第二回、帰れまテンinオリンポス・幻想峡&SG教育⑤
SGに回した分の残りで、クラメンの分を賄い経験値スクロールの補充を終えた。今回は全員がクエストを受けているためクエストアイテムの方は余り溜まっていない。
それでも、ここへ来て六時間近くが経っているため、普通の狩場以上の経験値は取得出来たと思われる。
チャットが極端に少なくなったことから、他の面々も指導を終えたのか狩りに精を出しているようだ。そんな皆に交じり私も狩りを始めようと立ち上がる。
黙々と狩りするメンバー達を範囲に収め、無言でバフを入れればただでさえ少なかったモブの取り合いに発展してしまう。
さゆたんのアイスランスが黒のヘイトと被り、聖劉の放った矢とミツルギさんの鉄塊――苦無が被る。
そこかしこで、起こる事故に、それぞれが無言で牽制し合う。
空気が重い……なんだこれは?
『ちょっと、皆? お互い早く倒せてよかったじゃないのよ~』
『はぁ、まったく。狩りになるとどうしてこうなるんだ。うちは……』
宮ネェの呆れた声に、先生の頭が痛いと言わんばかりの声が重なった。聞こえているだろうメンバー達は、フイっと視線を逸らし別のモブへと駆けていく。
誰もが必死で、更には、誰よりも先に四次職になりたいはずだ。狩場が狭く、モブの取り合いになるのは仕方がないにしても、クエストアイテムは順番に入っていくのだからそこまで険悪になる必要はない。
『仕方ないわねぇ~』
『まぁ、言い合いとかしてないしいいけど、あんまり険悪になるようなら罰考えないとな』
『先生に任せる』
罰と言えば黒歴史なんだけど、今回は食べ物のロシアンルーレットでもいいかもしれない。例えば、宮ネェお手製のカップケーキとか……。そう言えばあのカップケーキはなんで、普通に小麦粉とかを使ってたはずなのに、出来上がったら緑色してたんだろ?
などと過去の拷問を思い出し、気分が悪くなったところで先生に丸投げする。
『そうだった! ren』
『ん?』
『クランハウスの増築だけど、後二、三回のスク売った分で足りるから、状況見て増築申請出しといて』
『わかった。広さどれぐらいにする?』
『そうね~。部屋数倍は欲しいわよね』
倍……宮ネェ、そこまでクラメン増やす気なの? やめて、そこまでになったら私が対応できそうにない。
私の心の声に気付かぬまま宮ネェと先生の会話は続く。流石に倍は言いすぎだと先生は突っ込むが、宮ネェの目は本気だった。
『ぶっちゃけ、そのスクに関わる全てをrenに丸投げしてる状況だから、何か考えないと頼り切る形になるんだけど……』
『そうねぇ~。オリンポスのチケット複数枚所持もrenとティタだけだし』
『ん。別に問題ない』
『そうは言うけど、一応他のメンバーともこれは相談して、なんかしらしないと割にあわないよ』
悩める先生と宮ネェは、そう言って話を区切ると狩りする面々の方へ向かっていった。クランハウスについては、今すぐどうこうと言う話ではないので横に置いておく。どうせ、増築するにしても、宮ネェの希望と言うか夢のクランハウスにするためには20Tぐらい資金が必要なのだから。
それはともかくとして、皇さんの元所属クラン、フォルタリア――に元クラメンが利用されているのではないかと心配になり気もそぞろになっていた。
所詮他所事だとか、余計なお世話と言われれば、確かにそうなだと認めざるを得ない。だが、私にとって雪継と千桜の二人はクラメン同様に可愛い存在である。勿論、今一緒に居るロゼや白影も、小春ちゃんも同じく。
どうやって聞けばいいだろうか? いきなり、フォルタリアの事を聞いても問題ないだろうか? それよりもやはり、雪継と千桜がどう思っているのかを聞くべきだろう。
聞くべき内容を考え思考を切り替える。近くに沸いたモブにブレスオブアローを打ち込み沈めた。
悶々と考えたところで、今のこの状況でここに居ない二人を心配しても意味はないと思考を切り替えて視界を動かす。
