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ミリオタが異世界行ったらこうなるって話  作者: ジョージ
第1章 物語の始まり
2/6

第2話 ファーストミッション、スタート

完全に趣味をラノベにしたような作品ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

俺の名前は『マコト』。前世の名前を言えば『春日井真人』だ。


俺はある日、火事の現場で女の子を助け、代わりに命を落とした。でも色々あって女神様からチート能力を貰って、前世の記憶を持ったまま異世界へと転生した。



そして、俺が転生して約15年。俺は今、生まれ育った村で家族や知人の農業を手伝いながら、自らを鍛えていた。幸いな事に、この15年間の生活は普通の一言に尽きた。まぁ、何も無いのは良いことだ。で、今は俺もいい歳になってるし、数年前から親父達に混じって農家の仕事を手伝っている。


農家の朝は早い。今日も日の出前、空が白みだした頃から仕事開始だ。朝早く、畑に出て行っては農作物の採取。これが思いのほか辛いんだよなぁ。特に重い野菜とかだと結構腰に来る。まぁ、俺としては良い運動になってるから問題無しなんだが。


で、朝の収穫と野菜の選定とかが終わるとようやく朝飯。川などで汚れを落とし、家に戻って朝食。で少し休憩したらまた畑仕事。昼休憩と、午後は少しのんびりしてから場合によっては更に畑仕事。夕暮れ時には川などでまた体を洗ってから家に帰って晩飯。で夜は眠ってまた早朝から仕事っ!


ってのがこの世界の農村の基本らしい。いや~~これがマジでハードなの何のって。前世じゃ都会育ちの都会っ子だったからまともに農業に触れる機会も無かったし、思いのほか重労働で、仕事を始めたばかりの頃にびっくりしたのは今も覚えてる。


まぁでも、おかげで俺はそこそこ鍛えられた。前世じゃちょっとぽっちゃりだった体型も、今じゃ畑仕事という重労働に鍛えられて立派な細マッチョよ。


とまぁ、そんな平穏な生活を今でも送っていた俺。



そんなある日。その日は珍しく畑仕事は休み。農村には珍しい休日って奴だ。


休日の朝、起きて朝食を取った後。

「それじゃあ親父、母さん。ちょっと山の方に出かけてくるから」

俺は部屋に居た家族、親父と母さんに声を掛けた。

「お?いつものトレーニングか?」

「うんっ、行ってくる」

俺は親父の言葉に応え、身支度として小さな鞄を背負う。


「お昼時には帰ってくるのよ~!」

「は~いっ!」

母さんの言葉に応えながら俺は家を出た。



俺が山に向かう理由。それは俺が女神様から与えられた力、≪たった1人から(ワンマン)始まる軍隊(アーミー)≫のトレーニングをするためだ。


俺の持つ≪たった1人から(ワンマン)始まる軍隊(アーミー)≫の力を簡潔に説明するのなら、『アイテムショップ』だ。


この能力を展開すると、俺は様々なアイテム、銃火器や防具、救急箱と行った様々なアイテムをこの世界のお金、銅貨や銀貨、金貨で購入出来る。


ただし、購入出来るアイテムの大半は現在ロックがかかっており、今の俺では購入出来ない。その理由は、俺の『階級』が低いからだ。


スキルを展開すると、俺にしか見えないウィンドウが空中に表示される。その中に書かれている『OR-2』というアルファベットと数字。


このOR-2と言うのは俺の前世に存在した北大西洋条約機構、つまり『NATO』の『階級符号』という奴だ。OR-2が意味しているのは『一等兵』だ。つまり軍隊における一番下の階級である二等兵の一つ上だ。


俺がこの世界に転生したばかりの頃、階級は二等兵を意味するOR-1だった。しかし今から2年ほど前、ある日気づくと今のOR-2へと階級が『昇級』していた。


昇級の理由については今も分かっていないが、恐らく体を鍛える、仕事をする、などしていたからそう言った理由で階級が上がったのだろう、と言うのが俺の推測だ。


で、問題はここからだ。俺の購入出来る銃火器やアイテムはかなりの数だ。ただし、大半は『階級が規定値より下回っているため』と言う理由で購入出来ないようロックがかかっている。


