最強は準備を始める⑪
まさか、全員が素直にチャットを打ち込んで聞くとは思っていなかった私は、その場に五体投地したい気分のまま彼らからの謝罪を受けいれた。
各クランのギルマスないし副マスから、次々と謝罪の言葉がチャット欄に表示される。
二言目には、どうかPKだけはご勘弁をと言う言葉が連なり返事を打ち込んでいる間に別の人からのチャットが入り、正直チャットするのがあまり得意ではない私は返事をすること自体が面倒になってしまった。
私が言いたいことはただ一つ。
ごめんなさいが聞きたかっただけなんだ……。
それなのに……口より手が出たメンバーたちのせいで、あちらもこちらも、そちらも謝罪の嵐だ。
もう知らんと言いたい気持ちを素直に吐露して、シレっと先生と宮ネェにその後の対応を託して密談をオフにする。
「状況は、わかったよね?」
「はい。すみませんでした……」
「あと、勇者マサユキくん。君、街中で私にぶつかってスルーしたよね? それについてのごめんなさいは?」
モブは今後ちゃんと始末する約束をして、一応の終息。
勇者マサユキについては、一言だけ付け加える。
ちょっとしたことではあるけど、これからも楽しくゲームを続けたいならぜひ学んで欲しい。ほんの少しの事で、PKになる可能性があることを……。
余談だけど過去に実際にあったのだ。被害者は白。
白が初心者だった頃、当時、いきり倒す連中が多く湧いていた。そんな時だ、白の肩がちょこっと相手にぶつかった。
その時点で白は一応「あぁ悪い」と謝ったらしいのだけど、相手はそれが気に食わず執拗に追い掛け、PKしてきた。
勿論、負けず嫌いで有名な白だからきっちり、やり返してもいたけど相手にやられる回数が多かったのも確かだった。
と、話しがそれた。
「すみませんでした。あの時、ちゃんと謝らなかったから……」
「そうだね。君のその行動が、血盟もしくは仲間に酷い迷惑をかけることになるかもしれない事をきちんと覚えておくといいよ」
しっかり頭を下げて謝った勇者マサユキに対して、大和が最後に釘をさした。
素直に謝ればこれで、全部が終わりと言う訳で私たちは帰還する。
消える間際、勇者が「かっけー」と大和に見惚れていた。
自分の目的を忘れ、私は街の露店を見て回る。
宮ネェと先生は私が密談をオフにしたせいで、天手古舞しているようだけど放置だ。
あれ? そう言えば、なんで街中にいたんだっけ? と、魔法書を手に取って考える。
あー、忘れてた!! ドーラフィールのサモンの卵を孵化させようとしてたんだった!
思い出した私は、魔法書から手を離すと出来る限りの早歩きで、孵化場へ向かった。
孵化場は、近代的な――卵の形をした建物で、中に入ると一階は小さな孵化専用の装置がずらりと並んでいる。二階には孵化させたサモンを卵に戻す専用の装置が、置かれていた。
それぞれの使用料金は、孵化が一律1.8M。戻す方が、3Mと中々のお値段。
私はひとまず一階の開いていた孵化専用装置に、ドーラフィールのサモンの卵を置く。
自動で蓋が閉まり、アイテムボックスからお金が勝手に抜き取られた。
孵化するまでに十五分ぐらいかかるらしく、その間暇になってしまった私はヘルプのページを開いてサモンの卵のあれこれを読むことにした。
サモンの卵の孵化は、サモンを持つために必要なもの。では、サモンを卵に戻すのはどんな時かと言えば、販売取引するためのものだ。
要は、サモンを孵化させた状態では手放すことができないと言うシステムらしい。
サモンは一度孵化させてから、卵に戻しても同じ個体しか生まれない。
そして、サモンの卵にもレア度が存在するらしい。
最大で星は七個。一から二、三と上に上がるほどレア度が高くなっていく仕組みだ。
因みにトレラの卵が星六。今回私がゲットしたドーラフィールの卵は星五。
トレラとドーラフィールではトレラの卵の方が、星一つ分レア度が高いことになる。
このレア度は、生まれたサモンによっても変わるらしい。
トレラの卵から生まれるのは、第一段階の白衣を着たトレラと、第二段階のトレラ、第三段階のトレラと三種類だ。
確率的には、レア度は低い第一段階が九割を占め、残り一割の内七分が第二段階、三分が第三段階と言った具合になる。
えげつないほど低い確率に、私は相変わらずこのゲームの仕様度合いが鬼畜だなーとため息を吐き出した。
ドーラフィールの卵から生まれるのは、多分角有と角折れ、角無しのどれかだろう。
私の予想としては、角有が一番レア度は低く、次が角折れ、最後に角無しだ。
欲を言えば角無し――回復が欲しい。でも、それは欲張りすぎだと分かっているので中間の角折れあたりが出て欲しい。
とか言いながら、自分的にはきっと角有で終わると思っている。だって、こういうのに限って運がないのが私だから……。
なんてことをツラツラ考えていると孵化装置の蓋が開いた。
【 ドーラフィールのサモンの卵が孵化しました。 】
【 サモン:ドーラフィールを獲得しました。 】
【 サモン:ドーラフィールを使用する場合は、システムから設定を行ってください。 】
システムログが流れると同時にアイテムボックス内にサモン:ドーラフィールが入る。とりあえず、先にシステム設定から使用を選択して表示させた。
ポンと音が鳴り、小さなドーラフィールが私の右肩に浮かぶ。それと同時に、私の視界の左側、スキル一覧にサモンのスキル――大樹を模したようなマークが表示される。
サモンの見た目はドーラフィールを小さくした感じだ。
違う点は、色が光沢ある白で、角が見当たらないことぐらい。
まさか、と思いつつサモンに鑑定を使ってみる。
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名前 サモン:ドーラフィール(クラリタスの化身)
スキル 回復の大樹召喚
稀にデバフ解除
レアリティー ☆☆☆☆☆☆☆
備考 回復の大樹の召喚時間は五分。
三十秒毎ごとにHP、MPを五十ずつ回復する
再召喚、十二時間毎
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思わぬところで欲しかった回復が手に入った私は、「うっし!」と力いっぱいガッツポーズを決めた。
「これから、よろしくね」と横を飛ぶドーラフィールを撫でれば「きゅあー」と可愛らしい声で鳴く。
手乗りサイズのドーラフィールは、ふよふよと浮かび私の頬に顔を寄せる。それを微笑ましく受け入れた私は頭を指先で撫でた。
するとドーラフィールは、幸せそうに眼を細めた――。
また来週よろしくお願いします!




