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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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その命の掟と

  恨みつらみを人は嫌う。何故か。それが、緑にはわからない。人を恨むことの何がいけない?ただ理由もなく恨むわけじゃない、そんなのはただの勘違いであって恨みではない。肩をぶつけ垂れたことに憤ってはなぜいけない?謝らなかった相手を恨むことが、なぜ許されない。


 意味が分からない、分からない、分からない。どうして復讐がいけない。母を殺された恨みに殺し返してはいけない。死ねとむけられたナイフを奪って向け返した緑が悪くなるのは、なぜだ。


 学がないからかと、図書館に通って様々なことを学んだ。知っている知識も常識も格段に増えて、だけどそれでも学がないからと馬鹿にされる。なぜだ。学校に通うことが、そんなに大切か。母を亡くして学校に通わなかった緑が、いけないのか。だが、緑は学校で習うものと遜色ない知識を自分で身に着けた。本には人から習うことより自分で身に着けることのほうがはるかに困難だと書いてある。ならばその困難を乗り越えた緑が、易しい教育を受けてきた人間に蔑まれねばならない理由はなんだ。


 いくら努力しても蔑まれるこの日々を、この世界を恨むことが、なぜいけない。そうやって緑を蔑む人々の定めた規則に従って生きていかねばならないのはなぜ?


 だから緑は、もう誰が何を言っても聞かない。緑を貶めるためにそんなくだらないルールを持ち出してくるこの世界のどこに、緑の従うべきものがあるというのか。


 だから、緑は誰も来ない山の奥で、一人で暮らした。するなということを喜んでするほどに歪んだ性格はしていないつもりだった。それでも、否定しかない世の中で生きていくのは辛すぎるから。


 山の奥には、人はいない。いるのはただ刹那の時を生きる虫や獣だけ。そこにはおかしな規則は何一つなくて、つまらない見栄の張り合いも蔑みも、何一つなかった。








                   ★

 数か月後、普段人の立ち入らない原生林のはずれで、年端もいかぬ少女の遺体が発見された。獣に食い荒らされ無残な姿となり果てたその少女の死は様々な波紋を呼び起こし、彼女を憐れむものも、世の在り方を問うたものも決して少なくはなかった。


 けれど、誰ひとりとして残っていた彼女の顔が笑みを形作っていたことには気づかない。それは、確かに幸福な笑みだった。人の世界では生きてゆくことのできなかった少女の、森の掟を理解して死んでいった、安堵の笑みだった。


緑は後悔していません。

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