最強はアップデートを楽しむ⑳
クラメン達が続々と持ち込むサモンのドロップ情報。いい加減どれか欲しいところではあるものの、登録できる枠が三個しかない上に一度に出せるサモンは一匹だけなのだ。だからこそ、これは!と言うサモンが欲しい。
課金すれば、枠は五個まで広げられるとキヨシが言っていた。一枠増やすだけでリアルマネー700円らしいが……。
と、そんな事は置いておいて、本日も相変わらずの魔巣で経験稼ぎ。見慣れたゾンビやマミーを相手に範囲魔法を繰り出した。
『なぁ、ren』
『ん?』
モブを処理し終えたところで、PTを組んだベルゼに話しかけられる。
『お前、狩りし続けて飽きないの?w』
『飽きた飽きないで言えば、飽きてるよ?』
『だよなー』
実際ここ一年ほどは魔巣が主な狩り場だ。見あきたモブをやり飽きた方法で狩る訳で、飽きない訳が無い! ここよりもっと美味い狩り場があるのならそちらで狩りをしたいと言うのが本音だ。けど、現状魔巣以上に狩りやすく経験値が手に入る狩り場は存在しない。
だからこそ、ここで狩りをするしかないのだ。諦めにも似た感情を抱えながら、バフを更新する。
『他に美味い狩り場があればなー』
『ないから諦めて引いて来て?』
二、三言葉を交わす内にリポップしていたモブの群れを指し示す。
「へーい。了解」と肩を竦めながら気の抜けた返事したベルゼがモブの群れへと突っ込んで行った。
ベルゼとの狩りが終わりハウスへ戻ろうとした所で、一週間ぶりの先生がログインしてくる。クラチャで挨拶を交わしながら、先生に相談すべき事があったのを思いだし急いでハウスに戻った。
「それで、renどうした?」
「クランスキルなんだけど」
「あぁ、貢献ポイント貯まったの?」
「うん」
トーナメント戦が終わり、累計ポイントの一部がクラン貢献ポイントとして振り込まれている事を説明する前に理解を示した先生にまずはどれを取るべきか相談する。
「なるほど。まずはLv上げてからスキル取る感じ?」
「Lv上げた方がよくない?」
「うーん。Lv上げても新スキルが取れるわけじゃないし……同盟組むまでには、まだ大分時間かかるでしょ? だったら、先にクランスキル取っていいと思うけど?」
先生の言う通り、ロゼの所も雪継の所も未だ同盟は解散出来ていない。それどころか、七星のレイド中散々愚痴を聞かされるほど拗れているようだった。それなら、先にスキルをとっていいかもしれない。
「確かに」
「クランバフは、Lv2以上からの派生だしね。うちだったら、クランLvは来月でも余裕で出来ると思うし」
クランバフもとい、クランスキルは派生型だ。
例えば、クランシールドを取ったとする。最初に取れるのはLv1、それにクラン貢献度を使いLvを上げて行く。クランシールドがLv3になると新しいスキル、クランマジックシールドが表示されるようになる。と言った感じで、貢献ポイントを使いLvアップさせた上で、新スキルを貢献ポイントで取得して行く。
派生スキルを取得するには、スキルのLvを上げるだけで取得できるものとクランLvの条件が付くものとがある。
「わかった。じゃぁクランLvは後回しにしてスキル取る」
「うん。それでいいと思う」
「了解」
先生の意見を元に、まずはパッシブスキル:クランシールド<Lv1>を600の貢献ポイントを使って取得する。
クランシールド<Lv1>は、クランメンバーの防御力を5%上昇させてくれる。Lv2になれば7%上昇、Lvは最大10まであり最大で30%だ。
現時点で取れるのは<Lv2>までなので最大数で取っておく。使ったポイントは1500。
次に、同じくパッシブスキルのクランマナインプレッション<Lv1>とクランボディインプレッション<Lv1>と言うスキルだ。
どちらも最大はLv5まで、現状取れるのはLv1までLv1の段階で最大MP、HPの約一割増となる。最大まで取っても三割増なので、これ以上取得する価値があるのかどうか微妙。使ったポイントは二つ取得で1200。
残り3300ポイントで何を取ろうか思案していた私をティタが呼んだ。
[[ティタ] ren。シープ狩り付き合って!]
