最強は準備を始める④
これまでが嘘のようにドーラフィールのHPが減っている。攻撃の通りも良いようで、近接組が嬉しそうにハイタッチしながら次々と攻撃をし嗅げていく。
これがいつまで続くのかは不明なんだけどね……。今は、これでいいとしても、次はどうするべきか。
ヒントっぽいこと言ってた人っていたっけ??
「『角があるのかを確認しろ』、『ドラゴンの角が折れると仲間を呼ぶよ!』、『ドラゴンが守ってる卵には、ある秘密があるそうだ』だな」
「むっ」
「考えてたんだろ? お前、難しい顔してたしな」
「村雨……」
「フッ」
ハードボイルド風に笑って去っていく村雨の背中を、私は悔しさをにじませた顔で見送った。
最近やたらと行動や思考が、読まれてる気がするのはなんでだ? むむっ、顔に出てるとか? そんなはずないんだけどな……。
「ren、何やってんの? 顔なんか揉んで」
「……いや、別に」
「まぁ、不細工な顔になってたからいいけどw」
くっ、聖劉の癖に!! あ、いいものがある。
仕返ししてやろうとメールを開き聖劉を宛先に指定する。そして、以前聖劉が晒した死顔のドアップSSを探す。
聖劉のメールに添付しようとしたところで、以前とったドーラフィールのSSを見つけた。
それを見て私は気づく、額に無かったはずの角が生えていることに。
まさか、ドーラフィールのHPの割合で角が生えるって事? それとも曜日で角有と角無しがいるって事?
SSで確かめないと分からないな。誰か持ってないか聞いてみよう。
[[ren] 誰かドーラフィールの討伐開始前のSS持ってない?]
[[春日丸] ある]
[[さゆたん] こいつ雷の方がダメージあがるでしゅ]
[[ren] メールして]
[[ティタ] マジ? 俺も雷入れてみよ~]
[[博士] 雷=風の上位だからである!]
[[春日丸] k]
[[†元親†] なぁ、俺も、俺も殴りに……いや、何でもないです]
春日丸からのメールが届き、添付された画像を見た私は、曜日で違う事を知る。今日は、土曜日だ。あの鰐が湧く日と同じ……。
確証は無い。だが、鰐とドーラフィールの湧きは関係あるのかもしれない。
それよりもだ。角が有ると無いとじゃ何が違うんだ。本当にこのドーラフィールを倒していいのだろうか?
その時だった。不意に鰐のお腹の中で出会った子供が言っていた言葉を思い出した。
――昔、おじいちゃんが、言ってた。
無は善神。
有は邪神。
有無を入れ替え、その血を浴びれば全てを呑み込む光が落ちる。
もしこれが、ドーラフィールの事だとしたら有だから邪神。倒すべき相手ってこと。最後の一文は分からないけど……。ま、違ったら違ったで、全滅して死に戻りすればいいだけだし、いいか!
そんな事より今は、角を折ると仲間を呼ぶの方だ。
仲間、仲間って、どういう事?
『「ren、バフ」』
考えに没頭していたせいで、ロゼからバフの要求が入る。
それに答えて個別のバフが切れそうな人に入れ、全体のバフも更新時間が近い事から、MP回復時間に合わせ秒数をカウントしながら入れていく。
仲間ねー。もしかして分裂するとかかなー? 分裂したら面倒だな。面倒と言えば、ここに来るまでの階段もやけに長かった気がする。
神殿っぽい作りで、ずーっとエジプトとかにある壁画みたいに絵が描いてあって――!!
『ちょっと、階段行ってくる。バフ更新前に戻る』
『k』
階段に書かれていた壁画は、ドーラフィールと良く似たドラゴンの絵が描かれた只のオブジェイクとだと思っていた。
けど、今のドーラフィールは、あの壁画のドラゴンはそっくりだ。
それなら、アレを確認したらきっと意図が分かるはず!
「ふぅ、今日何回目だろ走るの……めんどくさいなー」
「で、これに何が書いてあるんでしゅ?」
「あれ? さゆたんも来たの?」
「一応、護衛でしゅよ」
護衛ね……ここ、一応セーフティなんだけどな……。
「これがドーラフィールで、角が折れたとこまでいかないと……」
「renちゃん、こっちでしゅよ」
私より先に見つけたらしいさゆたんに呼ばれてそちらへ行く。壁画には、沢山の武器を持った人と翼を広げ角の折れたドーラフィールが描かれている。
「でも、これ変でしゅね」
「と、言うと?」
「だって、上は角があるでしゅよ。でも下は折れてるでしゅ」
とりあえず、仲間の正体を探りたい私は三十段ほど階段を登り、壁を見る。そこには、このダンジョン一階で現れる巨大なスライムが分裂し人々を襲う絵が描かれていた。
仲間はスライムで確定だろう。あの程度なら、一人一匹で対応できるだろうから心配ない。
問題は、さゆたんが言った上下に別れた絵で結末が違う事。
まさかと思うがドーラフィールの角を折らなければ、仲間を呼ばないと言う事だろうか?
再び階段を降りて、今度は上だけを見る。上に書かれたドーラフィールは、角が有のまま人により攻撃されている絵が続く。
絵を見ながら登り終える頃、漸くすべての謎が解けた。
「なるほどね。角が無い方は爆弾を使おうが、無敵状態で倒すことができないボス。角が有る方は、爆弾を使えば倒すことができる。ただし、角有のまま倒せば、最上階のボスはウラガーン。角を折って倒せば、トニトゥールスが湧く。今回はウラガーン目的だから、角は折っちゃダメって事ね」
「角有が湧くのは、鰐と同じ日に固定でしゅね」
「みたい。これで、倒しても大丈夫ってことが分かったから、安心」
「二、三段階目は無し、このまま倒してしまうのがいいでしゅね」
「うん」
結論が出た私とさゆたんは、直ぐにこの事をPTチャットで伝え角を折らないよう指示を出した――。




