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第十話 ユズと、チートスキルの穴

カービィ新作発表が嬉しすぎて更新です。

 


『シュカ様、今のハピアからの報告、どう思う?』

『うーん、私たちを察知したのがついさっきなら、まあ作戦は変えなくていいかな。そう手早く無警戒から迎撃準備ってわけにもいかないだろうし。けど…………』

『けど?』

『可能性は低いと思うんだけどねー、計画が結構前から知られていた場合、生温いことしてると返って不利だ』

『んじゃ、生温くないことするの?』

『出来るだけ避けたい手段だけど、もしそうなったら内緒でね。とりあえず、万が一ガチガチに迎撃準備されてたら、意趣返しも込めて…………』


『フラメリとミラの二人で、あの神殿を更地にしちゃおっか』



 ●


 上は崩落、下は激流、これなーんだ。

 正解はここ、神殿でしたー。ふざけんなよマジで。


 花火が上がっている時には話し声が聞こえづらくなるのと同じことで、激しい魔力の高まりを関知すると、その他の魔力を感じ取ることは難しくなるらしい。

 俺からすれば花火の音は愚か、隣の人の声さえも聞こえない難聴状態だから知ったこっちゃないが。


 ミラが起こした強大な土魔法に気を取られ、アンデッドたちが帯びる魔力に気付けなかったのだろう。

 爆発を引き起こしたのは恐らく火魔法…………いや、アンデッドが火魔法を使うのは何となく違和感があるから、魔術の可能性が高いんだっけ? 知らねーよ。


 俺の視界の中では少なくとも全ての柱、そして音から察するに他の場所でも数十ヶ所で発生しており、神殿の構造に甚大な被害を起こしているのは察して余りある。

 衝撃の余波で崩落する壁やら天井やら柱の欠片が飛び、俺たちを生き埋めにせんと降り注いだ。


 が、落下したそれをも押し流さんと荒れ狂う土砂の波が、俺達を巻き込んでいく。

 確か《土卵(ランドドーム)》…………いや、名前から察するに《土鱗(ランドウェーブ)》の方か。

 ともかく神殿中の爆発を感じさせないほどの魔力から引き起こされる魔法は規模も凄まじく、波に飲まれた者は一様に流されているようだった。


 ――――まあ、しかし、これでも実戦経験数最多と自他共に認めているわけで。


「聞いてねーぞメイド長ぉぉぉぉ!」


 目下最大の計画の狂いを嘆きながらも俺は、固有スキルで空中を旋回し、瓦礫と化した天井を回避する。


 ソウさんの固有スキルにより、向こうの作戦は伝えられていた筈だった。現に、ヴィランの配下の固有スキルを使って神殿内に直接雪崩れ込むという作戦自体は的中させている。

 だが、ここまでの強行策を考案しているとは聞いてない。

 魔王シュカとミラの落ち着きぶり、そしてアンデッドに逐一火魔法を仕込む周到さからして、出たとこ勝負で突発的に編み出された作戦とは考えづらい。未来を知ることが出来ないソウさんの固有スキルでも、十分知れる範囲の筈だ。なのに何故。


 そして、もう一つの懸念点。

 それは俺、そして土のドームで囲われているミラとニンカを除き、唯一土砂の波を回避できている者。

 先程抜いた剣を持ったまま脚力だけで飛び上がり、落ちてきた瓦礫を足場に空中を走る魔王ヴィラン。すげーな。漫画とかでたまに見るけど、本当にあんなん出来るんだ。まあゲームの世界で実践されても信憑性薄いけど。


 ともかく波を回避している魔王ヴィランだが、その表情に余裕はない。平然と落下中の瓦礫で壁キックしているが、その精密な行動と裏腹に、焦りのようなものを感じるのは確かだ。

 ミラが土魔法を使用した瞬間もそうだ。俺達からまんまと逃げ仰せることが出来た隙に、うちの魔法組と同じで、魔力の高まりに気を取られやがった。

 まるで、その行動が想定外だったかのように。


 つまり、今のミラの行動…………というより魔王シュカの作戦は、魔王ヴィランと共有されていない――――のか?


