第二回、帰れまテンinオリンポス・幻想峡&SG教育②
地震来のスキル効果を追記しました。
欲しいものが買えたおかげで心はホクホクだった。狩場に戻るまでは……。
狩場に到着するなりバフを入れ、さぁ狩りにとはいかずクラチャで宮ネェや黒、白、先生などなどから『いますぐ経験値のスクロールを生産してくれ』と急かされた。
私だって、狩りに参加したい……。なんて我儘は通るはずもなく、渋々モブが沸かない壁際でいつもの制作キットを取り出し黙々と作業する。
『やっぱrenが造ってたのか! なんだよ~。教えてくれればいいのに』
『そう、そこでヘイトして、次に左に見えるモブにレンジヘイト。そうそうGEORGさん上手い、上手い』
『絶対他に漏らすなよ』
『交互に使うってことですね!』
『あぁ、わかった』
混みあう会話の中で、大和がGEORG=ジョージ――で正解なのかは不明だが、を誉める。
『だから、ふうたんそこで立ち止まっちゃだめでしゅよ。走りながら詠唱するでしゅよ! 魔法職の防御力なんて紙以外ありえないんでしゅから、被ダメ受けるような行動はダメでしゅ!』
『ロゼも白影もここに居ないクラメンにも言わないようにしてちょうだいね~』
『え! マジで?』
『うーん、難しいですぅ~』
さゆたんの幼女と変わらぬ高い声がふうたんに激を飛ばす。飛ばされているふうたんは話し方がおっとりなため、まるで虐めているようだ。が、さゆたんからすれば教えているだけであって、虐めているわけではないだろうと聞き流した。
『あ~。えーっとな……ナルミ、弓引くときに立ち止まらないようしろ。とにかく動くこと優先で弓は基本的に足止めに専念する事だ。盾とかATKが常に側にいる訳じゃないんだから、立ち止まると死ぬぞ』
『マジでって、当たり前でしょう? SGのクラメン全員に経験値のスクロール回すわけじゃないんだから!』
『うちの訓練だと基本弓は、皆で一人を狙う感じなんですが……ダメなんですか?』
『……まぁ、確かに、そう言われればそうだけどよ……話すぐらい良くない?』
『ダメじゃねーけどさ、お前以外がやられたら無抵抗で死ぬのか? そーじゃないだろ?』
指導に熱が入っている白は、ナルミさん相手に熱弁している。
『ドワルグ、そのスキル使うと次に移動するまでに硬直するからダメだよ。あの程度の塊なら普通に地震来――三次鎚職のスキル。敵の真ん中で地属性のスキルを使いながら地面に鎚を叩きつける事で地震を起こせる十メートル四方の範囲攻撃――使う方がいいよ。』
『影、甘いでござる! ここにいるメンバーは、今回うちから並ぶ必要なく買う事が出来るでござるが、その他のメンバーは露店で買うしかないでござるよ。それに対して贔屓だと言い出したり、自分たちにも当然回ってくると思ったり、嫉妬することは考えられるでござるよ?』
『なるほど。なんで、地震来の方がいいんですか?』
『あ、そうだよな。やばい、どうしよう?』
『それはね。硬直が出る方のスキルは確かに威力はあるけど、対人においては使い勝手が悪い上に回復職に迷惑がかかるのわかるでしょ? だったら、威力は減るけどデバフを食らわず嫌がらせ出来るスキルを選んだ方がいいよね?』
ドワルグさんを指導する先生はやっぱり、教師みたいな話し方で彼の疑問に答えていた。
隙間隙間で聞こえる会話にある程度耳を傾けながら、白影と宮ネェの不穏な会話に一枚目の半分を書き上げた私は顔をあげる。
本当に嫌な予感しかしない。表情が引き攣るのをなんとか抑え込み、二人の会話に割り込む。
『SGに毎回って言うのは無理だし、狩り時間へるから嫌だ』
『いや、毎回してくれとは流石に俺でも言わねーよ』
『ならいいけど、クラメン抑えて?』
