最強はアップデートを楽しむ㊲
不憫な子の討伐は博士のPOTのおかげで、何もできないままジリジリと減るHPにかなり楽に進んでいると言える。、危険視されるのは今のところ、五分に一度繰り出される強撃スキルだけだ。
そのスキルもチカの突飛な行動のおかげで、単純作業となった訳で……その理由を説明すると皆が皆呆れたようにチカを褒めた。
『しかし、チカの行動がこういう結果になるとは思わなかったわw』
『相変わらず、イカレタ行動力w』
『まぁ、チカだしね~ん?』
『うははは! ねぇねぇ、白影、それ俺の事褒めてるの? 貶してるの? どっち?』
春日丸、白影、小春ちゃんの順でチカを褒める。
白影に至っては褒めてるのかわからないわけだが――そんな白影にチカは、はっきりと問いただす。
『チカの事はチカだからとしか言えないとして、ヒヒだけになるとかなり楽だねw』
『あぁ、でも、ドラミング始まるから気を付けて?』
『ドラミングすると、即死スキルだっけ?』
『そそ、博士のキチガイPOTあるから死ぬとしたら、ドラミング中にスキル使った人か黒だね』
『なる。四肢拘束されててもドラミングできるんでしゅか?』
『まー、そこはほらゲームでボスだから……ね?』
『俺の事見殺しかよww せめて守るとか言えw』
『え、黒。私に守られたいの?』
『……パスで……』
『でしょ?w』
雪継と先生の会話に、さゆたんが入り元も子もない事を言い出した。そこへ黒が冗談めかしてツッコミを入れる。すると先生は少し引いた表情をして黒に守られたいのか聞いていた。ブンブン首を横に振る黒の拒絶に、クスっと笑った先生は満足そうに返す。
そして、空気を読まない男、博士は博士で『吾輩のPOTは最強である!』と自画自賛している。
剣呑とした空気から一転、今は陽気にも思える雰囲気がボス部屋内を包んでいた。
そろそろ私も攻撃に参加したいのだが、いかんせんヒヒの周囲にはATKでごった返している。となると刀のスキルを使う事もできない為、魔法を放つしかない。が、私の職であるドラマスの魔法はこの状況下において……ゴミに等しい。
どうしたものか考えつつ、全体バフの更新をかけた。
許しを貰るのなら、まだ出したことないドラゴンの幻影召喚をしたいところだ。けど、選ぶドラゴンを間違えれば…………。一気決着とかになりそうで、アレだけ楽しそうに攻撃しているメンツに言い出し難い。
[[大和] 誰か砥石持ってない?]
[[大次郎先生] 100個で良いなら分けれる]
[[黒龍] 俺も欲しい]
『魔法職は交代で、MP補給して』
[[ベルゼ] 俺の分けるよ。黒]
[[ティタ] ヒヒ体毛が針みたいになるとダメ反射食らうから気を付けて]
[[風牙] ティタそれマジ?]
『じゃぁ、うちから休憩させるわ~』
[[キヨシ] 遠距離は反射こないぜ~!]
クラチャで何度もドラゴン召喚していいか聞こうと思うが、言い出せず。黙ってバフを更新する。まぁ、攻撃に参加するんだし召喚してもいいよね? 皆もうソロソロ飽きてきてるだろうし? MP休憩するみたいだし。
脳内で色々と理由を付けて無言のままドラゴン召喚することに……。さて、どれにしようかな。水、風、地、氷、聖、闇のどれにしようか?