つまり俺がより凄いアイテムを手に入れるには階級を上げる必要があるって事だ。


で、今俺が購入出来るアイテムと言えば、第1次大戦当時からそれ以前までの銃火器とそれに付随するアイテムや弾丸。第1次世界大戦当時に使われたであろう、防御力が期待出来そうにない単色の戦闘服。戦闘服の上から装着する、ホルスターや弾を入れるポーチ付きの軍用ハーネスなどなど。


現代の兵士の個人装備に比べれば雲泥の差だ。とは言え、これがあるだけでもかなりありがたい。1からこう言った装備を創るってなったら、別のチート能力と図書館並みの知識がいる。それを、能力で購入できるだけまだありがたいと言うものだ。


と、そんな事を考えていたらいつも訓練している山間の川辺までたどり着いた。さて、今日もやりますかっ!


俺は荷物を置き、適当な大きさで平らな上に、空き缶サイズの小さな石を並べていく。そして始めたのは、射撃訓練だ。


『ダァァンッ!!』


俺しかいない川辺に響き渡る銃声。その声の主は、俺の手に握られた回転式拳銃、『コルトM1873』、またの名を『シングルアクションアーミー』。西部劇御用達のリボルバーだ。


ちなみに俺が能力で購入出来る銃火器は、軍への採用経験の無い銃でもOKだ。例えば機関部の複雑さなどから軍では不評だったレバーアクションライフルの『ウィンチェスターM1873』。それ以外にもレバーアクションで伏せ撃ちができない等の理由もあってか軍では正式採用には至らなかったそうだ。だが、そんな銃も購入画面に存在している。ただしまだ買うレベルの階級に俺が至っていないため、購入出来ないが。


ともかく俺は、村で仕事をしながら時たまお小遣いを貰い、訓練って事でたまにこうして、川辺に来てフィジカルトレーニングや射撃練習をしてる。


時に山の中を駆け回ったり、腕立て伏せやスクワット。とにかく体力作りと射撃練習を繰り返していた。


……と言っても、弾を買うにもお金がかかる。そして農村の子供のお小遣いなんて高がしれてる。だから月1で射撃練習も大変だ。


『ダァァンッ!』


それでも、俺は自らを鍛える。いつか、何かあった時、誰かを助けられるように。俺自身が俺の願いを叶えられるように。



そして、その日は、唐突にやってきた。


ある日の事だった。俺は親父達を手伝って村の畑で作業をしていた。そして早朝。朝一番の仕事が終わり、汗を流して朝食のために家に戻ろう、ってなった時だった。



あ~~。朝から汗掻いたな~。早く川で汗流して~。

「お、おぉいっ!大変だぁっ!」

「ん?」

村の入り口の方から、1人の男の人が走ってきた。確か、入り口近くの家の人だ。

「おいおいどうした?そんなに慌てて、何かあったのか?」

近くにいた知り合いのおっちゃんが問いかける。


「そ、それが、村の入り口に人が、『冒険者』みたいな奴が倒れてるんだっ!」

「っ!?なんだとっ!?」

「ッ!?」


突然の事に俺は驚き、息を呑んだ。

「生きてるみたいなんだが、気を失ってるみてぇでよっ!手ぇ貸してくれっ!」

「おぉっ!おいお前等っ!行くぞっ!」

「「「「おぉっ!!」」」」


1人の合図で、皆が入り口の方ヘを走っていた。

「あっ!?」

そして、それに一瞬遅れて、突然の出来事に呆然としていた俺は慌てて皆や親父の後に続いた。どうしてこんな平和な村の傍で人が倒れていたのか凄い気になるし、何より、『嫌な予感』がしたから。


