最強は覇者を志す㉑ PT戦@少数
PTを組み終わると補充や耐久の確認を終えた。私以外のメンバーがNPCの傍にいるかを見回し確認してさっそくトーナメント戦のPT戦にエントリーする。
緊張した顔のゼンさんに、シロと宗乃助が肩をたたき声をかけ落ち着かせようとしているが、その表情はあまり変わらない.
けれど、なんとか出る決意は固まったらしく「宜しくお願いします」と改めて挨拶をされた。
『律儀だなw』と笑うシロ。『失敗して覚えるでござるよ』と死んでも気にしなくていいと言う宗乃助の様子を伺っていたところに漸くカウントが表示された。
『うんじゃま、作戦通りに』
『はい!』
『k』
『楽しむでござるw』
カウント残り15になり、両頬を叩き気合を入れ直し目を閉じる。先ほど決めた作戦の流れを思い浮かべる。
宗乃助がハイドを使い先行して相手を撹乱する。同時に、ゼンさんは相手後方へ走りそこで陣どり逃げ道を失くし、私が正面から突っ込み宗乃助に向くタゲを分ける。
二分されたタゲで右往左往しているであろうところに、シロが最大距離から相手盾か重ATKをダウン プルを使い足止めする。
上手く行けば、十分に通用するだろう作戦なのだが……こればっかりは、やってみなければわからない。
瞼を開けば既に見える景色は、鬱蒼とした草や蔦が生い茂る白亜の遺跡跡地に呼ばれていていた。PTチャットで『バフ』と声をかけ相手の職と名前を確認する。
回復は、ヒカりん。盾は無しで重ATKが、カフォルとジュウゴ。魔法攻撃職がユウたんと表示されている。
バフをかけ、どうせディティクションがあがるだろうと思いながらもトランスパレンシーを入れ、宗乃助、ゼンさん、私、シロの順に隊列を組み中央付近まで進めば、相手も近寄って来ていた。
『あー。マジリア充死ねばいいのに……』
『で、ござるな』
『え?』
相手PTの移動するその姿を見たシロが本音を漏らし、宗乃助がそれに追従するように答えた。緊張のせいで前が見えていなかったらしいゼンさんが、疑問の声をあげるも相手を視認すると同時に『本当にそうですね』とドス黒い良い笑顔で同意していた。
[[ティタ] リア充は抹殺するべし]
[[黒龍] クソ……ゲーム内でイチャコラしてんじゃねーぞコノヤロー!]
[[さゆたん] これだから独り者はw]
[[白聖] 任せろ!]
[[宗乃助] 殺るでござるよw]
[[黒龍] おう。確実に殺して来い!]
[[ティタ] 仇をっ……]
黒とティタが見てないといいな……そう思っていた矢先、二人がクラチャで見ていたらしい発言をする。さゆたんの突っ込みもむなしく、独り身の寂しい男たちが集い嘆く。
仇ってなんだ? とは突っ込まず、ただ静かに正面に居る憐れなゲーム内カップルたちへ同情の視線を向けた。
『なんで、ここで腰に腕回す必要あんの??』
『右側は、恋人繋ぎでござるよ……。まずはそこの手をぶった切るでござるw』
『宗そっちやるなら、俺正面の狙うわw 確実にな?w』
『シロ。これは我らの使命でござるよ!』
『わかってるぜ、宗乃助!』
別れさせてやると盛り上がっている二人が、その後ガッツリと腕相撲でもするかのように手と手を握り合う。
『シロ、カウントね?』
『わかってる!』
その場に留まり既に30秒ほどが経過しているが、ディティクションが打ち上がる気配が無い。開始20秒前になりゼンさんと宗乃助、シロ。それぞれが行動を起こした。
シロは背後に下がり、ゼンさんは左側面を迂回し相手の背後へ。宗乃助は右側面から恋人繋ぎのカップルが狙いやすい位置へと移動する。
違う意味で盛り上がる場の空気に、心なしか居た堪れない気持ちを抱えつつシロのカウントを待った。
『残り5……4……3……2……1……gogo』
[[黒龍] 潰せ―!]
