閑話 前夜
※重要なお知らせ※
以前からご指摘のあった第1章のプロローグ、第一話の内容を変更致しました。個人的にも面白味が薄い割に長いなとは思っていましたので、納得した上での変更になっています。
具体的には、プロローグの情報量をバッサリカットして一新、第一話の中盤をカット致しました。
特にプロローグは内容はともかく、文章は完全に違うものになっているため、ご了承下さいませ。
ですが、元のプロローグと一話もそれなりに時間をかけて書いているため、活動報告の方に供養させていただくことにしました。こんなんあったっけなあと思いながらお読みいただければ幸いです。
そんじゃ閑話行くぞォ!
キルティナ王国のはずれに存在する神殿。
……そこからしばらく離れた地点に野営地を設立し、二人の魔王とその配下たちは夜明けを待っていた。
「ヴィラン様」
「……サティスか」
彼の背後に控える配下の悪魔、名はサティス。
配下の中でも最も付き合いが長く、秘書の役割も果たす彼女は、魔王が秘める底知れない感情の一端を感じ取る。
「ソフィは納得していないようでしたが、なんとか休ませました」
「ありがたい。あいつの負担がまだ把握しきれていない以上、あいつには是が非でも休んでもらわねばならないからな」
「ですが、アンリとガオウは……」
この世界を騒然とさせた、神託。それに伴う、魔物の大幅な強化。
奇しくも襲撃直前に配下たちに渡された固有スキルが、計画の大幅な変更を余儀なくさせた。
こと、配下のゾンビであるソフィの目覚めた固有スキルが余りにも優秀すぎるため、彼女には負担を強いることになるのは間違いない。
無論、ソフィ以外の配下にも休んでほしいのだが……
「ねぇヴィラン様ぁ、糸の耐久実験のために縛らせてぇ……?」
「魔王サマ、景気付けに俺と一発闘争しようぜ」
「休めって言ってんだろ……」
こういう奴らだ。襲撃作戦という大イベント(そもそもイベントなどという風に考えないでほしいのだが)を前にして、休んでくれる訳がない。
アラクネのアンリは、固有スキルにより強化された自らの糸を眺めてうっとりしているし、オーガのガオウはいかにも抑圧されていると言わんばかりに腕を振り回している。
ヴィランは、最悪の場合作戦中に暴走しかねない配下に目を向ける。
「なあガオウお前、作戦中は、分かってるんだろうな……?」
「分ぁーってるっての。せめて、やり甲斐のある奴と闘争したいもんだが……」
とにかく本気の闘争が大好きなガオウは、今回の作戦に致命的に向かない。だが、魔族領に置いて来てもストレスが爆発しかねないと判断し、渋々ながら連れてきた次第だ。
「あー、うん……気が合う奴がいるといいな……」
戦闘狂な配下の声を受け、ヴィランは先程とは逆に目を逸らす。
魔王シュカから、ラゼの内部事情は僅かながらも把握している。
曰く、ラゼに仕えるメイドたちは戦闘のスペシャリストが揃っているが、その他は素質はあるものの、最近になってからやっとラゼから戦闘を叩き込まれた突貫工事の素人なのだという。
そして、同盟を組む条件としてシュカが提示したのは、メイドたちは魔王シュカの配下が相手取るということ。
魔王シュカとは、別に仲良しこよしの間柄ではない。少なくとも、魔王ヴィラン側はそう思っている。
だからこそシュカの言葉を全て信用しているわけではないが、仮に全て鵜呑みにするなら、魔王ヴィランの配下の相手は、戦闘を始めたばかりの素人しかいないわけだ。
その連中の中に、強さはともかく、精神的にガオウと気が合うような戦闘狂はいないと思うのだが、ヴィランはあえて言葉を濁した。
しかし、この問題児については、まだまだ懸念点がある。
「それでガオウ、魔王シュカの配下の構成員、ちゃんと覚えたか?」
「確か、サティスの姉貴と…………あと、ミルって奴は見所があったよな!」
「すみません、何度も教えているのですが……」
あまりにもお粗末すぎる――――というより興味がない分野に容量を全く割かないガオウの記憶状態に、何度も教え込んでいるサティスががっくりと肩を落とした。
見所があるとか言いながらも名前を間違えている残念配下に、今一度手短に暗唱する。
「火属性悪魔のフラメリ、水属性セイレーンのセレン、風属性ハーピィのハピア、土属性ラミアのミラ。魔王シュカの配下はたった四人しかいねえんだから、ちゃんと覚えてくれ……」
ヴィランがシュカの配下の名前を羅列する。
想像以上に深刻だった配下の記憶容量に頭を抱えていると、
「「「呼んだ?」」」
「呼んでねえよ…………」
少し離れた場所にいるはずだった同盟相手と、その配下たちが近寄ってきた。
あまりに能天気な同盟相手に、頭が更に重くなる彼だったが、シュカの配下の人数は少し足りないことには気付けた。
「……他の二人は?」
「セレンは真面目すぎて夜更かしできない子だしね。ハピアもサボる度胸ないタイプだから、今も見張りしてくれてるわよ」
「休ませてやれよ」
「ヒントは半球睡眠」
