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第六話 ユズと、裏より見下ろすもの

 

 勇者の固有スキルは、圧倒的な力を持つ。


 例えば、ラゼ・カルミアの固有スキル、『転移(マジックウォーク)』は汎用性に長けたサポート用のスキルだ。それだけでも、このスキルを喉から手が出るほど欲しがる者も多いだろう。

 だが、このスキルの本質はそれだけではない。


 その場所に印を設置したなら、文字通り、世界の何処へでも転移することが可能だ。


 例えそこが、()()()()()であろうとも。


 ●


 ラゼは、歩みを止めない。


「28日と5時間39分14秒ぶりですね、ラゼ・カルミア。この度はどういった御用件で?」

「……」


 ラゼに話しかけてきた燕尾服を着た青年の言葉を聞くこともなく、そのまま隣を通り過ぎる。

 その目は、ただ一点を見ていた。


「どういうつもりですか、女神様」


 今ラゼがいる場所は、ユズたちがいる世界の()()()()()()

 世界を創造したAIたちによる電脳空間。いわば世界の裏側。


 まさに()()()()()この空間に来ることができる者は、世界の創造主たるAIたちを除き、世界の真実を知らされている勇者ラゼと魔王シュカのみである。

 更に言えば、ラゼの場合は固有スキルにより自らの意思でこの空間に赴くことが可能だった。


 冷静な表情の奥で憤りを見せるラゼの目の前に聳える巨大な玉座、そこに座る一人の女性。美しい銀髪に端麗な容姿。

 ひどく()()()な容姿を持つ女神ビューティーは、ラゼが来ることを予想していたのか否か、しかして毅然とした態度を崩さず迎え入れる。


「どういうつもり、とは?」

「分からないわけないでしょう。神託の内容、あれは何ですか」


 この世界に存在する全ての生命に届けられる神からの言葉、神託。ラゼたちを除けば一度だって姿も見たことがないはずの神々の存在を人々が信じているのは、神託があるからこそだ。

 しかし、その内容はあまりに異端。数百年続いてきた法則が崩れたのだから。


「一部の魔物への固有スキルの譲渡――――女神様が発端でないことは察していますが、最終決定権は貴女と邪神クールに委ねられているはずです」


 魔物は、魔族を襲うことも勿論あるが、人間を襲うパターンの方が多い。一人あたりで見た場合、種族的に弱い人間を狙うのは本能と言えよう。


 しかし、基本的にビューティーの本懐は人間の勝利だ。魔物の固有スキル追加は、悪影響にしかならない。

 ビューティーが固有スキル追加を認める理由がない。


 人間も魔族も救おうと画策するラゼにとっては尚更だ。


「ふむ、まあ言いたいことも分かる。魔物の強化は人間にとって不利にしかならんからな」


 ビューティーは足を組み、ラゼの言葉を首肯する。しかし、尚も言葉は続いた。


「だが、駄目だ」

「……何故ですか?」

「単純な話だ。ゲームバランスだよ」


 それは、ラゼにとっては聞きなれない言葉。

 だが、なんとなく言わんとしていることが理解できてしまったラゼは歯噛みする。


 玉座にて、足を組み直す創造主は告げた。


「魔族だけじゃない。異世界人の参戦により人間の勢力も増している。現在倒されているボスモンスターが全て人間によるものであることが良い例だ。ここらでゲームバランスを整えねばならん」


 人間に与する以前の問題だ。目の前にいるこのAIは、この世界を『ゲーム』として創り上げたビューティーは、この世界のゲームとしてのクオリティに妥協しない。


「なに。無論、無差別に固有スキルを与えるようなことはしないとも。ストーリーに関わる可能性が高い魔物にしか与えん。魔王の配下は、すべからく与えることになるがな」


 電脳により生み出された存在であるラゼとは、根本的に考えが違う。

 ビューティーもまた、人間を滅ぼさんとするAIと、真っ向から戦っている暴走AIなのだ。


「せいぜい足掻いてくれよ、メインキャラクター。特に、未来のプレイヤー様たちには、私も大いに活躍を期待している」


 尚も、現実世界の人々の娯楽のために。


「――――承知いたしました」


 自身が顔に出ないタイプであることを、ラゼは心底感謝した。


「行ってもいいぞ」

「はい」


 ラゼはそのまま踵を返し、女神のいる空間から離れる。

 そして一瞬振り返り、女神の顔を見て呟いた。


「本当、そっくり……」


 それは、はたして何の因果か。

 髪色こそ違うものの、自身が女神役をやらせた少女と瓜二つの女神を、今度こそ視界から外した。


 ●


 ――――たった今固有スキルで神殿に帰って来たラゼから聞かされたのは、今朝俺たちの脳内に鳴り響いた音声の詳細。魔物の固有スキル追加について、女神に真意を問い質したこと。


