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1話 イケメンとぶつかりたい

午前8時20分。始業十分前の教室にはクラスメイトが次々教室に集まりはじめる。

クラスがかわって約一か月が経ち、新しい環境に慣れて肩の力もすっかり抜けてきた。

私はすれ違う友達と軽く挨拶をかわし、重い瞼をこすりながら席についた、その時だった。


「遅刻遅刻~~!!!」


落ち着きのない足音と同時に甲高い声が教室に響き渡った。驚いて教室の前方に目をやると食パンを口にくわえた大葉可奈子(おおばかなこ)が立っていた。


「朝から騒がしいなあ。何してんの?」


髪の毛は荒れ狂い、口の周りにたくさんのパンのカスをつけた可奈子に私は駆け寄った。


「あーずー聞いてよぉ!!イケメンと遭遇できなかったんだよ!!」


それは、くわえていたパンを一気に口に中に押し込んだあとやっと発した言葉であった。


「え?どういうこと?」

理解が出来ず私が聞き返すと可奈子は何故分からないのだと言わんばかりの呆れた表情を浮かべた。


「遅刻しそうになりそうなときにパンを咥えて角から飛び出したら、イケメンとぶつかって恋が始まるってのがお決まりパターンなの!」


私は何からつっこめばいいのか分からなかった末、「あーたしかに!」と自分でもよくわからないまま同意してしまった。

何はともあれ純粋に興味がわいてきたので、可奈子の話を聞くに限る。


「まあとりあえず今日の朝のことについてざっくり教えてよ」


………


「今日はね、わくわくしてたから早く起きたの。昨日の夜にこの作戦を思いついたからね!

イケメンとぶつかるんだからそれなりにメイクもして髪の毛も整えて…なんてしてたらいつもの家を出る時間より30分も早く前に支度が終わっちゃった」


何故か可奈子は顔を赤らめて頬に手を染めていた。

どこに照れる要素あったのよ。ていうかいつもより用意早く終わってるんかい!!!


「でもその代わりにね、遅刻ぎりぎり時刻まで時間が余ったから、くわえて走るパンに味をつけたくてチョコを塗ったの!ちゃーんと裏表チョコたっぷりよ」


先ほどまで顔を赤らめていたが今は得意げな表情でこちらを見ている。

いやいや最後までチョコたっぷりみたいに言うけど全然違うからね?!?


「それでね、遅刻ぎりぎり時刻になった瞬間に私は家を飛び出したの!でも遅刻ぎりぎりの時刻になってみるとこんなに焦るものなんだなーって。電車では間に合わない時刻ってすっごくハラハラした!」


……あれ?え?!?!?!?!?!


「え、可奈子学校まで走ってきたってこと?!?!」


私の問いに可奈子は元気よく頷いた。


「うん!!もちろん!!」


私は目を見開いた。だって可奈子は毎日電車通学なのに。

自分の足で走って始業に間に合っているってこと!?!?


「あんたバケモンだよ!!!!!」


思いのほか大きな声を出してしまい自分でも驚いた。

その一言で片づけていいものではないとは思うけれどとりあえずイケメンがぶつかっていなくて本当に良かったと思い安堵した。可奈子にぶつかったらきっと即死だっただろう。


「バケモノってひどいよあーずー!でもそれよりひどいのが途中の角でぶつかった奴なんだよ!もう何なの!!」


ころころと表情をかえる可奈子は今度は頬を膨らませていた。それは絶対わざとだろ!

いやそれよりもぶつかったやつ大丈夫なの?!生きてる?!私は不安になって恐る恐るきいてみた。


「え、そのぶつかった人は大丈夫なの?」

「え何かいきなり腕を掴んできて超気持ち悪かったよ。そんなにスピード出したら危ないですよとかいってくんの本当なにって感じ!」


いや行動イケメンやないかい!!!!!!

あんた目的達成しちゃってるやないかい!!!!!

てか電車なみの速度の可奈子をとめるとかそいつもバケモノでしかなくないか?!?!


「しかもしかもね!?!?ハンカチをいきなり出して私の顔拭きだしたんだよね、謎過ぎない??」


いや顔にパンのチョコつきまくってたのかよ!!顔真っ茶色かよ!!!

顔を茶色に染めながらもの凄い速度で走る可奈子を想像したら笑いがこみあげてきた。

たぶん余裕でネットニュースのトップはかざれるわ。


「あはっ……もうむりっ…ははははははは」

私が肩を震わせながら笑っていると可奈子は不服そうに「何で笑うのさ~」と言って口を尖らす。


………


こうしている間に10分はあっという間に過ぎて始業のチャイムが鳴る。

「みんな席つけ~~」

気怠そうな先生の声を合図に可奈子は自分の座席へ戻り、またいつもの日々に戻るのだった。


あとから聞くと可奈子は顔を拭いてもらったら遅刻したくなさにすぐに走り出したせいで、その行動イケメンの顔すら覚えていないらしい。これじゃあ本末転倒だなと思ったけれど、これくらいが可奈子らしいなとも思えたのだった。


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