[[ティタ] いったれー!]
gogoの文字が見えたかどうかで、シロのオリハルコン アローが雷を纏い音速で私の横を通り抜け、腰に手を回しイチャイチャしていたヒカりんとカフォルの間――腰に回していたカフォルの手――を打ち抜く。
それとほぼ変わらないタイミングで、宗乃助がもうひと組のカップルの間に現れる。
ファントム エッジを使っているらしい短剣が紫と赤色のエフェクトを帯び本当に恋人繋ぎをした、ジュウゴとユウたんの手を切り裂いた。
[[ティタ] ナイス!]
『作戦??』
[[黒龍] wwww]
『今回は拙者たちがやるでござるよ!』
『任せとけ!』
[[大次郎先生] 何事?]
[[さゆたん] バカがバカなことしてるでしゅよw]
『作戦は大事……』
[[大次郎先生] リア充シネって言うのは見えたけど?]
盛り上がるクラチャとは別にPTチャットで、作戦は? と何度か伝えてみるも、任せろと言い続ける二人に呆れ、なんのために作戦を練ったのだろうか? と、疑問が浮かぶ。
そして、こう言うところがモテないのだと何故気付かないの? そう本気で思った。
「キャッ!」
悲鳴があがりそちらを見れば、ユウたんが灰色になるところだった。彼女を殺され「いきなり卑怯だぞ! 絶対、許さないからなっ!」と叫ぶジュウゴ。
それに対し、本当に悪人の様な黒い笑顔で答えた宗乃助が、短剣に雷を纏わせ彼女の遺体? を地にそっと寝かせ剣を抜き構えるたジュウゴを容赦なく切り刻んだ。
「クソッ!」
[[†元親†] 終わったぜ―! 快勝だ~w]
[[黒龍] 良くやった宗乃助!]
[[ティタ] 惚れそうwww]
『ティタ、黒、仇は取ったでござるよ……』
[[キヨシ] 怖い、クラチャが怖い……!]
[[さゆたん] 別に殺したからって別れたりはしないでしゅよ?w]
[[宮様] さゆたん> 正論だわw]
『見えてない!』
ものの10秒もかからず、短い言葉を残しジュウゴが彼女の手を握るように倒れ灰色になった。まるで俺たちは離れないぞと言わんばかりに……。
クラチャでは、試合が終わったらしいメンバーが続々と発言をはじめている。PTチャでカッコよく決めゼリフを言う宗乃助に、突っ込みを入れてやった。
視線をシロの方へ向ければ、そちらもカフォルの方が灰色になり倒れていた。残すはヒカりんだけなのだが、それももう終わるだろう。画面右端に見えるHPバーを見れば既に虫の息だ。
ニヤっと笑いシロがオリハルコン アローに炎を纏わせ放てば、コンマ数秒ほどでヒカりんの身体に突き刺さり残ったHPを弾き飛ばした。彼女のアバターは全身を炎に包まれ、そのまま崩れ落ちた。
[[白聖] 仇はとったぜー!]
[[黒龍] ないすぅ~!]
[[ヒガキ] お疲れ様です]
[[宮様] 仇ってなに???]
[[キヨシ] おつかれw]
[[大次郎先生] 意味が判らない。誰か説明Plz]
[[さゆたん] 先生、宮> 気にしちゃダメでしゅw]
開始2分で決着がつき会場にブザー音が鳴った。それと同時に【 チームB win 】と表示される。
一拍置いて死会場にカウントが表示されカウントを刻みだす。
こんなに嬉しくないwin表示を私は初めて見たな……。
別にゲーム内で彼女とイチャつこうがどうでもいいけど、戦いの直前までイチャつくとかは止めて欲しい。
そのせいで、今回バフしただけになった訳だしね? 節度を持ってイチャついて頂きたい。と、この二組のカップルには言いたい。
そして、見て悔しいからって二次職相手に、三次職カンストの二人がスキルフルに使うとかありえないし、クラチャで抹殺しろとか言うのもどうなの? 彼女つくればいいじゃん……そう心底クラメンに言いたかった。
初めての少数戦は、どこを見ても鬱憤の溜まる試合にポツリと言葉がこぼれおちた。
「次こそは、対人を楽しみたい」本心からの言葉だった。
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何度も申し訳ありませんが、23日はお休みさせていただきます。




