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第十四話 ユズと、重い引き金

 


「あー! 負けたー!」


 肩を落として、女が悔しそうな声を上げる。

 人の上半身に蛇の下半身をくっつけたような魔物、ラミア。その中でも直接戦闘と土魔法に優れ、魔王シュカ軍幹部、【地這姫ミラ】。魔物の中でも有数の強さを誇る彼女が、敗北宣言を発していた。


 勇者ラゼとの早期決着のために出向いた魔王連合、その直前の一幕。月明かりが照らす中、ガオウとミラは模擬戦をしていた。

 ミラの近接での戦闘能力はガオウとも引けを取らない。更に、『土卵(ランドドーム)』による空間の密閉により、有利な戦況で戦うことができる実力者だ。実際、この作戦によりニンカは苦戦を強いられている。


 だが、実際にはガオウはそれに打ち勝ち、見事勝利を収めた。


「まさかそもそも『土卵(ランドドーム)』に入ってくれないとは……」


「そりゃ、闘争始まって初手でいきなり詠唱してきたら警戒するだろ」


 ミラの暗闇デスマッチは、そもそも土卵(ランドドーム)が完全に成功することが前提だ。幽閉に失敗すれば、むしろミラがドームの中に一人取り残される形になる。ラミアの熱源感知も、土魔法で遮断されれば効力を失うため、ドームの中から一方的に魔法で攻撃するのは非効率的だ。ハイリスクハイリターンな戦法の、リスクだけを押し付けられたパターンである。

 最も、下手にドームに攻撃すれば自分の居場所を知らせるだけになるので、ガオウ自身も迂闊に攻勢に出られず、互いに痺れを切らしてドームを解除するか攻撃するかの、膠着した心理戦となった。

 そして、その心理戦に辛勝したのが、ガオウである。


「正直、マジでしんどかったけどな……」

「ねー、あたしの集中力が持ってたら、多分もっと長くなってたしね」


 戦闘に関するIQが高く慎重なガオウと、シングルタスクの際の集中力が凄まじいミラの心理戦は、互いに隙を見せない立ち回りを見せ、まさしく泥沼と称して差し支えなかった。

 それは双方にもある共通認識だったようで、二人仲良く肩を落とす。


「というか、ガオウくらいなら頑張ったら壊せそうだけどね、あたしのスキル」

「そうでもねえよ。火力だってギリギリだし、何より出の速さが違え。破壊できたとしても、直後に抱えるリスクがリターンに見合ってなさすぎる」


 事実である。


 ガオウの直接攻撃にかかれば、強引な突破事態は可能だ。だが恐るべきは、土卵(ランドドーム)の修復速度の速さ。本人はマルチタスクが苦手である故に魔法の使用頻度を抑えているなどと言っているが、それでも土魔法の有り余る才能が、高速な修復を可能にしている。

 ともすればガオウのリーチでは、土卵(ランドドーム)を1から広く再展開され、ミラを撃破する前に折角回避したデスマッチに巻き込まれる可能性すらある。


 しかし、


「俺はリーチだけは、どうにもならねえからな」




 それは、事実ではない。


「――――そうですかね。オレはそうは思いませんけども」


「『ソリル・トレジア』!」

「闘、争ッ!」


 瞬間、声のした背後へと、ミラの土魔法とガオウの拳が炸裂する。

 仮にも魔王連合の幹部二人に気取られず、背後をとった。その時点で、彼らにとって脅威であることに変わりはない。

 迷いなく、声の主を再起不能にすらする気で、攻撃を放った。


 だが、声は響く。


「躊躇なし。フヘヘ、恐ろしいったらありゃしないですよ」

「何者だ、テメエ」


 振り返った視界の先には、月光に照らされる二つの人影。


 一人は、奇妙な物体にまたがった魔族。前後の二輪しかない、半分に割った馬車のような何か。もし異世界人が目にしたら、『バイク』と称されるだろうそれは、静かな駆動音を鳴らして待機している。

