最強は同盟の運営に尽力す⑥
風牙たちがログインして、次々と呼び出される私。正直、マスターとしての仕事はこれに尽きるんじゃないかと思える。
「お待たせ。聖劉」
「ren、呼び出してごめんね~。ここでお願い~」
「うぃ」
聖劉が選んだ部屋は三階で宮ネェの隣の部屋。ハウスの中での広さはそこそこで、テラスに沿った形で黒ぶちのテラス窓が嵌められていた。
部屋の設定を終えて、聖劉の部屋から出るとそのまま隣の角部屋へと移動する。
「マスター、ありがとうございまっす!」
「いえいえ」
「ミツルギさんも、あの丸い部分が気に入ったの?」
「そうっすね。可愛くないっすか?」
「確かに……可愛いよね」
角部屋を選んだのはミツルギさんで、聖劉とじゃんけんの末勝ち取ったようだ。揉めなくて良かったと言うか、二階にも同じような部屋が空いてた気がするけど……聖劉、いいのか? あぁ、三階がいいのね。
無駄なこだわりを見せる聖劉。それに呆れながらミツルギさんの部屋を設定して、同じく三階にいるらしい宗之助の元へ向かう。
宗之助の部屋は、ヒガキさんの隣。黒と同じく長方形になった部屋を選んでいた。この間取りなら存分に畳を敷いて、忍者の部屋みたいにできるのではないだろうか?
「掛け軸を飾る床の間と囲炉裏が欲しいでござる」
「囲炉裏は、火鉢じゃダメなの?」
「火鉢は火鉢で欲しいでござるよ。なんにせよ大工もしくは木工が必要でござるな……代行を覚えるべきか……うーん。悩ましいでござる」
「今から代行覚えるの?」
「それも有りでござろう?」
「あぁ、そうだね? が、頑張って?」
床の間と囲炉裏が大工の仕事なのかはわからない。けど、奴は本気だ!
趣味のために代行まで取ろうとする宗之助の心意気に感動しつつ彼の部屋を後にする。
「お、ナイスタイミング!」
「風牙も三階なんだ」
「あぁ、まー、どこでもいいんだけどな。宗之助達に釣られて上がって来ただけだ」
「そう。それで、部屋は?」
「ここでいいわー」
「了解」
釣られて昇ってきたらしい風牙が選んだのは、三階ポータル前の何も無い部屋だった。以前と変わらなければだが風牙は、部屋イコール寝る――ログアウト場所と言う考えである。だから、大してこだわりも無いのだろうと納得する。
風牙の部屋の設定を終えて、今度は地下を選んだ春日丸の元へ行く。
春日丸が選んだ部屋は、地下一階村雨の隣の角部屋だった。
「春日丸、地下でいいの?」
「あぁ」
短い会話を済ませ、部屋の設定を済ませる。
春日丸の部屋がどう言う内装になるの興味がわいた私は、そのまま彼の部屋作りを見守った。
黒を基調としたファッションを好む春日丸も黒と同じく、内装は黒い。ただ唯一違うのは、絨毯は毛が長い紫色でフカフカの物。クッションが光沢のある黒と紫のボーダー柄だったことだ。
「へ~。真っ黒より良い感じだね」
「あぁ。黒一色だと気が滅入る」
「黒の部屋見てみるといいよ。あそこカーテンも天井も壁紙まで黒だから」
「ふっ、名前に負けず劣らずか」
「うん」
「黒がそれでいいなら、良いと思う。でも、名前の通りにするなら龍も欲しいな」
「あはは、確かに」
珍しく春日丸が茶化して物を言う。それに二人で笑っていると最終組と思われる二人――ベルゼ、源次がログインしてきた。
二人に挨拶を返し、部屋を決めるように告げる。
残るは先生だが、この時間でログインして来ないと言う事は多分残業なのだろう。日付が変わるまでにログインしてくるだろうから、それまで代行でもしておこう。
