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婚約破棄してほしいと頼んできた令嬢から決闘を申し込まれました  作者: 佐倉 百


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掌握、混乱の冬2


 この冬、軍部はアドリエンヌによって掌握された。


 訓練場で俺がうっかり正体を明かしてしまい、騎士の心が折れた。それはもう見事なぐらいに。屈強なむさ苦しい男どもが、訓練場で打ちひしがれる姿は圧巻だったよ。


 可哀想だから二度と見たくないが。


 男社会で生きてきた彼らにとって、王妃――それも深窓の令嬢にしか見えないアドリエンヌに負けたという事実は、プライドを粉々に砕くには十分だったのだ。


 しかしここで大人しく黙っているアドリエンヌではなかった。巧みな話術で彼らのプライドを復活させ、わずか数分で武装集団をまとめてしまう。令嬢として社交界を生き抜いてきたアドリエンヌに弱点はない。


 にこやかに微笑みながら陰口を撒き散らすスピーカー貴族に比べれば、剣が友達の脳筋集団など敵ではないのだ。


 危うく俺まで洗脳させられるところだった。耳を塞いでいたケヴィンに膝裏を攻撃されなければ、ノリで挙兵していたところだ。社交界で磨いた話術、恐るべし。


「クリストフ様。今なら隣国を落とせますが、いかがいたしましょう」

「頼むから大人しくしてて」


 訓練場で整列する騎士を前に、アドリエンヌが提案をした。当然、却下だ。

 どうしてこの武闘派お嬢様はコルヴィエ国の領土拡張に積極的なのか。武闘派だからか。納得。


「しかし、潜入させたメイドの情報によりますと、グリーエン王国の宗主国であるセルギニア帝国が我が国への侵略を画策しているとの情報が」


 潜入、させたのか。

 あのアサシンメイドたちを。

 いっそ軍を出さなくても良くないか。そんな情報を得られる位置にいるなら、簡単に寝首をかけるだろう。


「クリストフ様! こちらにおられたか!」


 慌てた様子で訓練場に入ってきたのは、確かジレ元帥の下で参謀を務める武官のアロイスだ。俺に近づき、内密に話があると前置きをする。


 警備上の都合でケヴィンが持ち物検査を済ませてから、アロイスは密談ができる位置に来た。訓練場に並ぶ騎士と、鎧姿のアドリエンヌに怪訝そうな顔をしたが、己の職務を優先して俺に告げる。


「グリーエンとセルギニアが同時に兵を挙げました」

「こんな時に……」


 バーサーカー集団が結成された直後に挙兵とは間が悪い。殺る気に満ち溢れた軍団の統制方法なんて知らないよ。アドリエンヌに任せたら、今度こそ王国(グリーエン)帝国(セルギニア)の首都を献上されてしまう。


 もしくは両方か。嫌すぎる。コルヴィエの大雑把な気質と帝国の質実剛健な気質は相性が悪すぎる。


「それで、状況は」

「グリーエン兵はコシェ男爵が普及させた食人植物にて足止め、セルギニア兵はエクトル様考案の兵器にて氷漬けとなりました」

「うん?」

「クリストフ様が準備なさっていたことが、功を奏した様子」


 俺の知らないところで、俺が考案した覚えがない作戦が成功したようだ。一緒に話を聞いていたアドリエンヌも満足そうに頷いているし、知らないのは俺だけか。ホラーかな。


「セルギニアは新たな兵を投入いたしましたが、先王オーギュスト様とレティシア様の活躍により、徐々に後退しております」


 姿が見えないと思ったら、何やってんの父上。あと母上って戦えるのか。知らなかった。


「敵側は鬼神と殲滅の魔女が再臨したと混乱しております。おそらく、近日中に和平の使者を送ってくるかと」

「え。俺の両親って、そんな物騒な名前で呼ばれてたの?」

「昔のあだ名については緘口令が敷かれておりましたので」


 俺が生まれる前は戦争を仕掛けられて大変だったと聞いているが、両親があだ名をつけられるほど前線で活躍したとは聞いていない。母上なんて魔法は少しだけしか使えないと言っていたはずだ。


 あれは嘘か。いや、母上のことだから、一つの属性しか使えないという意味で少しと言いそうだ。


「くっ……先を越されてしまいましたわ……」


 一緒に話を聞いていたアドリエンヌは悔しそうに剣を握りしめた。チラリと訓練場を見れば、アドリエンヌのただならぬ様子に騎士たちが動揺している。


「一体、何が……」

「まさか国境の町が敵兵の手に落ちたのでは?」

「ならば今こそ我らの勇姿を見せる時!」

「クリストフ様、出陣のご命令を!」

「いや、国境で追い返したから出番はないよ。そもそも君たち、王都の守護が主任務じゃないか」


 すんっと静寂が落ちた。

 だいたい敵と交戦する騎士は国境近くに詰めているし、魔獣の討伐やら暴動に備えている騎士は各地の拠点にいる。だから王城には警備を主任務にした集団しかいないのだ。


「クリストフ様。猛る騎士を(なだ)める手腕、お見事です」


 彼らと同じく絶望的な顔でアドリエンヌが俺を褒める。本気で忘れてただろ。声震えてるよ。


「では、我らの出番は無いと……」

「そんな……」


 訓練場に嘆きが満ちた。屈強な野郎どもが肩を震わせ、膝をついたり地面を殴って感情豊かに落ち込んでいる。何で戦争に負けたような空気を醸し出してるんだ。アドリエンヌも涙を浮かべて慰めに行くんじゃない。


 もうヤダこの国。

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