 そして、もう一人が、先程から話している者。


「おっと、名乗ってなかったですね、ガオウさんにミラさん。オレらは魔王オーバー様の遣いです」

「オーバー……」


 興味の薄さ故に他人の名前を覚えないガオウでも、流石にその名前は知っている。


 魔王オーバー。今いる5人の魔王の中でも最古参に位置する。敵からも同族からも恐れられた彼には様々な異名が存在するが、最も有名な異名こそが『強欲の魔王』。

 財宝、栄誉、戦力。そのすべてを欲するオーバーは、魔族領から戦士を片っ端からかき集め、その勢力を厚くしている。

 今や最強の魔王であるとの呼び声も高いのが、魔王オーバーだ。


「んで、オレがオーバー様のもとで鍛冶やってるシャトルです。そこで黙ってるのがイノーズ。ただの送迎なんで気にしないでいただいて結構ですよ」

「イノーズ……」


 名乗られた名前のうち後者、二輪にまたがる魔族の方の名前をミラが復唱する。

 ガオウは、そんなミラにわずかに顔を寄せて、小声で話しかけた。


「そいつ知らねえんだけど。誰?」

「幹部じゃないけど、オーバーの部下の中じゃそこそこ有名だよ。確か、空間移動系の固有スキル持ちだったから」

「へー……ってか、ゼロ・カロリアもそんな感じの固有スキルじゃなかったか?」

「? …………あぁ! ラゼ・カルミアか。ノーヒントじゃ絶対分からなかった。あんまり詳しく知らないけど、条件とか仕様がちょっとずつ違うんだと思う」


 小声で答えが返ってくる。ガオウは思考を巡らせ、どうやって二人の背後をとったのかを理解した。送迎とも言っていたし、恐らくイノーズとやらの固有スキルによるものなのだろう。

 しかし未だ、彼らの目の前に現れた理由は明かされていなかった。


 その思考を察しているのか否か、シャトルはにやけ面を浮かべながら、ガオウに近寄る。

 警戒心を高め、ガオウは構えをとった。


「フヘヘ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。仮にあなた方をブッ飛ばすのが目的だとしたら、オレみたいなひ弱な鍛冶師なんてよこさないですって」

「んな理論信用でき…………」

「決して危害は加えませんよ――――魔王オーバー様の名に懸けて」


 ガオウは押し黙る。

 相手は違えど、ガオウもミラも魔王に仕える身。その名前に懸けるということの重さは、十分自分が知っている。


 理解を得たことを感じ取ったシャトルはにっこりと笑い、ガオウの体をじっと見つめた。


「フヘヘ。やっぱり、凄まじいですね」

「……何がだよ」

「あっと、自覚はないんでしたね。ただ、ミラさんなら分かるんじゃないですか? ―――()()()ですよ」


 その瞬間、ガオウは全身の筋肉が硬直するかのような錯覚を覚えた。


「ガオウさんと同じく、オレも魔力見えないんでこの眼鏡使って見てるんですけどね。いや、とんでもないですよ。そこらの魔法使いよりよっぽど潤沢な魔力量。複雑な魔法でもなければ、バカスカ打っても枯れないレベルです」


 何やら、シャトルが色々と話している。

 眼鏡をしていることには、その瞬間まで気が付かなかった。顔を隠していたわけでもないのに。そういえば、視覚の情報を阻害するアイテムがあるとかないとか聞いたことがある気がする。

 後から思い返してみれば、シャトルの声はどうにも高い、女のような声だった。勝手に一人称から男だと思っていたが、もしかしたら違ったのかもしれない。そのことに気づけなかったのも、そのアイテムの影響だったのかもしれない。

 だが、ガオウが気づけなかった最大の理由は、酷く動揺していた精神状態だ。


「オレも初めて見ましたよ。これだけ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて。膨大な魔力を抱えておきながら、放つどころか見ることも感じ取ることもできないなんて、変わった逸材もいるものですね」

「俺は…………」

「ガオウ、大丈夫?」


 ミラが顔を覗き込む。我に返ったガオウは首を振って頭を冷やすと、衝動のままにシャトルを睨み付けた。


 自身に魔力が宿っていることは知っている。最近になってからだが、魔王ヴィランに指摘されて初めて己の表面化することのなかった力を知った。

 そもそもオーガという魔物は、魔法を使うように設計されていない。必然的に魔力の才を持つものもおらず、要らぬ魔力を持つものだってほぼ僅かだ。むしろそんな環境の中、膨大な魔力を得ていたガオウが異端中の異端であったと言えよう。