十メートルほど先にいるモブを次のターゲットに絞り、再びブレスオブアローを打ち込んだ。
周囲が朦朧としながら狩りをする様を見とがめた私は、狩りの手をとめる。視界内に表示された時計を見れば、既に午前三時を回っていた。
『いやだ。寝たくない。俺は寝たくないんだぁぁぁぁ!』
四つん這いで嘆くチカは、もうすでに手遅れのようだ。
『うっせーんだよ。黙って狩れ』
いつも以上に言葉遣いが荒い黒はフラフラしながらも、ヘイトを飛ばし周囲のモブをかき集めている。
黒の横に立ち、手の回らない背中側のモブを集めた大和はニコニコと笑いまだまだ元気そうだ。
そんな二人の周囲で、範囲魔法を連発するのはさゆたんとキヨシ、ゼンさんだ。三人とも、一応はモブに対して魔法は繰り出していた。
まだ大丈夫そうかな? と思い他のメンバーへ視線を投げかけた途端、何もない場所で魔法がさく裂しているのだが、誰がやったのかは判らないので見なかったフリをしてみる。
『ren~。バフちょーだーい』
ハツラツとした声で聖劉が手を振り、自分の存在をアピールしながらバフを要求してきた。その声に答える代わりに無言でバフを追加する。
『もう少し距離開けろ、聖劉が打ち込むのと同時位で打ち込めるようにならないと対人じゃ即殺されるぞ?』
聖劉から五メートル前後離れた場所で、白は未だ熱の入った指導を続けていた。指導されている側のプレイヤーは、フラフラなのだけれど……いい加減開放してあげて?
相変わらず白は一切の容赦をしない軍曹である。
そこから少し距離を置いた場所では、黒の忍び服を着た紙忍者と迷彩服の紙猫が後輩のミツルギさんの指導に当たっていた。丁寧に動きをゆっくりと見せているのだが、なぜか白影発案の素振り部を思い出してしまう。
巻き込まれることはなさそうなので、見なかったことにしてスルーした。
「あれ、ベルゼ。一人?」
「おー、ren。一緒にやるか?」
「ベルゼが引く?」
「いいぞー!」
一人ポツンの狩りをしていたベルゼの誘いに乗り一緒に狩りをする。ぶっちゃけ全員が連合にいるので、無理に狩りする必要はない。けれど、皆の持つチケットは多くても二枚程度なので、折角なら一つでも多くのクエストアイテムを持って帰って欲しい。
モブの元へ走る熊の背中を見ながら、獣人の拳士のフットワークの軽さが羨ましくなる。走りながら軽くジャンプして、移動距離を稼ぎ、透明なオレンジ色のフィストファイ――三次職拳士専用スキル、己の内に秘めた闘気を拳に籠め、拳を振るう事で放つことができる――を飛ばす。
当たったモブのHPは、減っていないものの、モブがベルゼをターゲットに据える。離れた位置にいる私には、ベルゼの放つそれがウィンドボールと言った一次職の魔法によく似ているように思えた。
「そのスキルって魔法扱いなの?」
「いんや~。フィストファイは一応、ナックルスキル扱い。ナックル装備してないと使えん~」
「え、ベルゼ素手じゃなかったの?」
「え? 今更! 俺、一次職からずっとナックル使ってるけど?」
「知らなかった。私ずっとベルゼは素手だと思ってた」
「あぁ、そうか。えっとな、これ拳使ってるやつの常識なんだけど、ナックル系って武器と手袋一緒に嵌めると手袋が上に常時されて武器見えなくなる」
病ゲーを始めてかなりの時間が経ったおかげで、それなりに知識はあると自負していたにもかかわらず見えなくなるとは知らなかった。
人と言うものは気になりだすととことん気になるものである。そのせいで「ちょ、ren。そんな顔で見るんじゃねーよ。なんかキレられてる気がするわ!」と、ドン引きした顔でベルゼに突っ込まれるほど、繁々と彼の手を見つめた。
その後もベルゼと武器が見えない云々で話し込み、最終的には獣人だから手の毛が濃いせいで見えないのではないかということになった。
お待たせしました。
眠い時って意外と考えているようで、馬鹿っぽい事言ったりやったりしますよね~。