 そして何より、


「残念ながら、予想は当たっていたようですわね。確かに、シュカとヴィランの配下全員に、固有スキルが追加されていますわ」


 俺たちの絶対的であるはずだったアドバンテージが消失したという真実が明らかになった。


 固有スキルで配下の情報を調べていたメイド長のソウさんが目を開く。


「唯一僥倖だったのは、幼少期から固有スキルを使い続けている私たちと違って、恐らく1日では固有スキルを使いこなすところまでは至れないことかな。それは皆が一番よく分かっていると思う」


 それはそうだ。俺の『接触(ジャスティスハンド)』だってほぼノータイムで使えるようになるまで数日かかった。

 全然関係ないけど、俺の固有スキルはどの辺がジャスティスなんだ?


「だけど、配下たちが一律強化されたという事実に違いはない。戦局は更に苦しいものになる」


 ほんの僅かに表情を曇らせたラゼが断言する。

 まあ、神託とやらを聞いたときから予想は出来ていたことだ。他の皆はともかく、ラゼのために動く俺は、それだけじゃ諦めない。


「つッても、やるこたァ変わんねェんだろ?」

「現実になった特殊性癖ちゃんたちを目前にして、退けるわけないよね」

「小路がやるって言ってたから、私もハイパー頑張る」


 おっと、皆もやる気満々だったようだ。

 正直真剣な場なのだから変態には黙っていてほしいが、退かないという気持ちは同じなのだろう。言及は避ける。


「…………ありがとう。私たちも最善を尽くす」


 ラゼは、改めて俺たちを見渡し、作戦内容を説明する。


「私とニンカで魔王同盟の首領、シュカとヴィランを叩いて、撤退命令を出させる。皆にはその間、配下を相手に持ちこたえてほしい」

「うひぃ……自信ない……」

「大丈夫だって、あたしらがついてるし、何より彩香の強さは皆が知ってるっての!」


 すげえ、菊地(あねご)が姉御してる。

 知ってはいたけど、さすがは委員長とは別角度でリーダー張っているだけあるな。矢崎の不安を速やかに取り除いた。


「ただ、ノボルとマキには間違いなく戦場に出てもらうことになると思う。なんとか負担の少ない相手と当てるつもりではあるけれど、覚悟だけはしておいてほしい」

「――――分かった」

「ふふ、上くんとならどこへでも行ける、わ……」


 準戦闘要因の下村と名塚さんにも声がかかる。下村は緊張しながら、名塚さんはいつも通り怖い笑みを浮かべながら答える。


「アネモネとシハロには神殿内の守りを命じてあるから、待機組たちは、何かあったら二人を頼ってほしい。二人とも、よろしくね」

「承知したしました」

「オッケー、任せてぇ」


 メイド服の二人が返答する。

 アネモネさんはともかく、シハロは待機していた方が――――というより動かない方が固有スキルに意識を割けるため、待機に決まったらしい。確かに、自分の意思だけで何匹もの魚を泳がせるのは、並行作業しながらでは難しそうだものな。


 ラゼは、改めて俺たちを見回す。


「ここから、魔王の配下たちの固有スキルを、私とソウの二人で解説していくよ。よく聞いていてね」


 反則級のメイド長が一歩前に出て、ラゼに並んだ。


「では、まず魔王シュカの配下から解説していきますわ――――」



 ●


 神殿の廊下を歩く。

 魔王の配下の解説が終わり、午後は各自で明日へ向けての調整と相成った。という訳で、俺は俺だけのチューニングをこなさねばならない。

 当初は一人で行動する予定だったのだが、今は偶然にも有吾が隣にいる。目的は、俺と同じく人探しだったらしい。


 さて、探し場所の当たり自体は付けている。

 だが、この神殿はいちいち人を探すには微妙に広いのだ。場所が確定していて損はない。


 誰か居場所を知っている者はいないか――――そう考えて有吾と駄弁りながら練り歩いていると、突き当たりの曲がり角から現れたのは、見覚えのある金髪。


「おっ、リルティア」

「あ、ユズさんじゃないっスか。それと――――ひゅ」


 いつの間にか話し方すら変わっているリルティアがこちらを見て、その直後、有吾を認識した瞬間にその体が硬直する。


「ゆ、ユウゴ様……あの、本日はお日柄もよく……」

「あのなァ、別に取って食うわけでもあるめェし」


 露骨に有吾に恐怖しているリルティアがしどろもどろになりながら言う。すげえ、もう既に逃げる体勢だ。

 確かに有吾は、背も高いし威圧感のある表情をする奴なので、見た目が怖いのは分かる。だが、そこを除けば普通にイケメンの部類だし、何より中身は善人だ。何をそんなに怯えることがあるのか――――と思ったが、聞くところによると事情が違うらしい。