「…………え、マジで?」
ハーピィの生態に驚きを隠せないヴィランだったが、そもそも配下たちは気にもしていないようだった。
「なぁサティス、向こうでお姉ちゃんとお話ししよう? あ、ヴィラン様、妹借りてくね?」
「え゛」
「おうミロ、俺と一発闘争しようぜ?」
「……あぁ、ミロってあたしのことか。いいよ、やろうか」
「ねぇ、シュカ様ぁ? 私、あの鞭に興味があるんだけどぉ?」
「いいね、鞭と糸。可能性が広がるね!」
……数日前に魔王シュカと話したときは、弛緩した時間が云々と思っていた気がしたのだが、気のせいだったのかもしれない。
何だこの腑抜けた空間は。これでいて、戦闘となると頼りになるのが最早腹立たしい。
そう考えていた、まさにその時。
「――――何を、しているの」
「ッ!?」
底冷えするような声が背後から響き、思わず反射的に振り返り、剣に手をかける。
圧倒的存在感を発するにも関わらず、その存在を数瞬前まで感じさせない実力。そんな芸当が可能なのは、極致くらいだろう。
「エクステラ……」
「あなたね、」
そう、それは今回の作戦の切り札であり、魔物のある種の到達点。
神からの寵愛を受けた20の魔物が1体、極悪魔エクステラが、
「うちの子たちが集まってるなら呼びなさいよ、あんな可愛い空間を見逃すところだったわ」
「あぁ、うん……そうだな…………」
とんでもなく子煩悩な言葉を発した。
そもそも本来、サティスは城にて留守番のはずだったのだ。
今回の作戦において最も適正を持つアンリ、ストレスが爆発寸前だったガオウ、魔王ヴィラン陣営最大の弱点である頭数を補えるソフィだけを連れる予定だった。
ヴィランの配下はたったの8人(体)、そのうち3人は現在別件任務に当たっている。ヴィランの魔王城での執務を考えるとサティスは残ってくれていた方が助かるのだ。
しかし、ここでエクステラの存在が効いてくる。
彼女が俺たちに協力するにあたって提示した条件は、『私の愛娘の活躍の場を設けること』。
即ち、魔王ヴィランはサティスを、魔王シュカはフラメリを連れて来ることが前提で、そこで初めてエクステラの助力が得られるのだ。
正直面倒だとは思ったが、ラゼ・カルミア率いる集団の最大戦力と目されているレトと名乗る奴を封じることができるのなら僥倖だ。
「……もう一度聞くが、今夜の襲撃は避けた方がいいんだな?」
「そうした方が懸命ね。最悪私や、非常に不本意ながらあの腐れ野蛮×××級の戦力が増えるわ」
「はは……そっすね……」
自らの因縁の相手を異常なまでに扱き下ろすエクステラに引きつった笑みで曖昧に答えながらも、夜空に浮かぶ満月を見上げる。
「決行は夜明けなわけだが、準備はいいか?」
「誰に言っているの。私は常に準備万端よ。アイツを殺すためにね」
(レ……本名が長いからレトでいいか。何したらこんなに仲が険悪になれるんだよ、レト)
弛緩した空気に当てられたのか、ヴィランはぼんやりと月を見上げたまま、そのような物思いに耽るのであった。
●
何はともあれ、役者は揃った。
神々を殺すことを望む勇者、ラゼ・カルミアと、その仲間たち6人。
そして、24人の異世界人。
対するは、魔王ヴィランと魔王シュカの連合軍。
便乗するボスモンスターが1体、極悪魔エクステラ。
それぞれの想いを胸に、彼ら彼女らの激突が近付く。
昇る日に逆らうように、決戦の火蓋は切って落とされる。
第二章の登場人物をまとめようのコーナー! 魔王編!
・ヴィラン
魔王その1。前世で色々あってこうなった。勇者以外にそんなに興味がない。
・サティス
ヴィランの配下その1。悪魔。秘書ポジション。エクステラの娘、フラメリの妹。
・ガオウ
ヴィランの配下その2。オーガ。闘争大好き、そして闘争大好きな人も大好きだが、異世界人と戦うにあたって、類友なんていないと思うけどなー。異世界人の中に戦闘狂なんているかなー。この章で、一体誰と戦うことになるんだろうなー。
・アンリ
ヴィランの配下その3。アラクネ。縛りたい。
・ソフィ
ヴィランの配下その4。ゾンビ。現在おやすみ中だが、作戦においては要。
・シュカ
魔王その2。ラゼと同様のポジション、世界の真実を邪神クールから聞いている。
・フラメリ
シュカの配下その1。火悪魔。エクステラの娘、サティスの姉。
・セレン
シュカの配下その2。水セイレーン。真面目。
・ハピア
シュカの配下その3。風ハーピィ。現在見張り中。
・ミラ
シュカの配下その4。土ラミア。ガオウから割と気に入られている、つまりはそういうこと。
・極悪魔エクステラ
ボスモンスターが1体。愛娘たちと一緒に戦える+因縁の相手を今日こそボコす、というわけでモチベがメチャクチャ高い。
メタい話をすると、名前はほとんど捻ってない子ばっかりなので、ラゼ組と比べても覚えやすいんじゃないかと思います。
次回、激突。
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