白影との会話を打ち切り、百メートル強離れた場所で白の指導を見ているロゼへと視線を投げた。ロゼにも今の会話は間違いなく聞こえているはずだ。私の意思が伝わったと言うように此方を向いていたロゼが頷く。
その様子に安堵の息を吐き出し、再びスクロール転写用の羊皮紙に向き合う。
『クラチャが、ヤバイですね……』
私の作業終了待ちをしていた皇さんが、横でぽつりと嫌な言葉を零す。が、今の私はその言葉に構っている余裕はない。自分のクラメンぐらい自分で何とかしてもらわなければ! 今後同盟を組むつもりならなおさらだ。
一枚目を掻き終わり、転写用羊皮紙に印刷作業を始める。とりあえず、今回の参加人数分と言う事で百二十一枚分を印刷し終え、それぞれを今度は白紙のスクロールに転写していく。
出来上がったスクロールに満足したところで、ロゼ達を呼ぼうと顔を上げた。
正座するロゼと白影の周囲に、先生と宮ネェが仁王立ちしている。会話の内容から、どうやら経験値スクロールの事だとわかったものの会話を途中からしか聞いていない私は首を傾げ様子を伺った。
「どうして、うちがSGだけじゃなくてそっちの同盟に個人的にスクを回すって言う話になってるんだ?」
[[ミツルギ] あ、チカさん、そこ危ないっすよ!]
「すまん」
「謝られても困るわ! SGだけならまだしも、なんで同盟に回さなきゃいけないのよ!」
[[聖劉] これで教えろって言われても微妙~~~]
[[ren] 何かあった?]
『そうそう、茉鬼その調子だ。そこで、フォースショワード――三次槍職の固有スキル。左右上下の四ヵ所を鉾で突くことにより、突いたヵ所の倍の範囲に同時に攻撃ができる――使え』
[[大次郎先生] SGのクラチャで経験値スクロールを融通する
って言う風に話が進んで、それを同盟チャットで
誤爆した馬鹿がいるみたいだ]
[[ren] 迷惑な……]
会話を終えた私は急いでPTチャットとクランチャットを切る。会話が混線するための措置だ。
「ロゼ、経験値のスクロールは今回だけ。ここを出たら例えロゼたちでも露店で買ってもらう。それで文句があるなら今後一切、うちの露店への出入りを禁止する上に、経験値スクロールの販売を取りやめる。何か言いたいことがあるなら私宛にメール出せって同盟に流して」
「あぁ、わかった」
ただでさえ楽しい狩りのはずが、経験値スクロール造りで時間をロスしている。その上で、ロゼのところの同盟のことまで面倒見れるわけがない。と言う訳で、ロゼに脅しともとれる内容の文章を同盟に流してもらうことにした。
「じゃぁ、これでこの話は終わりにして」とキレて要ると思われる宮ネェと先生をなだめつつロゼの反応を見れば、疲れた表情が見て取れた。
同盟チャットや密談で、所属クランの方からぐちぐち文句を言われているのかもしれないが、自分のところのクラメンがしでかしたための苦労だ。ぜひ頑張って乗り越えてほしい。
PTチャットとクランチャットを再び聞こえるように操作を終えたところで、スクロールが出来上がったと報告する。すると白影が立ち上がり全員分のスクロールを取りに来た。
「これ、一枚で経験値50%だから、一人100枚で50Lv分はあると思う」
「おぉ、助かるぜ。いくら払えばいい?」
「露店と同じ値段でお願いするわ」
「露店だといくらだ?」
「@5M」
「ってことはだ……えぇっと? 120×5だから? 600Mか?」
「そうなるわね」
「高いのか安いのかわかんねーな」
「支払いは後で良いか?」
「えぇ、それぐらいは待ってあげるわ」
白影とのトレードが終わり漸く狩りに出陣する事になった――。
お待たせしましたー。
次から漸くの狩りです~。