最強は同盟の運営に尽力す⑦
ハウスの改装が終わって、二回のトーナメント戦と攻城戦を終えた。
そうそう、攻城戦と言えば三城共に防衛となるため金曜がSG。土曜がアース。日曜がうちと言った具合に曜日を調整してある。開始時間は全部一緒なんだけど。
「さて、全員集まったし同盟会議を始めようか」
議長を務める先生が立ち上がり参加者を見回すと、会議の開始を宣言する。同盟会議を開催して欲しいと言い出したのはロゼだ。会議場所の提供はうち。
会議と言えば緊張を強いるものだが、ここにいるのはほぼ元クラメン――見知った者ばかりなので気負う必要はない。
「えっと、まず。何から話すんだっけ?」
寝起きらしい先生が、頭を掻きながら私を見る。
え、知らないけど? とは言えない雰囲気にロゼへと助けを求めた。
「……伝えただろ?」
「覚えてない」
「……おい。まぁいいか、同盟と言うかクラン勧誘についてBFは関係ないけど、他のクランは注意して欲しいことがある」
「勧誘??」
勧誘と言えばアースの新しいクラメンの事で少し話があるんだったと思い出したけれど、ここでその事を言うのは憚られる。
「そう。最近つーか、だいぶ前からなんだけどクラッシャーが湧いてるらしい」
「マジで?」
「あら~ん。面倒なのが湧いたのね~ん」
[[大次郎先生] ren、クラッシャーが判らないって顔しない]
[[ren] ……なんでバレたの?]
[[宮様] 視線が泳いでたわよ~]
クラチャを使って先生と宮ネェからダメ出しを頂いた。
先生の説明によるとクラッシャーとは、クランの仲間意識を壊す輩の事らしい。
そのやり方が酷いと先生は言う。
見た目可愛らしいアバターの女――中身は不明――プレイヤーが、初心者だと語りクランに加入。彼女がいないであろう数人の男性プレイヤーに媚びを売り粉をかけて、ゲーム内アイテムや装備、最悪の場合リアルで貢がせる。
そうしてある程度貢がせ、男が調子に乗り出すと――用済みになった――クランでも力を持つ男プレイヤーに密告。
するとクラマスが知らない間に、クラン内が二分されギスギスした状態になるらしい。そんな状態が続けばクラマスも耐え切れなくなる。最終的にクラマスもクラン運営を諦め、クランを解散するしかなくなる。
どこかで聞いたことがあるなんて思っていたら、私も既に経験済みだった。まぁ、私の場合クラン内がギスギスと言うよりは、本人とその取り巻きから直接口で攻撃を受けたわけだけど……。
今回の場合、うちは関係ないだろう。
「特に注意が必要なのは、アースとうちだな。二丁目は技術者ばっかりだから、そういう事にあんまり興味はないだろう?」
「ん~。そうね~ん、でも一応注意するように言っておくわ~ん」
「あー、うちはやばいわいね。雪と同年代が多いから」
「雪継本人が引っかかりそう」
「「「「「……ありえる(わいね)(わね~ん)(ね)」」」」」
「ちょ!!」
白影の発言に雪継以外の全員が、納得顔で頷いた。
慌てて止めた雪継が「そんなことない!」と言ったけれど、色々と甘い彼はいいカモだとしか思えなかった。
「クラッシャーの見た目と名前はわかってるのか?」
「あぁ、一応四人はSS付きで晒されてた。ただ、一人でやってるのか複数人なのかは確認が取れてない。SSと名前はメールで送っておく」
と、言うなりロゼからメールが届く。その速さに驚きながらメールを開いた。
一人目の名前は、ネレーゼ。ピンクの髪に大きな緑の眼。猫の獣人で、如何にもナヨっとしてそうな感じの立ち姿だ。
この守って上げたくなる感じベルゼのストライクゾーンのど真ん中だ。
二人目は、ゆずリン。レモン色の髪にオレンジ色の瞳。エルフで、胸が大きく腰が細いナイスバディ―な色気ある見た目だ。
うわー白が騙されそうな見た目……本当にうちは大丈夫なんだろうか?
三人目は、ベル姫。銀髪でサーモンピンクの瞳。一見ヒューマンに見えるが、耳の形が違う。多分だけどハーフリングだろう。見た目は幼女だ。
身長も低いし、幼い子に弱いさゆたんあたりが引っかかりそう。彼の場合、娘にパパ嫌いと言われない限り、嫁がいるので大丈夫だろう。
四人目、コク。黒髪に、琥珀色の瞳。日本人らしい見た目――と言ってもスタイルはモデルのようだ。短めのフレアスカートを履き、これでもかと足を出している。
足フェチってうちのクランにいたかな? うーん。いない気がする。
でも、これだけ可愛くて美人ならティタあたりが尻尾振りそう。
メールを見た私の感想は、四人とも誰かしらにヒットしそうで怖いだった。
「先生、宮ネェ、うちも注意は促しておこうね?」
「あぁ、そうだな。ティタ、ベルゼ、白には特に注意しておこう」
「そうね~。引っかかるとは思わないけど……一応、必要よね」
先生と宮ネェも同じようなことを思ったらしい。
うちはこの三人を押さえておけば大丈夫だけど、アースとSGはどうするのだろう?
「運営は何か対策してるのか?」
「問い合わせには定型文しか返ってこない」
「いつも通りってわけか」
「あぁ」
運営が動いているかどうかはわからないか。
病ゲーは、同デバイスでの複垢――複数アカウントは禁止されている。それに一つの垢につきサブキャラは、三人までだ。
これまでの経験からゲーム内で借りパクやゲーム内詐欺を繰り返す人間の特徴として、メインは絶対に動かさないし狙われないようにするはず。だとすれば今回のクラッシャーが同一人物だと仮定した場合、四人同時に現れるのはおかしい。
いや、決めつけるのは良くない……同一人物でも可能だ。だが、今回の状況を見るにクラッシャーが複数いると仮定して考えるべきだ。
同一垢の場合サブキャラをMAXまで作り、一度事を起こしたキャラを削除しなければいけないし、削除されるまでに二週間の時間がかかる。
やはり複数と考える方が……けど、同時に複数人が同じことをするのもまたおかしい。
やっぱり一人で? 私としては面倒な事を繰り返しやる人物がいるとは思えない。それでも、いるのだとしたら――。
「ロゼ、このSSが晒された日付はいつ?」
「えっとなー。ちょっと待てよ調べる」
会話を止めてロゼが黙る。
そして「最初にあがってるのは半年前、そこから一ヵ月から三週間ごとにあがってる」と教えてくれた。
やっぱり、同一人物だと思う方が良さそうだ。それがわかった所で、何ができるかと言われれば何もできないのだが。
掲示板で確認されてる名前は、全部で十一人。全て女プレイヤーが好む名前を付けているらしい。
ぶっちゃけ騙される方もどうかと思うけど、騙す方も最低だ。このゲームに女性プレイヤーが少ない理由は、このせいじゃないだろうか?
「リアルで被害に遭った人たちは、訴え起こしたりしてないの~ん?」
「掲示板を見る限りだけど、泣き寝入りだな」
「そう……」
「ほら、皆覚えてないか? 河瀬が同じようなことになった事があっただろ」
「あぁ!」
先生の持ち出した河瀬の名前に全員が、勢いよく顔を上げ思い出したように「あぁ!!」と大きな声をあげた。
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