第二回、帰れまテンinオリンポス・幻想峡&SG教育③
後ろをついて来る皇さんに何を教えればいいのか悩みながら、どう言ったことに不安を感じるのか聞いてみた。
『あの、つかぬ事をお伺いしますが……その、皇さんはどういう事に不安があるんでしょうか?』
多少と言うか正直初対面の人にどう話しかけていいのかがわからない。だからこそ、丁寧に話しかけたのだが、皇さんは「え?!」と言ったまま愕然とした顔で私を見ていた。そんなに私の言葉はおかしいのだろうか?
[[黒龍] やべぇ、renが他人に見える]
[[風牙] 笑ってやるなよ]
[[†元親†] とか言いながら~風牙も視線逸らして肩揺らしてるじゃーん]
あぁ、殺したい。いや、ダメだ。今はまず、この人に向き合わねば……。そうして、皇さんの対面に立ち返答を待った。
……
…………
………………ダレカ、タスケテ。
あちらこちらから吹き出す声が聞こえる。それに構わず私は助けてくれそうな人の姿を探す。見つけたその人は未だクラメンと同盟のメンバーの相手をしているのか棒立ち状態で顔面を片手で覆い悲壮感をだしていた。
それでも彼の助けが必要だと判断した私は彼の状況を顧みることなく、彼に走り寄る。
『ロゼ! タスケテ』
『ぶはっ!』
『あ、え? どうした?』
腕に縋りつく形でロゼへ助けを求めると明らかに顔色の悪いロゼが視線を向けた。そして、語るは未だ硬直した状態で動かない皇さんの事。
『あぁ、わかった。わかったからちょっと落ち着け! おい、スー!』
『はっ、はい!』
ロゼに呼ばれたスーさんこと皇さんが慌てたように返事をすると走って来る。
「あー。えーっとスーは、どういう事を教えて欲しいんだ?」
「そうですね~。バフのタイミングとか後は、攻撃についてでしょうか?」
「って事らしいから、ren。あとは頼んだ」
「……はい」
返事はしたもののバフのタイミングなんて人それぞれだし、攻撃なんかは本人次第、その上同じバッファーだけど相手はバード…………頭が痛い。
バードとドラマスの違いは簡潔に、バフ時間の長さと固有武器の違いにある。
ドラマスの場合、バフ時間は基本五分~二十分。固有武器は杖と二刀。ドラマス=ソロ向きだ。
一方のバードは、バフの有効時間十五~四十分。固有武器は、杖のみ。完全支援型の後衛職だ。
それからもう一つ、バード故の固有バフがいくつか存在する。ドラマスで言うところのインヴィスやソウルのようなもの。
ドラマスはバフを入れたら効果時間が終わるまで継続する。だが、バードの場合、有効時間の区切りが無く、術者本人が音を奏でる限り継続する。途中切れたとしても一分以内に再開すれば有効のままなのだ。
と言う訳で、違いを考えてみたものの基本的な動きが違う上に、皇さん自身ローブ姿なので敵陣に突っ込む訳にもいかず、お手上げ状態でしかなかった。
『そうでしゅ! 倒す相手から視線だけは外しちゃダメでしゅよ』
『皇さん。レイド、戦争の時はどうしてるの?』
『はいぃぃぃ』
『そうですね……。どっちも基本は、合図に合わせてバフを入れます』
合図……? あぁ、そう言うことか! 同盟単位の場合、人数が多いからある程度時間を区切って合図を出し、纏めていれる方法なのだろう。
そうなると死に戻りした人たちとかはどうなるのだろう? と思い聞いてみれば「別のバッファーが復帰地点に待機した状態なので、その人たちはそのバッファーからバフを貰ってきます」と言う答えが返ってきた。
人数がいるからこそできる手法なのだろうが、それだとMPの遣り繰りなんかは上手くならないように思う。それに、他者のバフが自分のバフより上だった場合上書きできない。その場合、復帰した人たちは次のバフまで黙って待つしかないのだろう。
効率的ではあるけど、デメリットが多すぎる。
「わかりました。皇さんには魔法職と同じように動いてもらう事にします。まずは、二次職の魔法でもいいから敵に攻撃しながら、自分に自分のバフをかけて継続させつつ十分狩りしてみて下さい」
「は? はい」
とりあえず十分間、この時間で彼の動き、治すべき点、MP管理の度合いを測る。職業柄攻撃に慣れていないのかもしれないが、このゲームの特性上、誰でもソロは可能だ。
範囲デバフはバードの方が得意のはずだし、狩りをしながら自己バフを入れさせれば、彼がどの程度MP管理に気を置いているのかがわかる。
十分間、ただただモブを狩る皇さんを見ていた。
動きは悪くない。良くモブの動きをみているようだし、デバフは言われずともかけている。そこへ来て、何故モブを一匹ずつしか狩らないのかは気にはなるけど……。
バードって単体よりも範囲が得意だったと記憶しているのだが、違っただろうか? それに、なんで装備が二次職用なんだろう? 復帰組?