ヒヒが火属性なので、水の上位である氷がいいだろうけれど全体攻撃となると周囲が死滅する。まぁ、宮ネェにバリア張ってもらえばいいか~。
そう気軽に考え、まずは宮ネェにバリアのお願いをしようとクラチャを再び開く。
『そろそろPOT切れるぞ。全員注意しろ』
『黒、いけるか?』
『残り、三本だからいけるけど、これPOT切れるか、倒し切るか微妙だな』
『まぁ、止められるとこまで止めとこ』
『k』
タイミング悪く、博士のPOTが切れる時間になってしまったようだ。仕方なく打診は後回して、ヒヒの動きを警戒する。
黒が剣を直しこみ、POTを片手に盾だけでヒヒの攻撃を避けながらヘイトを飛ばす。非常に器用な事をしているな。などと思いながら、周囲のATKが引くのを見守った。
完全にATKが引き、黒と大和がヒヒと戦う構図になった頃、ヒヒの四肢を縛る雷の楔に亀裂が入り始める。ピキ、パキと言った音が周囲に響き、楔が完全に砕け散るとともにヒヒが一気に跳躍した。
『クソッ』
『ちょっと、待って、なんでそんな早いの~』
『赤い魔法陣上がってるやつの周囲から離れろ!』
『タゲられた奴は素直に死んどけ~!』
黒が、舌打ちしながら面倒そうに顔を顰め、ヒヒに向かい走る。大和は何故か友達のようにヒヒに話しかけ走っている。
いつかどういう関係か聞いてみたい(笑
そんな大和の声をかき消す勢いで先生とロゼの注意喚起が出された。魔法陣はどうやら遠距離魔法職の誰かに表示されたようだ。蜘蛛の子を散らす勢いで周囲がタゲ表示されたプレイヤーから距離を取る。
[[さゆたん] あ、魔法陣の色、赤じゃないでしゅ。
黄色に見えるでしゅ]
[[大次郎先生] え?]
[[聖劉] もしかして、博士のPOT使ってたせいで
ドラミング見えなかったオチ?]
『盾以外攻撃禁止!! 黄色の魔法陣は盾以外攻撃禁止!』
[[†元親†] うへぇ]
[[ミツルギ] 見えないの怖いっすよ]
[[宗之助] 聖劉の意見、ありえるでござるな]
『次、休憩入るぞ?』
[[ゼン] え、そういう事ってあるんですか?]
[[シュタイン] あるかもしれないのであるww
やはり、もう少し改良が必要なようであるな。
ふむふむ。良いデーターが取れたのであるw]
『k』
さゆたんの指摘に先生が慌てて魔法陣を確認して、攻撃禁止の指示を出す。
まさか便利な博士のPOTによる弊害がここにきて出るとは……ってことはもしかして、強撃もPOTのせいでモーションでてなかったとか?
一難去ってまた一難とはこのことだろう。
即死スキルをヒヒが発動するときに起こすドラミングが見えなかったことで、プレイヤーの足元に次々と魔法陣が浮かびあがった。ヒヒは俊足で跳躍したり走ったりしながら、魔法陣の浮かび上がったプレイヤーを次々タゲり即死スキル――両手を頭上から叩きつけるモーションを発動していく。
倒れたプレイヤーの中には、クラメンの源次と宗之助もいた。
[[†元親†] 源次起こす]
[[源次] サンキュ]
[[宮様] 宗之助起こすわね]
[[宗之助] 頼むでござる]
『黒がPOT入れたらバフ入れる。それまで隅で待機して』
『ドラミング済んでるから攻撃再開してください』
即座に死んだ二人を起こす宮ネェとチカ。黒と大和もヒヒに対しヘイトを連発で入れているが、ヒヒは止まらない。漸く楔から解き放たれ、そのストレスを発散するかのように今度はランタゲで近くにいるプレイヤーへ攻撃を開始した。
MPを節約するため黒がPOTを使うまでバフの更新を待ってもらう。
ヒヒを追いかけ右往左往する黒と大和が必死に走る。周囲にいるプレイヤー達はなんとかヒヒを足止めできないかと魔法やスキルを使い攻撃している。
[[白聖] 博士、もうPOTの予備ねーの?]
[[大和] ぬああああ、早いってだから~!]
[[黒龍] あぁ、いらつく]
[[シュタイン] …………後、二本なら……
でも、これは吾輩の研究用であるからして……]
[[ティタ] 黒落ち着いて、右飛ぶよ!]
[[春日丸] はぁ~。博士諦めろ?w]
[[白聖] よこせ! 有効活用だ]
何かを思いついたらしい白の突然の申し出に、タジタジの博士は言い訳がましくPOTを出し惜しむ。だが、丁度博士の近くにいたらしい白は、強引にPOTをぶんどった。
orz状態の博士が、白の持つPOTへ右手を伸ばし悲しみを露わにする。そんな博士を無視した白はPOTを片手に聖劉と何かを話しているようだった。
お待たせしました。本編です。
足を運んでいただきありがとうございます。




