最強はアップデートを楽しむ⑱
ヘスティアの街から、ウルと名付けた騎乗用狼に乗って五分。徒歩なら十五分程の所にある山間に不自然な形で開けた高い草に覆われた草原がある。
そこには、当然のように七星を狩りに来た80人規模のプレイヤーが陣取っていた。それを草原の少し離れた場所で、トランスパレンシーを入れ見守る。
昨日の時点である程度話し合いを済ませ、作戦を決めていた。今回の作戦は簡単で、七星が沸くまではトランスパレンシーで姿を隠し、沸きと同時にレイドを狩るつもりであろうプレイヤーを殲滅、その後七星を狩ると言うものだ。
相手のレイド主催者と話し合いをするべきと言う意見もあったが、どうせ決裂する。それならば、無駄な話し合いの時間を置くより最初から殲滅すると言う結果になった。
『時間過ぎてるのに、沸かないな……だるい』
『つか、向こうの人数ヤバくね?w』
『多いわね~。でもこっちも多いから大丈夫よ~w』
『俺らと同数いるけど、倒しきれるか?』
『まー、余裕でしょう』
両手を頭の後ろに回したキヨシが欠伸をしながら、ボスの沸きが遅いと愚痴を零す。時間を持て余す面々は、自由に話す。黒の声に小春ちゃんが答え、不安そうな白影に宮ネェが答える。
確かに、白影の不安も分かる。同数程度の人数を相手に、対人慣れしていないプレイヤーは足手まといでしかない。
『対人慣れしてない人はこの場に残ればいい。七星の引き任せるから、対人不参加がレイド殴れば?』
『うーむ。七星こっちに引くのは必要だけど、殴らせるのはちょっとなぁ』
私の提案に、白影が難色を示す。その理由は多分、回復にあるのだろう。PTがPKとレイドの二つに別れてしまえば、回復職はどっちにつくか決められなくなる事から煮え切らない返事をしたのだと思った。
『っていうかさ~、シルガってそんな人員不足?』
『んー。戦争とかはやってるんだけどな。PKと戦争は別物じゃん?』
チカの問いかけに、白影が答える。
PKと戦争が別物か……今まで、等しく対人戦だと思っていたけど、そうじゃないのかな?
詳しく話を聞きたい。そう思い口を開きかけた時だった。
何処からともなく風が吹き抜け髪や服を揺らした。
月明かりが何かで遮られた様に陰りる。
バサバサとゆっくりとした羽音が鳴り、その音を頼りに見上げた空には四枚の比翼を持つ細長い蛇が飛んでいた。
身体には、闇夜でも分かるほど光る名前の由来となった七つの星を模った鱗が見える。
『来たぞ! ヘイト入る前に始めるぞ!』
『『『『『『おう!』』』』』』』
『カウント!』
源次の声に、その場にいた皆が引きしめた表情で気合いを籠める。カウントを始めた白の声が、気持ちを高揚させて行く。
カウント――5……4……3……2……1……gogo
[[ティタ] 盾優先で仕留めるよ! タゲ>ジョナサン]
goの合図と同時に、全員が七星が降りた地にいるプレイヤー目掛け走りだす。ティタのクラチャと同時に、ターゲットマーカーが点灯された。
当然のようにターゲットマーカーに走りよる面々。その中にはロゼや白影も含まれている。
その様子に、一人クスっと笑い。全体バフを更新した。
バフが終わると同時に、ディティクションスクロールが数回打ちあげられ、トランスパレンシーの効果が解除される。突然現れた私たちの襲撃だっただろう相手方は、統制を失くし逃げ惑う者、帰還する者、ただ殺される者など、みるみるうちに打ち取られていった。
これは、私が出るまでもなく終わりそうだ。
[[風牙] 楽勝過ぎるw]
[[ベルゼ] 血が滾る! とか言わないの?w]
『余裕だわいねw』
[[村雨] キエィィィヤァァァァ!]
[[大和] 僕やる事無いし、七星のタゲでも取っておくね?]
『renのバフやっぱいいなぁ~。うちでもドラマス育てよう~?w』
[[宮様] なら、私も大和の回復に入るわね。チカ後よろしくね!]
[[黒龍] まー余裕だなw]
『雪が、やればいいでしゅよw』
[[†元親†] リョ!]
『ドラマス育てようと思ったけど、無理だった! アレ、初期がだる過ぎる!』
[[ren] 大和がタゲ取ってくれるなら、私も殴る]
[[さゆたん] あたくちも、ボスに行くでしゅw]
全体のバフを入れ直し、レイドに対峙する大和、宮ネェ、私、さゆたんの四人に個別のバフを追加する。七星の属性は確か風だ。対風のプロテクトオブウラガーンを追加しつつ、それぞれの武器の属性に合わせたインヴィスを追加した。
『ren。インヴィス火くれw』
『俺も~』
『俺、水で~w』
『個別入れなきゃダメ?』
『……くれよ?』
インヴィスを集る、黒、ティタ、キヨシ。面倒だなと感じて入れなきゃダメか確認すれば、白から疑問形で言葉を返された。仕方なく、クラメン達にインヴィスを追加する。そして、私の行動を無言で見ていたらしいロゼが、私の名を呼び己の顔に向け指を指した。
どうしよう。多分、自分にも寄こせ的なやつだろうけど……うーん。数瞬悩み何か用があるのかもしれないと思い、PTチャットで内容を問う。
『何?』
『火』
『俺も火ね~w』
『俺も!』
『地だわいね』
『あたし、水よ~』
聞こえないふりすれば良かった。激しく後悔する心を静めロゼ、白影、雪継、千桜、小春ちゃんにインヴィスを追加する。その他のメンバーについては、何かを言われる前に自分で何とかしてくれ! MPがしんどいと伝え釘をさしておいた。クラメンにも同様に、今後はクラチャで~と言っておく。
そうこうしている内にPK組は、なんとか制圧出来そうな状況だ。この後、相手の増援がなければだけど……。七星の方は元気に大和を攻撃中。さゆたんだけではなくいつの間にか、ミツルギさん、ゼンさんとヒガキさんが攻撃に加わっている。三人にもインヴィスを追加でいれつつ、七星の太く長い胴へ二刀の刃を差し込んだ。
風の属性魔法を自在に操ると言われる七星は、HPが削られ始めると一定時間、自分の鱗の周囲に風の膜を貼り身を守るようにとぐろを巻く。その間は、物理でどんなに攻撃しようとダメージを与える事が出来ない仕様になっている。その代わりに効果を出すのが遠距離魔法だ。
ここぞとばかりにさゆたんとゼンさんが、土魔法であるアースクエスク――地震を起こし対象にダメージを与える三次職範囲魔法――やロックブラスト――人の顔程度の大きさの石を複数個飛ばし、対象にダメージを与える三次職魔法――を使い攻撃する。
『火力不足でしゅねw ゼン! アレやるでしゅよ!』
『はい!』
七星のHPゲージを見つめ二人の攻撃が対して聞いていないように思っていた私の横で、同じ感想を持ったらしいさゆたんが、ゼンさんに声をかける。そんなさゆたんに気合い十分と言った感じで返事を返したゼンさんとさゆたんが、同時にメテオを発動した。
メテオはやはりいつ見ても圧巻で、知らずの内に息を呑み見守る。
『凄いw』
称賛する言葉を零した大和に内心で同意しつつ、七星のHPを確認する。どうみても二人だけでは到底出せない火力に周囲を見れば、ドヤ顔でサムズアップを決めるキヨシがいた。
足を運んで頂きありがとうございます。




