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第7話:乳飲み子のごとく

「そんな猿みたいに指だけ振っても仕方ないだろう。ちゃんと念じろ」

 エリルにあざけられ、そういうことは先に言ってくれ、と内心で文句を言いながら、その通りに試みた。


 指を滑らせると、その空間から、ステータスウィンドウがあらわれた。そこには、僕のステータスと思しきものが書かれていた。初めて見る僕でもわかるほど、レベルが絶望的に低い。


−−−−−−−−−−

 職業 :管理人

 ランク:0

 レベル:1

−−−−−−−−−−


 あれ、ヒットポイントがない。他にも、RPGにありそうなステータスの数々がない。


「見せてみろ」

 エリルがステータスをのぞき見る。


「おお、本当に管理人だな。うげっ、なんだこのレベルは。生まれたての赤子かよ」

 おぞましいものを見たかのように、エリルが身を震わせる。


「いやぁ、お恥ずかしい」


「むしろ、よくこれでその歳まで生きてきたな」


「ほめられると照れますね」


「いや、ほめてはいない」

 エリルは首を横に振る。


「ヒットポイントはどこですか? キノコに襲われて、確かに削られて死にそうになるのを感じたんですけど?」


「なんだそれは。攻撃を受けて、限界がきたら、死ぬ。それだけの話だ」


 エリルの話を聞いて、僕は驚く。ヒットポイントはRPGの基本だと思うが、どうやら目に見えるものではないらしい。


 元の世界では自分がどれほど死に近いのかなんて分からなかったが、どうやらこの世界では自分の命に対する感覚が鋭くなるらしい。理屈ではなく、体感でそれを理解する。


 もしこの感覚が、前の世界でもあったなら、自分は死なずに済んだのかもしれない。そう考えると、自覚もなく死に至ってしまった情けなさを思い、少し切なくなった。


「ステータスに、運とか経験値とか素早さとか、マジックポイントとかも見当たらないんですが、別のページがあるんでしょうか」


「運や経験が数値で見えたら怖いだろうが。なに言ってるんだお前は。素早さなんて、走って測ればいいだろう。マジックポイントとやらも聞いたことがないし」


 エリルが呆れたように言う。この世界の常識はよく分からない。


「魔法はあるんですか?」


「当たり前だろう」


「魔法がどれくらい使えるかのステータスが無いじゃないですか」


「そんなもの、使えなくなるまで使えるに決まってるだろう。本当にバカな質問ばかりするなお前は」


「そういうものですか……」

 これで何度目のバカ呼ばわりだろうか。少しムッとするが、反抗はしない。このエルフ、顔に似合わず、どこか攻撃的な面を持ち合わせているような気配がある。


「しかしどうしたもんかな。こんなステータスのやつを、赤ん坊を育てるように面倒をみてくれるやつはいないだろう」


「ええー……どうすればレベル上げられるんですか?」


「私のおっぱいでも飲んでみるか?」


「な、な、なにを言ってるんですかっ……い、いいんですか?」


「バカ、本気にするな」

 焦る僕を見て、エリルが満足そうに笑う。


「で、ですよね」

 豊満なエリルの胸を横目に見ながら頷き、少し本当に期待した自分を殴りたくなる。


「しかし本当に、乳飲み子でも、普通に暮らしているうちに多少はレベルが上がるもんだがな。どういう育ち方をしたらこんなステータスになるのか」

 本気で悩むように、エリルがうなる。


「やっぱり、試しにおっぱいを飲んでみる方向で……」


「死にたいのか?」


「すみません」


「まぁこんなステータスじゃほっといても死ぬがな」


「そんな殺生な……」

 僕がすがると、哀れな子犬を眺める目つきをエリルが向ける。


「とにかく街まで連れて行ってやる。そのあとは自分でなんとかするんだな」


「街は安全ですよね? キノコとかいないですよね?」


「安心しろ。キノコは食用がちょっといるくらいだ」


 エリルの言葉を聞いて、少し不安になる。食用キノコに殺されたら、その街の伝説になれるんじゃないだろうか。悪い意味で。


「街に着いたらどうすれば?」


「そうだな、ギルドにでも行ってみればどうだ? その珍しい職業なら、物好きなやつが相手をしてくれるかもしれん」


「あ、そのことなんですけど、僕の職業は秘密にしておいて頂けないでしょうか」


「どうしてだ?」


「いえ、おそらく、職業も僕の里の、固有のやつなのかもしれないなって。そうだったら、これも秘密にしておかないと、僕は殺されます」


「しかし職業も明かせないとなると、ギルドに登録もできないぞ。どうするつもりだ」

 エリルがいぶかしむ。


「それは街へ着いたら考えますから」


「そんなわがままな理由で勝手をしても、私は面倒を見ないからな」

 念を押してエリルが言った。


 他に頼りが見つからなければ、なんとしてもエリルにつきまとう気だったが、とりあえず頷いておく。


 エリルは先に立って歩き出した。街へ案内してくれるようだ。


「どこへ向かうんですか?」


「テトラリルだ」


「テトラリルって街の名前ですか?」


「テトラ・リルだ。リルの街とも呼ばれる」


「テトラ?」

 はじめて聞く言葉だ。

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