最強は準備を始める⑫
お待たせしましたー!
『おーい。ren、お前のその顔で、周りが恐怖状態だからやめてやれ?』
ドーラフィールの可愛さを愛でていた私に、白が暴言めいた言葉を吐く。せっかく、可愛い子をゲットして喜んでいたのにと白を睨みつければ、思いっきり肩を竦めれた。
仕方ない。この一週間このドーラフィールのおかげで狩りが捗った。それは、物凄い勢いで……クエストアイテムも再び溜まったし、いいか。
寛大な心をもって白を許した私は、バフを入れ直す。
この三日、世界戦を見据えて同盟内で話し合いが行われた。
全員が参加意欲に燃えていて、私は不参加と結局言い出せないまま参加することになりそうだ。
その話し合いの内容だが、同盟で城を三つ持っている。どの城を防衛して世界戦に参加するかだ。
最終的に、他鯖ではまだ新しくできた城が落とされていない可能性がある事。そして、道が狭く私たちの人数でも防衛がしやすい事が理由になって、アースの居城であるヘスティアを選んだ。
他の二つは世界戦が終わってから、取り返す方向で……。
正直ヘスティアなんて税収微妙だし、守る価値もないと私は思っている。
[[黒龍] 暇だ]
[[宮様] 誰も攻めてこないわねぇ~]
[[鉄男] 来るわけねーよ。だって、防衛以外登録なかったし!]
[[ゼン] 来ないですね~]
[[ベルゼ] え? 無かったの?!]
[[風牙] あー、鉄男バラすなー]
[[ミツルギ] 困ったもんっすね]
そう。防衛と言うのは攻撃が来て初めて成立するもので、誰も攻めてこないと分かっている城に棒立ちしているは辛い。
クラチャが流れるのをボーっと眺める。
暇すぎる。この時間が勿体ない……あぁ、この時間に製本出来れば……。やったら怒られるかな? でも、攻めてこないならバフもいらないよね? うーん。見えない場所に隠れれば……いけるんじゃないかな?
[[大次郎先生] ren。ダメだよ]
隠れる場所を探して、きょろっと顔を動かした絶妙なタイミングで先生からチャットが……。
なんでバレたの? 私ただ見回しただけなのに! って、こういう事を考えている事すらバレていそうで、私は死んだ魚の眼のように感情をなくした。
と、そこへティタから密談が入る。
密談なんて珍しいと思いながら、お願いごとを聞いた私は自分ひとりじゃ判断できない事を伝え、同盟チャットで各クラマスに許可を取るように促した。
(ティタ) 唐突だけど、お願いがあるんだー
(ロゼ) 本当に唐突だなww
(千桜) どうしたわいね?
(小春ちゃん) あら、珍しいわね~ん。
ティタのお願いと言う言葉に、ロゼたちが反応を返す。勿論うちのクラメンたちも色々言っていたけれど……割愛する。
(ティタ) 実はね、俺の親友がマスターしてるクランがあって、そこのメンバーを1PTだけこの後予定してるカリエンテ討伐に連れてって欲しいんだけど……ダメかな?
シーンと静まり返った場の雰囲気に、ティタの頭が下がっていくのが見えた。
この場の雰囲気的に皆が危惧しているのは、討伐後にゲットできるかもしれないサモンの卵やら、その他レアアイテムが同盟外に流れる可能性だろう。
だって、人数的には何の問題もないし。その他攻略に関しても、同盟外からの問い合わせには同盟の話し合いで答えて良いとしている。
うーん。この雰囲気はあまりよくないよねー。
ティタはよくやってくれていると思うし、私としては参加に否はない。誰も何も言わないなら、仕方ないな……。
(ren) いいんじゃないの? 参加するの1PTでしょ? それに、今回限りなんだよね?
(ティタ) 1PTに限定して貰ってるし、今回だけだよ。
(ロゼ) まー、一番負担になってるのはBFだし、いいって言うならうちは歓迎する。
(小春ちゃん) うちも問題ないわ~ん。
(雪継) ん-。サモンの卵とか買われるのはちょっと……
(白影) 確かに、雪継のいう事もわかるけどさ、お前のクランで買える奴らいるのか?
(雪継) ……い、いないけど……でも、いつか買えるかもしれないじゃん!
(黒龍) 今回のみの参加なのに、いつかの話すんのか? 頭悪すぎじゃね?
(白聖) つか、ここでサモンの卵云々って言ってるけど、前回renがサモンの卵に使おうとした金額10G+αだぞ? カリエンテのサモンの卵が今回落ちたとして、renが黙ってると思うか? お前のクラメンにその金額用意できんの?
(雪継) マジで!
(千桜) 相変わらずどこで、そんなに稼いでるのかわからないわいね……。
白の暴露のせいか、全員の視線が私に突き刺さる。感じるはずのない嫌な汗を感じつつ、私はすっと雪継へ顔を向ける。
(ren) 雪継、いいの? 嫌なの?
(雪継) いい、いいです。
(ren) そう。だったら最初から余計な事言わない。今度同じような事言ったら、その時は……(うちからの教育は無しになること)……わかってるよね?
(雪継) は、はい!
アースのメンバーの顔色が悪い気がするけど、おかしなこと言ったかな?
首を傾げた私に、先生がクラチャで「ren、あんまり過激な脅しはするなよ?」と言ってくる。
それに適当に返して、私はバフを更新した。
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戦争時間が終わって、各々装備などを準備してヘパイストスへ。PTを組みながら、今回の指揮官であるさゆたんが連合を組んでいく。
『「今回参加するのは、パン工房のメンバーでしゅ。カリエンテ入口に到着したら、全員対人オフにして殺さないようにしておくでしゅ! パン工房の皆さん、よろしくでしゅよ」』
『今回は無理を聞いて貰ってありがとうございます。皆さん、どうぞよろしくお願いします』
ティタの連れらしい人が丁寧な言葉遣いで挨拶をすると、各々がよろしくとPTチャットが賑わった。
参加しているパン工房のメンバーを見る限り、きちんと構成を考えてきているらしく、盾一名、近接二名、回復二名、弓一名、魔法職二名と言った構成だった。
装備もきちんと火耐性が付いている物をつけているし、うちのキヨシよりましかもしれない。
『「鍵探して、いくでしゅよ」』と可愛らしい指揮チャットが流れ、各々が動き出す。
カリエンテのサモンの卵が出たら、欲しいところだが……ドーラフィールも捨てがたい。どうにか二匹出せないかと悩みつつ、私も黒たちと共にイフリート火山に向かい歩み始めた――。
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