 しかし、それを感知する術を、ガオウは持たない。どれだけ修練を積もうと、魔力の才が芽生えることはなかった。

 幸いにして、ガオウには強靭な肉体がある。そもそも、魔王ヴィランの目に留まったのも、その近接戦闘の実力によるものだ。自らの才のなさを悲観したことはない。


 だから、シャトルの意図が、ガオウにはまだ読めない。


「――――だったら何だってんだ」

「フヘヘ、そう邪険にしないでくださいよ。そんなガオウさんに素敵なプレゼントを渡すために、オレは来たんですから」

「プレゼント……?」

「オーバー様が『魔王ヴィランの配下は揃いも揃って俺がスカウト()()()()()奴らだ』って愚痴ってたんで。無理やり引き込むんじゃなくて、強くして恩を売る方向で行くみたいですよ」


 そういうと、シャトルは懐から何かを取り出した。


 それは――――


 ●


 ――――()()()()


 ファンタジーの世界に溶け込まないそれがガオウの両手に握られているのを、俺は吹き飛ばされながら目にした。

 何が起こったのか瞬時に把握できず、脳内が整理できないままに地面を転がる。

 落ち着け、俺。震える右腕で起き上がりながら、なんとか状況を整理する。


 恐らく俺をブッ飛ばしたのは、あの銃だ。この世界に銃があるのかとか、そんなことは今は置いておけ。

 ともかく、ガオウの銃の射線上に俺がいて、俺は撃たれ、吹き飛ばされた。それは確かだと思う。だが、撃たれた痛みも傷もあれど、俺の体には銃弾が命中した形跡がない。

 直前に聞こえたのは、発砲音とはまた違った音。そして、見えないものに吹き飛ばされるこの感覚。双方共に、俺には覚えがある。


()()……!」


 魔力を魔法に変換せず放つ、魔撃。どういう理屈なのかは俺が考えても正解に辿り着くわけがないので考えないが、ともかくガオウの持つ銃は、魔撃を放つ銃だ。

 なんてことはない、話は単純だ。今まで近接戦闘のみだったから均衡を保てていた相手に、遠距離の攻撃手段があることが判明した。以上だ。


「マジでフザけんなよ……!」

「フザけんな、はこっちのセリフだってんだよ。胸糞悪いもん使わせやがって……」


 苛立ちを言葉に乗せる俺だが、それはガオウも同じようだった。嫌悪していた俺に追い詰められたから……とは、また少し違うように感じる。それが具体的に何なのかまでは分からないが。


「絶対負けねえ……負けたら終わりなんだよ……」


 まるで譫言(うわごと)のように勝ちへの執念を繰り返す。見開かれた目の焦点は定まらず、足取りもふらついている。だがそれは、体力の低下によるものではない。何か心理的に、大事なものが破壊されてしまったかのような。


 そして、俺を睨み付けると同時、二丁拳銃を向け、引き金を引いた。


「――――ヒュハ」


 久々に漏れ出た声とともに、俺は横へ跳ぶ。不可視の何かが空を切る音が聞こえた。

 ガオウは俺の体を追うようにゆっくりと回転しながら、人差し指を何度も動かす。その度に空を切る音、射線上の物体が破壊されていく音が響く。


「ヒュハハハハァ!?」

「笑い方キモいんだよ!」


 俺らがいた元の世界では、銃は正しい姿勢、持ち方で撃たねばならなかった。反動だか何だかで、自分が危険だからだろう。詳しくは知らないけど。


 多分その反動は、この世界にも存在する。銃の構造は知らないが、現にガオウが魔撃を撃つ度に両腕が僅かに震えているから。

 だが、この世界はファンタジー。腕力も、元の世界とは格が違う。両手に一丁ずつ、適当に銃を撃ったとしても、反動は無理やり抑え込める。

 つまりは、撃っても狙いがブレにくい。


「ヒュハハハハ! 正確過ぎねーか!」


 そういう最中にも、ガオウは構わず撃ち続ける。さては魔力量の条件をクリアしていたら、残段数という概念は存在していないな?

