最強は同盟の運営に尽力す㉘
いつも誤字報告ありがとうございます!
話し合いの後、その日の内にクレハと落ち合う事ができた。指定した場所は、善悪の塔十六階。この階層であればほとんど人が来ないので見つかる事もないだろう。
私のお供は宮ネェと先生と黒、ロゼのクランからサブを出して貰うため、サブ――マルチビタミンと言う名前だった――とロゼが同行。
問題になっていたクレハの移籍については、笑顔でお願いしたところごねることなく了承してくれた。同行したメンバーたちから、うわぁ~、可哀想になどと言う声も聞こえたが気にしない。しかもだ、マルチビタミンとリアル友であると言う設定も快諾してくれたので良しとする。
手間暇をかけるお礼に何か欲しいものはないか? と、二人に聞く。すると二人は、即答で経験値のスクロールが欲しいとのこと。
今回のアレコレに決着がつき次第、二人には経験値のスクロールを贈呈することで話がついた。マルチビタミンには、メインを出来ない分多めに渡そうと思う。
それから数日後、偶々開いたパーティー募集でクレハとマルチビタミンが募集してるのを見かけ、上手くやってくれているのだなと安堵する。
後はこの二人が無事にフォルタリア内部に入ってくれれば、こちらも先手が打てるはず。
ひとまず状況は改善してきているし、私たちは一切知らないフリをして過ごすのが妥当だろう。
なんて思って過ごしていたある日の午後、無事フォルタリアに加入したクレハから情報がもたらされた。
内容は、やはりと言うかロナウドDの中身がアクセルだったこと。アクセルは、私たちへの恨みからミッシェルに協力しているらしいこと。こちらを蹴落とす――今のところ分かったのはクラッシャーを仕掛けたこと、掲示板でアースを標的にしたことぐらいだ――作戦は、ミッシェルが考えているらしい。ミッシェル本人が、フォルタリアにいると言う情報はない。
それから、週に一度必ずロナウドDがある宿屋を利用しているらしいことなど、内部に入らなければわからない情報が次々と寄せられた。
クラッシャーを仕掛けたキャラの持ち主は不明のままだが、クレハの報告では元グランドロールのメンバーが恨みを晴らすために協力したらしい。引っかかってるのはアースのメンバーだけで、特に損害もない。
クラッシャー云々で私が一番危険視したことは、クランに加入してきたクラッシャーがクランに罪を擦り付けることだった。加入に面接を追加したことで防ぐことができているため、これについてはここで終いで良さそうだ。
流石に次があれば、泣いても許さないけど……。
そして、掲示板でアースを標的にした目的は、参加クランの中で一番アースが若いクランであり叩きやすかったから。ミッシェルの中で、雪継は後から加入した後輩にあたる。だからこそおろしやすいと思われたんじゃないかと先生が言っていた。
しかも鉄男に言わせれば、アースが叩かれてなんぼ的な雰囲気が掲示板でもあったらしいから致し方ない。
クランについてはこれから先の運営次第でどうにでもできるはずだから、掲示板なんかを気にせず頑張ってもらいたい。
ロナウドDとミッシェルが密会場所として利用している宿は、デンスにある。デンスと言う町で宿屋と言えば一軒しかない。ロナウドDが動いたと同時に張り込めばミッシェルも姿を現すはずだ。
これまでは後手に回っていたが、ここまでの情報を手に入れてやられっぱなしは癪だ。まずはミッシェル、そしてロナウドDを捕まえ自白させることにしよう。
ミッシェルと再会するのに少しばかり気が重い。けど、皆がいる。もう乗り越えるべき相手だ。
きちんと腹を割って話し合いをしよう。それがダメなら……。
「…………落としどころを考えないと」
憎むべき相手かと言われればそうじゃない。けど、許せない事をされたのは事実で、許すつもりはない。私としては、今後一切のかかわりを持たないで過ごせればそれでいい。
とは思うが、こんな決着方法じゃクラメンたちが納得しないだろう。
ロナウドDについては、運営にクレハから貰ったチャットのSSを送信すれば動いて貰えると思う。ただ、垢BANにせよ、一時停止にせよ、その判定が下るまでにかなりの時間を要するのは確実だ。
一方でミッシェルに関して言えば、運営は役に立たない。彼がした事は、リアルでロナウドDのアカウントを譲っただけで、証拠と言うか証明をできる術が私にはない。
ゲーム内でのみで見れば、ただミッシェルはロナウドDを使って嫌がらせしただけだ。
何かないかと考える。どんなに考えても、やはり解決策は思いつかない。さて、どうしたものか……。
ループする思考を切り、顔をあげる。そこには、いつも通りコーヒーを飲む先生と優しい顔で笑う宮ネェが揃ってソファーに座っていた。
「……いるなら呼んでくれればいいのに」
ぼそっとこぼした私の言葉を受けて、先生と宮ネェは苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。
「いや、なんか悩んでる風だったし、声かけるの悪いかと思って」
「それで、renはどうするつもり?」
実際二人は部屋に入ると同時に、私に対して声をかけたのだろう。私が考えに没頭していて気づかなかっただけで……。
「うーん。ロナウドDに対しては既に決まってる。けど、ミッシェルは……」
方法が思い浮かばないとは言えず言葉を濁せば、二人もため息を漏らす。本当にどうにかしたい相手に限って、どうにもできないのが歯痒い。散々思惑通りに他人を使っておいて、のうのうとミッシェルだけが生き残れるのだから。
「……どちらにしろ、ミッシェルとロナウドDとは話さないとダメだと思う」
「話し合えればいいけどね~」
「問題はそこなんだよな。ミッシェルは自分大好きなナルシストだし、ロナウドDはよく吠える小物だし、正直難しいだろうな」
「そう言えば、ナルシストだったわね~。アクセルは、頭に血が上りやすい感じだったわね~」
話し合いが必要だと入ってみたけれど、やはり問題は話が通じるか。思考する気力も失せた私は、頭を振り大きなため息を吐いた。
「はぁ……めんどくさい」