春日丸に別れを告げて、一階の私室に戻った私はとりあえず今日の分の経験値スクロールを複写し始めた。
トントンと肩をたたかれ顔を上げるとそこには、いつの間にかログインしたらしい先生と源次、ベルゼが立っていた。
「あ、ごめん。集中してた。部屋決まった?」
頷く三人に連れられ、まずは一階キヨシの隣の部屋へ行く。
この部屋を選んだのは先生。問題児のキヨシの面倒を見るのに打ってつ……ただ、リビングにも倉庫にも会議室にも近いと言う理由だった。
「そうだった。ren、同盟内で経験値スクロールの販売量増やせないか問い合わせが来てる」
「メンドクサイ」
「言うだろうとは思ったけど、同盟内のレベリングは大事だぞ?」
「うーん。全員に百枚ずつ渡すとかは無理だよ? ぶっちゃけ、枚数に余裕があんまりないし」
「だよな。うーん、何かいい方法ないか考えてみるよ」
「よろ」
顔を見るなり相談事を持ちかけて来るって、先生らしいと言えばらしいけど……今回のは乗れない相談だ。無限にスクが湧き出る訳じゃないから厳しい。買いに行けばいいだけだけど、ただ買いに行くためだけに残り少ない黄昏行のチケットを使いたくはないので却下。
難しい顔で考え込む先生に「源次とベルゼの部屋の設定してくる」と言い置き、二人が選んだ部屋に向かった。
近い方から順番にと言う訳で、二階のバルコニー側の部屋へ。
源次が選んだのは角部屋ではなく、何故かその隣だった。
「なんでここ?」
「ここの方が部屋があかるいだろ?」
「角部屋も十分明るくない?」
「まぁ、そうなんだけど……丸い部分を何に使っていいかわかんねー。宮ネェとか辺りなら、優雅な貴族のサロンみたいにするんだろうけど。俺には使い勝手が悪い」
「なる」
源次の言い分に納得しつつ宮ネェの以前の部屋を思い浮かべる。
バルコニー窓に沿って、レースのカーテンがたるんだ感じで結びつけられていた。そして、バルコニーの側には、白い猫足のテーブルセットが置かれ、バラの花が生けられた過敏を前に可愛らしい背もたれ付きの椅子に座った宮ネェが優雅に紅茶を飲んでいた気がする。
宮ネェを源次に置き換えてみ――やめとこう、源次の見た目からして想像してはいけないものだ。
「……設定、終わったから行くね」
「おう。てか、お前なんか変な顔してるけど大丈夫か?」
想像はしていないけど、微妙な顔になっていたらしい。
「……うん。別に……源次が猫足テーブルで、バラが飾ってあって、微笑みを浮かべて優雅に紅茶を飲んでるのとか想像してないから大丈夫」
自分で想像したらしい源次が口元を抑え「……うぇ、やめろよ。吐き気するわ!」と顔色を悪くする。
私は想像をしたとは言っていない。なのになぜ怒られるのか……。
まぁ、後で尾を引くよりは今済ませてしまった方が得策だとばかりに、心は籠めず「ごめんね?」と謝った。
そそくさと源次の部屋を離れ、三階にいるベルゼの元へ向かう。
ベルゼの選んだ部屋は、白の部屋の正面にあたる。
L字型をした部屋は、中で区切られているのか奥の細長い方が見えない。
「ありがとな。ren」
「うぃ」
「あぁ、そうだった。ベルゼ、さっき鉄男がベルゼの事探してたからクラチャで声かけてあげて」
「おー、わかった」
伝言も伝えたし、他にいう事もない。ベルゼの部屋の設定も無事に終わったし、これで私の仕事は全部終わりだ。
クラメン達が今日は狩りに行こうと騒がない。皆、それぞれ部屋の内装を整えたり、好きなことをするのだろう。
私も今日はまだノルマをこなせていないから、それを優先することにした。




