お正月SS もしも、renが異世界へ呼び出されたら……。
本編ではないので読まなくても大丈夫です。
年末年始のイベント中意気揚々とログインしようとベットヘ座った瞬間突如立ち上った魔法陣の光に包まれた私は、暗転した世界を見ながら瞼を閉じる。
わっと上がる歓声に恐る恐る瞼を開けば、やたらと豪奢な衣装を着飾った男女と白を基調としたフルプレートアーマー装備の人たちが多数取り囲み立っていた。
「おぉ、よくぞおいで下さった。異界の勇者よ」
ドーンと偉そうに足を開き真ん中に金色の椅子に座る王様? みたいな男が異界の勇者とか言う恥ずかしい事を言いながら、両手を広げ立ち上がる。
「……」
「異界の勇者よ。名を教えてはいただけませんか?」
恥ずかしい呼び名は、どうやら私の事だったようで期待する目でこちらを皆が見ている。
あぁ、帰りたい。と言うか、さっきから気付かないフリをしていたが、視界の端に映る私の服はどうみてもrenのアバターだ。いつゲームにログインしたっけ?
摩訶不思議な状態に、とりあえずログアウトしようと指先を下から上へ弾く。視界に映し出された丸いツリーを指で弄り、最も下に表示されるはずのログアウトボタンを探すも何故かログアウトとGMコールだけが無くなっていた。
「あの~。無視やめていただけませんかぁ?」
直ぐ側で聞こえた可愛らしい声に、ハッと顔を上げれば瞳をウルウルとさせた少女――若作りな気がしなくもないけど――がいた。
「何? 今、忙しい」
「あ、えっと……その、す、すみません。えっと、お名前をお教えいただけませんか?」
「見てわからないの?」
「へ?」
少しイライラとしながら薄桃色のドレスを着た見た目は可愛らしい少女に答えれば、しどろもどろに質問をして来る。その様子が更に、私をイラつかせる。今回のイベントだけは逃せない。イベント期間中に集めたアンコモチで、四次職の魔法書と武器、防具がゲットできるかもしれないからだ。
「えっと、申し訳ありません。わかりません」
「あぁ、そう。ren」
「レン様と仰るのですね! 美しい響きのお名前ですわね」
おべっかなんてどうでもいいとばかりにばっさりと切り捨てる。私は今すぐにイベント狩場に行きたいのだ。
「それで? 他に聞きたいことあるの?」
「異界の勇者レンよ。是非そなたに頼みたいことがあるのだ」
「パスで」
「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」
固まる一同をスルーして、その場から移動しようと立ち上がる。そこへ、玉座に座り直した王様が「待つのだ」と焦った声をあげる。面倒だと思いながら振り返った。
「も、もし、こちらの頼みを聞いてくれるのであれば、異界の勇者レンが望むものを用意しよう。どうだろうか?」
「本当に用意してくれる?」
「あ、あぁ、勿論だとも!」
王様の答えに私のイベントに行きたいという意思が揺れる。本当に願いを叶えてくれるのか、今一度視線で問えば王様は大きく頷いた。
面倒だけど、ありだ。だって、イベントに行っても出るかどうかわからない。なら、ここで魔法書を要求すれば、少しぐらい時間がかかっても得しかない。それに、私が欲しいものを用意してくれるらしいし、もし出来なかったらその時は、大金踏んだくって取引所でアンコモチを大人買いすればいいだけ……うん、やろう。
自分の欲望に忠実な私は、王様のクエストを受けることにした。
「それで、何をすればいいの?」
「ここより西に進み、海を渡った先にある魔大陸にいる魔王を倒して欲しいのだ」
「魔王か。Lvいくつ?」
「れ、れべる?」
「あぁ、もういいや。とりあえず西に行って海渡って、魔王倒す。倒せば希望を叶えてくれる、で合ってる?」
再確認すればコクコクと頷く王様。私の問いかけに対する反応から、NPCにレベルと言う概念はないと初めて知る事ができた。
今は、どうでもいいけど。
「行って貰えるのか?」
「k、あ、はい」
ついゲームの調子で答えてしまったが、王様達のポカンとした表情に慌てて言い直す。
それから、王様の配慮? と言うか、絶対に行かせたいんだなと感じるような意志の強さで、転移魔法で魔王のいる大陸までは送ってもらえることになった。仲間として魔法使いや騎士を連れていけと言われたけれど、知らない人とPTを組むなんて絶対に嫌だと拒否しておいた。
