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最強は準備を始める⑥

 勇敢な千桜のおかげで、卵が一個手に入った私はホクホク顔で鑑定する。

 ま、五回ぐらい死んでたし、持ち帰った途端私を恨めしそうに見てたけど気にしない。


「それで、その卵どう使うわいね」

「ん-。これじゃない」

「は???」

「これは普通のオブジェクトらしい。五分もすれば元に戻る。私が欲しいのは赤い方。だから、もう一回逝ってきて?」

「……鬼が、鬼がいるわいね……」

「早く」

「わかったわいね……」


 泣きながら、再び千桜が崖を登る。

 卵には、赤、黒、白の三種類の色があるらしい。今千桜が持って帰ったのは白で、ただのオブジェクトだった。

 使える卵は黒か赤に絞れたわけだが、手に持たないと鑑定できないため再び走って貰った。


 現在のドーラフィールの残HPは五割。

 千桜一人が抜けたぐらいでどうこうなるわけもなく討伐は順調だ。


 血を浴びるか……血って赤いよね? もしかして、赤い卵を割ることが血を浴びたら光だから、クラリタスってこと??

 だったら、今卵いらない。でも、次がいつあるか分からないし、今できるなら調べたい。

 ま、何が湧いてもいいし、とりあえず割ってみるのもありよね。


 バフを回して、何か面白い会話がないかとPTチャットを見る。


『千桜何やってんの?』

『さっきから、何回か死んでるよなー?』

『……鬼がいるわいね』

『今、ぞくっとした!』

『鬼?』

『俺も、俺も』

『つか、なんかHPの減りが悪くね?』

『嫌な予感がするでしゅ』

『ダメが痛い』

『耐久がやべぇ』


 とりとめのない会話が続く。

 見る意味は無かったとタブを閉じた私は、クラン会話に切り替えた。

 そちらでは、もっとくだらない会話が繰り広げられており読むことすらやめてチャットを閉じる。


 あ、千桜が死んだ。起こさなきゃ。

 千桜が死ぬたびに、復活スクロールで起こしているのは私だ。

 巣はオブジェクトだが、そこで卵を守っているのはドーラフィールそっくりなドーラフェルと言うドラゴンだ。

 ソロでも狩れるだろうモブだが、卵を持つ千桜は武器が使えない。

 そのため、卵を持ってくるだけで一苦労している。


「ren、英知の結――」

「今はダメ」

「そ、そんなぁ……酷いのである!」

「博士のPOTは、全体攻撃になるから今は使えない。後で、ウラガーンかクラリタスが湧いたらPOT使っていいから、それまでは我慢して」

「本当であるか? 約束である!」

「うん」


 この時の私は謎の方が気になりすぎて、あとで大惨事になるとも思わず博士と約束を取り付けた。

 

 博士の相手をしている間に千桜が、赤い卵を持ち帰っていた。

 鑑定を使い卵を見た私は、口角が上がるのを止められない。


「嫌な予感が……する、わいね」


 なるほどね……。この卵の意味はそういう事だったの。

 だったら、あと二つは必要よね。


「千桜」

「……」


 数秒待っても返事が無いことに気付いた私は、千桜が居た場所を見る。

 そこには誰もおらず、居たはずの相手を探せば既に討伐中のメンバーに紛れていた。

 

 逃がすわけないのに……。


『千桜。戻ってこないと中学入学二日目に千桜がやらかしたアレな話を、このチャットでぶちまけるけどいいかな? 十秒待つ』


 私が脅す材料に選んだのは、殲滅の破壊者だった頃、酔っぱらった千桜がチャットで暴露った黒歴史だ。

 中学に入学して二日目。千桜は真新しい学生服ガクランを着て登校した。教室に入った千桜は、一躍時の人となる。

 彼がしょっていたランドセルによって。

 それ以来、千桜のあだ名はランドセルだったらしい。


『イヤァァァァァァ!』

『ちょっと、千桜お前、何、やらかしたの?』

『千様が、脅されてる』

『あー、あれかーwww』

『自業自得だよなw』

『暴露ったの自分だしなー』

『〇学生』

『違うのである。ランドセルである!』

『ヤメロォォォォ!!!』


 元メンバーたちには全部ばれてるし、今更だけど。同盟にはバレていない。だから、脅せたんだけど……。


 私がチャットを打ち込み、必死に走ってきた千桜が血走った眼で「黙っていてください。お願いします」と言うまで五秒もかからなかった――。


「で、なんだわいね……もう勘弁してほしいわいね」

「この赤い卵を後、二個持ってきて」

「なっ!!」

「大丈夫。今度は雪継も付ける」

『ってことで、雪継。千桜と一緒に動いて』

『ん? あ、うん。わかった』


 私と千桜の会話を聞いていたわけでもないのに、安易に返事をする雪継に対して千桜の拳がプルプル揺れる。

 そして、雪継が私たちの元へ到着するとゴンッと言う、大きな音が上がった。


 どうやらクラチャでやりあっているらしい二人に「よろしくね」と頼むとその場を離れた。

 目的は黒だ。

 さっそく目的を果たすため黒へトレードを出す。

 直ぐに防御体制へ入った黒から了承され、黒に赤い卵を渡した。


[[黒龍] なんだこれ?]

[[ren] 卵割って、その液体被って。

   ドーラフィールの攻撃が、一時間だけ三割減になる。

   その代わり回復率が一割減だから、使う方がお得]

[[黒龍] へー。いいじゃん]

[[ren] 大和と白影の分は、今千桜と雪継に取りに行ってもらってる]

[[大和] やったー! 待ってるねー]

[[源次] 俺らにはないのかよ?]

[[ren] 攻撃力五割減でいいなら取ってこさせるけど?]

[[ベルゼ] 却下]

[[ティタ] 黒い卵の方はなんだったの?]

[[ren] まだ、調べてない。白はオブジェクト]

[[ミツルギ] 俺、いくっすか?]

[[さゆたん] みつるんは、攻撃しておいてほしいでしゅよ]

[[宮様] 卵取ってくるのは、千桜と雪継(カモ)に任せましょう]

[[ヒガキ] カモ……ですか]

[[†元親†] ネギが卵だからだろー?www]

[[キヨシ] ren! POT無くなった! くれ!!]


 赤卵の性能を説明しつつ黒の側をはなれる。

 黒が赤い卵を割り、その液体を被る。

 と、同時に黒の身体に赤い被膜が出来た。


 これで、少しは討伐が楽になるはずだと崖を登る二人を見ながらホッと息を吐き出した――。

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― 新着の感想 ―
[一言] 安易にエサに釣られた結果がこれですかw おまけにカモ呼ばわりとは、鬼と言われても仕方ないのかもですねw 攻略が一歩前進したのは間違いないので、尊い犠牲だったということなんでしょうねw
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