「だーっ! こういうの考えられるタイプじゃねえってんだよ!」

「……っ!」


 苛立ち交じりに放った拳が、奇しくも魔王ヴィランの剣と同じタイミングで、落下してきた一層大きな天井の瓦礫を叩き割る。

 ついに神殿が完全なる崩壊を迎え、天井を叩き割った俺達の頭上には明るみ始めた空が広がった。


 そしてその頭上の遥か空中、そこに相対する人物が二人。

 魔王シュカと、今まさに崩れ去る神殿を横目で見るラゼがいた。

 その横目は焦りを帯びており、判断を下しあぐねていることが見て取れる。


 事前に伝えられてはいた。俺達をいつでもサポート出来るように、遠くへは転移しないと。それと同時に、本当に俺達に命の危機が訪れない限り、ラゼは俺達のことを手助けすることは出来ないとも言っていた。


 しかし今、神殿の崩壊に土の波という異常事態に、ラゼが俺達のフォローに回ることも検討してしまっている。

 そのままでは、魔王シュカはまんまと逃げ仰せる。俺達が足を引っ張ったせいでだ。それだけはいけない。


「問題ねえっ!」


 俺は全力で声を張り上げる。

 今は土の激流に飲み込まれているクラスメイト共も、そんなにヤワじゃない。自分で自分の身は守れる。

 たった六文字で、端的に助けが不要と伝える。


 そして、ラゼもそれを了承したようだ。外していた横目を魔王シュカへと戻した。

 あとは二人の戦場だ。何者も、介入することもされることも許されない。


 だが、そうは卸さない問屋もいる。


「待て! 勇者ラゼ!」


 その叫びは、やはりラゼに執着を見せる魔王ヴィランのもの。

 その言葉を聞いた瞬間、全ての行動を置き去りにして、俺はラゼを見る。


 理由はどうあれ、この魔王の目的は勇者であるラゼその人らしい。その目からは、凄まじく吹き荒れる猛執が感じ取れた。

 しかし、それは我らがリーダーの意思に反する。

 このまま魔王ヴィランを通してしまえば、魔王シュカとのタイマンに水を差すことになる。最悪魔王二人がかりになり、さすがのラゼでも負けてしまうかもしれない。それだけは避けねば。


 視線の先でラゼは――――


 ――――再び、俺の目を見た。


「…………っ」


 ――――俺の、目を、見ていた。


()()……と言いてえところだが」


 言葉がまどろっこしく感じるほどの刹那の果ての意志疎通により、恐らくラゼの全ての感情を読み切った俺は、再び思考を開始する。


 どうする!? どうするべきだ!?


 神殿爆破前の、魔王ヴィランからの一撃で分かった。俺はこの魔王には()()()()()()()

 仮にここで俺が魔王ヴィランに立ち向かい、一方的にボコられて、挙げ句の果てに人質になどなってみろ。ラゼに申し訳が立たない。その場で舌を噛んで死ぬしかねえレベルの生き恥だ。


 ならばどうする。今すぐ動けるのは俺以外にいない。ミラの『土鱗(ランドウェーブ)』とかいう魔法に飲み込まれて、どいつもこいつも流れに逆らえてすらない。


 魔法使いなら風魔法だかで本来この状況を脱することが出来るはずだが、体内で魔力を操作する関係上、集中力を乱されると魔法は不発になることもあるらしい。

 あー畜生。ラゼという、いつ如何なる時でも感情を動かすことなく魔法を扱える希代の天才を基準にしていることが仇となった。


 クラスメイトたちは、土砂に流されんとしている。

 本来ヴィランと相対するはずだったニンカは、ミラによる土のドームに今も尚閉じ込められ、この一瞬で外側からどうこうすることは出来ないだろう。

 レトさんは、エクステラと相対するため別行動中。

 アネモネさんは論外。間に合うわけがない。


 なら――――俺は賭けよう。

 ニンカをも越えると言われる、その実力とやらに。


「どこにいる……!?」


 土のドームによって完全に阻まれたニンカと違い、土砂の波の中のクラスメイトたちは姿を確認することが出来る。

 その中にあいつの姿を――――いた!


 固有スキルで空中を渡り、土砂の流れに負けぬ猛スピードをもって追随し、手を伸ばす。


「有吾ぉッ!」


 俺が叫ぶと、土砂に流されていた有吾は顔を上げ、俺と目を合わせる。

 そして、俺の姿を確認し、その表情が曇った。


 ――――それは、消えかかっている記憶の彼方に存在したような気がする顔。要するに、『また自分のせいで、他人に助けられてしまった』とか考えている顔だ。

 お前マジで、そういうとこだぞ!