「皇さん。いいですか?」
「はい!」
モブを倒しきった所で彼に声をかけた。走り来る様が、どうにも犬っぽい。って、そんなことは置いておいて、今は彼の狩りを見た感想を伝えないと。
「いくつか質問があるので聞いてもいいですか?」
「はい」
「まず、なんで一匹ずつしか狩らないの? ここのモブ、魔法二発ぐらいで狩れるから余裕のはずですよね?」
「えっと……ふ、ふあんで……」
「その理由は?」
皇さん曰く、初心者の頃に所属したクランで、バッファーや回復が死ぬような行為=前に出て戦う事は良くない事だと教えられたらしい。そのため彼は、ソロで狩りをした事が無いと言う。
自分の実力も判らない状態で、狩りしろと言われたらそれは不安に感じるだろうが……。皇さんのソロをした事が無いと言うその言葉に、私は愕然とするしかなかった。
「ロゼは何も言わなかったの? て言うかもしかしなくても、クラメン皆同じような考え?」
「いえ、違うと思いますけど……僕、元々はフォルタリアって言うクランに居て」
「雪継のとこの同盟相手だよね?」
「そうです。そこのマスターが凄く厳しい人で……」
「どういう風に厳しいの?」
「えっと、うーん。効率的じゃないと言うか、皆と一緒に動けない? 違うな。えーっと、輪を乱すようなことする人を凄く嫌うんですよ。それで、僕は居心地が悪くなって、抜けたところをマスターに拾って貰って」
「なるほど、輪を乱すね……。要は、自分の思い通りに狩りできなかったりすると機嫌が悪くなる効率厨がマスターだったってことね?」
「あ、は、はい」
彼はこのゲームを始めて直ぐにフォルタリアと言うクランに入ったそうだ。そのクランは、変なこだわりを持つマスターの独壇場で、ご機嫌を損なわないよう自由を奪われ続けたのが理由なのだと理解した。。
「次なんだけど、メイン装備はそれだけ?」
「……はい」
「これまで結構稼いでると思うけど、そのゼルはどこに?」
「このクランに入ってまだ三か月なんですけど、前のとこは、月給制で分配が来てて、それに……抜けるときに、その、罰金払わなきゃいけなくって……」
「はぁ?」
「マジかよ!」
皇さんと話していたら、横から風牙が話に割り込んできた。
まぁ、割り込みたくなる気持ちも分かるので、敢えてツッコミは入れないでおく。
苦笑いの皇さんは「僕の場合は、装備売って払えましたけど、やっぱりこれだとマズイですよね」と答えた。
月いくらもらっていたのかと聞けば、20Mほどしか分配されていなかったそうだ。そのくせ、抜ける罰金は十倍の200Mだったそうで、彼はそれを装備のために貯めたゼルと自身の装備を売り払う事で払ったと言う。
「ありえない!」
「うわー。ありえねーわ」
「マスターと白影さんにも同じ事言われました」
「だろうな。皇、お前よく我慢できたな? 俺なら確実にPKしてるわ!」
色々と問題を抱えていたらしい皇さんの話を聞き、風牙が彼の肩を叩き慰める。それに苦笑いながらもお礼を言う。
私が出来る事と言っても大したことはできないが、彼が元の装備を手に入れられるよう私なりに考え伝えようと気合いを入れた。
お待たせしました!