 壊れ武器かよ。なんせあの銃が普及していたら、定義上誰でも魔法使いになれる。


 そして何より、


()()()()()()()……!」


 それは、俺たちがあの銃の存在を知らないということが最大の問題だ。

 ソウさんの固有スキルで相手の戦法をカンニングし放題。そこまでして初めて、俺たちの戦力差は埋まる。

 だが、そこに知らない武器が登場してきたら、話は大きく変わってくる。


 ソウさんの固有スキルは自他共に認めるバランスブレイカーだが、いくつか弱点があることも聞いた。だからそれが、今のような綻びとして響いているのだろう。

 神殿の破壊と、ガオウの銃。この二つは完全にこちらの想定外だ。前者は何となく理由は分かった。そして後者も、なんとなく分かってきた。


「ヒュハハァ! テメエ、そんないい武器、いつ手に入れやがった!?」

「……!」


 ガオウが僅かに表情を変える。返答はないが、これはビンゴか?


 単純な話だ。ソウさんが固有スキルを使った後に手に入れたのだとすれば、俺たちが知らなかったのも納得だ。ガオウのブレない魔撃を俺が避け続けられているのも、まだ銃に慣れていないからだとすれば説明がつく。

 正直どんな確率だよとツッコみたい気持ちではあるが、俺らは襲撃の一日前に魔物の固有スキルが追加されたくらいには間が悪いんだ。ありえないことなんてない。


 まあ、それが分かったとて、状況は一切好転していないんですけどね!


「どーしよ……」


 顎に手を当てながら走りながら考える。ガオウは限界を突破して一周回ったのかすごい元気そうだし、俺も俺で今が一番好調だ。

 あれでも柔軟なガオウのことだ。あまりのんびりしていると銃の扱いに慣れかねない。


「ヒュハ、仕方ねえ……今なら調子いいし出来るだろ!」


 そして俺は、進行方向を直角に曲げる。即ち、ガオウの方向へとまっすぐに突き進む。

 本当は蛇行しながら魔撃を回避して接近しようと考えていたが、やめることにした。なんせ、それではガオウが俺を()()()()()


「……?」


 ガオウが俺の自滅ともとれる行動を不審に思ったのは刹那、次の瞬間には迷いなく俺に向かって引き金を引いた。その銃身はブレず、魔撃はまっすぐに飛翔しているのだろう。


 ――――タイミングも、狙いも、全て割れている魔撃が飛んでくるのだ。


「クソ甘えよ!」


 右手を眼前へと掲げ、襲い来る衝撃を()()


 ラゼのノーモーション魔撃を知らんのか? いつどこからどこへ打ち込まれるか分からない魔撃を打ち込まれ続けた俺にとって、魔撃の銃弾なんぞ遅るるに足らん。

 掴んだ手の中で魔力が弾け飛びそうになっているのを感じる。なるほど、一発一発の威力はかなりのものだ。ラゼの魔撃と同等ほどの威力を秘めている。まあラゼは俺に殺す気の魔撃は撃ったことがないから実際は更なる威力が見込めるのだろうが、比較対象になる時点で十分すぎる火力だろう。


 ――――だが、()()()()はもっと強い。


「《擬撃(シミラゼーション)》ッ!」


 俺は右腕を振りかぶり、手の中の魔撃を投げる。

 空を切る音はより鋭く轟き、周囲の草木を蹴散らしてガオウに迫り、


「は!?」


 困惑するガオウが左手に持っていた一丁の銃を、後方へと弾き飛ばしていた。


 これこそが、俺の初の()()()、《擬撃(シミラゼーション)》。

 遠距離攻撃の不足に悩んでいた俺がラゼのアドバイスにより習得したスキル。牢獄迷宮で考案した『簡易版魔撃』をスキル化することにより実践級へと磨き上げた。


 俺が掴み、投げた魔力は、スキルの恩恵により威力を底上げされる。あとは俺の投げる速度と角度だけだ。最近ピッチングコントロールの練習はしてなかったから少し狙いからは逸れたが、その結果一丁脱落させたのは上等な怪我の功名だ。

 そして、速度に関しては、今の好調な俺なら申し分ない速度。


 即ち、魔撃を掴む最初のステップさえ失敗しなければ、完全上位互換の魔撃を叩き込むカウンターとなる!