 俺は波のギリギリまで近付き、土砂に右手を突っ込んで有吾の胸ぐらをひっ掴み、左手で空中に位置を固定したまま引っ張り上げた。

 そして、この一瞬で伝えられるくらいに、言ってやりたいことを手短に纏める。


()()()()()()()()()()()()()()


 その言葉を聞いた瞬間、有吾はハッとした表情になる。

 俺の言葉を理解したことを確認し、俺は左手を軸に遠心力を込め、右腕のフルパワーを唸らせる。


「やったれぇ!」


 俺の筋肉が限界まで嘶き、有吾の体をなんとか投擲する。ヴィランまでは高度が足りない――――しかし、俺の役目は完遂した。


 後は頼むぞ、有吾。


「――――『風像(ローディスカ)』ァ!」


 魔王をも気圧す叫声と共に、有吾の体が風に包まれ、斥力を生み出し飛翔する。

 その体はラゼへと到達するより早く、魔王ヴィランの眼前へと躍り出た。


 飛翔の間にインベントリから取り出した剣を振りかぶり、ヴィランの咄嗟の剣と激突し、インパクトが吹き荒れる。

 今まで使っていた模擬戦用の刃の潰した剣ではない。他者を傷付けることを目的とした、鋭利な刃を持つれっきとした剣。

 即ち、魔王を相手にしたことで発揮される、彼にとっても初めての本気だ。


 俺はその様を見届けて、最後にラゼを見る。

 魔王と、そして宿命と立ち向かうラゼの後ろ姿が遠くに映るだけだったが、その背中には確かな凛々しさが見えた。


 俺はその光景に満足し――――固有スキルを使う前に、土鱗(ランドウェーブ)に巻き込まれた。


 ●


 ()()()()――――とはいかない。

 何故なら、そもそも気を失っていないからだ。


 現実世界でもし土石流に巻き込まれたなら気絶云々以前にほぼ確実に命を落とすだろうが、流石は異世界に適応してきた俺の肉体。何とか意識を保っている。

 スムーズに上下の感覚を掴み、何とか波面から頭を出して、息を吸い込み周囲を見渡す。


 土の波は神殿の一切を押し流し、神殿の周囲の森林まで達しているようだ。

 流石にここまで流れると勢いは僅かながらも衰退しており、幹もしっかりしている木々が流されることはないようだ。


 ともかく、俺が無事なら、多分他の奴等も大丈夫だろう。

 ステータスが不安な奴等も、下村と名塚さんは奇しくも離脱済み、焼きネギは土魔法への適正が強かった筈、コミっちは……まあ、かもめがいるしどうにかなるんじゃね?


 さて、他人の心配はここまでだ。

 スムーズに上下の感覚が掴めた原因、頭上から降り注ぐ殺意を感知し――――それが一直線に近付いてくることを察する。


 固有スキルを使用し、土から這い出ると同時に真横に無理矢理飛んで回避、土の波にも負けず尚も生えていた近くの木に飛び乗り、駆け上がる。

 樹上に陣取った俺は、殺意の源へと目を向ける。


 そいつは、俺が回避したのを冷静に見るや否や、土の波に乗って偶然流れていた瓦礫で()()()()

 瓦礫に足を着けた瞬間に蹴り、スーパーボールのように飛び上がったそいつは、俺の目の前の樹上に降り立った。

 要するに、魔王ヴィランがやっていた壁キックと似たような芸当が出来る相手。


「よう、よく避けたじゃねえか」


 その種族について、インドアに聞いたことがある。

 日本語で『鬼』と訳されるそれは、大柄な人形の化け物としてファンタジーにおいては有名であると。俺も名前は聞いたことはあれど、正確に定義を聞くのは初めてだった。

 時折『トロール』とも同一視される人食いの巨体。


 そして、目の前にいるそいつは、その説明から想像するよりも小柄だった。

 ぶっちゃけた話、俺と体格を比較してもそうは変わらない。


「お前がパッと見、一番良い動きしてたからな。この闘争は誰にも譲る気はねえ」


 しかし、その目に宿る闘志は、本物の実力者であることをありありと示している。


 実際に目にしたことがある訳ではないが、目の前のこいつが配下のうち誰なのかは予想できる。

 そして何より、頭上には答え合わせが表れていた。


【闘鬼王ガオウ Lv.73】


 一切小細工抜きのステゴロであれば同僚一だという、魔王ヴィランの問題児配下。

 妙に親近感が湧く相手であり、何より()()()()()()()()()()()まさにその魔物。


「さあ、昂る闘争を始めようぜ?」


 オーガの頂点が、俺を見据えて凄惨に笑った。


ガオウくん、地下で出会った骨やミノよりレベルは低いが、加齢によるステータス下降補正がないので、実質ユズ君初のハンデ無し勝負




『面白かった!』


『続きが気になる!』


『さっさと続きを更新しろやブン殴るぞ』


とお思いいただけましたら、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援していただけると幸いです。


あと、感想とかブックマークとか頂けると、作者が嬉し泣きしながら踊ります。

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