「俺ァ、ユズが牢獄迷宮に飛ばされた直後、ちょっくらキレちまってなァ。それがトラウマになってるんだと」

「あー……」


 直接見てはいないが、話だけは聞いている。

 俺が追放された直後の有吾の荒れ具合は、それはもう酷いものだったらしい。特に、俺が追放されて、リルティアの固有スキルが解除された直後は、本当にリルティアを殺さんとする勢いだったとか。


 まあ正直、俺自体は気にしていないとはいえ、俺を追い詰めるために有吾たちを利用して、本人たちから恨みを買っているのはラゼたちが悪い。

 もし今我々が2つの勢力に分かれて抗争を起こすことになったらラゼチームにつくくらいには、俺はラゼに入れ込んでる。だけど、ラゼたちが俺にも有吾たちにも極悪非道なことをしているということは認めているつもりだ。


 話が逸れすぎた。せっかくリルティアに会ったのだから、逃げられる前に聞くとこを聞かねばなるまい。


「なあリルティア、ししょ……ニンカがどこにいるか知らないか?」

「俺ァ、メイド長を探してるんだが」


 へえ、有吾の探し人はメイド長だったのか。意外だ。

 聞いたところ、メイド長の固有スキルを使って知りたいことがあるらしい。


「あぁ……じゃあお二人ともラッキーっスね。こっちの奥の部屋にソウもニンカもいるっスよ」

「分かった。サンキュ」

「はいぃ……じゃ失礼するっス」


 リルティアは横の壁に背を向けてじりじりと遠ざかりながらも教えてくれたが、俺らの応答を受け取ると、リルティアは適当な笑みを浮かべて速攻で逃げ出した。

 有吾、マジで俺がいない間に何したんだ。


「なんかリルティア、随分変わっちまったな。俺たちより年上なんだよな?」

「元々そういう性格だったッてことだろ。最初に会った時ァ、女神らしく振る舞ってたからなァ」


 確かにそうだ。俺とか初対面で『跪きなさい』とか言われたしな。今では見る影もないが。


 ●


 ともかく、探し場所が分かったのはありがたい。

 実際に向かってみたところ、確かにニンカとソウは、その部屋で何やら真剣に話していた。


「よう、愛弟子。どした?」

「師匠……なんか話してるみたいだけど、もしかして忙しかったか?」

「うーん……まあ」


 ニンカはソウを横目で見ながら、微妙な表情をする。


「今回の作戦でニンカは格上、しかも魔王と相対するキーパーソンですから。結構念入りに対抗策を練っているんですわ」

「って、何で言うの!?」


 ……そうか。そりゃそうだよな。

 気丈に見えるニンカだが、魔王と戦うのに緊張しないわけがない。


「それで、ユズ様はどうされたんですの?」

「いや、ニンカに頼みがあって来たんだが……忙しいようなら別の人に頼む」

「ああ、それなら問題ありませんわ。ニンカをお貸しいたします」

「いや勝手に決めんなって!?」


 物凄い勢いでソウを見るニンカだが、目線の先のソウはどこ吹く風だ。


「どのみち行き詰まっていたんですし、休憩ですわ。貴女は体を動かした方が判断力が良くなるんですから、無駄じゃないはずでしてよ?」

「ぐ……」


 図星だったのか、ニンカは観念したように黙り込み、俺を見た。


「んで愛弟子? 頼みって何なのさ」

「良いのか? じゃあ遠慮なく」


 俺の頼み。それは、魔王襲来に備えて、()()()に戻ること。


「1分だけでいい。俺を殺す気で戦ってくれ」



キャラが多過ぎて覚えられない? 私もです。

魔王同盟襲撃前に戦闘出るキャラたちだけでもざっくり紹介するか……



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『続きが気になる!』

『さっさと続きを更新しろやブン殴るぞ』


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