[[さゆたん] 黒、狩り付き合うでしゅw]
[[ゼン] 源次さん。ここ人いますよ?]
[[ren] いいけど、少し待って。クランスキル取ってる]
[[黒龍] あー。すまん。今ヒガキと宮ネェと一緒にトレラの巣来てるわw]
[[キヨシ] おいぃぃぃ!俺を置いていくなぁ!]
[[風牙] クランスキル取るなら、クリティカル取ってくれw]
[[宗乃助] リジェも欲しいでござるなw]
[[ティタ] 分かった待つよ~。ヘイストは必須!]
[[†元親†] ヒーリングアップ一択!]
[[源次] ゼンここで、狩りするぞ。ここなら人見えないし問題ないだろ]
[[宮様] ディティクションが欲しいわw]
次々に出される希望を吟味し、先生と相談しながら残りポイントでクランスキルを選ぶ。その結果、クリティカルアタックとヘイストを取得した。どちらもパッシブスキルだ。
クリティカルアタックは、命中補正と攻撃によるクリティカル率のアップでLv4まで、ヘイストは、クランLvが足りず1のままだが攻撃速度が5%だけ上昇する。クリティカルアタックで1900ポイントを使い、ヘイストで1200ポイントを支払った。これにより、トーナメント戦で獲得した貢献ポイントの全てを使いきってしまう。
無事にクランバフの取得が終わり、クラチャで取ったバフを伝えてティタとヘスティアのオレイアスの北門で待ち合わせる。北門に向かう前に、装備の耐久や補充などを済ませる必要があるため集合は十分後と言うことにした。
オレイアスは山間の小さな村と言った雰囲気の作りをしている。その世界感は、あの火であぶったチーズがとても美味しそうなアニメのようだ。
その景色を久しぶりに楽しみながら丸太を使って建てたであろう雑貨屋で、回復ポーションと魔石とブラックシープをおびき寄せる効果のある蚊取り線香のような形をしたシープ香を購入した。これを使えばブラックシープだけが寄って来るから狩りやすい。
買いものを済ませ、雑貨屋を後に北門を目指す。見えて来た北門には、ティタとベルゼ、チカ、先生、大和がいた。聞いてた人数よりも遥かに多い気がするが、皆暇なんだろうと考え気にする事を止める。
門に到着すると同時にPTに誘われ、加入をタップ。
『じゃー、メェメェ目指して頑張ろう!』
張りきるティタの声に、参加者が次々騎獣を呼び出した。それにならって私もイベントでゲットした騎獣召喚笛をアイテムボックスから取り出す。
笛を吹くと同時にボフンと言う効果音が鳴り、白い煙が真横からあがる。数秒後には煙が霧散し、お座りした状態のウルが姿を見せた。
つぶらな瞳で、尻尾を振りつつ私を見つめるウルの破壊力にやられ、つい人目も気にせずウリウリと頭から尻尾まで全てを撫でまわす。
「はぁ、可愛いウル。そうだ。ウル専用のお肉あるけど食べる??」
「わふっ!」
お肉と言う単語に反応したウルが、尻尾を盛大に振りつつピシッとしたお座りを決める。その姿もまた堪らなく可愛い! 早速肉を与えようとアイテムボックスを開いたところで、誰かの手が肩を揺さぶった。
『ちょ、ren。キャラ、キャラが崩れてるから、とりあえず落ちつけ!』
慌てた様子の先生の声が、私を諭す。肩に手を置いたのは先生だったのか! そう思いつつ会話の内容を思いだす。
ギギギと音が鳴りそうなほど機械的に首を回し周囲を見れば、皆がこちらを凝視し口をあんぐり開けたまま固まっていた。
あぁ……やらかし……た。
足を運んで頂きありがとうございます。