「ぐ、テメエ、どういう……!」

「ヒュげぼぁハハ、さあな!」


 まあ片腕しか動かない状態で投げたから、その間に撃ってきた魔撃には無抵抗でブチ当たる羽目になるんですけど。そこは今のテンションで乗り切る!


 ガオウは恐らく動けない。いくら銃身が反動でブレないからといって、自分も動き回りながら相手にも命中させることができるほど慣れてはいまい。完全に表情が壊れかけのそれだが、自身の技量を冷静に把握して余計なことをしないだけの判断力はあるらしい。

 つまり、俺の動きがそのまま双方の距離に直結する。足は止めない。残り数メートル!


「勝つ、闘争、負けねえ、くたばれァ!」


 もはや文章として意味をなさない言葉を発するガオウは、血走った眼で銃を乱射する。

 俺は再び魔撃を掴もうと正確な位置に手を伸ばして――――右手の掌が、血肉となって弾け飛んだ。


「うーわ、そうなるかぁ」


 たいへんグロテスクなことになった右手を見やり、俺は呟く。

 俺の固有スキルは『接触(ジャスティスハンド)』。実体をもたないものであろうが手で触れることができるスキルだ。だが、火に触れれば火傷するし、魔撃を掴めば衝撃は掌に受け続ける。

 既に《擬撃(シミラゼーション)》を撃った時点で血だらけだったのだが、その限界が今来たらしい。流石にもう魔撃を投げ返すのは無理だ。右手がすり減ってなくなる。


 脳内麻薬のせいか、右手の痛みはほとんど感じない。ならば突破だ。

 距離的にも、あとガオウが引き金を引けるのは二発が限界だろう。ここから全て、気合と根性で突っ切ってみせる!


「ヒュハハハアハハハアア!」

「負けねえ! 闘争には、絶対負けねえぇぇぇッ!」


 狂った二人の、最後の対面(ファイナルラウンド)


 ガオウの放った銃弾が、俺の腹を直撃する。

 内臓がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような気色悪い感覚。牢獄迷宮で味わって以来だ。もう着弾点がどうなっているか確認する暇もない。

 だが、足は動く。目は見える。頭は回る。拳は握れる。ならば無傷と相違なし。


 止まらず、加速する俺を目にして、ガオウの表情がさらに変わった。そして、懐かしい感情が俺に届く。

 即ち、殺意だ。


「勝つ! 勝たなきゃ……テメエは今ここで、殺さなきゃならねえ!」

「ヒュハハハハハハハハハ! そう来なきゃなァ! やろうぜ、ガオォォォォウッ!」


 残り一メートル。

 俺の拳と、ガオウの銃身が交差して。




「――――それ以上はいけません。主様(マスター)


 漆黒の左手が俺の腕を掴み、漆黒の右手がガオウが持つ銃の銃口を逸らしていた。


「……は?」

「あー、そういう……」


 その不可思議な現象に困惑の声をこぼしたガオウ、納得の声をあげた俺。その反応は真反対だが、どちらも目の前にいる第三の乱入者についての反応だ。

 だが、どちらの反応も正解だ。ガオウの困惑ももっともだし、俺の反応に関しては、その腕に見覚えがあったから。


 漆黒の体躯に、金属質な触感。派手すぎない装飾。

 それはまさしく、俺専用の防具にして魔物。


「思ったより起きるの早かったね。アマハ」

「はい、初めまして。主様(マスター)


 全身鎧にしてゴーレム、アマハの目覚めが、たった今起こった。



擬撃(シミラゼーション)

いや技名きっっっっっっしょ!?

それはそれとしてユズ君初の本格的な遠距離攻撃。まあ受け身な攻撃を正式に彼の攻撃としていいのかって話ではあるが。

元が魔力なら何だろうとスキルの対象内なので意外と汎用性は高い。何度も使用すれば多分掌はズタズタになるけど、そこはご愛敬。ご愛敬なわけあるか。



Q. ガオウが魔力メチャクチャ持ってるなら、どうして模擬戦のミラさんは感知できなかったんですか?

A. 土魔法の適性が高すぎて土魔法を感じ取りやすすぎるから。土卵(ランドドーム)使うと外の魔力がほとんど感じられないんだよね。あれ? ひょっとして欠陥技なのでは……?


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