走ってたどり着いたのは村の入り口。

「よ~しっ!とりあえず近くの家に運ぶぞっ!」

「「「おぉっ!!」」」


倒れていた人を皆が担ぎ上げる。流石に農業で鍛えてるだけあって、皆そこそこパワーがある。そして親父達は近くの家に倒れていた男の人を運び込んだ。……しかし、倒れてた人が、なんて言うかファンタジーゲームの僧侶を連想させる格好をしてたんだような。……もしかして?なんて考えながらも、俺は親父達の後に続いた。


すぐさま主婦の人達が手当を始める。まぁけど思いのほか目立った外傷はなかったので、体についた血や汚れを拭き取るだけで十分だった。


だが俺は、突然の事過ぎてそれを見ている事しか出来なかった。こう言った時のイメージトレーニングをしてたつもりだが、やっぱりトレーニングと本物は違うって事を、今俺は噛みしめていた。


やがて……。

「う、うぅ」

男の人が目を覚ました。

「こ、ここは……」

「おぉ兄ちゃん、気がついたか?」

すぐに村の長のような存在でもあるおっちゃんが声を掛ける。


「貴方方、は?それにここ、は?」

どうやら気を失ってたせいか、まだ寝ぼけてるのか記憶が混濁してるみたいだ。

「ここはド田舎の小さな農村じゃ。その入り口近くに兄ちゃんが倒れてたんやで?覚えてへんのか?」

「僕が、倒れ、て……。っ!」

その時、何かを思い出したようにその人は目を見開いた。


『ガバッ!』

そして何か、いきなり体を起こしたっ。な、何だ……っ?

「あのっ!すみませんっ!助けて欲しい事があるんですっ!」

おっちゃんの肩を、鬼気迫る表情で掴んだ。

「ど、どないしたんや兄ちゃんっ!とりあえず落ち着いてくれっ!順番にっ!順番に聞かせてくれっ!肩痛いってっ!」


「っ、す、すみません……っ!」

痛い、と言われて慌てて手を離す男の人。


「兄ちゃん、何があったんや。教えてくれへんか?」

「はい。実は……」


そう言って、男の人、『ホルグ』さんは語り始めた。


ホルグさんはここから徒歩数日の場所にある『冒険者ギルド』に所属する、冒険者パーティの一員だったそうだ。


ちなみに冒険者とか、冒険者ギルドに関しては俺が前世で読んでたラノベの冒険者と差異は無い。ギルドが仲介する依頼を受けて、依頼の対価として報酬を貰う仕事だ。


で、そのホルグさんのパーティはとある討伐依頼で近くの山に来ていたと言う。そして依頼の目標を無事討伐したは良い物の、直後。人食い鬼の異名を持つ魔物、『オーク』の群れが現れ、ホルグさんと彼の仲間は連戦を強いられた。


ホルグさんたちのパーティはそこそこ名の知れたパーティだったが、連戦の疲れもあって、崖際に追い込まれてしまったそうだ。何とかオークの群れを倒したものの、戦闘の影響で脆くなっていたのか、崖の一部が崩落。疲労から咄嗟に動けなかった仲間の2人が崖下の川へと落下。リーダーの人も咄嗟にそれを追って川に飛び込んだと言う。


そして、1人残されたホルグさんは、リーダーの人から『助けを呼んでこいっ!』と指示を受けて、人里に降りようとしていたそうだ。そこで見つけたこの村に来たものの、連戦と全力ダッシュの疲れから、気を失ってしまった、と。


これが、ホルグさんが村にたどり着いた事の顛末だった。


「お願いしますっ!まだ山中に仲間が3人居るんですっ!怪我をしているかもしれないんですっ!どなたか、山に詳しい人は居ませんかっ!3人がどこにいるかも分からないんですっ!報酬ならお支払いしますっ!ですから、どうかっ!」