そんなひと悶着がありつつ移動した私は現在、王様から聞いた魔王がいると言われるドラキュラ城のような黒い豪華な建物の前にいる。
んー。どうしよう? 魔王のLvが一切わからない。負ける気はないけどガチ近接戦になるのは避けたい。そうなるとやっぱ、アレしかないよね? とりあえず、連発しとけばいいか、実験にもなるし。
と言う、軽い気持ちで杖を取り出し、自分にバフを入れる。
「まずは、様子見。イリュージョンカリエンテ」
いつも通り雲の渦から鼻面を出したカリエンテが現れる。
無事着地したカリエンテはひと鳴きすると、四肢を踏ん張り、鋭利な歯が並ぶ口を大きく開け業火を吐き出した。
カリエンテと城の大きさが同格だったけど、まースルーでいいだろう。
赤く彩られるドラキュラ城は、カリエンテの業火で約三分の一が消失していた。門から慌てふためきワラワラと現れる異業のモンスターたちは、攻撃した私に憤怒の表情で向かって来る。
「イリュージョントニトゥールスからのイリュージョンフルークトゥス」
同時に召喚出来るのか試してみたいという欲望のまま、雷と水の幻影ドラゴンを呼び出した。
砂塵が舞い、ピリピリとした青い稲光が、渦を巻く砂を伝う。それは、そば近くにいたモンスターたちを弾き飛ばし、砕きながら徐々に大きくなる。そして、城の四分の三ほどまでに膨れ上がったところで一気に弾け、雷を纏うトニトゥールスが出現した。
挨拶がわりに鳴いたトニトゥールスが、周囲のモンスターを巻き込みながらコンマの域でドラキュラ城へと突っ込んだ。その威力のすさまじさに驚くよりも早く、土煙をモウモウと上げドラキュラ城はついにほぼ壊滅状態となった。
更に、トニトゥールスの出現に少し遅れて大地に亀裂が入り割れる。天にも届かんばかりに水が吹き出す。七色に輝く飛沫をあげる水は、方々に散りゆっくりと巨体を模って行く。
氷のプレマフォロストが、細長い龍の形を取っていたことから水も似たような形なのではないかと推測していた私は大きく裏切られたことを知る。
フルークトゥスの姿は、首長なドラゴンの上半身に前足だけがあり。青味がかった透明な六枚の翼をもつ蛇と言った感じで尻すぼみしていた。
「あー、あれなんだっけ……えーっと、そう! レヴィアタンだ」
思わず漏れる独り言をつぶやき、フルークトゥスの動きを凝視する。初めてのフルークトゥス召喚に、心がワクワクとはやる。
胴体を捻り長い尾ひれ? 尻尾? を旋回させたフルクートゥスが大きく口を開き、人が二十人はは入れそうなほどの丸い水玉を九つ作り出す。
そして、作り出した玉を長い尾ひれでアタックするかのように、次々とほぼ壊滅状態のドラキュラ城へと叩きこんだ。
水玉が着弾するたび爆弾が爆発するかのように水飛沫と城の残骸――人型が居た気がするけど気のせいだろう――と思われるものが上空へと上がる。
自分で呼んでおいてなんだけど……
「…………えげつない」
思わず漏れた呟きは誰に咎められることもなく、廃墟へと消えて行った。
呼び出した三体のドラゴンが、攻撃を終え消えて行く。それを見送り、一応マップを確認してみる。来た時には映し出されていた沢山の赤い点が、ドラゴンを召喚したことにより全て消失していた。
あれだけの数を倒したのだから、相当にいいドロップアイテムがあるのだろうと期待しつつシステムログを見る私。
が――
「え、ドロップ無し……」
いくら確認しても何もドロップしていなかった。それでも落ち込んだ気分をなんとか持ち直すことが出来たのは、王様との約束があったからだ。
約束は果たしたのでもはやここに、用はない。今一番重要な案件は報酬を受け取る事であり、城へ帰る事だと気持ちを切り替える。
アイテムボックスから水晶を取り出す。これは、王様から渡された城へ帰るためのものらしい。使い方は簡単で、水晶を地面に投げつけ叩き割ればいいようだ。
早速それを実行に移し、私は瞼を閉じる。
「うそだぁぁぁぁ、ありえない。あのでぶりんめー! ただ働きさせられた。次会ったらガチで殺す。マジで殺す、絶対、ぜえええええええええええええたい許さない!」
気が付けば、あの城に呼び出される前の状態でベットに座っていた――。
今年も一年ありがとうございました。
来年もまた、のんびりですが更新していきたいと思います。
お正月用のSSです。置きに増せば幸いです。




