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第三話 ユズと、大いなる前振り

違うんだ……いずれ必要な情報だから出しただけで、行数稼ぎじゃないんだ……


あと初のレビュー頂きました……ありがとう……

 

 ボスモンスター。その言葉に牢獄迷宮からの脱出の記憶が蘇り、俺は身を固くする。


 それは、強大な力と2つ名を持つ、20体の魔物。そして、人間と魔族以外で固有スキルを持つ唯一の存在。

 初めて聞いたときは、その名称に僅かな違和感があったものの――――この世界がゲームだと知った今なら飲み込める情報だ。


 しかし……神からの寵愛を受けたって、どう言うことだ? その神って、クールとビューティーのことなのか?


 そのことを疑問に感じていると、菊地が続けてラゼへと質問を投げ掛けた。


「ボスモンスターね……そもそも、ボスモンスターってのが具体的にどういうのなのか、いまいちピンと来てないんだけど?」


 確かに、情報だけでは分からないよな。俺はティザプターと戦っているからまだしも、他の皆は、今コミっちに抱えられているワンコ……じゃなくて狼の魔物、もといロガルしか知らない。

 流石にロガルを見てボスモンスターをざっくりと把握しろと言うのは無茶だろう。


「一般的なボスモンスターへの認識は、とにかく強大な魔物……積極的な討伐が求められていないほどに。全員が人間をむやみやたらに襲うような存在ではないってことも、理由の1つだね。中には人間に協力しているボスモンスターもいるほどだよ」

「へぇー、そんなのもいるのか」

「ほとんどのボスモンスターは知性を持っているからね。各々の事情で動いているよ」


 俺が出会うボスモンスター、ことごとく俺に敵対してるから知らんかったわ。


 皆は気付かない程度に僅かに楽しげな表情になっている解説好きラゼは、人差し指を立てる。


「そして、魔物との……いや、他の生物との一番の違いは、魂の構造にある」

「たましいのこうぞう」


 異世界転生しなければ聞くことも言うこともなかったであろう日本語を復唱し、続きを促す。


「この世界で唯一ボスモンスターのみが、生前の記憶を保持したまま、ほぼ同一の存在に転生する」

「なっ!?」


 思わず俺は声をあげる。


「たまに少し異なる存在に生まれ変わるパターンもあるようだけど……似通った姿かたちにはなるし、記憶も持っているから、結局同じような帰結が多いね。ボスモンスターなのにレベルが低かったりしたら、それは生まれ変わったばかりなのかもしれない」


 ラゼは、ロガルを見て言う。レベル30程度だったか。同じボスモンスターにも関わらず、ティザプターと比べてもレベルが低いとは思っていたが、そういう理由だったのか。


「でも何故、ボスモンスターだけ、実質の死――――消滅の概念がないんだ?」

「ごめん……それは私にも分からない」


 クラスメイトの誰かの疑問に、ラゼは露骨に表情を暗くさせる(当社比)。

 まあ気持ちは分かる。知識量には定評のあったラゼだから、聞かれて分からないと答えるのは気分的にも良くないのだろう。


 すると、同じ疑問を抱いていたであろうクラスメイトの一人が呟く。


「メタ的に見れば、ボスの再戦機能か……?」

「どういうことだ?」

「ゲームとかで見たことない? 例えばストーリークリア後に、今まで戦ったボスキャラとまた戦うことができるみたいな展開。それを再現したんじゃないか?」


 おお、具体名は出てこないけど、そういうゲームを見たことある気がする。

 なるほどな、それをゲーム基盤の世界に落とし込もうとすると、そうなるわけか。


 …………。


 …………ん?


「えっ、ちょっと待って? 記憶を持ったまま生まれ変わるの?」

「え? うん」

「話めっちゃ戻ったな」


 …………。


 …………俺、ティザプターの最期に何て言ったっけ?


『次こそ絶対に、俺がお前を()き潰す。また戦おうぜ』


 ……戦闘狂のティザプターが、この言葉を聞いた記憶を持ったまま、生まれ変わる。

 多分、生まれ変わったら、既にニンカの固有スキルもゴアの支配も解けているよね?


「はぁぁぁぁぁ……!」

「ユズが膝から崩れ落ちた!?」

「嘘だろマジでアイツ復活すんの…………?」


 あまりにも面倒なフラグを踏んだ感覚に、俺は立ちくらみを起こす。


 俺のやらかしを目の前で聞いていたニンカとレトさんが、何やら気の毒そうに俺を見ていた。見るんじゃねぇ――――っ!


