最強は準備を始める⑬
お待たせしました。
パン工房血盟は、私たちの鯖で良く野良レイドを主催している血盟だ。
そんな彼らが何故参加したいとティタに頼んだかと言うと、うちの同盟以外でカリエンテ討伐に成功しているところがないからだそうだ。
他の所は知らないけれど、勉強熱心な彼らはうちの討伐に参加することでどこがどう違うのか、その違いを見たかったと言う事だろう。
理由を聞いた同盟のメンバーたちが、各々「頑張れ!」とか「期待してるよ」と声をかける。
『「じゃぁ、ここでいったんログアウト休憩入れるでしゅよ。リアルでおトイレとか水分補給とか忘れないようにするでしゅ」』
入口手前でトイレ休憩を入れるさゆたんの声に合わせて、各々が各自ログアウトしていく。時間にして十分ほどの休憩を終えれば、ガーゴイルを討伐してカリエンテの住処に続くポータルへ向かう。
ガーゴイルに関しては野良でも討伐は出来ている模様なので、ここはスルー。
問題のカリエンテに関しても、色々質問をティタが受けて答えている様子なので私たちはいつも通りに陣取り、討伐を開始する。
今回の討伐に関して言えば、少しだけいつもとは違うけど……。
黒がカリエンテのタゲを取り、ついで白影が今回はサブに回る。大和は二人の補佐役で、今日は待機に近い。
毎回同じ盾のみでタゲを取るのも勉強にならないし、何より私が面白くない。そこで、白影をサブに指名してみた。
指名された白影は、頬が引き攣ってたけど……きっと何とかなるはず。
『「黒が嵌めて、タゲある程度固定できたら攻撃開始の合図するでしゅ。それまでは、全員待機でしゅよ」』
先陣切って攻撃しようとする輩は流石にいないけど、一応の注意をさゆたんが飛ばす。
このタゲ固定の時間が一番心臓に悪い。黒のHPゲージが何度も上下するからだ。
五分ほど黒と白影だけが攻撃を続け、カリエンテが黒に前足で何度も踏みつける動作を繰り返す。
そのタイミングで黒が『ok、いいぜ』とタゲ固定を知らせた。
と同時に、宮ネェがバリアの指示をだし、カウントしていた博士の英知の結晶――地雷が爆ぜる。
『いい感じである!』
『博士のポーションこえーよ! 俺、死ぬかと思った……』
博士のPOTが爆ぜてもタゲが飛ばない様子をみたさゆたんが再び指揮チャで指示を飛ばす。
『「タゲ固定完了でしゅ。まずは近接、死に物狂いでダメージ与えるでしゅよ。バフ担当は、各人HPPOT、MPPOTを足元に100単位でまくでしゅ!」』
カリエンテに群がる近接を他所に、私以外のバフが足元にPOTを巻き始める。更に少し離れた崖上から、魔法使い組が放った氷やら水やらの魔法がカリエンテの巨体に当たり綺麗な光景を作り出した。
順調に討伐が始まり、そうして時間をかけることなくカリエンテのHPは削りとられていく。
その間に死人が居ないかと言えば、かなり大量に死んでいる。
自分で課金して祝福された復活スクロールを後衛に渡して使って貰う人もいれば、入口から復帰してくる人もいる状況だ。
何度入れ替わろうが、私は自分の決めた時間でバフを切らさないよう回していく。
『そろそろか?』
『「死者、耐久はキッチリ戻しておくでしゅよ! 黒、白影そろそろ入れ替わるでしゅ」』
『了解。うんじゃ、白影任せるぞ』
『おう』
『サブに僕はいるね~』
これまでの経験からカリエンテが第二段階へ移行する頃合いで、黒の装備の耐久が無くなることは周知の事実だ。
そこで私たちは、第一を黒、第二を白影、第三を大和と言った具合にタゲを持つ盾役を入れ替える事で継続して討伐できるようにしていた。
入れ替える=死だけど、そこはまぁ、諦めて貰うしかない。
その分狩りに連れて行ってるから大丈夫だろう。
黒のHPが尽きると同時に、白影が黒の入っていた場所に入り込む。
カリエンテのタゲは、無事白影に映り、黒を起こしに行く。
黒に使うのは黒が課金して用意した祝福の復活スクロールだ。お値段は、なんと一枚三百円!!
『耐久戻してくるわ』
『バフ待ってるから、急いでね』
『おう』
黒が走って上に向かうのを見送って、連合のバーを開きMPを見る。
どう考えてもMPは足りないよね。
回復はなんとかなってるっぽいけど、魔法組と弓のMPは既にカツカツ。
ドーラフィールの回復の大樹を使えば、一定時間HPとMPが回復するがこのタイミングで使うか悩ましいところ。
『「魔法組、弓組は、交代でMP回復に努めるでしゅ!」』
『魔法A、B、D回復、C、Eはこのまま攻撃続行でー』
『弓CD休憩。他続行』
さゆたんも私と同じ事を考えたらしい。
流石と言うか、伝えるまでもなく自分で判断して、迅速な指示が出せるさゆたんはやっぱり指揮官にむいている。
それに答える各部隊リーダーも優秀だと言える。
カリエンテが、翼をはためかせ近接が離れる。
どうやら、弓が今回最初だったらしく、弓勢が怒涛の勢いで矢を放っていく。
五分ほどして、今度は近接がカリエンテの周りを囲み攻撃を開始。
直ぐにABを入れてくれと言う懇願めいたPTチャットが入り、私はABを必死に入れる。
繰り返すこと数回、漸くカリエンテの頭上に鎧の砕けるエフェクトが。
ふぅーと一つ息を吐き出した私は、またもバフを入れるため走りはじめた。
『「ここで、気抜いちゃだめでしゅよ! 攻撃してない魔法、弓はMP回復優先でしゅ。矢、MPPOTの補充も忘れちゃだめでしゅよ!」』
『近接回復厳しいようなら見殺しで、死に戻ったら耐久戻して戻れ!』
『回復、バリア優先で無理しないように!』
PTチャットでの指示を不思議に思いながら足を止めて下の状況を確認すれば、カリエンテのHPがもうそろそろ三割といったところだった。
討伐を開始してもうすぐ五十分、もうそろそろいい頃合いだろうと私はドーラフィールの回復の大樹を召喚することにした――。