そう言って、ホルグさんは何とその場で、ベッドの上で土下座を始めた。


「お願いしますっ!大切な仲間なんですっ!どなたか、ご協力願えませんかっ!!」


必死に声を荒らげるホルグさん。その姿を見れば、彼が仲間をどれだけ大切にしているのか嫌でも分かる。


仲間のために頭を下げる事など、何の抵抗もない。きっと、それだけ大切な仲間なのかもしれない。


「……ホルグさん。あんたの気持ちは分かる。……だがすまない」

「えっ?」

おっちゃんの言葉にホルグさんは顔を上げる。おっちゃんは、申し訳なさそうに頭を下げている。


「山に魔物が住んどるのは分かっとる。それが村に来んのも、それを退治してくれてる冒険者の人達のおかげっちゅうのも分かっとる。……けんど、皆にも妻子がある。魔物に襲われて死んだら、妻と子供を食って行かせられへん。ワシ等だって、他の家の人ら養う余裕はないんや。……せやから、山に行こうって言う奴は……」

「そ、そんな……っ!?」

おっちゃんの言葉に、ホルグさんは絶望したような表情だ。


「すまん……っ!!恩知らずと罵られようと、ワシ等にも生活があるんやっ!食料や少ない薬を渡す事くらいしか出来んのじゃっ!本当に、すまない……っ!」


そう言って頭を下げるおっちゃん。俺が周囲を見回せば、他の皆だって苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべている。


皆の気持ちは分かる。皆、見捨てたい訳じゃない。でも山には『魔物』、『モンスター』と呼ばれる異形の怪物達がいる。さっき話に出てきたオークやゴブリンとかがそうだ。そして、奴らは人を見ると見境無く襲ってくる。


もし奴らに襲われて、死んだり、運良く生き延びても農業が出来ない体になったら、残された家族に負担を強いる事になる。働けなくなったらそれで終わりだ。だからこそ、みんな苦渋の決断をしているんだ。


助けたいが、それは命がけ。それも家族を巻き込んでの大きな決断をしなきゃいけない。皆、悩んで悩んで、その上で生活を取ったんだ。


誰もそれを責められない。


「そん、な……」

一方のホルグさんも、絶望したように目を見開いて力無く項垂れている。

「それじゃあ、皆は、リーダー、達は……。ぼ、僕は、どうしたら……」

項垂れ口元から覇気の無い言葉を呟いているホルグさん。


助けたくても助けられない葛藤。無理だと分かっていても見捨てられない葛藤。


皆、その葛藤から苦しい表情をしている。


誰もが苦しんでる。そんな表情を見てると、俺の心まで締め付けられるような圧迫感を覚えた。みんな、こんなに苦しい思いをしてる。俺はそれを、どうにかしてあげたいって思った。


「っ」

だから、声を出そうとした。


≪お前に出来るのか?≫


その時、自分の中から声が聞こえたような気がした。


≪お前にあの人の仲間が救えるのか?≫


その声の正体を、俺は知ってる。それは、かつて夢を否定した自分。何かに理由をつけて、挑む事を否定した自分だ。


≪禄に実戦経験も、何も無いんだぞ、お前。それで出来るのかよ≫


……ネガティヴな自分の言う事にも一理ある。俺には経験なんて無い。だから不安で、怖い。失敗するんじゃないかって、誰も救えないんじゃないかって。怖くて怖くて仕方ない。昔の俺なら、怖いから、分からないからって言って、逃げたかもしれない。実際、今でも不安でしょうがない。


でもっ!

『やってやるさっ!』

≪……出来る証拠がないだろ。確証なんてない≫

『そうだっ!でも、やるっ!そのために俺は、この力を望んだんだっ!』


脳裏に浮かぶ、今でも焼き付いている景色。あの煙と炎に包まれたビルで、女の子を助けるために全力だった自分を。あの日の出来事があって、決めたんだっ!俺は、人を助けるってッ!


そして、女神様の言葉を。


≪あなたの来世、次なる運命を。精一杯生きなさい≫


それはあの日、女神様が俺に言ってくれた激励の言葉だ。そうだっ!やってやるっ!俺はこの力で、誰かを助けるって決めたんだっ!


あの日の景色が、女神様の言葉が、俺が一歩を前に踏み出す勇気をくれたっ!