 何かとざわつき出した俺たちを見て、ラゼが両手を打ち合わせる。


「うーん、少し話が逸れすぎたけど……いや、丁度いいや、このまま話そう」


 そう言ってラゼはステータス画面を操作し、インベントリから何やらそこそこデカい紙を取り出す。

 俺たちは大人数ながらもなんとかほとんど全員で覗き込む。


 その紙には、何やら字が羅列されていた。まったく馴染みのない言語体系が用いられているが、何故だか脳内で自動翻訳されているような感覚。確かに、作品内に特有の言語があったとしても、ボタンを押せば日本語で表示してくれるのがゲームというものだ。その再現なのだろう。

 何はともあれ、読める。


 脳内で自動翻訳され、羅列されていたのは――――


 ●


 刃狼将ロガル

 暴虐神官ゴア

 喰城ラギャック

 狂戦王ティザプター

 鬼術師団ウィザリア

 微睡元首エンペラヌス

 雷帝レクトロパル

 惨殺姫レヴェラロスト

 破滅彗星メーデオン

 極悪魔エクステラ

 天空霊船エルヴァルーツァ

 無限樹リュラージス

 古翼剣セバルカッシュ

 邪龍ナイティール

 大混沌ジグルマータ

 地龍グランビディア

 天龍ローディスカ

 海龍シークル

 炎龍ガブレイマ

 聖龍ライティール


 ●



「……これってもしかして」


 既視感のある名前が混じった一覧表を見る俺の呟きに、ラゼが頷く。


「ボスモンスター全20体、その全貌だよ。世界でも知ってる人はほとんどいないだろうね」

「おぉ……! やっぱりこう並ぶとロマンが掻き立てられるね!」


 確かに錚々たる面子というか……名前だけでもこうして並ばれると得も言われぬ高揚感に似た何かを感じる。ほとんどの男の子はこういうのが好きなんじゃないか? 少なくとも、うちのクラスのロマン星人には納得のいく一品だったらしい。


「中にはこちらから危害を加えない限り敵として立ちはだかることはないものもいるから、20体を全員を覚える必要はないよ。ただ、私たちに敵対しうるボスモンスターも当然いる」


 そう言いながら、ラゼは上から五番目の名前を指差し、そこから下へとずらしながら解説を再開する。


「まずは、鬼術師団ウィザリア。ユズ君と――――もしかしたら私も狙われているかもしれない。牢獄迷宮で戦闘になったときは退いてくれたけど、また襲われる可能性はあるね」

「ご迷惑おかけしまーす……」


 俺が踏んだフラグで皆を巻き込むかもしれないという申し訳なさで肩身が狭い。

 というか何でウィザリアは俺に直接出会うことなく退いたんだろうな。俺には分からんのだけれど。


「そして――――例の極悪魔エクステラ。この2体は、『人間だから』襲うんじゃなくて、明確に理由があって私たちを狙ってくる」


 そう言って、ラゼはちらりとメイド軍団の一人へと目を向ける。


「正確には、エクステラが狙ってくるのはレトだけなんだけどね。シュカやヴィランと協力しているのは、あくまで戦場に便乗する目的みたいだよ」


 視線の先で、いかにも機嫌が悪そうに鞘に入った刀で自身の肩を叩くレトさん。そしていかにも機嫌が悪そうな口を開き、いかにも機嫌が悪そうな声で答えた。


「ま、個人的にあのクソ悪魔とは因縁があってな。今回の戦いで、レトが魔王との戦いに参加できねえ理由がそれだ。今回、レトはクソ悪魔との戦いに付きっきりになる」


 なるほど、魔王に対応するのがラゼとニンカだけなことに違和感を感じていたが、ここでレトさんという一大戦力のカードが切られるのか。

 確かに、超強化ティザプターを相手取れる実力があれば、エクステラというボスモンスターが相手でも訳ないだろう。


 ……マジでどうでもいいことだけど、レトさんの一人称が自分の名前なのが、たまに俺を混乱させる。最後まで聞いて初めて『あっ自分の話してたのね』ってなったりする時もあるしね。


「他に気をつけてほしいボスモンスターは、ナイティールとラギャックくらいかな。前者は人間に敵対、後者は無差別に破壊を続けている――――最近は両方とも大人しいけれど」


 ――――なるほど。全然覚えられそうにない。


 まあ要するに、ウィザリアほどではないが、問答無用で戦闘へと雪崩れ込む可能性のあるボスモンスターもいるというわけだ。それだけ覚えておいたら十分だろう。


 今重要なのは、そいつらじゃない。


「いずれ話さなきゃいけないこととはいえ、話が逸れすぎたね。ボスモンスターについては以上。ここからは、魔王襲来当日の皆の動きを詰めていくよ」


 ウィザリアやらは正直、二の次だ。今はエクステラのことだけ考えておけばいい。

 2つ名が強ければいいというものでもないが、極みの悪魔と書いて『極悪魔』と呼ばせるような存在だ、レトさんがいるとは言え、楽観視すべきではないだろう――――なんか悪魔多くね?


