最強は恥辱に耐える③
島の全容を確認して、崖を降りたり亀裂でグダグダ言い合いしたりとやっている内にイベント用装備の時間が尽きてしまったようで……。
ポンと言う小気味いい音を立て、ハートマークのエフェクトが乱舞し装備が消えて無くなる様はちょっとかわいいとさえ思えた――消えた後が、下着姿でなければ。
『ぶはっ、ちょren……そのパンツはダメだろwwww』
「やべぇ、renのパンツがおこちゃまパンツだ!」
「宗之助の褌も酷いけどなw」
「……カボチャパンツ悪くないもん! そんなマジマジ見るな~!」
『宮ネェのTバックよりも見れるけど……流石に綿パンじゃ萌えねぇ……』
「皆、落ち着いて? 人のこと笑うよりまず、自分の恰好思い出そうね?」
今笑った奴らを殺したい。本気でそう思うのは何度目だろうか……くっ。
私がカボチャパンツを愛用しているのにはちゃんとした訳があるのに、誰もその事に思い至らないのか笑われ続けている。
ニヨニヨした視線が気持ち悪く、ついつい本気で見るなとイリュージョンを使いそうになった。
どのゲームでもそうだと思うが、下着も立派な装備の一部である。
装備であろうと下着は可愛いこだわりの物を使うと言う人もいるのは知っていた。だが、私が愛用している綿のスポーツブラとカポチャパンツは、MP回復速度の上昇とMP総量アップがついている。
ただ見た目よりも機能性を重視しただけなのに……酷い笑われようだ。
「ヤバイ。俺もうこれから先renを見る度にカボチャパンツの姿しか思い出せない」
「ちょ、やめろ? これ以上笑ったら警告でるわw」
狩場を見つけた途端消えてしまった装備を買いに行きがてら、実に楽しそうに話すチカと鉄男を睨みつける。
警告がでそうな鉄男は何の変哲もないの膝までの白いパンツだけども、ブーメランなチカにだけは言われたくない。
「マスターの見た目が少し幼いから、カボチャパンツ似合ってるように思いますけど?」
「えー、ゼン。それはないよー」
「そうですか?」
「ありえねーわw」
「無口なマスターが、カボチャですか……以外ですけど、悪くないですね」
「何、ヒガキは有り派なの?」
「ギャップ萌えか!」
ゼンさんいい子と思っていたら、ティタが眉間に皺を作り私を見ると否定した。それでも、可愛いと思いますけどね~と言ってくれるゼンさんに今度は白が鼻で笑いながら否定する。更には、私の話題でヒガキさんとベルゼが楽し気に話しをしていた。
こいつらマジで死んでほしい。というか、ゼンさんとヒガキさん、そして無言を通したミツルギさん以外、今日に限りバフ入れるのやめよう。謝ろうとバフは入れない。どうぜ謝ったところで、同じことを繰り返すだけだ。
イライラが爆発した私は、無言を通す。
これが俗にいう堪忍袋の緒が切れると言うやつだ。
島の入口に帰還の護符で戻れるが、今回は道順を覚えるために歩いて戻る。そうしないと行が切ない事になってしまうから。
改めてNPCからイベント装備を買って、箱を開けた。
一箱あたり100Kゼルで、武器防具一式が入っているのでありがたい。ただ不満を言うなら、装備を取り出してから三時間しか持たないことと消える時にカウントなりが出ない事だ。
ぶっちゃけ、バフでカウントするのもありだろうけど……めんどくさい。
『これさー、NPC呼び出しの権利とかをゼルで売って欲しいよね~』
『おぉそれいいな、運営にメールしようぜ大和』
『せめて、転移できればいーのになぁ』
『まぁ、ない物ねだりしても仕方ないんだから、さっさと戻るぞ』
行ったり来たりする時間が正直勿体ない。今回のイベントについて運営はかなりのヘイトを稼いでいることだろうと思いながら、そそくさと移動する。
再び亀裂に戻ってきたところで、装備の耐久時間を確認すれば残り02:47と表示されていた。実は入口と意外と近かったことが判明する。
『バフよろしく』
『いるの?』
『え? いるよ……な?』
『あれだけカボチャパンツを馬鹿にしたんだし、要らないよね? カボチャパンツの性能はMP回復速度の上昇とMP総量アップ。増えた分で今までバフを回してた。けど、バカにしてで笑うような人に使う理由はないよね? 私でも怒るときは怒るよ。ヒガキさんとゼンさん、ミツルギさん以外入れる気ないから自力で入れて?』
私がどう言う反応をするのか知っていてあれだけ笑ったのだから、それなりに覚悟はあったんでしょう? と言う目を向ける。
『ちょ、ほら~、お前らが馬鹿にして笑うから、拗ねてんじゃん!』
『……ご、ごめんな』
『あぁ、もうそう言う軽いごめんなさいは要らない。ヒガキさんとゼンさん、ミツルギさんは私とPT組んで、バフをPTのみにするから』
『……マジだ』
PTを抜けゼンさんとヒガキさん、ミツルギさんだけをPTに誘う。戸惑いを見せる三人がPTに入ったところでバフを入れ、連合を組むこともせず私は亀裂を飛び出しモブへと突っ込んだ。
まずは、範囲よりも単体を相手にストレス発散とばかりに魔法と刀を使いモブを殲滅する。ある程度周囲が殲滅できたところで、崖を背に、デバフを配置して二十前後引いて、ゲッターサークルスクを使う。次に、設置型のバインドを起動してモブを硬めたら、覚えたばかりのインソリータレント(炎)をモブに向かい発動する。
このインソリータレント(炎)は、カリエンテの得意攻撃であるブレスの三分の一ぐらいの強さの劣化版であり、消費MPは少なく、ディレイは三秒とほぼ無い状態で使える攻撃魔法だ。
正面を向いた状態で、視覚に収まる範囲――広さは十五メートルほど――にブレスの効果がでる。劣化版と言えど、範囲攻撃が乏しいドラマスには非常に有難い攻撃魔法だ。
『あの……マスター……えっと、皆――いえ、僕も攻撃参加して大丈夫ですか?』
『……あの、許してあげないんっすか? いえ、あの許せって言ってるわけじゃないんっすよ? ただ、その……可哀想というか、何と言うか……ハハハ。すいませんっす!』
『反省してるみたいですけど。あーっと、ゲッターサークルスク使います。後、ドロップは自分が拾います』
ドロップをあらかた拾い終えたところで、三人がチラチラと先生たちの方を見ながら顔色悪く聞いて来る。
たどたどしい聞き方なのは、怒りに任せて先生たちを無視したせいだろうか?
一応あちらも狩りは出来ているようだし、私のバフがどうしても必要と言う訳ではないだろうと、考えた私は『今日は無し』と初志貫徹の姿勢を見せ、狩りを続行した。
六度目のバフを入れるため亀裂へと引き返す。開始タイミングが同じだったからか、他のメンバーたちも戻ってくる。皆の表情は一応に暗い。
まるでお通夜だな、と思いながら装備の耐久を確認しようとアイテムボックスを開いた刹那――
「ren、マジでごめん! 許してくれ!!」
と、先生が白チャ言い。
その場で全員が、土下座した。
「え、お前らなにやってんの?」
不意に上がった声に、ハッとそちらを振り向く。
そこには、またま居合わせたらしい別のPT――SGだったりする――が居て、驚嘆した顔の白影が呆然と立ちすくみ、私たちの行動を凝視していた。
最後尾にいたロゼの顔がヒクヒクと見事に引き攣っていたのが、とても印象的だったのは言うまでもない。