「あのっ!俺が行くよっ!」


「え?」


皆が塞ぎ込む中で、俺は声を張り上げた。ホルグさんが呆然とした表情で俺を見つめる。するとホルグさんが何かを言おうとした。

「おいマコトっ!お前、何を言ってるんだっ!」


でもそれよりも早く、親父が俺の肩を掴んで俺を自分の方に向けさせた。

「分かってるのかっ!?魔物だぞっ!?そんなのが居る所に行くなんて、俺は許可しないぞっ!!」

「分かってるよっ!!それでも、あの人の仲間を俺は放っておく事は出来ないっ!」


声を荒らげる親父と張り合うように俺も声を荒らげる。

「それに俺は休みの時、何度も山に行ってるっ!山歩きには馴れてるっ!」

「危険だっ!死にに行くようなもんだぞっ!」

「分かってるよっ!危険だって事はっ!それでもっ!」


『ギュッ』と拳を握りしめる。自分の中で血が沸き立つのが分かる。頭の中が沸騰しそうだ。


「誰かが助けを求めてるのならっ!俺は全力でその人達に手を差し伸べるっ!俺は、あの日、そう決めたんだっ!」


俺は皆に向かって思いっきり叫んだ。

「マコト、お前は……」

俺の叫びに半ば呆然とする親父。周りのおっちゃん達や奥さんたちも。そして何よりも、ホルグさんもだ。


「危険だって事は十分承知してる。俺みたいなガキが無謀なこと、バカな事言ってるってのも分かってる。でも、それでも俺は、誰かが助けを求めてるのなら、助けたいっ!その人の命を諦めたくないんだっ!だから俺は行くよっ!」

「ッ、マコトッ、分かってるのかっ!?危険なんだぞっ!死ぬかもしれないんだぞっ!」


親父は本当に、心配そうな表情で俺を見つめている。けど決めたんだ。俺は誰かを助けるって。


「大丈夫だよ親父。これでも俺、自分の事鍛え続けてきたんだ。だから俺は死なない。必ず戻ってくるからさ。……だから頼む、行かせてくれ、親父」

「ッ、くっ、うっ」


親父は本当に迷ってるみたいだ。止めるべきか、行かせるべきか。すると……。


「僕からも……」

ホルグさんが声を上げた。

「僕からもお願いします。どうか、息子さんの力を貸して下さい」

「ッ!あんた、何言ってるのか分かってるのかっ!?マコトは俺の大事な息子なんだっ!そっちの現状には同情するし、助けたいと思うっ!だが息子を危険にさらしたがる親なんて、居ると思うのかっ!?」

「……重々、承知しております。子供を危険に晒すのは、良くない行為である事は。ですが今の私や仲間には、力を貸してくれる人が必要なのです。どうかっ!」


そう言って、ホルグさんは、今度は親父に土下座を始めた。

「くっ!?」

親父は、苦虫を噛みつぶしたような様子で悩んでる。それからしばし、親父は迷った様子だった。


そして親父は、俺の事を見つめる。俺はそれを、親父の瞳を真っ直ぐ見上げた。

「……条件がある」

すると親父は静かに口を開いた。


「どんなことがあっても、息子を絶対、村まで連れて帰ってきてくれ。もし、それが約束出来ないのなら、息子は協力させられん……っ!」


それはきっと、親父の最大の妥協だったんだ。どこか悔しげな、眉をひそめた表情からも、本当は俺を行かせたくないと言う思いが見て取れる。


「……必ず、息子さんは無事にこの村へ返して見せます……っ!」

対するホルグさんも、真剣な表情で頷いている。



そうして、俺はホルグさんと一緒に山へ行くことになった。俺はすぐさま家に戻り、準備を始めた。


自分の部屋、ベッドの下の木箱に隠していた『装備』を取り出す。


それは俺がこの数年、コツコツ貯めたお小遣いで買って準備しておいた者達だった。


服はオリーブ色の戦闘服を纏い、その上には弾を入れるポーチ付きの軍用サスペンダーを装着。ヘルメットである鉄帽を被り、顎紐を締める。中くらいのサイズの背嚢、リュックにはこれまで俺が購入した簡単な医療用アイテムと軍隊式の携帯食料、レーションや飲み水。更に役に立ちそうなアイテムと現在俺が持ってるお金を全部入れた。現地で何か急に必要になった時のために、お金も持っていく。


