最強は準備を始める①
あれからうちのクラハンは、ドラパレの五階に固定された。
一番の目的は、金塊と鰐の沸き時間――火、金、土の19時――を調べるため。次点で公式で世界戦についての詳細が公開されたことによるスキル、装備の強化。
三か月後に開催される世界戦に参加する方法は二つ。
一つ目は個人戦――トーナメント戦にて獲得ポイント上位三名が選出されること。
二つ目は、攻城戦により決められた期間――一か月城主になったクランが参加できる。
城を保有しない同盟クランについては、城主クランと同盟を組んでいることが条件となり、四つまでが参加可能。
ただし、参加できる人数の上限は百人まで。
優勝商品は魅力的で、獲得ポイントに応じて欲しい物を選択することが出来ること。
戦いに参加できなかったプレイヤーにも最初に配られる千ポイントを推しにベットする――賭けごと――と言う方法でポイントが獲得でき、商品をゲットできるチャンスが与えられている。
そんな感じで公開された公式の発表を受けて、日々クラハンに熱中していた。
私としては正直目立つのは嫌だし、参加したいとは思わない。けど、皆がやる気になっているため不参加だと言い出せない自分がいる。
どう伝えるべきか悩ましい……そう悩んでいる内に、同盟内でも参加しようと言う意見が増えてしまった。
結果、強制参加と言うべき状況に私は陥っている……。
「蟻が来たのである!!」
「タゲとるよ~!」
悶々と悩んでいる私を他所に本日も絶好調クラハン中のメンバーたちは、嬉々として蟻に突っ込んでいく。
五階に沸くモブは、赤蟻、幼虫、卵、赤蟻女王――巣穴っぽい場所に行けばアリクイには出会わない事が多く、近接が狩りやすい狩場でもあった。
赤蟻にも色々種類はいるが、ぶっちゃけ名前が少し違うだけでどれも攻撃力、防御力共に大して変化がないのでそこは割愛しておく。
「ここならPTごとでもいいな」
「だね~」
「うちも早くここに来れるようになりたいわいね」
暗い巣穴を闊歩しながら、会話をしていく。
今日のPTメンバーは、聖劉、大和、小春ちゃん、雪継、千桜、博士と私の八人だ。
「卵回収したいのである」
「ここの卵爆弾じゃないぞ?」
「殻があれば、色々できそうなのである」
相変わらず狩りよりも素材集めが優先らしい博士は、卵の殻が欲しいらしい。一体何に使うつもりなのか気になりながら、皆でいそいそと倒し終えたドロップと卵の殻を拾っていく。
卵自体は攻撃してこないけれど、オブジェイクとではない。私個人の予想だが、赤蟻の女王――boss戦で新たな赤蟻が生まれそうな気がする。
[[鉄男] そう言えばさ~、ここの素材って鰐島で売れるよなー]
[[宮様] 金塊になるのありがたいわよね~]
[[白聖] うまいよなw]
[[キヨシ] なぁなぁ、ここのこと情報流す?]
[[源次] うまいな!]
[[大次郎先生] うーん。来れるプレイヤーが
いるなら教えていいんじゃないか?]
[[風牙] 荒らされるの嫌だなー]
キヨシの疑問に先生が答え、掲示板に書くかどうかがクラン内で議論される。
この狩場が美味いことは同盟内では知らせているけれど、掲示板に書くかどうかを決めていなかった。
狩場独占などはしたくない私は、掲示板書き込みに一票をいれておく。
後は適当に同盟内で話し合って決めてくれるだろう。
それは置いておいて私がこの狩りに参加しているのはドラパレの素材が理由だ。この素材実は、鰐のお腹の中の島でも買取してくれる。金塊で!
欲しいスキル、魔法書がある私としては大変ありがたいことで、ついつい行かないかと言われれば来てしまう。
「なぁ、なぁ、ren」
「?」
「ren――」
「絶対いや」
「……まだ、名前呼んだだけじゃん!」
雪継の言葉の続きは多分「ren。うちのクラメンもここに連れてきてやりたいんだけど、付き合ってくれない?」とかだと思う。
それをぶった切り、拒否った私は会話をスルーするように赤蟻へ斬りかかった。
「雪、諦めるわいね。うちのメンバーじゃまだここ来れないわいね」
「チッ」
「ていうか、まず盾がまともな装備になってからじゃない?」
「雪継のとこの盾、激ヨワだもんね~」
「……あれでも、かなり頑張ってるんだけど」
「ハン、あの程度で頑張ってるなんてありえないのである!」
千桜の言葉に舌打ちする雪継を追い詰める聖劉、大和は中々の鬼畜だ。
言い訳がましい雪継へ、博士がトドメを指した。
そんなやり取りを小春ちゃんが、くすくすと笑う。
前足を振り上げた赤蟻の攻撃を躱し、刀で関節や首の付け根を狙い切りつける。そうすることで蟻の動きが鈍り、より倒しやすくなる。
赤蟻の攻撃は、直進特攻、酸攻撃、噛みつき、足を振り上げるの四通りで、毒以外は躱せる程度の速さ。
幼虫は、うねうね動き糸のような何かを吹きかけてくる。糸に当たる――もしくは巻き付けられると、マヒ状態になり十五秒間拘束されてしまう。
流石蟻。数が多いため、前後関係なく湧く。そのため後衛にタゲが行かないよう、前後しっかり処理をしながら進む必要がある。
「赤蟻倒しやすいけど、やっぱソルジャーは少し痛いな~」
「千桜、右」
「雪、そっち塊いるからこっち戻って!」
「バフ」
ソルジャーは、他の赤蟻より一回り大きい個体で、攻撃は普通の赤蟻と変わらないが速度は倍以上速く、硬い。
それでも狩る理由はドロップにある。
赤蟻はの場合、酸、甲殻のみだが、ソルジャーは甲殻、酸、眼。そしてレアは、なんと蟻肉。
その蟻肉が金塊十個で買い取りされる。
金塊が欲しい私としては、涎が出るほどありがたい肉なのだ。
その日もまた、赤蟻を殲滅しながら一日が過ぎていく。
世界戦開催まで残り、二か月と三週間――。
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