「私が魔王シュカ、ニンカが魔王ヴィラン、レトがエクステラを対処するってことは説明した通り。だけど、問題はここから」


 ラゼは、インベントリから新たなメモを取り出し、こちらに見せる。

 そこには、俺たち――――恐らく、戦闘が可能な異世界人と、魔王同盟陣営の名がそれぞれ羅列されていた。


「残っているのは、異世界人の皆が12人、魔王同盟陣営が8人。人数上は有利だけれど、一人に対して複数人で対処してほしい私としては、正直不利な対面だと言える」


 だろうな。俺たちは勇者ラゼの下で強くなっているとは言え、戦闘経験1ヶ月の素人だ。魔王の配下、しかも少数精鋭とかいう、冗談抜きで世界トップクラスの実力はありそうな奴とわざわざタイマンを張る気にはならない。

 お前はティザプターにタイマン申し込んだだろって? あいつがボスモンスターとかいうヤバい存在だなんて知らなかったっつってんだろうが!


「一応、待機組からのサポートは送り続けるつもりだし、アネモネやシハロ、場合によってはリルティアやノボル、マキにも戦いに出てもらうかもしれない」


 俺たちからの注目を浴びたアネモネは冷静に佇み、シハロは何故かピースサインを向け、日に日に小物っぽくなっていくリルティアはおどおどしていた。


 万が一による保険のために待機するアネモネさんもまた相当の実力者だし、シハロも固有スキルが司令塔向きとは言え、身体能力は割と高い。リルティアは戦闘はからっきしだが、全ての盤面をひっくり返せるレベルで強力な固有スキルがある。

 下村や名塚さんたちといった準戦闘要因も無力じゃない。シハロから鍛えられているそのスピードを活かせば、サポートとしてはこの上ない適正を見せるだろう。


「だけど、鍵を握るのはやっぱり戦闘組の皆だよ。これに関しては、避けようがない。私たちも全力で早期決着を目指すから、それまで何とか堪え忍んでほしい。何度も言うけど、この迎撃の目的は勝つことじゃない。誰も死なないまま、相手が退くことなんだから」


 そうだ。こちらも相手も命さえあれば、実質こちらの勝ちなのだ。そうするのが難しいと言われてしまえば、それまでだが。


「というわけで、今から魔王同盟陣営の個人の戦闘スタイルを、徹底的に皆に叩き込む。そして、それぞれの自分なりの自衛方法を自分の中で確立させてほしい」


 そう言うわけで、ここからは楽しいラゼ先生の本格魔物講座の時間へともつれ込んだ。ワクワクするな!


「とは言え、ここまで散々脅してきたけど、魔族と相対するよりは簡単ではあると思う。普通の魔物には、固有スキルがないから」


 言われてみれば、魔物を配下とする魔王だけが攻めてくるというのは行幸である。固有スキルを使えるのは、魔族であるシュカとヴィラン、ボスモンスターであるエクステラだけ。

 俺たちが相手取る配下に対して、俺たちは相手への知識だけでなく、固有スキルという絶対的なアドバンテージがある。


「そこだけは安心していい。ボスモンスター以外で固有スキルを持つ魔物なんて、存在したことすらないんだから」


 ラゼは、確信を持ったような言葉で、俺たちを勇気づけた。

 勇者という絶対的強者からの宣言に、俺たちは少なからず安堵を覚えていた――――
















 ●


 ――――後から思えば、ここで俺たち異世界人は、この発言で気付くべきだったのかもしれない。

 気付けるとしたら、俺たちだけだったのかもしれないのだから。


 だって、この世界に、『フラグ』という言葉があるのか分からないのだから。




 ――――魔王シュカ、魔王ヴィランの襲来まで、残り3日。

 ――――大型アップデート、()()()()()()()()()()()()()まで、残り2日。


 戦局は、混沌の一途を辿る。


ラゼ陣営の年齢層

金崎先生>アネモネ、ソウ≧ラゼ、リルティア、ニンカ、レト≧異世界人、シハロ


おおよそこんな感じのニュアンスでいいです。金崎先生も割と若い先生なんで、年齢の幅は言うほど広くない感じ


ユズ視点での呼び方は、本人から望まれたラゼと、ほぼ同い年な上にコミュ強のシハロ、ほんのり年上なのにみるみる威厳が消えていくリルティアが正式に呼び捨て

ここ最近で何かと接する機会が多いニンカは、呼び方は師匠、内心呼び捨て

その他のアネモネとソウは、さん付けしている



『面白かった!』

『続きが気になる!』

『さっさと続きを更新しろやブン殴るぞ』


とお思いいただけましたら、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援していただけると幸いです。


あと、感想とかブックマークとか頂けると、作者が嬉し泣きしながら踊ります。

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