って休んだのでもう大丈夫です。……行きましょう」


気持ち悪いのも腹の中の物吐き出してスッキリしたし、おかげで震えも止った。体は動く。銃も撃てる。怪我だってしてない。俺は、戦える。


ヘルメットを深く被り直しながら、俺は真っ直ぐホルグさんを見つめる。ホルグさんは無言で頷くと歩き出し、俺もそれに続いた。


そして戻ってきたさっきの川辺。俺は茂みの中から周囲を伺う。さっきのゴブリンの死骸は、そのままだ。狼などに食い荒らされた形跡も無し。


「クリア。俺が周囲を警戒するので、周辺の確認をお願いします」

「うん、頼んだよ」

ホルグさんの言葉に、無言でコクリと頷く。


俺はすぐに茂みから飛び出し、トレンチガンを構えながら周囲を警戒する。その間に、ホルグさんが先ほど鞄の落ちていた辺りを確認している。少しして。


「マコト君」

「はいっ」

周囲を警戒しながらも、ホルグさんの傍に行き、その場に膝を突く。もちろんトレンチガンは構えたままだ。


「何かありましたか?」

「あぁ。足跡のような物を発見した。これを辿っていこう。足跡からして、方向はあっちだ」

ホルグさんが指さしたのは、先ほどゴブリン達が飛び出してきた森の方だ。

「分かりました。では……」


俺はトレンチガンをスリングベルトで肩に掛けるように背負うと、ホルスターからSAAを抜き取り右手で構え、更に左手にナイフを握る。某ステルスアクションゲームのあれに似ているが、実際には左手のナイフは、いざと言う時攻撃を逸らす為の物だ。……ここからは、視界の悪い森に入る事になるが、さっきの戦闘でもう覚悟は出来てる。

「行きましょう」

「あぁ」


ホルグさんは俺の言葉に頷いた。そして、俺達は慎重に足跡を確認しながら森の中へと進んでいった。



道中。警戒しつつ草木をかき分けながら進んでいく。五感を研ぎ澄まし、周囲を警戒しながら、時折足を止めて足跡を確認し、進む。


視覚で周囲を索敵する。少しでも違和感を感じる物を探す。

嗅覚で周囲を索敵する。腐臭や血の臭いを探す。

聴覚で周囲を索敵する。小枝を踏み砕く音や茂みの音を探す。


緊張感で汗が噴き出しっぱなしだが、油断をする訳には行かない。


そして、歩いていると……。俺達の前に崖が現れた。だが……。

「……足跡は、あそこまで続いてるね」

「えぇ。洞窟、ですか」


崖の下に見えるのは洞窟だ。足跡はそこまで続いている。あの暗闇の中に明かり無しで入るのは、勇気がいりそうだ。


「ホルグさん、何か明かりになりそうな物はありますか?」

「あぁ。ちょっと待ってくれ」


そう言うと、周囲を見回したホルグさんは中くらいの枝を拾ってくると、その先端に、先ほど拾った鞄の中から布を取りだして巻き付けた。もしかして……。


「それ、松明ですか?」

「あぁ。この布には松脂を染みこませてあるから。あとは火があれば大丈夫だ」


そう言うと、ホルグさんは松明に手を翳し目を閉じた。すると、ホルグさんの掌から小さな火種が現れ、それが松明に着火した。


「ッ、今のが魔法なんですか?」

「あぁ。魔法は本来、様々な技を詠唱して発動するが、馴れればこんな風に、火種や水を生み出すくらい訳無いよ。さぁ、行こう」

「……はい」


俺は松明を手にするホルグさんの後に続いた。SAAを手に、前後を警戒しながらホルグさんに続く。洞窟の中は人の手が入っておらず、正しく天然の洞窟だった。


そして入り口から下に向かって伸びる緩やかな斜面を折りきった時だった。


「ッ!?そこに誰か居るのかっ!」

前方の曲がり角の先から声が聞こえたっ!俺は咄嗟にSAAを構える。が、ホルグさんが俺の前に手を出してそれを制止した。


「ゴルドさんっ!ホルグですっ!そこに居るんですかっ!?」

「ホルグッ!?ホルグかっ!」


どうやらホルグさんの仲間らしい。すると曲がり角から剣を手にした、筋骨隆々で褐色肌にスキンヘッドという、如何にも冒険者らしい格好の男性が現れた。


「よく来てくれたホルグッ!」

「ゴルドさんこそっ!よくご無事でっ!マックスとテッドはっ!?」

「大丈夫だ。マックスは足を骨折し、テッドもあちこち打撲傷を負ったが、命に別状は無い。奥で寝ている。……って、その子供は?」

「あっ、彼はここから一番近い村の子で、マコト君と言います。山の案内を頼んだんです」

「……」


ん?何やらゴルド、と呼ばれた人の俺の見る目に困惑の色が見えてるような……。


「ホルグ、助けに来てくれた事は感謝しているが、まだ子供だぞ?それを巻き込むなど」

「すみません。……案内役を買って出てくれたのが、彼だけだったので」

「……そうか」


どうやらゴルドさんは子供の俺を巻き込んだ事に憐れみや同情しているようにも見えた。なので。


「同情や憐れみでしたら、必要ありません」

「ん?」

「あなたにとって俺は子供かもしれませんが、俺も相応の覚悟でここに来ました。ホルグさんに協力して、皆さんを助けるためにここに来ました。だから、そう言う考えは不要です」

俺はゴルドさんを真っ直ぐ見つめながら口を開く。

「……」

すると、彼はしばし俺を真っ直ぐ見つめ、やがて……。


「そうだな。君はどうやらもう子供ではないようだ。失礼なことをいったな。すまん」

「え?い、いえ。お気になさらず」


返ってきた言葉が少し意外で、戸惑った。てっきり偉そうな事を、とでも言われ怒られるかも、なんて思ってたけど違った。


「改めて君の名を聞こう。名前は?」

「マコト、自分はマコトと言います。はじめましてっ」

俺はSAAをホルスターにしまい、右手で敬礼をする。


こうして、俺は何とかホルグさんと共に、彼の仲間であるゴルドさん達と合流する事が出来たのだった。


     第3話 END

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