ベルト式のホルスターを装着し、そこにSAAを入れる。サスペンダーのポーチには、SAA用の『.45LC弾』を30発入れておく。ベルト式ホルスターの左腰側にはナイフケースをぶら下げ、そこに入っている本物のナイフ。


メットは被った。軍服は着た。リュックに必要な物は入れた。ホルスターにSAAは入れた。ナイフもある。


最後に取り出すのは、あれか。


俺は木箱の中に、最後に残っていたものを取り出した。


それは長物だ。名を、『ウィンチェスターM1897』。トレンチガンとも呼ばれた、第1次大戦の塹壕戦で猛威を振るったショットガン、散弾銃だ。


生憎今の俺には、正確な射撃の技術は無い。だからこそ『狙って当てる』のは難しい。その点に関して言えば、散弾の雨を降らせるショットガンは俺にぴったりだ。ある程度狙いが甘くても当る。『狙って当てる』は出来ないが、今の俺の力量ならどうせ出来ない事だ。だからこそ、こいつを買ったんだ。


俺はトレンチガンの動作確認をすると、ポーチに12ゲージのバックショット弾を入れていく。バックショット弾は計6発から9発の小さな鉄球をばらまく弾だ。今現在、俺の手元にあるのはそれが15発。トレンチガンの装弾数は5発。これを撃てるのは15回だけだ。無駄撃ちは出来そうにないな。


「よしっ!」


弾は持った。武器も持った。装備もまとめた。


俺はリュックを背負い、壁に立てかけてあったトレンチガンを手にした。トレンチガンを両手でしっかりと持つ。心なしか、山の中の訓練で持ったときよりも、銃の重みを感じられた。


そうだ。これから俺は実戦に行くんだ。やべぇ、やっぱ緊張する。けど、ここまで来たんだ。今更後戻り出来るかっ!


「っしっ!行くかっ!」

俺は気合いを入れる意味でも声を上げる。そして、俺は部屋を出て、家を出た。


家の外に待っていたのは、親父と母さん、ホルグさんに村の皆だ。


「な、何だあの格好?」

「手に持ってる武器、なんだ?」

皆俺の格好を訝しんでいた。まぁ見た目は完全に第1次大戦頃の軍人だ。若干の恥ずかしさを覚えつつも、俺はそれをかぶり振ってホルグさんの傍へと歩み寄った。


「準備は出来ました。行きましょう、ホルグさん」

「あ、あぁ」

ホルグさんも俺の格好に戸惑っていたようだが、すぐに気持ちを切り替え真剣な表情を浮かべている。


「マコト」

その時、親父が声を掛けてきた。

「分かっていると思うが……」

「うん。分かってるよ。必ず帰ってくるよ。ホルグさんの仲間を助けて、俺も一緒に」

「絶対だぞ?絶対だからなっ!」

「分かってるって」

心配そうな表情浮かべる親父を安心させようと俺は笑みを浮かべる。そうじゃないと、親父の心配に感化されて、俺の中の不安が溢れ出しそうだったから。


親父の傍で、母さんも心配そうな表情を浮かべてる。他の村の皆もだ。


『ギュッ』

それでも俺はトレンチガンを握りしめ、自分の意思を、覚悟を再確認する。


俺は絶対、生きてここに、家族のところに帰ってくる。ホルグさんの仲間も助けて、必ずなっ!


「ホルグさん」

「分かった。行こう」


俺はホルグさんの後に続いて歩き出した。皆に見送られながら、俺は危険の潜む山へと向かった。


そこで待つ、ホルグさんの仲間を助け出すために。


この世界に転生して15年。俺の最初の戦いは、山中で助けを待つ人達の救出ミッションだった。


そして、その救出ミッションが、今正に始まったんだ。


     第2話 END

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